初めての建設現場で得た教訓
私が会社に入社した当時は、まだ戦争の経験をされた土木屋の諸先輩の方々が在籍されていた時代でした。山の現場では戦闘機乗りのパイロットであった人達が、現役のヘリ操縦士として活躍していました。温故知新という言葉がありますが、現役の建設技術者の方々にとって、私の個人的な教訓、体験談が少しでも参考になれば幸いです。
これは私が電力の土木屋として、送電線建設工事の管理業務に従事した時の経験談(昭和50年代)です。
初めての現場は架空送電線鉄搭基礎工事
私の初めての現場は、都市再開発地域内での架空送電線新設工事でした。この現場における土木担当は5歳上の先輩と私の2人。それに用地方の現場所長以下、送電・変電工事の主任担当を含め計10名程度のこじんまりとした現場事務所でした。
この現場事務所では毎朝豆から挽いて入れたコーヒーを飲みながら朝のミーティングを行う習慣があり、私はこの現場で現場管理だけではなく、コーヒー豆を挽くという土木以外のスキルも身につけることになりました。
私が担当したのは、架空送電線鉄塔基礎工事。再開開発地域内に計画されている道路の中央分離帯を占用し、新設鉄塔6基の建設、既設仮鉄塔6基の撤去を行う工事で工期は約1年。初めての現場であったことから、研修も兼ねた形で鉄塔基礎工事の工事管理に携わりました。
土木工事のメイン基礎工事は、送電線にかかる全重量を、基礎杭を通して支持層の土丹層(N値50以上)に伝達させるため、基礎杭には、場所打ち杭工法であるベノト杭(Φ1000mm~1200mm)を採用。各ベタ基礎にかかる総重量から計算し、1基当たり6本~10本のベノト杭を施工しました。
鉄塔の基礎は圧縮力(地盤の支持力で対応)と引揚力(基礎本体の重量と杭の重量、埋戻土の土砂重量で対応)の両荷重がかかる特殊構造物です。鉄塔を支持する基礎の厚さは3.0m~4.5mで、幅は道路中央分離帯のため約7mでした。
全6基分の杭施工完了後、基礎部の山留用シートパイル打設、支保工取付2段、ベタ基礎部の床付掘削、ベノト杭杭頭処理(コンクリートのはつり)、床付部への栗石敷設、均しコンクリートの打設、ベノト杭の杭頭部の主筋整備、杭頭部のフープ筋取付、鉄塔脚材の位置出し、脚材据付け、ベタ基礎部の鉄筋加工組立、型枠組立、ベタ基礎部のコンクリート打設、コンクリート養生、そして必要に応じて植栽工まで、というのが土木担当の管理範囲でした。
「コンクリートの締固めを竹を使ってやったことも」
私が入社した当時、大型送電線(275KvA以上)鉄塔の基礎工事に関しては、建設要員の土木技術者が担当していました。具体的には、現場ルート調査、保安林解除申請の対応、地質調査、基礎設計、工事費算出、予算管理(土木工事費関係)、電気事業法に基づく資源エネルギー庁や通産省への土木関係の基礎安定計算資料作成等です。
また、環境アセスメントに関わる業務も土木技術者が対応していました。土木のメインイベントになる、コンクリート施工の品質管理に関しても、建設要員の土木技術者が厳しく管理していました。
電力会社の場合、昔は水力発電のダム建設に土木技術者を配置して管理していたため、コンクリートの品質管理については独自のノウハウを蓄積していました。その後、ダム建設が縮小すると、ダム建設に従事していた土木技術者の人達はその経験を生かして、都市土木(シールド工事等)、大形架空送電鉄塔建設、変電所建設、火力発電所建設、原子力発電所建設、土木設備保守などの土木職場へ配置替えとなり、職域拡大を図っていました。
私が会社に入った頃にはまだ、ダム建設経験者の方々が現役で業務に従事していて、工事管理・品質管理等に厳しい目を注いでいました。私が入社する前には建設中の送電鉄塔が倒壊する事故もあり、基礎工事に対する設計指針・品質管理もかなり厳しくなっていました。
新入社員の時に席を並べたていたダム建設を経験された土木技術者の先輩からは、コンクリートの締固め用バイブレーターが調子悪い時や足りない時には竹を切り出して、竹の節を利用してコンクリートの締固めをしたことも教えてもらいました。
コンクリート打設に立ち会う現場管理の必要性
架空送電線鉄塔基礎工事が落ち着いた頃、建設本部より「既設引き込み設備の増強工事の管理対応してほしい」という依頼がありました。独立基礎の一部(4ヶ所)をはつり、一体化構造のベタ基礎として安定化の向上を図る工事です。
実際に基礎の一部をはつり始めたところ、作業員さんが「監督さん、この基礎のコンクリートへピックを差し込むと、ピックが気持ち良く食い込んでコンクリートがはつれますね」と教えてくれました。おそらく施工管理に土木技術者が関わっていなかったか、もしくは十分な現場管理が出来ていなかったのでしょう。
しかし、基礎はつりをしても構造物の安全上には問題がないように十分な安全対策(支線補強等)はしてありましたので、問題なく補強工事を竣工することが出来ました。
私は現場に出てみて、土木技術者による現場管理の重要性を強く感じました。この経験から、その後従事した建設現場(山岳地)では、現場コンクリート打設前の施工段取りは当然ですが、コンクリートの取り出し状況、バイブレーター等の締固め作業も必ず自分の目で確認するようになりました。
また、仕様書等に定めるものが本当に適切なものであるか、仕様書が現場に適合した内容のものであるかを確認する意味からも、作業員の人達と一緒にバイブレーターを使った締固め作業もさせてもらいました。
山岳地での送電線鉄塔基礎工事では…
山岳地での基礎コンクリート打設は、トラック運搬による横付け打設、索道(単独・連続)を使った打設、ヘリの空輸による打設の3パターンになりますが、私の従事した山岳地での現場では、ヘリによる空輸でのコンクリート打設がメインでした。
構築する基礎の中でも、山岳地での主流である深礎基礎(円形柱体基礎)の場合には、基礎開口部に受けホッパーを据えて、そこにヘリで吊った鋼製のバケット(0.8m3)を上手く載せて、操縦士が油圧操作でバケットを開口し、中のコンクリートをホッパーに落とし込んで打設します。
通常、ヘリでのコンクリート打設を行う場合には、河川敷等に設置したヘリポートでコンクリートを受け取り、2機のヘリで交互にコンクリートを運搬・打設します。コンクリート打設を始めたら、一定のコンクリートを打設するまで、ヘリが飛び続けますから、現場の作業員の人達も目処がつくまでは、ゆっくり休息できず、ヘリとヘリが飛んでくる合間にささやかな小休止を取りながら作業を行っていました。
山頂全体にガスがかかり、視野が最悪の中、しかも強風や風向きの変化が激しい中で、ヘリを自由自在に操る戦闘機乗りであった運航部長さんなどベテラン操縦士の方々の技量の高さには何度となく驚かされました。
コンクリート打設は安全と時間との戦い
私が経験した深礎基礎工事では、外形がΦ3000~3500の円形の基礎の中に、同じく円形に鉄筋を組立て、それにフープ筋をかまして鉄筋を組んで行きます(道路下部構造準ずる円形柱体構造のため)。
基礎コンクリート施工は、躯体部(地中)と柱体(地上)とがあり、躯体のコンクリート打設時には、作業班が2班入ります。まず、円形状に組立てた躯体部の主筋の中へコンクリート打設作業メンバーが入り、バイブレーターを使いながら締固め作業を行います。
もう1班は、コンクリート打設に合わせて、躯体部の主筋外側と山留め(鋼製波板と円形に組んだL形支保工を鋼製の埋込み杭で上下を固定)の間に入り、コンクリートの打ち上がり状況を確認しながら、山留めを取り外して行きます。山岳地に設置する場所はほとんどが岩盤になりますが、風化の激しい場所、発破をかけて地山が緩んでいる場所は、一つ間違えると作業中に山が崩壊して、作業員の人達が埋まる危険性もあります。
そのため、掘削段階から地山の状況を把握しながら、支保工を据えてそこに鋼製波板を円周状に噛ませながら掘り進め、床付け作業を完了させました。
コンクリート打設時は、バイブローターをかける作業員の人達はフープ筋を足場にしながら、安全帯のフックを主筋に掛けて作業を進めます。円周上に設置した山留材の撤去作業を進める作業員の人達も同じくフープ筋を足場にしながら、地山の状況を確認して速やかに波板を1枚ずつ抜き取りながら、あらかじめ緩めておいた支保工の固定ボルトを外し、開口部に待機している作業員の人達と連係して搬出作業を進めました。現場作業は安全と時間との戦いでもあったわけです。
地山の悪い場所は、鋼製波板または支保工材も併せて残置しながら、コンクリート打設を進めて行きました。その後、安全性・施工性を考えてライナープレートによる山留に移行して行きました。ライナープレートを使用した地山の悪い場所は、円周状にライナープレートを残置して、ガスで背面空洞部の場所を切断し、窓を数ヶ所開けて、そこからコンクリートを充填する方法をとりました。
話を戻しますが、ヘリが受けホッパーにコンクリートバケットを上手く据えられれば問題ないのですが、風向きによってバケット位置がホッパーから少しでもズレた時には、基礎の穴の中にコンクリートが落下して、作業員の人達と共にコンクリートまみれになることもありました。また、事務所に帰れば先輩達に笑われたものです。
まず、現場に行け!
現場で作業員の人達とコンクリート打設作業や各種の立ち会い等に関わっていると、現場作業員の人達との距離が近くなりコミュニケーションも図れます。会社の先輩達からも言われていたのは、「まず現場での作業員の人達とのコミュニケーションを図ることが、現場を知り、作業員の人達に耳を傾けてもらえるための一番の近道だ」ということでした。
上司の考え方も「まず、現場に行け!」という方針でしたので、昼間必要なこと以外で事務所にいると「昼間に事務所にいるな!」と怒られました。
最初の現場でも、先輩から「わからなくてもいいから毎日ベノト杭施工の現場に立合いしていろ!」と言われて、すべての杭施工に立ち会いました。最初は施工している状況をただ見ているという状態でしたが、そのうちケーシンの挿入状況から、何本目が抜けて支持層に到達したとか、ケーシング挿入にどの程度の杭打機が楊動をかけているかがわかるようになりました。
また、現場管理以外の机上業務においては、当時はまだドレッシングペーパーへの手書きで作成していた土木図面(実線を裏に、細線・寸法線を表に書いて作成)を、先輩にビリビリに破られてごみ箱に丸めて捨てられたこともありました。「まず、図面を大切に扱うこと!」と体験を通して土木技術者としてのノウハウを教えられた現場でした。
いい古された言葉ですが、「鉄は熱いうちに打て!」と言います。最近はすぐに建設業を辞めたがる若者もいるようですが、もっと現場の作業員の人達との人間関係を上手く構築できるようになれば、もっと仕事の面白さが見えて来て、物を作るという仕事に興味が湧いて、若手建設技術者たちの定着率も高くなると思います。
今回、私の現場経験を元に電力土木の一環として、安定供給を担う送電線基礎工事について紹介させていただきました。特に送電線基礎工事については、土木工事と言っても特殊な部門になることから認知度は低いと思います。そのため、少しでもその一端をご紹介できればと考えました。昨今の電力自由化にあたり、送電線鉄塔建設の需要は伸びています。
建設技術者の養成方法を含め、施工性・安全性は私が経験した時よりも飛躍的に向上していますが、それを支えるのは最後は技術者です。これから建設技術者を目指す若い人達にとって、一つの参考情報として生かしていただければ幸いです。