形だけの安全衛生協議会
今の現場では、月に2回安全衛生協議会が開催される。
現場によって進め方に差はあるが、安全衛生協議会は通常、主催する元請け側の安全担当や所長が現場を巡回すると同時に、参加者も現場をグルっと回り、指示指導を伝え、現場で作業するサブコン各社は前回の安全衛生協議会からの引継ぎ事項やヒヤリハット報告などを行い、現場の安全を協議するための場だ。
だが、この現場では、会議を開いてやってます!と言うためだけの、形だけのモノになっている。安全衛生協議会の中身が簡略化され、通常の安全パトロールと同じで各サブコンから安全担当者ともう1人が加わり、それぞれ自分たちで見回る場所を決め、現場を回り、それぞれが気づいたことを発表し、最後に元請けの安全担当の責任者が発表と総評を行って終わる。
今まで色々な会社の安全衛生協議会に出席してきたが、目新しい取り組みなどはめったになく、印象に残る会は少ない。要は、元請けが安全に対してどんな意識を持っているか次第なのだが、会社によって取り組み方に温度差があるのは否めない。
感心したゼネコンの取り組み
これまでの安全衛生協議会で一番感心した元請け(ゼネコン)の話をしたい。
その現場は、神戸の建築とプラント工事の現場で、私は建築のみに関わっており、施工図作成と現場管理を受け持っていた。建築を請け負ったゼネコンとプラントを請け負ったゼネコンは別々で、その建築を請け負ったゼネコンの安全衛生協議会の進め方が非常に素晴らしかった。
安全衛生協議会の当日の朝、5人の人間がゼネコン本社からやってきた。最初は安全の人間が5人も来たのか!と思っていたが、それには訳があると後で分かった。
事前に入手した現場の配置図を見ながら、建物の規模、階数、工事の進捗具合、立ち入り禁止場所、現場での安全保護具の装着ルールなど、彼らからの細かい質問に対して私が答えた。
その後、彼らは図面を見ながら人員の割り振りを行い、それぞれが担当になった建屋や場所に散り、手際よく現場内を回り、必要な写真を撮影していた。再集合後に全員の写真を1つにまとめ、リーダーから再度色々質問され、私の答えを聞きながら安全衛生協議会で話す内容の方針を決め、発表に必要な写真を決め、資料作りが行われた。
安全衛生協議会が始まる午後2時には、完璧に資料がまとめられ、出席者に対しての説明や指示事項も的を得ていて淀みなく、ピッタリ予定通り2時間で会は終了した。そのあまりの手際の良さに、大いに感心した記憶がある。
会社の方針
安全衛生協議会が終わった後、あまりに見事な采配に、いつもこんな感じでやってるのかと尋ねてみた。
彼らの年齢構成は、リーダーが40代半ば、2人が30代半ば、残りの若い2人が20代後半だと教えてくれた。1週間に1回くらいの割合で色々な現場の安全衛生協議会に顔を出し、同じような業務をこなしているらしい。
ただ、彼らは普段安全の仕事をしてるわけではなく、設計部だったり、現場の施工図担当や施工管理の人間だそうで、安全の長が同席することもあるが、通常は我々5人がチームを組んで現場に行く!と話していた。
さらに詳しく聞くと、これは「安全意識の低い現場ではまともな施工などできるわけがない」という会社の基本方針に乗っ取ったモノで、安全担当者のみならず、建築に関わる社員たちに安全を確保するためにはどうすべきか?を考えてもらうために、会社で代々受け継がれてきた内容に沿って、人を入れ替えたり、内容を微調整しながら、安全衛生協議会や安全大会などで発表をしているそうだ。
安全担当でもない人間が安全衛生協議会を仕切る役割なのは、社長の方針だという。
社長の願い
社長の狙いは、自分の専門分野だけでなく、普段協力して建築を造っていく他部門の人と交流し、安全に関する共通認識を高めよう!ということらしい。
もちろん、安全の土台の上に品質の高い建築を造り上げることが最終目標で、その間に様々な人が関わってくる。特に建築図、施工図、現場施工管理が一体となってることが大切で、互いに文句を言うだけでなく、どうしたらもっと良くなるかを話し合い、三者共通の安全認識を持ってもらい、それをきっかけに交流を計り、意見交換ができるような組織にしていくことが会社の狙いだ!と説明された。
建築図は一番基本になる図面で、施工図も現場の施工管理も全て建築図が基になっている。建築図を基に施工図が描かれ、その施工図を基に現場が進められる。当たり前だが、この三者間の連携が上手くいかないと、最終的には現場が納まらず、詳細部の粗をカバーできずに不出来になってしまう。
客先との打ち合わせ結果から設計が建築図を作成し、全てがそこから始まるわけで、一番最初のボタンの掛け違いは後になるほど修正が難しくなる。現実的には、現場が最後に全ての尻拭いをしなくてはならなくなる。なんとか最終形までたどり着くためには、現場の協力なしには成り立たない。
そんな起こりがちな事情を関係者全員に分かってもらい、せめて設計・施工図・現場と工事の中心が移って行く際に、解決できなかった問題点の伝達やまだ改善の余地のある場所、客との打ち合わせが難航し変更の可能性がある場所の情報を、設計から施工図担当、現場へとしっかり伝えていくことがいかに大切かを、話し合いの中から身に付けて欲しい!と言うのが会社の方針で、社長の願いらしい。
挑戦し続けるゼネコンに評価を
こんなに素晴らしい取り組みだが、社内では反対意見もあるようだ。現場が佳境の時に抜けられたら困る!施工図を仕上げなきゃいけないので人は出せない!など、社内での調整がその都度必要で、安全専属の人間を決めてその人たちに全て任せたほうがいい!という意見もあるそうだ。
確かに社内での調整などは大変だが、中心となる安全を仕切る人だけが関わっていては、安全意識も社員全員に浸透していかない。だから面倒でも、安全以外の人間にも関わってもらっているのが現状だろう。
失敗も批判も色々あるようだが、安全衛生協議会を通じて専門外の人間と他部門の人間とを交流させ、安全第一と言える現場を目指し、結果その意識が品質の確保に繋がっていく考え方は決して間違っていない!
その現場以降、そのゼネコンと一緒に仕事をしたことはないが、新たな試みに挑戦し続けているゼネコンこそ評価される建築業界になって欲しい!と思うのは、私だけではあるまい。
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