生コン打設直前に、所長から思わぬ一言
ある道路工事現場で、思わず「土木技術者のお手本だ!」と叫んでしまいそうな現場代理人(所長)がいた。
ある日のこと。
道路工事に伴う橋台下部工の施工で、フーチングのコンクリートを打設しようと準備に取り掛かっていた。
朝礼でも特に問題点は挙がらず、ポンプ車も予定通り到着し、ブームの組み立てに入ろうとしていた。
すると、所長がコンクリート打設予定の場所をちらっと見て一言。
「高さが違うんじゃないか?」
作業員はもちろんのこと、現場の職員も顔に「?」を浮かべていた。
現場を一目見ただけで10センチの違いに気付く
この現場では、あらかじめ測量して床付け高さを決めており、それに合わせて型枠を組んでいた。発注者による型枠検査も済んでいて、あとはコンクリートを打設するのみの段階だった。
そのため、所長以外は誰一人、違和感を感じていなかった。
だが、所長は「フーチングの床付け高さがおかしいんじゃないか?」と、すぐさま職員に確認を指示した。
職員が改めて測量してみると、なんと床付け高さが10センチも高くなっていたのだ。これだけ高さが異なると、当然フーチング高さにも影響が出る。
床付け高さが高くなるということは、そのままコンクリートを打てば、フーチング高さが薄くなってしまうことを意味する。そうなれば、不安定な構造物となってしまう。あるいは鉄筋の被りが足りなくなっていたかもしれない。
高さの違いに気づかずに、そのままコンクリート打設をしていたらと思うとゾッとする。間違えたままコンクリートを打設してしまったら、解体しなければならないからだ。
所長は現場を一目見て、違和感を感じたようだった。しかし、10センチも違うとはいえ、数メートル単位で構造物を造る現場では、10センチの違いはなかなか気づかないもの。
この所長は、図面を頭に叩き込み、完成形のイメージがクリアに描けているからこそ、おかしな点に気づけたのだ。
観察力と対応力こそ、優秀な土木技術者の条件
おかしなことに気付き、すぐに手を打てる人は、土木技術者のお手本だ。
別の現場では、安全面に事細かに気を配り、問題点を小さい芽のうちに摘んでいた所長がいた。さほど問題になりそうもないことでも、的確に指摘して改善を指示していた。
そのため、その現場ではトラブルがとても少なく、小さいトラブルはあっても致命傷になることはなかった。
現場代理人だけではない。監理技術者や主任技術者にも、先々を見据えて早めに手を打つべく動き回り、小さい芽のうちに問題を片付ける人はいる。
一見、無駄に見えることでも早めに取り掛かることで、必要なタイミングで客先に報告や連絡、相談ができる。
このような技術者は、どんな現場に行っても十分すぎるほどにやっていけるだろう。こういう技術者になれるよう、改めて努力していく決意を固めた私であった。