サステナブランシェ本行徳

サステナブランシェ本行徳

【長谷工G】 CO2排出量実質ゼロを実現する賃貸マンション竣工。新時代のリノベーションを追う

長谷工グループはこのほど、既存マンションの価値向上と新たな住まい価値創造に向けた研究・技術開発の更なる推進を目的に国内初の既存企業社宅を全面改修し建物運用時のCO2排出量実質ゼロを実現する賃貸マンションプロジェクト「サステナブランシェ本行徳」を竣工した。

マンションの改修工事は、マンションの大規模修繕・改修工事で数多くの実績がある株式会社長谷工リフォームが設計・施工を担当。グループがこれまで培ってきたマンション建設や修繕などのノウハウを活かしながら、脱炭素社会の実現に寄与するマンションの省エネルギー化に向け、環境に優しいリノベーション「GREEN RENOVATION(グリーン リノベーション)」を実施した。

また、マンションでは、全36戸のうち13戸は未来をつくる居住型実験住宅「RESIDENCE LABO(レジデンスラボ)」を建物内に設置し、それぞれの部屋で異なる検証を実施する。建物の長寿命化技術や省エネ技術、ウェルネス住宅技術ほか、IoT機器やAI技術を最大限に生かし、建物に設置されたセンサーなどから収集される「暮らし情報」を活用する長谷工独自の概念「LIM(Living Information Modeling)」を通じ、「暮らしの最適化」を実現する。実際の居住環境から得られる様々なデータを新たな住まい価値創造に向けた研究・技術開発に活かす。

今回は、「サステナブランシェ本行徳」の記者内覧会の内容をリポートする。

太陽光発電によりCO2排出量実質ゼロへ

記者内覧会の冒頭では、長谷工コーポレーション技術推進部門の若林徹執行役員から説明があった。

「サステナブランシェ本行徳」はもともと企業の社宅だったが、大規模リノベーションを施し、総戸数36戸の賃貸マンションとして2023年9月末に竣工した。長谷工グループは2021年12月に、「気候変動対応方針~HASEKO ZERO-Emission~」を制定。この方針のもと、2050年には”カーボンニュートラル”を目指し、脱炭素社会の実現に向けて一丸となって取り組んでいる。

サステナブランシェ本行徳は、屋上に設置した太陽光発電設備を勾配屋根の角度に合わせて南東面、北西面の両面に設置することで発電量を平準化している。また、反射光を利用できる両面受光型の太陽光発電パネルとすることで発電量が増加した。壁面には、太陽光の反射による眩しさを低減するための防眩加工(※液晶ディスプレイやタッチパネルなどの構成部材となるフィルムの表面に、傷がつきにくい耐擦傷性をプラスするハードコート加工)を施した太陽光発電パネルをサイディングと組み合わせて配置し、デザイン面にも配慮。

屋根だけではなくさまざまな箇所に太陽光発電を設置

最上階バルコニーのガラス手すりは、光を透過するシースルータイプを採用しており、スペースを有効活用する取組みも行った。また、水素による発電も含めてカーボンニュートラルの実現を目指していく。

純水素燃料電池

「スマートマンション」の実現へ

全36戸のうち13戸は、居住型実験住宅「RESIDENCE LABO」とし、長谷工グループが開発を進めてきた商品や技術を取り込んだ。これから住まいながらさまざまなデータを取得し、技術商品の効果や性能を検証する。長谷工グループでは今後、「サステナブランシェ本行徳」での実験を本格的に開始する。デベロッパーからの評価にもよるが、いくつか実用化が可能な案件もあるため、コストの課題を再検討しつつ、これから削るべき点と残すべき点について精査する段階だという。「これからのテーマはコストをどう下げて市場に合う内容にしていくかが課題になる」(長谷工コーポレーション)

今回は東洋大学情報連携学 学術実業連携機構(略称:INIAD cHUB)の坂村学部長と共同で、住戸内の設備をIoT化し、全てAIから制御可能な居住型実験住宅とし、最先端のIoTやAIを導入するスマートマンションを実現した。ここでは様々な角度で次世代スマートホームのコンセプト検証やデータ収集を行い、新たな住まい価値創造に向けた研究・技術開発を推進するなど多種多様な実験も行う。

回転テレビ台

インフォメーションミラー

実証試験については、短いものは半年間、長いものであれば3年間ほどデータを収集する。「電力の使用量は、実験データでは保有しているが、実際の居住者データの蓄積はなかなかない。長谷工グループが管理している分譲マンションでも、デベロッパーや管理組合の許可がないと取得するのは難しい。今回、一部住戸を社宅利用にしているため、データ取得可能になる。このデータは今後の研究開発に活かせる部分があると期待している」(長谷工コーポレーション)

テクノロジーでマンションライフを快適に

長谷工グループでは、「LIM(Living Information Modeling)」という独自の名称を付け、「暮らしの最適化」に向けた取組みを進めている。この点について、先進技術の活用やDX基盤の構築を推進し、新規事業の創生・実証、既存サービスの競争力確保や生産性向上に取り組む株式会社長谷工アネシスの槫松行雄取締役常務執行役員が語った。

長谷工コーポレーションは、マンションに特化した3次元設計技術であるオリジナルの「BIM(Building Information Modeling)」と、マンションに関わるさまざまな情報を見える化する独自の概念「LIM」を本格的に活用し、設計や施工情報など建物に関する「住まい情報」と、建物に設置したセンサーなどから収集する「暮らし情報」を相互に利活用する「住まい情報と暮らし情報のプラットフォーム(HASEKO BIM&LIM Cloud)」の構想を2018年に発表した。この構想に基づき、これまで新築賃貸マンションの7物件においてICT化に取り組み、マンションの設計・施工での生産性向上や入居者の生活の質の向上を目指した取組みを推進してきた。

従来から賃貸マンションの共用部を中心に、環境データを取得するセンサーや気象センサーなどから取得したデータを分析・加工し、アプリなどを通じ居住者への暮らし情報の提供を行ってきたが、先進技術によりマンションライフを進化させ、様々な機能を住まいアプリ「まいりむ」に集約し、マンション関係はワン・アプリでの完結を目指している。

マンション管理や修繕を行う会社では、建てた後の点検・修繕が日々行われているが、昨今はこれらの業務もアナログからデジタルへ進展しつつある。そこで取得したデータをLIMクラウドで連携し、マンションの建物設備の稼働状況を把握することで、管理組合やオーナーに対し資産の維持向上にまつわる情報提起する「マンションカルテ」構想にチャレンジ中であり、具現化に動き出しつつある。

長谷工グループとしては、「ICTマンション」と「マンションカルテ」の2軸で、LIMの取組みを本格化することに意欲を示した。この新たなマンションの姿の実現を目指し、利便性向上と快適に暮らせるサービスを提供していく。

「サステナブランシェ本行徳」では、「住宅の照明・温湿度・内装材による睡眠の質向上」「バーチャル森林浴によるリラックス効果、疲労回復効果」「変化に対応するIoT住宅」「地震観測による建物健全性判定」「顔認証システム×AIによる防犯システム」「ゲリラ豪雨対策を組み込んだ排水システム」を検証し、これから居住者に役立つデータを取得する。

サイディングによる外壁改修を実施

また、リノベーション工事紹介について、長谷工コーポレーション技術推進部門住宅企画推進室の藤田昭チーフが解説した。既存の車路部分をエントランスラウンジとして改修。その際、顔認証システムとオートロックを導⼊し、内部壁には⿊を基調としたデザインタイルを採⽤し、天井⾯には⽊⽬調シートを施し、さらに照明演出と坪庭を設置することで、新たなエントランス空間として生まれ変わった。

妻側外壁では、窯業系サイディングによる改修を実施した。本工法は、壁面に鋼製下地を取り付け、その上に窯業系サイディングを外装材として取り付ける新築向け外装工法(RC×EX工法)を改修工事に応用したもので、下地の組み方や耐燃え広がり性能に影響するファイヤーストップの納まり等を準用している。なお、RC×EX工法は同社とニチハ株式会社で共同開発し、2021年9月に一般財団法人日本建築センターの建設技術審査証明書(建築技術)(BCJ-審査証明-285)を取得している。

既存タイルの上から施工することで、外観デザインにもこだわりつつ既存タイルの廃棄物削減に効果をもたらした。

マンションのリノベーションは、地場の工務店も含め同業他社の参入も増えている。他社との差別化については、「今回のリノベーションの最大の軸はサイディングによる外断熱。断熱に対しては補助金が出る体制も整備されており、その点は強力な武器になる」(長谷工コーポレーション)と話す。

材料の選定でもオフセットサイディングを採用し、耐久性にも優れ、環境にも配慮した材料としている。オフセットサイディングとは、サイディングに使われる木材チップが100%オフセットクレジット(CO2排出権)付の国産間伐材で、材料費に含まれるオフセットクレジット分は森林整備事業などの取組みに還元される。なお、専有部分は、既存躯体壁の撤去を最小限に抑えつつ、新築同等の住宅設備機器が収まるユニットプランを設計した。

外断熱・金属胴縁施工状況

屋上太陽光パネル設置と防水改修では、既存アスファルトシングル防水を撤去し、シート防水改修を行ったうえで、太陽光架台や太陽光パネルを設置。設置にあたり、シート防水の納まりや太陽光架台とパネル重量に対する荷重を計算している。また、内断熱リフォームでは、「ZEH-M Oriented」基準を満たす断熱性能を得るため、既存内断熱の発泡ウレタンに増し吹き(25mm→50mm)を行った。

305号室では既存のサッシ枠の上からカバー工法によるサッシ断熱の改修し、廃棄物削減・断熱性能を向上。DI(ダイナミックインキュレーション)窓を設置した。204号室には、工場でクロス貼りをした石膏ボードを、テープ状接着剤で鋼製下地に固定する「スマートJG工法」を導入。現場でのクロス工事が不要となり、労務工不足への対応や現場でのクロス加工による廃棄物削減にもつながった。

さらに105号室では、工場で下地、ボードや仕上げクロスを組み立てた製品を現場で組み立てるパネル工法を採用。現場での鋼製下地工事・クロス工事が不要となり、労務工不足への対応や、現場でのクロス加工による廃棄物削減につながった。

太陽光パネル設置状況

今、新築の分譲マンションが高騰している中で、スクラップアンドビルドではなくリノベーションによりマンションを使い続ける時代が到来する可能性がある。そこで今後、長谷工コーポレーションとしては、マンションにおける新築に続き、リノベーションをもう一方の武器とすべく、まず第1号として「サステナブランシェ本行徳」が竣工したことによりノウハウをつかんだことは大きな意味を持つだろう。次なる第2、第3の新たなリノベーションマンションに期待したい。

「サステナブランシェ本行徳」の概要

所在地: 千葉県市川市本行徳5-16
交 通: 東京メトロ東西線 妙典駅 徒歩6分
敷地面積: 1,651.83㎡(499.68坪)
延床面積: 3,071.06㎡(928.99坪)
構造・戸数: 鉄筋コンクリート造 地上5階建36戸
既存建物竣工時期: 1990年2月
改修建物竣工時期: 2023年9月
事業主: 株式会社長谷工コーポレーション
設計・施工: 株式会社長谷工リフォーム
プロジェクトホームページ:https://www.haseko.co.jp/sustainabranche/

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建設専門紙の記者などを経てフリーライターに。建設関連の事件・ビジネス・法規、国交省の動向などに精通。 長年、紙媒体で活躍してきたが、『施工の神様』の建設技術者を応援するという姿勢に魅せられてWeb媒体に進出開始。
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