浪速国道事務所(浪国)は、全国的にも珍しい、道路建設に特化した出先事務所だ。現在も、淀川左岸線延伸部事業(4,000億円規模)、大阪湾岸道路西伸部事業(6,600億円規模)をはじめ、トータル1兆円を超えるプロジェクトを阪神高速などと共同で動かしている。
そんな浪速国道事務所長の中西健一郎さんに取材する機会を得た。中西さんのこれまでのキャリアを振り返っていただきつつ、浪速国道事務所の主要プロジェクトなどについてお話を聞いてきた。
あと、個人的に気になっている浪速国道事務所のYouTubeチャンネル「Namikoku CH」についてもねらいなどを聞いてみた。
たぶん河川をやるつもりで入省したはずだが、河川の部署に行ったことはない(笑)
――国土交通省に入省した理由はなんでしたか?
中西さん 私の実家は京都の亀岡なのですが、子どものころから、実家近くの川で河原遊びをしたり、釣りをしたりして、よく遊んでいました。川が身近な環境で育ったわけです。物理や気象といった理科系の勉強が好きだったので、それで理科系の大学に進学したのですが、たまたま土木の学科に入りました。研究していた内容をそのまま仕事に活かせると聞いたので、国土交通省に入ったという流れです。
――道路の仕事をやりたいということだったのですか?
中西さん 大学の研究は、道路ではなく、河川系の水文学分野でした。タイの洪水予測に関する研究などに携わっていました。道路はまったく関係なかったですね(笑)。
――では、河川の仕事をやりたかったのですか?
中西さん うろ覚えですが、面接ではそういうことを話したと思います。ただ、入省してから、これまで河川の部署に行ったことはありませんが(笑)。
忙しい施工管理技士がキレイに退職するための辞め方・交渉術とは[PR]
「遠くが良い」と配属希望を出したら、帯広勤務になる
――これまでどのようなお仕事をしてきましたか?
中西さん 最初の仕事は道路で、北海道開発局でした。職場は帯広開発建設部でしたが、まったく縁のなかった場所でしたね(笑)。1年目は本部勤務で、2年目は帯広道路事務所の勤務でした。帯広には2年半ほどいました。計画、設計から工事監督まで一通り経験させていただきました。
入省時に配属希望を聞かれた最、「遠くが良い」と回答したのですが、おそらく希望が叶って、帯広配属になったのだと思っています(笑)。
――帯広勤務はどうでしたか?
中西さん 当時の先輩方には、昼の仕事中はキビしく、夜の飲み会もキビしくご指導いただきました(笑)。単身赴任の方も多かったので、晩メシがてらの飲み会にしょっちゅうお呼ばれして、まちなかを飲み歩いていましたね。「昼も夜も満喫したな」という感じですね(笑)。
あと、妻にも帯広で出会いました。期せずして、帯広がふるさとになっています。そういう意味でも、有意義な2年半でした(笑)。
本省を転々とし、インフラDXの立ち上げなどに携わる
相馬野馬追の様子(中西さん提供)
――その後は?
中西さん 本省係長をやった後、福島県相馬市に出向になって、東日本大震災からの復興にかかる仕事を担当させていただきました。仮設住宅入居者の方々に、恒久の住まいに移転していただくための調整などを2年間やりました。「相馬野馬追」という、馬に乗って市内を行列する地元行事があるのですが、こちらにも参加させていただきました。
その後、東北地方整備局の企画課に異動して課長補佐、課長をそれぞれ1年間やり、その後また本省に戻り大臣官房の技術調査課に配属になりました。i-Constructionのとりまとめなどを担当させていただきましたが、関係部署も多く、いろんな案件の対応に追われていた気がします。また、インフラDXの立ち上げにも関わらせていただきました。政策を打ち出すのはこういうプロセスなのか、と学ぶことができました。2年ちょっとやっていましたが、多くのことを学ばせていただきました。
振り返ると、わりとマニアックな業務が多かった
中西さん その後、また道路局に戻って、道路交通管理課というところで、特殊車両(大型トレーラーなど)が通行できるルートを審査する手続きがあるのですが、デジタル技術を使った手続きの効率化に関する業務などを担当しました。この手続きは、通行するすべての経路について、申請された特殊車両が通れるかどうかを、国、県、市区町村の行政機関ごとに行う必要があり、申請から許可までに1~2ヶ月かかっているという課題があり、この手続きをデジタルを使って効率化するといった仕組みづくりをやっていました。
あとは、ETC2.0の次世代バージョンの検討といった業務も担当しました。自動運転を見据えてどのような機能を付加するか、皆さんに設置してもらうにはどういうインセンティブを付与するか、などを、自動車メーカーさんなどと意見交換しながら、検討していました。道路交通管理課も2年いました。
その次に、同じく道路局の環境安全・防災課に異動になりまして、地方道、いわゆる自治体が管理する道路に対する補助金制度などを担当しました。ここは9ヶ月でした。年明けの1月に能登半島地震が発生したため、道路啓開に向け、車でアクセス困難な地域に、自衛隊と連携して海上から重機を輸送する調整などをやりました。
本省勤務を振り返ると、わりとマニアックな部署、業務が多かったように思いますが、道路施策の幅の広さを実感できました(笑)。
そして、2024年4月に浪速国道事務所に着任しました。
4,000億円規模の淀川左岸線延伸部事業に取り組む
淀川左岸線延伸部茨田西地区土留壁設置工事全景(浪速国道事務所提供)
――浪速国道事務所の主要事業はどうなっていますか?
中西さん 浪速国道事務所は、大きく3つの事業を持っています。大阪市内の淀川左岸線延伸部、神戸市内の大阪湾岸道路西伸部、大阪と奈良を結ぶ清滝生駒道路です。
淀川左岸線延伸部は、淀川沿いの新御堂筋通りから東向きに、大深度地下をトンネルを掘り、第二京阪道路と近畿自動車道の門真JCTにつなげる道路になります。国土交通省、阪神高速、NEXCO西日本の共同事業で、総事業費が4,000億円の大規模な事業です。効率的、円滑に工事を進められるよう、取り組んでいるところです。
――進捗はいかがですか?
中西さん トンネル工事の設計や、大深度地下の活用に向けた申請資料の作成などについて、安全に留意し、学識者にも意見をいただきながら進めています。また、工事については、国土交通省と阪神高速が役割分担しながら、進めているところです。
6,600億円規模の大阪湾岸道路西伸部事業にも取り組む
大阪湾岸道路西伸部六甲アイランド第三高架橋上部工事
――大阪湾岸道路西伸部はどのような事業ですか?
中西さん 西伸部は、大阪湾岸道路が開通している六甲アイランドから高架橋などを架けていって、ポートアイランドを経由して阪神高速神戸山手線につなげる事業です。阪神高速の3号神戸線の渋滞は全国ワースト1、2であり、渋滞緩和、物流効率化などを目的としています。
総事業費は6,740億円であり、われわれ国土交通省の浪速国道事務所と神戸港湾事務所、そして阪神高速の合併事業となっています。
この2つの事業を合わせると、事業費は1兆円を超えます。
浪国は「大規模プロジェクト担当」なので、かなり忙しい
――これだけ大きな事業が2つも1つの事務所で動いているのは、単純にスゴいですね。
中西さん 浪速国道事務所は、全国的にも珍しく、道路ネットワークをつくる仕事に特化した事務所なんです。このような事務所は、私が知る限り、全国でも数か所しかありません。それだけに、かなり忙しい事務所でもあります(笑)。
――でも、なんか楽しそうですね。
中西さん (笑)。仕事の規模が大きいので、かなりやりがいがあります。
「早く開通してほしい」と言われるが、工事の安全確保が最優先
――両事業ともスケジュール的なところは未確定のようですが。
中西さん いつまでに開通するという目標は、今のところお示しできる段階ではありません。「早く開通してほしい」という声は各方面からお聞きしていますが、トンネル工事や軟弱地盤での工事は、難易度も高く、やはり、安全性をちゃんと担保した上で、最速工程で工事を進めるというのが、一番大事なことだと考えています。
淀川左岸線延伸部、大阪湾岸道路西伸部の両事業とも、まだ設計途中なのですが、なにより安全確保が大事ということで、当面はしっかりとした設計を詰めることに注力しているところです。
神戸から奈良に至る広範な事業エリアも浪国の特色?
清滝生駒道路鹿畑西改良他工事 (浪速国道事務所提供)
中西さん 3つ目の事業が清滝生駒道路です。四條畷市から生駒市にかけて国道163号が通っているのですが、これをバイパスする道路です。生駒市内には学研都市があるのですが、ここへの研究機関などの集積が進むと、交通量の増加も予想されるので、それを見据えたバイパス整備になります。
――素朴な感想ですが、神戸から奈良に至る事業エリアというのは、かなり広いですね。
中西さん 様々な経緯があったと聞いていますが、おっしゃる通り広いです(笑)。
けっこうウケが良いYouTubeチャンネル「Namikoku CH」
――話はガラリと変わりますが、浪速国道事務所ではYouTubeチャンネルにかなりチカラを入れているようですが。
中西さん YouTubeチャンネルの「Namikoku CH」は、前任の所長のころからかなり力を入れており、私が所長に着任したときから、「この流れを途切れないようにしよう」と考えていました。
前任者のころは、職員にフォーカスしたものが多く、自転車に乗ったり、執務室の雰囲気(昼食時の様子など)をアップしていました。私が着任した後は、職員が現場で行っている監督業務や、広報イベントなどの紹介に取り組んでみてはどうかと提案し、皆さん楽しんで動画を作成しています。
最近は、別途1分ぐらいのショート動画もアップするようになったのですが、けっこうウケが良いようです。中には何万再生という動画も出てきています。若い人はスマホでYouTubeを観ているので、ショート動画のほうが観やすいという話を、インターンに来た学生さんに教えてもらい、試してみたら、ヒットしたようです。最近私の名刺に、YouTubeチャンネルのQRコードを貼って、会う人会う人にPRしています(笑)。
――周りの反応はどうですか。
中西さん 「YouTube動画を観ましたよ」としばしば言われます。そう言われること自体が「スゴいな」と感じています。もちろん「ありがたいな」と思っています。
広報関係はすべて前向きに対応することにしている
――あくまで私個人の感想ですが、浪速国道事務所のYouTube動画は、他の国土交通省関係の動画と比べると、制作者のヤル気が感じられます。
中西さん たぶんですが、やらされ仕事ではなく、職員が能動的にやってくれているのが、大きいのかなと思っています。浪速国道事務所では、広報に関してはすべて前向きに対応しよういうことでやっているんです。広報はそれだけ重要だということです。本来業務が忙しいと、「なんで今広報をやる必要があんねん」となってしまうこともあるでしょうが、浪速国道では絶対ありません。「広報が重要だ」という認識は、すでに所内に広がっていると思います。
新しいことにチャレンジする風土が国交省の魅力
――中西さんにとって、国土交通省の仕事の魅力はなんですか?
中西さん 前例主義にとらわれず、新しいものをドンドン取り入れていく、新しいことにチャレンジする風土があることが、魅力だと思っています。前例踏襲がないわけではありませんが、それにとらわれ過ぎないということです。組織として新しいことをやる体力もあります。あと、比較的大きなプロジェクトを扱うので、関係者も多くなります。いろいろな関係者の方々と一緒にモノをつくり上げていく経験ができるのも、魅力です。