AI(人工知能)やBIMをフル活用し、店舗施工のDXを推進するお店の工務店株式会社(神谷匡社長)が4月1日に設立した。同社は3Dスキャニングから計測、作図、パースの提案まで「最短1日」で提供可能なワークフローを実現するという。従来の店舗内装には「設計・工期・見積りの不透明さ」という課題もあるが、同社ではこれらをBIMとAIを用いたワークフローで改善し、業界全体の効率化と持続的な成長を目指すほか、こうしたスピーディーで高品質な施工を全国の工務店に向けてフランチャイズ(FC)化することを目的としていく。
このビジネスモデルに共鳴した実業家の堀江貴文氏は、事業アドバイザーとして参画。DXによる施工の効率化から、スピーディーなフランチャイズ展開まで、その鋭い視点と豊富な事業経験が随所に活かされている。新たな事業モデルの構築に向けて、堀江氏がお店の工務店を強力にバックアップする考えで、「私がかかわっている飲食チェーン店などでは、リノベーションしている店舗も多いため、お店の工務店を紹介し、コストを安くし、オープンを早める手段としても活用するなど、PRのサポートを行う」(堀江氏)という。
同社はこのほど記者会見を開催し、神谷社長と堀江氏が登壇。店舗施工のDXの未来やお店の工務店の今後の方向性について語った。
オンラインサロン「neoHIU」から誕生
神谷社長は、株式会社竹中工務店に15年間勤務。とくに施工BIMに精通する実績を持つ。一方、堀江氏はビジネス系に特化した起業家向け会員制コミュニケーションサロン「neoHIU」を運営しているが、お店の工務店はこのサロンから誕生した経緯もあり、堀江氏は事業アドバイザーとしてサポートすることとなった。neoHIUではAI系の事業が次々と立ち上がっているが、堀江氏の「AIを建築業に応用したら面白いのではないか」とのアイデアから同社が生まれた。
neoHIUには、建設・不動産業界に取り組む会員が他にもいるという。「古民家再生事業を岩手県、長野県、長崎県や兵庫県などの地域で展開し、メンバー同士で意見交換をしている。このほか秋田県でおしゃれな賃貸マンションを建設。相場より3~4割高い家賃だが全室埋まったという実績を持つ人のほか、古い物件をリノベーションし民泊に活用するなど、会員の中には不動産・建設系に関心を寄せる方もいる」(堀江氏)
記者会見で堀江氏は、「AIの力で店舗内装の常識を今、塗り替える」と宣言。工務店が店舗経営者に提出するのは、2Dの平面図が主流で、店の完成時のイメージがしにくいのが実情だ。しかも、この職人不足の折、工期もかかり場合によって開店日に間に合わないケースも。
「AIは思っているよりも賢く、人間のスキルセットを爆速で学習し、その成果を人間のようにアウトプットする。ここまでAIについて考えている人は少ないため、AIの力を借りて店舗内装の課題を解決していきたい」(堀江氏)
店舗内装の問題点を指摘する堀江貴文氏
また、変更点は無いにもかかわらず、いつの間にか見積金額が増え、予想外の出費も迫られることもある。店舗内装は「想像と違うデザインになり、工期が遅れて、工事費がかさんでいる」のが実情と堀江氏は指摘。この課題を解決し、AIやBIMを駆使し、店主の要望に沿ったデザインを実現し、早く安く届ける方式を提示するとした。
その方式とは、まず3Dスキャンによる現地調査を実施し、スキャンデータから既存の情報をくまなくBIMに反映する。次にBIMによる設計だ。写真のような3次元による店舗デザインを提示し、店主がイメージしやすいデザインをもとに、店舗事業の未来をも見据えることが可能だ。さらにはBIMに加えてAIを活用し、さまざまな店舗デザインのパターンを提案、これまでの店舗デザインの常識を打ち砕いた設計内容といえる。
依頼から最短1日で完成イメージを提供。メインカットだけではなく、個室など複数アングルで提供が可能
これにより、テーマや画角が異なるパースの提示が可能となる。その標準枚数は45枚。現地調査からパースの提示まで最短1日で完了する。お店の工務店のBIMは、施工レベルの情報を搭載するため、デザインどおりに施工され、金額的な不透明さもない点が特徴だ。とくに、工期は他社と変わらない場合でも、「設計のスピードは他社を凌駕する」ため、開店時を早めることも十分に可能になるという。なお、対応エリアは全国だ。「現時点では最安であり、最速でできるサービス」と堀江氏は胸を張る。
「BIM×AI」で複数のパターンを提案
アイデアが思い浮かんだ契機は、神谷社長が竹中工務店時代の「名古屋城木造復元プロジェクト」の経験に基づく。同工事は、すべてBIMで実施するというもので建設業界でも注目が集まった。そこでの監理技術者の経験を店舗内装施工でも活かせると確信を抱いたという。
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具体的な店舗内装の流れについては、工務店が現地調査を行い、必要な情報を本部と共有。その情報をもとに本部が設計BIMを作成し、それをAIに連携させ40~50のパースを作成する。さらに本部と顧客が協議した内容を反映し、最短1週間で詳細なBIMモデルを作成。正式な成約を得られた段階で工務店が施工に入る。「設計が遅すぎると施工が崩れるのは建設業界の常。逆に当社は、設計行為を早めることで品質は良くなる」(神谷社長)
FCへの加盟金は300万円。ロイヤリティーは工事の設計・施工の20%で、対象は現業での工務店経営者。スケルトン・居ぬき店舗両方に対応する。神谷社長は「施工には自信を持つ一方、設計や営業、未来に向けたDXに不安を抱きつつ、今後の展望について考えている工務店にはぜひ、FCに加盟してほしい」と語る。
また、質疑応答の席では、「BIMやAIに強くない工務店でも導入可能か」との質問があった。「その懸念があるため、当社のFC形式では、施工のBIMモデルを本部から提供し、見積もりも本部から作成するシステムとなる。現地でのスキャンでは協業していく形になる」という。また、堀江氏は「オレはAIのことなんて分からないよ」という方でも、「丸投げしても大丈夫」と自信を見せた。