福留開発株式会社・大場智公社長にインタビュー
福留開発株式会社は昭和26年10月、土佐市で総合建設業として創業。以来62年間、土木工事専門の建設会社として、着実に実績を重ね、高知県の経審ランキングではAランク(平成29年度は4位)の評価を得ています。
地方の建設業には、仕事量の減少や人手不足、後継者不在などの理由により、廃業に追い込まれる会社は少なくありません。福留開発が60年を超える寿命を保っているのは、優れたリーダーによるバトンタッチの賜物だと言えるでしょう。今回、高知県のインフラを支える有力企業に関するレポートとして、福留開発の大場智公社長にお話を伺いました。
大場社長、見た目は怖いですが、気さくな方でした。
錢高組から福留開発に転職。三代目社長として会社を牽引
施工の神様(以下、施工):社長就任はいつですか?
大場智公社長(以下、大場):うちの会社は、土佐市で開業した会社で、初代社長の福留福太郎がずっと会社を引っ張ってきて、平成2年に先代の山崎高男が跡を継ぎました。私が社長になったのは平成14年なので、社長になってから15年ほどです。私の息子が会社の常務として働いています。後継者です。私より優秀ですよ(笑)。
施工:福留開発にはいつ頃から?
大場:初めて高知に来たのは、20才、大学生のときです。縁あって、30才の時に再び福留開発にお世話になり、以来高知に根を下ろしました。
施工:土木工事がメインですか?
大場:そうです。私自身、土木しか知識がないので、土木専業です。先代の頃には建築関係もやっていましたが、私は引き継いでいません。
施工:ご出身はどちらですか?
大場:生まれも育ちも関東です。大学は千葉県。最初の就職先は大阪の錢高組でした。30才で高知に来た時の冬に、鏡川大橋の工事を担当しました。県内企業のJVによる初の工事でした。

福留開発株式会社(高知市南宝永町)
福留開発株式会社 会社概要(平成29年4月現在)
代表者 大場 智公
創業 昭和26年10月15日
資本金 4,000万円
事業内容 土木建設業 太陽光発電事業
関連企業 シグマ技研株式会社 株式会社西日本科学技術研究所
従業員数 56名
社員の生活の安定、会社の安定を第一に堅実経営
施工:平成28年度の完工高は約20億円となっていますが、これからもこの水準を保ちたい?
大場:そうです。私は、完工高を増やす、組織を大きくすることに主眼を置いていません。社員の生活の安定、会社の安定が第一です。それを実現した結果、会社が大きくなるのは結構なことですが、それを目的にはしていません。
施工:本社以外に営業所などはあるのですか?
大場:以前は徳島にも営業所がありましたが、私が社長になってから、廃止しました。建設業界の不振で、厳しくなったからです。旧道路公団の仕事があった時は、建設大臣許可を取って仕事をしていましたが、これも高知県知事許可に戻しました。橋梁の工事は今もやっていますが、元請けではないので、大臣許可は関係ありませんから。
施工:公共工事がメインですか?
大場:そうですね。民間では造成工事もやっていますが、90%以上が公共工事関係です。
施工:公共事業費が減り、倒産する建設業も増えているようですが。
大場:多くの仲間がいなくなりました。伸び盛りの会社もあったのですが。建設の技術、土木の技術は、過去と今を比べると、スピードが全然違うという感じがしています。ITの導入によって、非常に速くなりました。国の方では「i-Construction」に力を入れていますから、当社でも、人材育成を含め、IT化に取り組んでいるところです。
学生の絶対が減少している上、有望な若者は県外へ流出している
施工:技術者の採用はどうなっていますか?
大場:今年4月は高卒が3名、その前が2名です。その時の景気に合わせて、増減します。うちの会社は、私や役員を含め、中途採用が多いです。従業員も半数は中途です。他の会社も同じような状況だと思います。
施工:若者の土木離れが指摘されていますか。
大場:工業高校も生徒が集まらないそうです。大学でも「土木」という名称を使わなくなっています。
施工:直訳して「市民工学」に変えた大学もありますよね。「土木」という語感を嫌っているようです。土木技術者の確保は、中途採用の方がやりやすいですか?
大場:土木などの専門的な勉強をしてこの業界に入ってくる若者は、絶対数が少ないわけです。その上、そういう勉強をした高知の若者は、県外へ流出しています。専門的な勉強をしていない若者を採用し自分で育てる会社もありますが、うちは中途採用で技術者を確保しています。いつの時代でも途中入社する人はいるからです。採用はそれぞれの会社の考えですから、どちらが良いとは言えません。
今は時代の流れが早いので、建設業を支えている中高年の方々がどのような考えで仕事に取り組んでいくのか、その行方が彼らが属している企業の繁栄、衰退に大きく影響を及ぼしてくるでしょう。その辺の方向付けこそ、私たち経営者が考えるべき問題なんですけどね。
大規模災害が起こったら、うちも人手が足りなくなる
施工:東日本大震災などでは、復興工事などが増え、地元の建設業者は人手が足りなくなりました。
大場:高知県で大きな災害が起こった場合、うちも人手の余裕はなくなります。
熊本地震が起こった時、熊本には親しい会社からの要請があって、最初は、うちの直営部隊に重機を持たせて、1ヶ月程度行かせようとしていたのですが、向こうの役所から「まだ態勢が整っていない」と言われ、断られました。その後、元請けの仕事を手伝ってくれと言われたのですが、期間がどれくらいになるか分からない。長期間応援に出してしまうと、今度はこちらの態勢が弱体化する恐れがあったので、こちらでお断りしたことがあります。
施工:工事量の増加に対して、福留開発の方で仕事が回らなくなった場合は?
大場:大規模災害の場合などを除いて、まずないと思います。現有勢力の中で仕事を回すという考えでやってますから。ただ、定年で退職する社員がいるので、コンスタントに人を増やしていかないといけません。
長所を伸ばして、短所を補える会社づくりが経営の骨格だ
施工:いずれ息子さんにバトンタッチされるお考えですか?
大場:できれば良いですけどね。
施工:息子さんに期待することは?
大場:何をやるにせよ、息子に全て任せるつもりですけどね。ただ、社員の不平、不満が出ないように、いつの時代でも人というものが一番大事だ、ということは言ってあります。
人には長所と短所がありますが、短所を直そうとしてもなかなか直りません。だったら、長所を伸ばして、短所は誰かがリカバーすれば、会社としては伸びていきます。そういう人の扱いができれば、会社経営の75%はできたも同然。あとは、世の中がどっちに向かっているのか、その判断を間違えないことですね。
私はまだ若いつもりですが(笑)、世の中の進みが早いので、当然若い人にどんどん任せていかなければなりません。それによって失うものもあるでしょうが、これも時代の流れでしょうね。
災害が起きた時だけ、「助けて」は虫が良過ぎないか?
施工:建設業界、建設会社の対外的なPRについて、どうお考えですか?
大場:重要なことは、県民の皆様が建設業をどう評価しているか、ということだと思います。政党に例えれば、われわれは「建設党」みたいなもので、大いに応援するという人もいれば、無駄遣いだという人もいるでしょう。しかし、普段無駄遣いだと言っていた人が、災害が起きたら「助けて」というのは矛盾がありますよね。
施工:都合の良い時だけ必要とされる。
大場:若者の土木離れには、建設業への不信感を煽ったマスコミにも一因があると思います。建設業は、今こそ羽ばたかなければいけないのだから、協力し、理解しようという声があっても良いと思うけども、マスコミにはあまり取り上げられません。声があっても、「内なる声」ばかりですよね。外には届いていません。
施工:確かに、業界内外の温度差は大きいですね。
大場:50年ほど前の建設業は、世の中の縮図として、社会の仕組みとして位置付けられ、実際に機能していたと思います。マスコミも建設業の歴史を振り返って、果たしてきた役割を理解してもらいたいところです。
施工:ステレオタイプの意見に凝り固まっている。
大場:コンプライアンスで言えば、建設業界よりも改善が必要な業界もあるんじゃないですか。
施工:そうですね。今時、長時間労働で騒がれている業界もありますね。最後に、今後新たに取り組みたい事業などはありますか?
大場:社屋を新築したいと思っています。今のところ、具体的な計画はありませんが。
かつての土木事業は人力に頼っていたわけですが、機械化により、効率が格段に向上しました。これからはITだというわけです。しかし、どんなに優秀な機械を導入しても、人間によるチェックが必要なように、どんなに優れたITが生まれても、人間によるチェックは不可欠でしょう。
インタビューを通じて、大場社長の言葉の端々に、「土木工事は人がするもの」という信念が感じられたのが印象的でした。取材に際し、福留開発の会社ホームページがないことを知り、正直驚きました。大場社長がホームページ開設に反対したからだそうです。同社では現在、ホームページ開設の準備中だそうです。
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