平均年齢72歳!高齢化が進む工事現場の「高齢者用ルール」とは?

今日の左官屋は、ずいぶん高齢じゃないか?

ある日の忙しい建設現場での一日を紹介します。

所長である私は毎日、午前中に必ず一度は、意識的に現場を見るようにしています。

この現場は、スーパーマーケットの新築工事で、工事概要は下記のとおりです。

  • 工事名:スーパー○○○店 店舗新築工事
  • 構造規模:鉄骨造2階建、延床面積 5,000平方メートル
  • 工期:2017/3/30~2018/1/31
  • 請負金額:900,000,000 円 (税抜)
  • 現場員:所長含め5名

現場職員(帳場)たちは時間前に出勤し、現場事務所の整理・清掃。各協力業者の職人たちも、朝8時前に全員揃っています。そして、全員が現場の1つの場所に集まり、朝礼がスタートします。

この現場の朝礼は、まず最初にラジオ体操をやります。

朝礼でラジオ体操をする建設技術者・技能者たち

今日の参加者は、帳場5名、鉄骨鳶工5名、型枠工8名、鉄筋工6名、左官工3名、電気工4名、設備工3名、警備員2名、総勢36名。朝礼後、協力業者の職人さんたちは、おのおの作業場所に向かい、段取りを始めます。

所長である私も、現場を巡回した後、現場事務所でパソコンを叩いていましたが、ちょっと気になることがあり、手をとめました。

所長(私)「田中君、今日来ている左官屋は、ずいぶん年を食っているじゃないか。大丈夫なの?」

田中主任「所長、彼らはベテランです。また、今日の作業は、C工区の1階ベランダ部分のコンクリート押さえです。高所作業は一切ないし、安心して任せられますよ」

所長「そういう問題じゃなくて、彼らの安全書類を見せてくれ」

田中主任「はい。こちらが、今日の新規入場者の教育資料です」

所長「昭和左官工業、江戸八兵衛78歳、明治蔵之介71歳、大正平太郎67歳……3人足すと216歳か。とにかく、彼らの今日の作業手順を再確認すること。健康具合も口頭で良いので確認し、事故のないよう指示して来い!」

田中主任「はい、わかりました」

主任が現場事務所を出て行った後、私も「もう60歳か」と肩を落とすのでした。

高齢建設技術者・建設技能者(70歳以上)向けの独自ルール

土建業界の高齢化はかなり深刻です。

しかし若手技術者も少ないので、高齢者に頼らなければ現場は回らない状況です。実際、この建設現場でも高齢化の職人さんが多く、施工技術者の人材も不足しています。

そこで私の現場では、70歳以上の高齢の建設技術者・建設技能者の安全に関する取り決めとして、下記のような独自ルールを設けています。

  1. 高齢者の表示シール……70歳以上であることが誰でも一目で解るように、別色のシールをヘルメットに貼っています
  2. 高齢者用の現場教育……暑さ対策・喫煙など
  3. 単独作業はしない、させない
  4. 作業場所の高さ制限……足場上は3段以上、鉄骨建て方作業は禁止
  5. ピット内作業の禁止

70歳以上の施工技術者に仕事をお願いすると、安全管理上で心配なこともありますが、とても元気な人もいますし、昔から一緒の現場で働き、貴重なノウハウを教えてくれた人もいます。彼らはたくさんの現場経験を持っており、丁寧な仕事も得意です。他業者との段取も、工程管理も、交渉も、施工も、ベテランの彼らには、安心して任せられます。

スキル面と安全確保、若手不足と高齢者の起用、この2つの問題は、現場運営の観点から本当に難しい問題です。若手と熟練職人が、バランス良く配置されて仕事するのが一番なのですが、なかなかそうもいきません。

今後、若手活用と並行する形で、現実的には高齢技術者の活用も視野にしていく必要があると思っています。

孫の運動会で現場に来られない!

現在の土建業界が、高齢化の問題を抱えていることは、周知の事実です。

田中主任が、息を切らして戻ってきました。彼は貴重な28歳です。

田中主任「所長、昭和左官さんと打ち合わせしてきました。コンクリート打設の際に、鉄筋の上に必ずメッシュロードを敷くよう指示しました。今日は天気が良いのでコンクリートの締まりもよく、予定より1時間ほど早くコンクリート打設作業は完了するだろうと、八兵衛さんが言っていました。3人とも体調に問題なく、暑さ対策で休憩をいつもより多く取るように指示してきました」

所長「そうか。わかった」

田中主任「あと、明日のサッシュモルタル詰めですが、3人とも孫の運動会で来られないそうで、違う人に変わるそうです」

所長「了解、1時の職長打合せの後に、昭和左官に確認しておいてくれ」

田中主任「わかりました」

こうして、現場は進んでゆきます。

高齢建設技術者をどう起用するか?

若い人たちが働く職場として工事現場を選択するような、環境づくりの必要性が叫ばれています。

それは当然必要なことですが、現状のままでも、若手は少なからず土建業に入ってきています。重要なことは「自分の体を使って働く」ことの喜びを、体験・実感することではないでしょうか。

 

現場で一緒に働く仲間たち。左から19歳、60歳、20歳、平均年齢33歳

私も今年、初孫ができました。

いつまで現場で現役を続けられるかわかりませんが、高齢技術者をどう起用するか、という議論も必要です。

私は現場で若い人たちと、いっしょに働く喜びを分かち合えることを、せつに希望しています。

ピックアップコメント

重要なのは「自分の体を使って働く」を体験させる事ではなく、技能に対しての適正な報酬を適切に与える環境ではないかと思います。再下請けの重層構造がもたらす低賃金が若年層が近寄らない一因だと思います。仕事の報酬は仕事。では無く、仕事の報酬は仕事と金。やりがいではお腹は膨れません。

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北海道旭川市の⼟建屋。38年間、現場一筋の1級建築⼠です。その間、会社を変わること3回。単身赴任が長く、地⽅の現場も多かったので、休みの日は朝から料理に没頭しています。仕事は「あかるくたのしく」がモットー。2006年からブログを作っています。
「けんけんちくちく」建築情報 ⇒ http://architectural-site.jp/
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