【国交省】2025年度にBIMによる図面審査開始へ、環境整備が進む

【国交省】2025年度にBIMによる図面審査開始へ、環境整備が進む

【国交省】2025年度にBIMによる図面審査開始へ、環境整備が進む

国土交通省はこのほど、第12回建築BIM推進会議(委員長:松村秀一 早稲田大学理工学術院総合研究所研究院教授)を開催し、建築BIM環境整備部会をはじめとした各部会や関係団体での活動状況を報告した。国土交通省はBIMによる建築確認の環境、データ連携の整備や維持管理・運用段階のデジタル化の3本の柱を社会実装に向けて具体的な検討を推進中だ。

部会の中に設置した審査タクスフォース(TF)では、2025年度中のBIMによる図面審査開始に向け、2023年度はそのルールや実現するためシステムの仕様を検討した。BIMデータから出力されたPDF図面とIFCデータ(CADデータモデルのファイル形式)の提出により図面間の整合確認を一部省略し、審査期間を短縮するなどの成果を得た。2024年度は詳細な制度設計、マニュアルの整備やシステムの開発を進める。

次に、標準化TFは、異なるソフトでも支障のないデータ連携活用に向け、BIMの属性環境の標準化に取組む。2023年度では入力者やソフトウェアによらない表記方法を共通化することで、設計・施工・維持管理の各分野間やソフト間でのデータ相互運用を可能とし、分野を横断して一気通貫にBIMデータを活用できる環境を整備した。

BIMを通じて建築データの利用促進

また、国土交通省は2023年8月に「建築BIMを通じた建築データの活用のあり方に関する検討会」(座長:松村秀一 早稲田大学理工学術院総合研究所研究院教授)を設置、これまで4回の会合を重ねた。データプラットフォームとして建築データの取扱いルールが未整備であり、建築 BIMを活用した建築データを整理・蓄積・活用するという状況には至っていない点を考慮し、「建築BIMを通じた建築データの活用促進ガイドライン(仮称)」の策定を目指す。

BIM活用の目指す姿 / 第12回建築BIM推進会議資料

ガイドライン策定の基本的な考え方では、「さまざまな社会環境が変化している中、建築分野で求められるものは生産性や建物の性能向上と建築物の情報開示」と3点を示した。この中で「建築BIMを通じた建築データの活用」とは、静的データ、蓄積記録データ、リアルタイムデータやインデックスデータを蓄積しつつ、連携・活用する一連のフローとまとめた。

国土交通省はBIM図面やBIMデータの審査の社会実装を経て、建築業界全体の生産性の向上を実現するため、設計・審査・施工・保守の各工程でBIMデータの活用の普及を目指す。国土交通省の説明後、各団体の活動状況の説明があったため、施工関係団体や発注者が語った内容の要旨をまとめる。


【日建連】日建連設計施工方式のワークフロー作成

(一社)日本建設業連合会(日建連)は、建築BIMの「定着に向けたロードマップ」を作成し、2025年に業務スタイルの確⽴を、2030年に業務スタイルの定着を目指す。2023年度の活動では、設計施⼯⼀貫発注のBIMの課題解決に向けて、「設計施⼯⼀貫⽅式におけるBIMのワークフロー(第2版)」を公開、BIM納品(竣⼯BIMなど)の定義を示した。検討継続中の内容は、設計と施⼯のデータ連携(施⼯に引継ぐ設計BIMデータ)で設計者と施⼯者間の意識調査をまとめたほか、BIMモデル承認に向けたデータ連携の⽅法論を議論した。施⼯BIMの普及啓発活動では、2023年6月にBIMセミナー/事例発表会を開催し、⽇建連会員会社のBIM展開状況の調査を実施した。

設計と施工のデータ連携 / 第12回建築BIM推進会議資料

日建連では設計と施工のデータ連携を図に示した。図のアクター(縦軸)とは、発注者、設計、施工、製作、維持管理・運用などそれそれのBIMデータが並走するプロセスを想定。図の矢印の情報の整合性を確保しながらの業務推進が重要なため、アクターごとのBIMデータが適切な時期に正しいデータで連携するワークフローを提案した。また、図にある「設計BIMモデルガイド」「FLとBIM」「BIMモデル合意・承認」「BIM活用ガイド」「用語の定義」について検討を進めている。検討内容は、日建連のドキュメントで随時公開している。

日建連におけるBIM展開状況の調査内容 / 第12回建築BIM推進会議資料

次に、隔年で会員企業のBIM展開状況の調査を定点観測し、前回(2022年)より施⼯フェーズに加え、総合建設会社の設計部⾨での展開状況も調査項⽬に加えた。なお上記の調査内容は速報値だ。グラフの縦棒は、BIM案件割合別の回答会社数で折れ線は回答会社数の累積(%)を示す。社内のBIM活用割合は、会社により広く分布し、9割以上の案件でBIMを利用している会社は約1割(5社)で、過半の会社では3割以下であることが分かった。正式な調査結果は後日、日建連のHPに公開し、2024年6月21日に開催するBIMセミナー「(仮)BIMを活⽤した業務スタイル確⽴に向けて」で解説する。なおセミナー形式はWEB配信。

セミナーの内容は、BIMの課題解決に向けたパネルディスカッションとして⽇建連の建築設計委員会(設計企画部会)、建築⽣産委員会(施⼯部会・設備部会・BIM部会)の各メンバーによる討議のほか、「建築BIMの現在地 ⽇建連会員企業への調査から⾒たBIMの展開状況と困りごと」「設計と施⼯間のBIM連携 ⼀気通貫BIMの幻想からコンカレントBIMへ」「フロントローディングでの協業」などのプログラムを用意している。

【電設協】ソフト連携を前提で「盤リスト」を標準化

(一社)日本電設工業協会(電設協)は、2020年度から技術・安全委員会の下に「BIM導入・活用検討WG」を設置、BIMベンダーや機器メーカーのヒアリングを行い、電設業界からの要望をベンダーやメーカーへ伝え、改善の促進を図り、現在も継続中だ。国土交通省の建築BIM推進会議の報告を通して、他業種を含む関連情報の共有と業界意見の反映を進める。

2021年以降は、「BIM導入・活用検討WG」から会員各社に向け情報発信している。2021~2023年度では、同WG各社の施工BIMの取組みを紹介。実務でのBIM活用内容や課題などを会員各社と共有し、BIM導入をサポートするため、電設協のHP(会員向けのみ)に公開した。

次に、各社のBIM使用実務者(施工)との意見交換会を行い、改善すべき事項の洗い出しとともに、BIMベンダーや機器メーカーのヒアリングを実施した。さらには、「盤リスト(配電盤、動力盤、分電盤)」ではBIMソフトとの連携を前提に標準化を図った。これは改修や小規模工事の際に、標準化した方が記入の誤りや誤記が少しでもなくなり、便利になることで進めた。

配電盤リストの標準化 / 第12回建築BIM推進会議資料

2024年度は、盤リストの活用とその見直しを実施し、電気機器メーカーへのBIM対応動向や電気設備分野での3Dモデル活用範囲の実態調査を行う予定だ。


【UR都市機構】初の設計BIMガイドラインを公開

(独)都市再生機構(UR都市機構)は、「住生活基本計画(2021年3月19日閣議決定)」に定める「新技術を活用した住宅の生産・管理プロセスのDXの推進」を実現するため、集合住宅へのBIM導入による生産性向上に向けた研究を実施している。このほど研究で得られた知見の成果として、集合住宅では初となる「設計BIMガイドライン及びBIMデータ類」を公開した。

公開の目的と狙いとガイドラインの特徴では、発注者として共同住宅用途の設計業務のEIR(個別プロジェクトの納入させるBIMデータの詳細度、プロジェクト過程、運用方法、契約上の役割分担等を定めた発注要件)の作成を試みたが、詳細度の設定は設計ワークフローが異なり、公開されたガイドラインでは、対応できないことから、自ら作成し、公開した。

共同住宅用途の設計の場合、「全体・共用の計画」「住戸計画」 の設計を分けて考えて、設計が進む / 第12回建築BIM推進会議資料

具体的には、共同住宅用途の設計の場合、上記の図のように「全体・共用の計画」「住戸計画」の設計を分けて考えて進んでいる。ガイドライン作成にあたり、発注者、受注する設計者双方が、BIM活用で業務時間を短縮できるワークフローの構成が重要なため、作成したデータ類を公開、ガイドラインの理解を深めてもらう。よりよい BIM データ構築につながるよう問合せフォームも設置し、ブラッシュアップのための意見を募っている。

UR都市機構では、2023年度からすべての新築設計の業務で BIM 活用を求める試行を開始し、中小設計事務所の導入シェアの高い「Vectorworks」、国産設備BIMソフトウェアでの BIM データ類の作成とモニター検証を実施し、2024年度に公開予定だ。

【林野庁】木材利用の環境整備でBIMを活用

林野庁からは、中高層建築物でBIMを活用した木材利用の環境整備の報告があった。新たな木材需要の創出のため、これまであまり木材が使われてこなかった中高層建築物をターゲットとした木質建築部材の利用促進や木材の安定供給体制の構築を図っているBIMは、木造建築物でも建築物の品質・性能の向上、設計・施工業務の改善に役立ち、また中高層建築物での木材調達や木材流通の効率化にも資する可能性が高いとの認識を持つ。

このため林野庁は2019年度から委託事業で中高層建築物でのBIMを活用した木材利用の環境を整備。これまで、「BIMを活用したデジタル施工事例集の作成事業」(中高層建築物を中心としたCLT等新たな木質建築部材利用促進・定着事業)(2019年度)、「中高層建築物における木材利用の環境整備」(生産流通構造改革促進事業)(2020~2021年度)、「中高層建築物における木材利用の環境整備」(CLT・LVL等の建築物への利用環境整備事業)(2022~2024年度)の実績がある。

ほかに有識者、設計者、施工者、プレカット事業者、システム開発者から構成する検討委員会(委員長:松留愼一郎 職業能力開発総合大学校名誉教授)を設置、委員会の下部組織として「材料調達WG」「構造連動WG」「防耐火設計WG」を置いた。

木材調達でのBIM活用 / 第12回建築BIM推進会議資料

報告は、2023年度の「中高層建築物での木材調達と防耐火設計のBIM活用」の検討内容だ。中高層木造建築物の建築でも効率的な木材調達は、なるべく基本設計の段階で必要な構造部材の断面を仮定し、余裕を持った調達計画の立案が重要だ。この課題に対応するため、「木材調達のための情報伝達の標準プロセスの作成」「木材標準BIMライブラリーの整備」「木材製品供給情報データベース(もりんく)」の3点に取り組む。

「木材調達のための情報伝達の標準プロセス」は、早期の情報伝達が重要なため、基本設計段階を対象とし、設計者から施工者・専門工事業者(木材供給事業者を含む)との間の木材に関する情報伝達のプロセスを提示した。また、木材の納期やコストなどの見積もりを行うために最低限伝達すべき情報も整理した。

「木材BIM標準オブジェクトライブラリー」は、標準プロセスの中で設計者が活用することを想定し、使用するBIMソフトの種類にかかわらず構造用BIMソフトのオブジェクトに持たせることが望ましい情報を整理するとともに、比較的に入手しやすい寸法などをまとめた。参考までに、「Autodesk Revit」によるサンプルオブジェクトとその使用例を提示した。この2点については最終調整が完了次第、林野庁のHPに掲載する。

3点目の「木材製品供給情報データベース(もりんく)」は、(一社)全国木材組合連合会が運営する木材関連事業者の情報共有プラットフォーム。JAS等構造材の供給事業者が自社で供給する製品の情報を登録し、それを設計・施工事業者が検索できる機能を追加した。供給事業者は、製品の詳細なリストをCSVで一括登録できる。

防耐火設計でのBIMモデル活用の効果 / 第12回建築BIM推進会議資料

次に防耐火設計の成果だが、設計や施工段階でのBIMモデル上で防火区画や防耐火上の納まりを詳細に表現する効果や求められる情報の詳細度を検討した。建築物の各部分を3Dで詳細につくり込むことは、防火区画・貫通部の位置の把握・共有や耐火被覆の納まりも含めて防耐火性能を担保した仕様を再現する際に役立つ。現時点ではBIMモデルを作成するコストが大きいため、簡易なオブジェクトにより、耐火被覆が必要な箇所を表現することで、設計段階での検討や施工段階での監理の活用が合理的と考えられている。

また、建築物の内装木質化では内装制限の免除のため、避難安全検証法の活用が想定され、法で用いるパラメータを整理し、設計段階や維持管理・運用段階でこれらのパラメータの情報伝達を行う際のBIMモデル活用の効果を検討した。

現時点では、BIMモデルと直接データ連携した市販の避難安全検証プログラムがなく、設計段階で各パラメータの情報伝達にBIMモデルを活用する効果は低いが、維持管理ではBIMモデルを各パラメータのアーカイブとしての活用で各仕様を担保する効果が期待される。

林野庁は、「中高層建築物における木材利用の環境整備」の事業は2024年度が最終年度であるため、中高層木造建築物にBIMを活用するメリット・課題、検討の方向性について成果物を提出する予定だ。

木造住宅工事へのBIM適用の期待も

2023年度における建築BIMの動向では、各行政機関や民間団体で精緻な検討が進められ、各分野で標準化・規定類やルールの策定が明確になった。

学識経験委員の志手一哉 芝浦工業大学建築学部建築学科教授からは、「プロジェクトベースのBIMの運用をどう考えていくかのフェーズに入ってきている」との指摘があった。また、同委員の小泉雅生 東京都立大学大学院都市環境科学研究科教授は、「戸建て住宅工事のような小規模工事に建築BIMがどうからんでくるのかは大きな関心事。とくにハウスメーカーやパワービルダーはBIM化の流れにどう乗っていくかが次の課題といえる」との提起があった。

各委員からの指摘などを総括すると、建築BIMは新たな局面を迎え、2024年度はさらなる普及に大きな一歩を踏み出す年になるだろう。

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建設専門紙の記者などを経てフリーライターに。建設関連の事件・ビジネス・法規、国交省の動向などに精通。 長年、紙媒体で活躍してきたが、『施工の神様』の建設技術者を応援するという姿勢に魅せられてWeb媒体に進出開始。
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