(一社)全国建設業協会(全建、今井雅則・会長)は、このほど2024年度「生産性向上に関するアンケート」を実施し、報告書を提出した。アンケートは4~5月の2ヶ月で実施し、会員企業1,496社から回答を得た。
会員企業の主な受注先は都道府県(50.3%)、市区町村(19.2%)、国土交通省(19.0%)の順に多く、約7割の社が主に地方自治体から工事を受注している。全建は今後、アンケートで得た意見をもとに各発注機関での意見交換や要望に反映する。
施工管理アプリの活用企業は65%
ICT施工の取組み状況では、生産性向上のために取り組んだこととして「施工管理アプリの活用」「電子黒板の活用」がいずれも5割を超え、「ASP情報共有システムの活用」「経理システムの活用」「電子契約サービスの活用」が4割前後となった。いずれの回答でも2023年度のアンケート結果を超え、ICT施工の取組みが進展していることを示す結果となった。
ICT施工については、「取り組んでいる」が63.0%で、うち「施工者希望型工事を受注」が684社、「発注者指定型工事を受注」が477社。また、「通常発注工事でICTに取り組む」が189社となり、自主的なICT施工への取組みがみられた。
ICT活用工事の発注者ごとの工種は、「土工」が圧倒的に多く、次に「舗装工」の順となった。また、「施工に使用したICT建機とその調達方法は」との問いには、「計測機器(TS・TLSなど)」が80.6%と最も多く、「三次元設計ソフトウエア」が67.0%、「ドローン」が55.5%、「ICTバックホウ」が48.9%、「後付けICT機器」が35.1%となった。調達方法は、「自社によるレンタル、リース対応」が61.1%、「自社所有機械」が50.8%、「協力業者の所有機械」が38.8%、「協力業者によるレンタル、リース対応」が24.2%だった。
使用したICT建機は、自社所有機械では「計測機器」「三次元設計ソフトウエア」「ドローン」が5割を超えたが、自社レンタルリースや協力業者所有機械、協力業者のレンタルリースでは、「ICTバックホウ」が8~9割を占め、高額なICT建設機械は外部調達する傾向となった。自社所有の理由は、「リース費用が高額なため」「ICT施工の内製化を図るため」「補助金が活用できたため」という理由が多く、「ICT施工が工事成績や総合評価等で加点されるため」「外注費や外注による手待ち時間の削減のため」と続く。その他、「他社との差別化を図るため」「現場担当者から購入要望があったため」「儲けるため、生き残っていくため」という意見もあった。
ICT施工「積極的に取組む」が40%超
ICT施工への今後の取組み姿勢は、「積極的に取組む」が42.8%、「状況によっては取組みたい(準備を進めたい)」が37.8%となり、関心の高さがうかがえる。
会員からの意見では、「これまでと同じ業務の進め方をしていたのでは事業の継続が難しい」「熟練工が不足しても施工可能であり、省力化が期待できる」「実際に使用した印象としては十分実用的で現場の省力化になっている」「労働者不足への対応や週休二日当りの働き方対策の上で生産性の向上は必須の状況」などが寄せられた。
逆に、「取り組みたいが課題により取り組めない」や「取り組む予定なし」と回答した会員企業は、「国土交通省が推進しても都道府県や市町村は進捗が遅すぎて今から積極的に導入してもコスト回収ができない」「発注者側で積極に取組むと言いながら、ICTへの変更を認めていただけない」と発注者側の姿勢を疑問視する声もあった。
ICT施工の拡大では、「受注者側の人材育成・体制整備」「ICT建機価格等の改善を含めた体制の充実」「助成制度の拡充(人材育成・設備投資)」「官積算への適切な反映」が5割台となった。
課題や要望では、「発注者側(特に県・市町村)のICTに対する認識が低すぎる」「国も含む発注者側がICT施工に消極的」のほか、施工効率やコスト面では、「ICT建機やソフトを導入する資金が負担となり躊躇する」「費用が適切でなければICT施工の普及拡大は実現できない」などがあった。また、「ICT施工を行っても、工事成績の加点措置がなく、施工する会社や現場代理人のモチベーションにつながらない」と総合評価での加点を求める声も寄せられた。
進まぬBIM/CIM活用工事の発注
「BIM/CIMの活用状況」では、受注実績は「発注者指定型工事を受注」(7.0%)と「受注者希望型工事を受注」(11.3%)が2割弱に留まっており、BIM/CIM活用工事の発注が進んでいない結果となった。BIM/CIM活用工事の発注者別実施工種は、国土交通省などの国の発注機関では「構造物工」「土工」が、都道府県・市町村では「土工」が多かった。
CIM(土木分野)活用は、「既に活用実績がある」が14.6%に留まり、「今後活用したい(準備を進めている)」が27.7%。一方で「活用する予定なし」が21.3%、「聞いたことはあるが内容不知」はが18.8%と、あわせて4割超で、CIM活用・普及が進んでいない結果となった。
BIM(建築分野)活用は、「既に活用実績がある」(4.2%)と「今後活用したい(準備を進めている)」(16.2%)が2割程度に留まり、「活用する予定なし」(47.6%)と「聞いたことはあるが内容不知」(15.6%)が6割を超えており、BIMもCIMと同様の傾向を示した。
「BIM/CIMの活用で良かった点、悪かった点、課題・改善点や要望点(土木・建築共通)」では、「住民や地元説明で理解しやすい資料が比較的短期間で作成可能」「施工ステップを可視化することで作業効率が向上」「構造物の鉄筋干渉や既設との取り合いなどの見える化により、現場での手戻りが減った」など施工面での効率化につながったと評価する意見があった。しかし、「ハードウェア及びソフトウエアのコストが高額」「施工で使う場合に協力業者が対応しきれず、結局2次元での管理となることが多かった」「受注者側は設計図書が3次元データでなければ、2次元図面をわざわざ3次元にしなければならないため、現在では生産性向上や省力化には繋がっていない」と多くの課題も寄せられた。
課題、改善点や要望では、「複数のBIMソフトがあり、互換性が必ずしもない」「ICTを積極的に取り組んでいる会社とそうでない会社とで、工事成績に差が感じられない」「設計からの利用を徹底してほしい」との意見があった。「設計段階で作成された3次元モデルの提供を受けた工事では、施工段階で生産性は向上した?」との問いでは、「向上した」が14.3%となり、「向上していない」の5.9%を上回り、一方で「どちらともいえない」が54.1%と過半数となった。
「生産性は向上した」と回答した会員会社は、施工管理では「現場管理の簡略化。次いで、測量図面化、数量算出などの手間」「現状調査や位置出しの作業効率化と少ない人数で作業ができた」「準備作業(丁張り)の軽減や、安全確保ができた」など、効果のあった事例も紹介したが、「未完成かつ不整合のままの3Dしか提供されたことがないため、全て1から3Dモデルを作り直すことになる」「設計BIM/CIMモデルでは、実施工の施工モデルとしては使用することができず、施工用に再モデル化を行っているため、生産性向上につながらない」と改善点の要望もあった。
そのほか生産性向上全般についての意見は、「人材育成・支援・助成」では「新しい技術を取得し、現場で活用するまでの期間が長時間かかってしまう。建設ディレクターの導入は良いが、人材の確保、教育に時間がかかりすぎることが課題」、「負担軽減」では「人員不足や、高齢化、現場での負担軽減の為、WEBカメラなどを利用した現場臨場、現場管理写真をクラウド管理し、現場の進捗状況の管理、また、バックオフィス(本社)などからの写真整理や書類作成などにより、現場の省力化を進めて行く事が必要」、「書類の削減・簡素化」では「中小企業には各種生産性向上関連ソフト等の導入コストが重く、現実的に取組みが鈍い」「書類の簡素化が進む中で新たに出さないといけない書類が増え、結局、昔よりも現場技術者の負担が多くなっている」との意見が寄せられた。