日本の新聞を教材にして精力的に日本語を学ぶウズベキスタン技術者

日本の新聞を教材にして精力的に日本語を学ぶウズベキスタン技術者

【大東建託】数百人にも及ぶウズベキスタン人学生がエントリーし、5人を技術者として採用。インドネシアの大学では「技術者の育成講座」も開設へ

大東建託(竹内啓社長)は、優秀な施工管理職の外国人人材の採用に本腰を入れている。

ウズベキスタンのタシケント国立工科大学の学生を対象に、2024年9月14~15日の2日間にわたり現地で面接を行い、5名の採用者を決定。採用者は同年12月に来日するとともに、国内従業員と同様の雇用条件で入社し、3月末まで日本語教育を受け、日本語能力試験N2相当を目指す。

4月からは、日本人の新卒社員とともに同様の研修を受け、ゴールデンウィーク明けには、都内の工事部門に配属され施工管理業務を担当する予定だ。

最短4年後に1級建築施工管理技士の資格取得者を輩出できるよう、全力を尽くす。ライセンスを要する第一線現場人材の採用では、日本初の試みだ。

一方で、2024年11 月には、インドネシアの国立総合大学シンガプルバンサ・カラワン大学と施工管理技術者育成を目的とした大東建託専門講座の開設で合意した。2025年8月から開講予定で、日本語能力試験対策講座、日本の知識習得講座、建築基礎などの多彩なカリキュラムから構成される。

本講座の受講終了生より採用面接を実施し、2027年12月に来日予定。来日後は、国内従業員と同様の雇用条件で入社し、施工管理業務を担う。

「今後はウズベキスタンから約5名、インドネシアから約5名の優秀な外国人建設技術者を着実に獲得していきたい」と語る大東建託技術教育部部長の鈴村大介氏と研修中のウズベキスタン技術者5名に話を聞いた。

※日本語能力試験のN2・・・日本語能力試験にある5つのレベル(難しい順にN1、N2、N3、N4、N5)のうち、日常的な場面で使われる日本語の理解に加え、より幅広い場面で使われる日本語をある程度理解することができるレベルがN2 。2022年12月のN2 レベル合格率は33.1% 。

大東建託がウズベキスタン技術者を採用したワケ

ウズベキスタン技術者の面接を行った大東建託 技術教育部部長の鈴村大介氏

――まず、ウズベキスタン技術者を採用された背景からお願いします。

鈴村大介氏(以下、鈴村部長) 建設業を取り巻く情勢として、理系学生の減少や2024年問題などにより国内での人材確保が困難な状況があります。とくに施工管理の仕事は、夏は暑く冬は寒いなどの作業環境もあり希望者も減っています。そこで人材採用の視点に海外も加えることとしました。

ウズベキスタンに目を向けた理由は、一つは人口が増加しており、平均年齢も30歳を切り、進学率も向上している一方で、国内における就労先が少ないということです。そのためウズベキスタンの学生にとって、海外で働くことも選択肢の中に入っています。そうした中、外国人材の採用事業に取り組んでおり、ウズベキスタンにも詳しい今回の協力企業様から内情を聞く機会があり、当社でも採用に動きました。

ウズベキスタンの古都「サマルカンド」を象徴する観光名所「シェル・ドル・マドラサ」

――ウズベキスタンという国と人柄をどう感じていますか?

鈴村部長 まず親日という点が大きいですね。真面目でコミュニケーション能力に優れ、 建設業を含む作業・労働意欲が高いという特性があります。いま、中央アジアは成長著しい地域であり、今後の発展が期待されています。

現場への配属はGW明けに

――今回、採用された5名は、来日後どのような研修を受けているのでしょうか。

鈴村部長 12月1日に入社し、まずは日本語の研修を受けています。施工管理職は協力業者様に指示を出す必要がありますし、ときには顧客様のところへ赴いて説明をしなければなりませんから、日本語の習得は必須です。講師は大東建託社員ではなく日本語講師の免許を取得された方が担当しており、日本語学習をスタートして5ヶ月ほどになります。

日本の新聞を教材にして精力的に日本語を学ぶウズベキスタン技術者

――現在の日本語能力はどの程度ですか?

鈴村部長 5名の能力に多少の差はありますが、コミュニケーションは問題ないレベルまで上達しています。また、研修中は毎日、技術教育部の社員が基礎的な建築用語も覚えてもらうための課題も出しています。ウズベキスタンの人々は自国の言語であるウズベク語のほかロシア語も話せる人も多く、言語習得能力に長けていると感じています。

――現場への配属はいつ頃になりそうですか?

鈴村部長 12月から1月までは日本語研修に特化し、2月上旬には現場見学を行いました。実際の現場を見ることは仕事を知る上でも有効ですので、今後も継続する予定です。

4月には日本人の新卒社員が入社するため、彼らと合流させる予定です。大東建託では、新卒者は4月に1ヶ月間の合宿研修を実施しているのですが、同世代なので互いに質問も活発に飛ぶでしょうし、そこでコミュニケーションを深めてほしいですね。

新卒者はこの研修後、ゴールデンウィーク明けに配属先に着任するのですが、同じくウズベキスタン技術者5名もその時期に着任します。日本人と同様の施工管理職の業務を担当していただきます。

――会社全体でウズベキスタン技術者の皆さんに対する期待度の高さを感じます。

鈴村部長 いま、私も日々研修室を訪れていますが、まじめで、礼儀正しいですし、日本語学習の姿勢も積極的で、メモもウズベク語ではなく日本語で取っています。加えて、日本人の礼儀や時間を厳守する文化も理解しているので、第一関門はクリアしたと判断しています。現場でも同様の姿勢で取り組めれば、必ず活躍できると期待しています。

4年後に1級建築施工管理技士の取得を目指す

――ちなみに、今回数百人もの学生がエントリーしたとうかがいました。

鈴村部長 はい。タシケント国立工科大学で開いた大東建託の採用説明会の様子は実に熱気にあふれていたそうです。

そのうち、日本語学習の点から断念されたり、自国で就職する方もいる中で、最終的に29名に絞られました。一次面接、二次面接を実施し、今回の5名の採用が決まりました。

――この29名の中から、さらに5名を決めるのも迷われたと推察します。

鈴村部長 それはもう迷いましたね。日本語レベルで不採用にした方はいましたが、それ以外は甲乙つけ難く、関係者全員で協議しました。施工管理は多くの人と付き合いますから、性格の明るさも重視しました。ウズベキスタンの方々の人懐っこさは、仕事を進めていくうえでも強みになります。ちなみに、面接は上席執行役員工事統括部長の泉和宏氏、技術教育部課長の増田心吾氏と私が担当しました。

ウズベキスタンでの面接の様子 / 大東建託提供

――彼らは4年後の1級建築施工管理技士の取得を目指していますね。

鈴村部長 1級建築施工管理技士の受検には3年間の実務経験が必要ですから、来年度から実務経験を積み、最短で4年後に取得となります。ただ、まずは日本語習得が重要です。試験では漢字も建築用語も豊富に出ますから、その点をクリアする必要があります。3月末までに「日本語能力試験N2相当」の取得を目標に頑張っています。

――2024年6月には竹内啓社長が都内のウズベキスタン大使館を訪問し、アブドゥラフモノフ大使と意見交換をされました。大使からはどのような期待を寄せられましたか?

鈴村部長 大使は「日本語とウズベク語は、文法や発音が似ているため学びやすい」と後押ししていただきました。一方で「ウズベキスタン人と日本人に待遇に差があるかどうか」を一番気にされていましたが、給料や福利厚生などの処遇を含めて日本人と同等であることを説明しますと、大使も安心された様子でした。

竹内社長(左から2番目)とアブドゥラフモノフ大使(左から3番目) / 出典:ウズベキスタン大使館Facebook

――ウズベキスタン技術者は、今後は何人採用する方針ですか?

鈴村部長 具体的な人数は決めていません。ただし、日本人の新卒一括採用とのバランスも考えて、多くても5名程度を想定しています。現在進めているインドネシアからの採用も同じく5名程度と考えています。

インドネシアの大学で「施工管理技術者育成講座」も開設

――話はいったんウズベキスタンから離れてインドネシアに移りますが、インドネシア人の採用に向けた取組みも進めていますね。

鈴村部長 インドネシアのシンガブルバンサ・カラワン大学の中に「大東プログラム(施工管理技術者育成講座)」を2025年8月に開設します。当プログラムを卒業した学生を対象に採用選考を行い、採用された学生は2027 年12月に来日予定です。来日後は、国内従業員と同様の雇用条件で入社し、施工管理業務を担当します。今、プログラムの詳細は大学と詰めているところです。

中央左が大東建託の竹内社長、中央右がシンガプルバンサ・カラワン大学のアデ・ママン・スヘルマン学長 / 大東建託提供

――ウズベキスタンとインドネシアの大学の理系の知識レベルは?

鈴村部長 いずれも高いと感じます。ウズベキスタンの大学は土木に強く、また、石の研究に注力しているとうかがっています。

――ウズベキスタンもインドネシアもイスラム教徒が多いですが、この点の対応は?

鈴村部長 大東建託としては宗教上の礼拝について制限をつけるつもりはありませんし、断食や飲酒の禁止についても尊重する考えです。

――今後の外国人技術者採用の方針を教えてください。

鈴村部長 現時点で第三の国は決まっていません。それよりもインドネシアでのシンガブルバンサ・カラワン大学での講座のスキームをしっかりと策定し、2027年12月入社に至るまでのプロセスをしっかりと整備します。まずはウズベキスタンとインドネシア技術者の採用活動を同時並行で進め、固めていく方針です。

5人のウズベキスタン技術者に直撃

鈴村氏へのインタビューののち、場所をウズベキスタン技術者が日本語を学ぶ研修室に移り、彼らに日本の印象や建設会社で働く意義について話を聞いた。

左から、フスニさん・ハサンさん・ティロさん・アルスロンさん・ショヒルズさん

――日本に対する印象を教えてください。

ショヒルズさん 当初、日本に来る前は寒い国だと考えていましたが、ウズベキスタンよりも暖かいですね。空気も道もきれいで整然としています。日本人は仕事に対してとても真面目なので、その真面目さを見習いたいです。

アルスロンさん 日本に来て感じたのは、ウズベキスタンと共通点が多いということです。たとえば、日本人は玄関で靴を脱いで家に入りますが、これはウズベキスタン人も同じです。また、日本人は温泉がとても好きですが、ウズベキスタン人も温泉、サウナが好きなんです。共通点が多いので、もう日本に慣れました。

ティロさん 日本の生活スピードはとても早いですが、今は慣れました。あと、イスラム教徒としてありがたいことは、日本にもモスクが増えていることです。なので、イスラム教徒が日本に来ても困らないと思います。

ハサンさん 日本はとても美しく、安全な国ですね。日本に来てすぐ自転車を買ったのですが、カギを外していたときに誰も自転車を盗むことがありませんでした。電車が来る時間もとても正確ですし、いろいろと質問するとすぐに答えてくれるので、日本人の親切な国民性を好ましく感じています。

フスニさん 日本の電車が毎日正確に到着することはありがたいですね。それに、ウズベキスタンでは駅の中にトイレがないのですが、日本ではあります。また、道も空気もとてもきれいです。

ウズベキスタンの首都タシケントの眺望

――日本で働くことについてどうお考えですか?

ショヒルズさん 日本で働けるようになってとても嬉しいです。日本でスキルアップするための時間は多くあるので、たくさんの現場での仕事をこなすことで知識も向上させたいです。

アルスロンさん 日本の会社で働くために最も重要なチームワークです。チームワークは会社の先輩や同僚とコミュニケーションを深めることで養われますし、チームワークがいいと知識を深められます。

ティロさん 日本の発展は日本国民の勤勉性にあるので、勤勉性を学びたいです。

ハサンさん 大東建託の先輩方はとても優しいです。ウズベキスタンで面接をした泉統括部長、鈴村部長、増田課長は毎日のように研修室に来て、「お元気ですか」「今日は何を勉強しましたか」とコミュニケーションを取ってくれます。

フスニさん 大東建託で働くことは私にとって大きなチャンスです。日本の建築はトップレベルなので、一生懸命に働き、日本の建築様式を学びたいです。

――日本の建設会社についてどう思います。

ショヒルズさん 日本の建設会社は世界でもトップレベルです。日本は台風、地震、津波などの災害が多い地域なので、災害に強い建物を建設しなければなりません。多くの新たな技術が開発され、日本の建物がますます強くなっていることに注目しています。

アルスロンさん 日本とウズベキスタンの建築の差には、建てる方法にもあります。日本では木造で建築する建物が多くありますが、ウズベキスタンには木造建築はそれほどありません。私は木造建築の技術や施工方法を学び、将来はいろんな建物を建てて大東建託の役に立ちたいです。

ティロさん 日本を知ると、”水”が多い国の印象があって、海の近くにある家もなぜ倒れないのかといろいろと不思議に思うことがあります。このような強い建築物を造る日本の建設会社は世界でもトップレベルを競っていると考えています。

ハサンさん 日本の建設会社の注目点は高い技術力です。ウズベキスタンではレンガで多くの建物を建築します。日本は木造建築が多いのですが、4階までの建物も木造建築で行っていて、この点は学んでいきたいです。

フスニさん 皆さんが話した日本の建築の高いレベルについては同感です。それに加えるのであれば、安全性も注目点の一つです。私も地震、台風、津波などの自然災害に強い建築を造る技術を学びたいです。

――将来の目標を教えてください。

ショヒルズさん 建築の知識や手法を多く学んで、自分のスキルを上げたいです。もちろん建築技術の知識だけではなく、チームワークも吸収していきたいです。また、当面の目標は1 級建築施工管理技士の合格です。

アルスロンさん 日本の建築手法を徹底的に学び、自分でもこの美しい建築を施工できるように資格を取りたいです。そして大東建託のメンバーの一員としてウズベキスタンで美しい建築を建てることが将来の目標です。そして、私の両親を日本に招待し、日本の素晴らしい観光名所を一緒に訪問することがもう一つの夢です。

ティロさん 先ほど日本は海に取り囲まれ、津波も多く、建築を建てることに多くの苦労があったと想像すると話しました。しかし、日本の建築ではたくみに地下構造を取り入れています。このような難しい地形の中でどのような建築を建てているかをゼロから学び、ウズベキスタンでも地下構造を持つ建物を建てたいです。

ハサンさん 建築の経験を深めるだけではなく、大東建託で働く先輩や同僚すべての方と友達になりたいです。

フスニさん 経験を積んで、自分のチームで建物を建てたいです。


日本の平均年齢は49.9歳と、世界で3番目に高い国だ。インフラを担う技術者や技能者は”エッセンシャルワーカー”だが、日本人単独で行っていくことはもはや難しい。

若く、まじめで、やる気にあふれた外国人技術者の採用に動いた大東建託の取組みは、日本の建設業界にどのような影響を与えていくのか、期待して見ていきたい。

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建設専門紙の記者などを経てフリーライターに。建設関連の事件・ビジネス・法規、国交省の動向などに精通。 長年、紙媒体で活躍してきたが、『施工の神様』の建設技術者を応援するという姿勢に魅せられてWeb媒体に進出開始。
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