【「砂防」という仕事のリアルを探る第4弾】エス・ビー・シー・高木建設JV(ヤナギ谷・ナカズ谷砂防堰堤工事)編

国土交通省(四国山地砂防事務所)のご協力を得て、四国中央部の山奥、祖谷地区で動いている3つの砂防(地すべり対策)工事の現場を取材する機会を得た。砂防の現場ではなにをしているのかと言うより、砂防の現場ではなにを喜びとしているのかが知りたいというのが、今回の取材の動機となっている。

現場取材3発目(最後)として、徳島県三好市内に位置するヤナギ谷、ナカズ谷の2つの砂防堰堤工事を担当するエス・ビー・シー・高木建設JVの主任技術者の松岡洋介さん、現場代理人の梶浦智也さん両名に、工事の概要、施工管理上のポイントなどについて、お話を聞いてきた。(取材時期は2024年2月)

ヤナギ谷堰堤を受注した後、ナカズ谷堰堤が追加発注

松岡 洋介さん エス・ビー・シー・高木建設JV 主任技術者(監理技術者)

――こちらはどのような現場ですか?

松岡さん ヤナギ谷とナカズ谷にそれぞれ砂防堰堤を施工している現場です。令和2年度からヤナギ谷の管理用道路が発注されました。2~3年度で管理用道路の完成。その後、令和4年度で堰堤工掘削・コンクリート打設(7割)完成となり今回が本堤完成となっています。令和3年度からはナカズ谷の砂防堰堤工事が追加になり、今年度は本堤工、側壁工、床固工などを施工しています。

――どちらの堰堤も令和5年度中に完成予定ということですか?

松岡さん ヤナギ谷について、堰堤本体工事は完了予定です。ただ、側壁工、床固工、法面工など沢山工事は残っています。来年度発注になります。ナカズ谷は、本体をはじめ、全ての工事がほぼ完了していて、あとは撤去作業だけです。

――JVを組んでいるのはなぜですか?

松岡さん お互いの技術力をアップさせるためです。

山をたった36m切り開くのに1年かかった

――施工管理上のポイントとしては、なにがありますか?

松岡さん ヤナギ谷の現場条件としては、まず、下に県道が通っているのですが、西祖谷につながっている道で、観光道路になっています。けっこうな交通量があって、路線バスも走っているので、通行止めにすることができません。堰堤を構築するには、36m上から山を削らないといけないのですが、下に県道があるので、どうやって県道への落石を防ぐのか、どうやって重機を運ぶのか、といった問題がありました。

施工に関しては、セーフティクライマー工法という、機械を吊り下げて無人掘削できる特殊なバックホウで坂巻施工しながらの施工でした。距離にしたらほんの30mほどなんですが、落石にはかなり注意し精神的に苦労しました。また観光道路で道が狭いので、ダンプの搬出入にも制限があり工程調整も苦労した感じでした。

――発注者などとの修正協議も大変だったのではないですか?

松岡さん そうですね。初期段階の設計図、施工計画などは、あくまで予想と言うか、机上のモノなので、現場条件、施工状況、天候の変化に合わせて、刻々と変わっていきます。なにか変化が起きた際は、そのたびに協議を行なってきました。

発注者である砂防事務所(祖谷詰所)との協議ということで言えば、自分としてはスゴくやりやすかったです。温かいと言うか、優しいと言うか、「なんでも言うて来いよ」という寄り添ってくれる雰囲気があるからです。おかげで、修正協議を含め、仕事が進みやすかったです。

松岡さんのおかげで、ボクのスキルが上がっている(笑)

梶浦 智也さん エス・ビー・シー・高木建設JV 現場代理人

――梶浦さんは、こちらの現場にはいつから?

梶浦さん 2023年4月から現場担当になりましたが、国土交通省の砂防の仕事は今回が初めてです。松岡さんからいろいろ学びながら、仕事をさせてもらってるところです。すでにヤナギ谷堰堤工事は掘削も終わり、本堤工も7割完成していました。

――この現場ではどのような仕事を担当してきましたか?

梶浦さん ヤナギ谷工区は、堰堤はすでに14mまで完成し、今回残り4.5mの工事を担当させていただきました。材料やコンクリート打設を行うのも手間がかかりましたが、協議により、狭いヤードに50tラフテレーンクレーンを設置させていただき、工程通り完了することができました。

ナカズ工区については、令和3年度に4tクラスのモノレールを設置し、令和4年度に本堤掘削完了。今年度より本堤工コンクリート打設、側壁工、床固工、などナカズ谷工区については全て完成予定でした。大型重機も入らないダンプトラックも入らない状態でモノレールを見たとき、「なるほどな!」と感心されられました。

ただ、この方法だとコンクリートを打ち終わるのに時間がかかりすぎるので、どうやって工期内に終わらせるか、その計画を立てるのに苦労しました。モノレールを2路線ロスがないよう有効に使いながら工夫していきました。

――まさにJVを組んだねらいが実現されたカタチですか?

梶浦さん そうですね。スキルが上がっていっています(笑)。

工事用道路をつくれないので、モノレールを設置した

――松岡さん、モノレールの設置について、ねらいなどを教えてください。

松岡さん ナカズ谷工区は、山自体が地すべり防止区域に指定されているため、山を掘削することができません。地すべりを誘発することになるので、2m以上の掘削、地山からの2m以上の盛土ができないんです。なので、工事用道路を抜くことができません。道路さえあれば、400m3ぐらいなので、生コン車でコンクリートを運んで短期で終わる作業ですが、それができないわけです。

それで、現場にアプローチするために、モノレールで設置することにしました。谷自体は小さく、現場周りに住宅が非常に多いんです。索道も検討しましたが、家の上を架線が走るカタチになってしまいます。第三者災害を考えると、このルートを採用することはできません。それもあって、モノレールを採用したわけです。

――過去にモノレールを設置した実績があったのですか?

松岡さん 1tとか2tとか、小さいモノレールを設置したことがありました。これほどのモノレールは初めてで、施工能力も工種により対応できるスグれものでした(笑)。しかし1台では施工能力が落ちるため、モノレールを2路線設置しタイムラグを少しでもなくすため協議し設置しました。令和4年度の掘削の残土処理、今回の施工と順調に施工できたかとは思います。

――モノレールのメーカーを知っていたわけですね?

松岡さん 設計検討書の参考資料に載っていました。それで電話を入れて、注文しました。ポンプでコンクリートを打つカタチとなっていましたが、作業構台を設置し、資材積み込みのための小型の移動式クレーンを据え、コンクリートバケットで打つようにしました。

――それらは松岡さんが1人で考えてやったのですか?

松岡さん 高木建設の前任の主任技術者の方などと相談しながら考えました。私だけの考えではなく、同じレベルで意見を交わせる相手がいたので、より良い施工計画を練ることができました。私1人で考えていたら、頭を抱えていたでしょう。梶浦さんとも日々意見交換して、お互いの良い意見を取り入れながら、作業を進めているところです。JVを組んでいたからこそ、できたことだと思っています。

――それぞれの会社とのやりとりはあったのですか?

松岡さん 施工に関しては報告していますが、全部現場に任してもらっているので緊張感・責任感を持ちながら施工しています。

――いろいろ技術提案して、お金のほうは大丈夫でしたか?

松岡さん 費用の計算をした上で発注者と協議するので、そこは大丈夫でした。施工に当たり予算の管理もしていくので慎重にはなりますが…。

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「なんかあったら、ボクらが助けに行くからね」

――地元住民への対応で苦労したことはありましたか?

松岡さん 苦情や要望を受けたことは、とくにないです。ただ、ヤナギ谷工区は、県道沿いに1軒だけ民家があります。もし水が出たときのことを考えて、住民の方と一緒に避難訓練を行いました。ヘルメットもお渡しして、「なんかあったら、ボクらが助けに行くからね」という話をしています。やはり、砂防の仕事は、「地域を守る」のが基本なので。

ナカズ谷工区では、現場報告ということで、毎月工事だよりのチラシをつくって、現場周辺の150戸ほどに各自治会長さんを通じて配っています。現場では今こういうことをやっていますということについて、写真付きで情報提供し、ご理解をいただくよう努めています。集落の中の狭い道を工事車両が通行するので、しっかり情報をお伝えしながら施工しています。

梶浦さん 工事用車両は極力、集落の中を走らないようにしています。

松岡さん 道を譲るように、ホコリを出さないように、汚したら掃除するようにといったことは、周知しています。

「工事が終わるのがさみしい」という方もいる

――地元住民との関係は良好ですか?

松岡さん 3年も現場にいると、住民と顔見知りになって、この人がどこの誰か、だいたいわかるようになるので、気軽にお話するようになっています。住民には温かい方が多いので、助かっています。

――事業に対して理解してもらっていますか?

松岡さん 堰堤の恩恵を受ける住民はご理解を得やすいですが、堰堤の恩恵を受けない、関係ない住民の方は、ご理解を得るのが難しいという面はあります。そこのご理解を得るのが、ボクらの仕事です。

梶浦さん ナカズ谷工区は、関係のない集落の中をドンドン工事車両が走っていたりするんです。

松岡さん 住民にしてみれば、「ウチらは関係ないのに、騒音が出て、道もイタむ。そんな工事せんほうが良い」ということになるわけです。そこを理解してもらうには、いろいろ工夫が必要です。それと逆に、「賑やかで良い」とか「工事が終わるのがさみしい」という方もいらっしゃいます。

足場などが台風で全部崩れて、ボケーっとなってしまった

――改めて聞きますが、それぞれの現場のヤマ場はなんでしたか?

松岡さん ヤナギ谷工区で言えば、先ほどお話しした山を36m切り開く工程ですね。まさにヤマ場でした(笑)。一番危なくて、一番苦労しました。ナカズ谷工区で言えば、やはり山を掘削した1年間です。

――梶浦さん、どうですか?

梶浦さん 私が現場に入ってから、仮設構台が完成し機械を据え置いて、「さあ、本工をしようか」となった矢先に、台風の影響で、それらが全部崩れてしまったんです。それを見たとき、ボケーっとなってしまいました。「これ間に合うか!」という状況だったからです。

撤去してまた設置とやり直したんですが、それがヤマ場でしたね。たくさんの作業員の方にも理解していただき、協力してもらえたおかげで工期に間に合いそうなので一安心です。

松岡さん 私も「どうしよう」と思いました(笑)。

なんの経験もなく砂防の仕事をこなすのは難しい

――松岡さん、砂防の仕事も、やはり経験が重要なのでしょうか?

松岡さん そうだと思います。なんの経験もなく、いきなり砂防の仕事をこなすのは難しいと思います。当社は調査、設計、施工それぞれの業務をやっていますが、どちらかと言うと、山間部の仕事に特化した会社です。

ボクは施工一筋ですが、若いときに砂防の仕事を手伝ったことがありました。ボーリング調査や設計という別の業務ではありましたが、その経験は砂防の施工の仕事にも役立ったという実感があります。

アドリブがきかないと、自分のモノになったとは言えない

――砂防の仕事に関するノウハウの伝承について、どうお考えですか?

松岡さん こちらがいくら教えても、それを理解して、自分のモノにしてもらうのは、難しいところがあると感じています。知識として覚えたとしても、それを現場で使えるとは限らないからです。現場ごとに条件は違うので、アドリブがきかないと、自分のモノになったとは言えません。

若いころは、スパルタ教育的に怒られながら(笑)、それに立ち向かっていくカタチで、仕事を覚えていったようなところがありましたが、今はそういう時代ではないので、土木の楽しさを教えて、若い子のヤル気を出すように育てようと心がけています(笑)。本人に向上心(ヤル気)がないと、本当の意味で技術的に上には行けないと思っているので…。たまにはキツイ言葉も発しますが…。

――仕事をナメてる感じがある?

松岡さん ナメていると言うより、周りが見えていない、気が回らない、想像できていない、と言ったところでしょうか(笑)。この世界(建設業界)は想像力が非常に大切と考えていますので。

――ちょっと怒ると、クシャっとなってしまう?

松岡さん なりますね。クシャっとなる、言い訳をする、反発する、いろんな若手がいます。なので、あまり強く言えない(言葉を選んでしまう)んです。非常に苦労しています。

ICTだけで仕事をしていると、間違いに気づかなくなる

――梶浦さん、どうお考えですか?

梶浦さん 会社でも、最近はICT施工が浸透していますが、ICTだけで仕事をしていると、間違いに気づかないんです。機械のデータがこうなっているので、間違いないと思い込んでしまうんです。基本がわかっていないからです。なので、基本的なことから教えようとしているのですが、なかなか難しいです。

――たとえば、測量は杭ナビでやるのが当たり前だと思いこんでいる、とかですか?

梶浦さん そういうことです(笑)。杭ナビだけ得意なんです。若いので、それだけだとキビしいものがあるわけです。杭ナビは便利な道具ですが、人が育たなくなるのは、困ったことです。

松岡さん 砂防の現場は、ICTを使えばうまくいくような、そんな甘いモノではありませんから。ICTに関しては、使えるところで使っていこうとは思っていますが、やはり、人としての経験、感覚、ウデというものが必ず必要になります。

地味でシンドイ仕事だが、「やった感」が大きい

――砂防の仕事の魅力はなんですか?

松岡さん 地味だし、そもそも状況が見えなかったりするんですけど、難しいところです。シンドいですが、その分、モノができたときの達成感、「やった感」も大きいです。その喜び、感動がこの仕事の糧になってます。

梶浦さん 私も同じなんですが、モノができたときの達成感です。難しいと言われるほど、やってみようという気持ちになるし、完成させるために必要な発想も生まれます。そういうのが楽しいんですよね。あとは、地元の方々に喜んでもらえることです。まあ、仕事自体は地味なんですが(笑)。

建設業は、「モノづくりはこれがあるからやめられない!」と同業種で思われる方は多いと思いますよ。

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基本的には従順ですが、たまに噛みつきます。
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