株式会社イクシス(神奈川県川崎市)はこのほど、橋梁DXソリューション(床版ひび割れ点検、壁高欄ひび割れ点検、床版平坦性点検)をリリースした。
「床版ひび割れ点検ソリューション」は、専用ロボットによる操作で、太陽光の影響を受けることなく高品質の画像を取得。タブレット画面のAR表示により作業者は取り漏れがないように作業を進める。取得した画像データをAIで解析してひび割れを検出し、解析データを統合した「マップ」や「ヒートマップ」をWebアプリ上で確認できる。
「壁高欄ひび割れ点検ソリューション」は、専用ロボットによる操作で、壁高欄との距離を一定に保ち、画面の指示に従うだけで壁高欄の内側と外側の写真を同時に撮影する。取得した画像データをAIで解析してひび割れを検出し、解析データを統合した「マップ」や「ヒートマップ」をWebアプリ上で確認できる点が特徴だ。なお、同技術は、国土交通省「点検支援技術性能カタログ」に掲載されている。
「床版平坦性点検ソリューション」は、独自開発の専用マーカーを約30m間隔に設置することで、3Dレーザースキャナによる複数の取得点群データを、独自開発のソフトウェアにより高精度な自動結合を実現。点群データの中から床版平坦性測定に必要な分だけ抽出して結果を算出し自動帳票出力する。
橋梁上部工点検では、従来、技術者の目視で点検や検査が行われてきた。橋梁の壁高欄、床版のひび割れや床版平坦性を目視点検で測定の上、その値を帳票に記載するが、この作業は技術者の肉体的負荷も大きく、多くの時間も要しているといった課題があった。また、社会課題である熟練技術者の減少や昨今の働き方改革関連法案の建設業への適用で、対応が急務だ。
今回、開発などにあたった、株式会社イクシスの代表取締役、Co-CEO兼CTOの山崎文敬氏、R&D営業チーム長の小室裕之氏、Development Teamのサブチーム長の阿部翔太朗氏に話を聞いた。
笹子トンネル事故以前から、インフラに危機感を抱く

左から、株式会社イクシス R&D営業チーム長の小室裕之氏、代表取締役 Co-CEO兼CTOの山崎文敬氏、Development Team サブチーム長の阿部翔太朗氏
――創業の経緯は?
山崎文敬社長(以下、山崎社長) 学生時代の1998年にベンチャー会社を設立しました。当時は人型ロボットなどを開発していましたね。人型ロボットは華やかではありますが、現在に至るまで思っていたほど市場に投入されておらず、なかなか実用に至らないというジレンマがあったので、別の分野への参入を模索していました。
――人型ロボットからインフラへ軸を置くようになったと。
山崎社長 そうですね。2005年に「愛・地球博」が開催されましたが、この節は”ロボット万博”とも言われたように数多くのロボットが出展されていました。私どもも携わりましたが、当時はロボットブームの絶頂で、一般来場者もロボットに対して大きな夢を抱いていました。ただ、「すごいけど、今はいらないよね」という意見もありました。素晴らしい技術なのは理解できるけれど、この技術が自身の近辺に導入されるリアリティがなかったんです。それからロボットブームが一気に終わり、我々が思い直すきっかけにつながりました。
また、その当時は笹子トンネル事故が起きる以前の話で、安全神話が当たり前のように謳われてきた時代でした。ただ、建設業界の内実をリサーチしていくと、今後、人手不足が深刻になることは予測できましたし、当社としても、課題を抱えているインフラ事業の方々に技術を提供し、すぐに役に立てる技術開発をしたかったこともあり、社会・産業インフラに特化したロボットベンチャーへと舵を切りました。
それからは石油会社や電力会社向けのロボット開発などを推進していきながら、建設現場に実装できる技術開発も進めてきました。
ロボット技術、AI解析、BIM/CIMを連携

阿部氏が実機で説明
――橋梁DXソリューションの説明をお願いします。
小室裕之氏(以下、小室氏) 橋梁DXソリューションは「床版ひび割れ点検ソリューション」「壁高欄ひび割れ点検ソリューション」「床版平坦性点検ソリューション」の3点からなります。この3点の根底にあるのは、いま説明したロボット技術、AI解析サービス、BIM/CIMによる3Dデータ連携の3つの技術を連携し、ソリューションを実現しています。

イクシスが提案した竣工時検査ソリューション
これまで橋梁壁高欄点検や床版初期点検は、作業員が一か所ごとに目視で確認してクラックスケールなどで計測し、パソコンで品質調書を作成していました。この手法では現場作業と事務作業に多大な時間がかかります。この作業をDXにより効率化・省力化する必要があります。そこへロボットを活用することにより、点検の大幅短縮が見込まれます。
――一つずつ伺いたいのですが、「壁高欄ひび割れ点検ソリューション」はどのようなものですか?
小室氏 高欄の外側に先端にカメラを搭載したアームを張り出し、壁高欄の内側にもカメラを搭載しており、両側から同時に撮影できるロボットです。
壁高欄ロボットでは従来作業と異なり、足場が不要になります。一方、自動運転も可能ですが、あえて手押し式にして、移動距離測定ローラーで撮影位置が確実にわかるようにしている点が大きなポイントです。
――次に「床版ひび割れ点検ソリューション」は?
小室氏 前の黒いボックス部分は撮影部です。床版は天日にさらされて明るさの変化が大きく撮影しにくいので、遮光ボックスを使用し、太陽光の影響を防止しています。作業員の技量のみでロボットを移動させていると蛇行するなどして撮影漏れが発生し、作業後に現場事務所でそれを発見すると、もう一度漏れた場所を撮影するケースがあるのですが、AR技術の活用で撮影した部分の色がリアルタイムに変わり、作業員は撮影場所を確認でき、撮影漏れを防止します。
壁高欄や床版の撮影後は、当社のオリジナルのAI解析によりひび割れを検出します。これはコンクリートクラックに特化しており、人間と比較しても遜色ない検出精度をいつでも安定した品質を確認できます。過去に国土交通省が民間各社のAIのコンクリートひび割れ解析の評価試験を実施したのですが、作業員のチョーキングによるひび割れ点検結果と成否を判定したところ、0.2mm以上のひび割れにおいてを98%の正解率で検知するなど、当社がダントツのトップで、国からもお墨付きを得られています。
AIによる解析データを橋梁の図面データへ落とし込みし、調書も自動で作成できます。従来の手作業による点検と調書作成の作業に比べ、ロボットによる点検、AI解析、自動調書作成を行い顧客へ納品するまでの時間は、実際の橋梁点検において、作業時間が約40%削減する効果が得られました。
――「床版平坦性点検ソリューション」はどのようなものですか。
小室氏 従来の平坦性検査手法では、作業員が該当箇所を専用定規で計測します。大変な苦痛と膨大な検査時間を伴います。数百か所もの各計測点に対して移動と計測を繰り返す必要があり、また計測点の墨出しや帳票作成等の前後行程にも手間がかかります。さらに、定規の置き方による計測ミスや計測員の主観による値の取り違いなどのヒューマンエラーリスクもあります。
「床版平坦性点検ソリューション」では、3Dスキャナによる計測、PCでの自動解析を行うことで、床版の基準高、平坦性を一度に計測し、作業時間、人員の縮減により、点検効率の大幅改善が見込まれます。
橋長200m程度の橋梁を検査すると通常1日がかりの作業になりますが、「床版平坦性点検ソリューション」では、半日で検査可能です。床版全体の不陸や局所平坦性については、3Dスキャナを使い検査範囲全体をまとめて点群取得するため、計測地点の取り漏れは発生しません。国土交通省、NEXCOなどさまざまな様式に対しての帳票出力も自動で可能です。
使用機材や計測方法としては、Leica製3DスキャナRTC360という機材で橋梁を30mずつ計測します。基準値点には、マーカーを設置し、スキャニングは1回あたり90秒で済むため、検査範囲全体の計測も非常に短時間に終わります。点群データはファイル容量が大きく、解析処理に時間がかかると思われますが、本ソリューションはその場で結果も確認できる点が大きなポイントです。
当社では、3次元点群取得を正確に、手軽に短時間で行える独自の自動点群解析技術「Infracapture」を保有しています。特徴としては、3Dスキャナの自動制御や、点群を危機から高速にダウンロードできること、解析結果を現場で確認できる高精度の自動結合のほか、マーカーも当社独自のものを使っています。300mの橋梁で通常の計測点は約360点ありますが、従来手法と精度変わらず、点検時間 は約88%削減する効果が得られました。
――「床版ひび割れ点検ソリューション」に使うロボットの第1号は物流倉庫向けに開発されたとうかがいましたが。
山崎社長 「床版ひび割れ点検ロボット」の第1号機は2019年に自社開発しました。当時、受託開発のみを行っていた会社から自社製品・サービスを展開する会社へと変容し、全国へと営業網を広げていったのですが、そのタイミングで取り組んだ製品が物流倉庫の床面のひび割れ点検ロボットです。
物流倉庫を発注する複数のデベロッパーが同技術の使用を発注要件に明記していただき、物流倉庫を施工する大手ゼネコンも同技術を認識していただいています。ちなみに同技術の自律走行版は安藤ハザマと共同で開発しました。ロボットを自律走行させるには環境を整える必要があり、それを徹底されている現場では自律走行ロボットは安定して動きます。一方、障害物が多くあるなど、ロボットが動作するのに適切ではない環境で自律走行させると動作を失敗してしまいます。
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そこでロボットに対する現場のリテラシーを上げていくためには、いったんは手動ロボットを導入してもらい、手動ロボットで安定して作業が完遂できるようになってから自律走行ロボットを導入するように進めました。手動ロボットデモ後処理の帳票作成などの作業が楽になるとロボット活用のメリットが分かります。導入のメリットが分かると、ロボット導入時には床面を綺麗にするなど、ロボットが動作するのに適切ではない余計なものを排除するようになります。

AIによる解析
床版ひび割れ点検ロボットは物流倉庫だけではなく学校などの体育館への導入も進めています。体育館の床がフローリングという点が違うだけなので、横展開も容易です。亀裂、打痕、剥離など、利用者にとって危険な傷の検出をAIで行うことで、体育館内の傷の分布を把握できます。体育館などのスポーツ施設の維持管理を担当する業界や大学とも関係を深めています。
――床版のひび割れ点検の面で今回、橋梁に応用されました。
山崎社長 今回、紹介した三つの技術とも橋梁メーカーのJFEエンジニアリング株式会社と共同開発しました。当社もインフラの知見を持っていますが、橋梁メーカーは現場ニーズに詳しいため、当社はこのような技術を開発する際、開発パートナーと連携し、彼らの現場で実証実験を行い、製品化に至りました。NETISに登録されるとゼネコンとしても総合評価の加点に繋がりますので、積極的に登録に取り組む方針です。
地方の建設会社にロボット技術を波及したい
――地方の建設会社の人手不足やDXの推進は大きな課題ですね。
山崎社長 大手ゼネコンとはすでにネットワークを築けているので、これからは地方の建設会社に技術を届けたいと考えています。当社の拠点は仙台から福岡まで7拠点あり各エリアをカバーすることで、当社の技術を地方の工事現場に提供できる体制を整えます。
当社は自動で動くロボットが得意です。しかし、地方の建設会社ではいきなり自動ロボットを導入しようとしても、難易度が高く皆さんなかなか扱えませんから、お話したように、あえて手動とし、すぐに現場の皆さんが受け入れ可能な機能で商品化しています。
スーパーゼネコン5社で建設業界のシェアは15%ありますが、準大手から地場ゼネコンで残りの85%をカバーしています。その代わり現場の規模も小さくなることが多く、ロボットを導入するハードルが高くなることが課題ですが、当社もビジネスを考える上では大手企業だけではなく地場ゼネコンまでカバーできれば、ビジネスとしても大きく成長できると考えています。
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出来ればこの設備の初期投資額も記事に盛り込んで欲しいところです。
後どれぐらいの時間が今までの検査にかかっていてどれぐらい
時間短縮になっているか等詳しく記載していただきたいですね。
なんんとなく便利だと言う記事で優良誤認させるのは問題な気がします。