株式会社永賢組の永草孝憲社長

6億円の赤字からの復活劇。愛知から世界と戦うゼネコンへ

1955年、戦後の復興期に愛知県春日井市で創業された株式会社永賢組。当時、土木事業から始まり、地域のインフラ整備や復興事業に貢献してきた歴史がある。現在は、永草孝憲社長が陣頭指揮を執り、地域の困りごとを解決する”都市問題解決カンパニー”として歩み、積極的なM&Aや建設DXの活用により、グループの成長を目指している。

M&Aでは環境理化株式会社、株式会社山建重機を事業継承し、グループ化。今後とも、後継者のいない会社を引き継ぐM&Aを強化する方針だ。建設DXでは、日本マイクロソフト株式会社業務執行役員として、生産性や創造性の向上を行い、生成AIの利活用を支援するパートナー技術統括本部をリードしてきた伊藤信博氏を顧問として招へいした。

2025年度の売上目標は100億円だが、さらにその先の1,000億円を目指すと語る永草孝憲社長にM&Aや建設DXの戦略について話を聞いた。

経営コンサルが「このままでは倒産する」と断言

土木と建築双方を主軸に / 永賢組

――永賢組(ながけんぐみ)の事業について教えてください。

永草孝憲社長 当社は70年間地元で根付いてきた老舗の地域ゼネコンで、NAGAKENグループ会社では、設計会社、家事代行、水質検査、土壌改良などを手掛け、各分野のスペシャリストが集まることで、多様なニーズに対応しています。この”スペシャリスト”は、ヘッドハンティングや事業承継型M&Aを通じて集められた優秀な人材たちです。

土木事業では公共工事を中心に手掛け、地域のインフラ整備に貢献しています。今はNAGAKENグループ企業の中でも株式会社山建重機が土木系で、永賢組の土木部門の売上を加えると約40億円となりました。建築事業では商業、医療、福祉施設から集合住宅まで幅広く対応していて、建築での売上は約50億円です。これは建築の方が1件あたりの物件の金額が大きいため、このような結果になっていますが、土木と建築部門はいずれも当社にとって主軸の事業です。

不動産事業では土地探しからリフォームなどのアフターフォローまで全ての工程を社内でサポートする体制を整えています。さらに、積極的な社内起業や事業承継型M&Aを通じてグループの成長を図り、先代の遺志を引き継ぎながら地元愛知県春日井市や地域への社会貢献活動にも力を入れており、社会貢献部という部署を構えています。一例では、社会貢献活動の一環として「100万人のクラシックライブ」(主催:一般財団法人100万人のクラシックライブ)を支援しています。このライブは、プロのクラシック演奏家と提携し、地域の皆様に「クラシック音楽」と「人と人をつなぐ場」を提供するもので、地域の方々が集い、交流を深める場ともなっています。売上1億円ごとに1公演を開催しており、当社グループの今期売上高は100億円目標のため、計100公演を予定しています。

定期的に行う「100万人のクラシックライブ」は地域からも人気だ

――一時期、経営が大変だったとうかがっています。

永草社長 当社は1955年に私の祖父・永草賢治が創業し、2代目は父・松井利行が事業を継ぎ、経営を行っていました。祖父が亡くなった当時、私は世界を渡り歩きながら総合格闘技の修行をしていましたが、父から「会社の状態があまりよくない」という話を聞き、帰国して事業を継ぐことを決めました。25歳のときに入社したのですが、経営はすでに債務超過に陥っていて、その原因もすぐには分からない状況でした。

先代が経営していた時代は、建設業の氷河期時代。当社の仕事も赤字体質だったんです。ただ、これは当社に限った話ではなく、建設業界全体で工事量が冷え切っていました。ダンピングも横行し、大手ゼネコンも合併、吸収、淘汰を繰り返していましたが、地方建設会社もかなり経営は苦しくて、地方では事業を続けることが難しくなって、倒産や廃業の道を選択された同業他社も多かったですね。

当社も過去5年間の赤字が積み重なり、6億円という額になっていて、経営コンサルタントからは「このままでは倒産する」と断言されました。そこで覚悟を決めて、今までの財務体質に徹底的に向き合いました。父は月10万円、私は月5万円の給料にして、その金額は黒字化が見える3年目を迎えるまでの2年間続けました。社員も給料2割カット、ボーナスは寸志程度に減額しましたが、それを「みんなで何とかしよう」と受け入れてくれたのは、父の人望だったと思います。

父の死後の話ですが、私が営業した覚えがないところから、仕事の依頼の電話がかかってきたことがあったんです。不思議に思いましたが、よくよくうかがってみると、父が「永賢組をひとつよろしく頼むよ」と話していたそうなんです。父は、死の直前まで会社のことを考えていたんです。祖父、父の想いを忠実に受け継いでいこうと決意しましたね。

「オンライン現場監督」も構想

――その後、どのような手法で建て直したんですか?

永草社長 当時の私は、経営はもちろん、一般企業の勤務経験もなく、財務諸表の読み方も知らなかったので、経営塾に入り、マネジメントや経営戦略の立て方など、経営者として必要な知識とスキル、考え方を3年間で徹底的に学びました。

それから、「都市問題解決カンパニー」というビジョンを掲げ、「建設業は地域の未来と環境を作る仕事である」と社員に伝え続けています。これによって、仕事への誇りが大きくなり、活気を取り戻し、利益を確保できるような体制へと転換することができました。

また、先ほど”スペシャリスト”という言葉も出しましたが、社内にスタープレイヤーが多く在籍し、それぞれが組織全体の成果を確立し、継続的な努力を続ける「プロ野球」のような組織への転換も目指しました。スタープレイヤーを増やすため、私自身がヘッドハンティングを行って想いを伝え、地方の建設企業の領域を超えた年棒を提示し、3年間で社員数を2倍以上の50人に増やしました。

結果として、事業承継後、5年で売上が50億円を超え、その後も毎年4億~10億円ずつ売上を伸ばすことができ、2023年のグループ全体の売り上げは80億円、営業利益は5億円を超えるまで成長しました。2025年度にはいよいよ目指していた100億円という目標を掲げて達成を目指しています。今後、私が50歳となる8年後には500億円、そしてその次の10年間で1,000億円の売上規模にしてから次の世代に事業承継するという構想も抱いています。

現在は好調な決算が続く永賢組

――建設DXに大きく舵を切ったことも、売上や利益の創出につながったのでは。

永草社長 これから人口は間違いなく減少し、若い方の入職も難しくなっていく中で、重要な視点は生産性の向上です。そこで、日本マイクロソフト株式会社業務執行役員をつとめられていた伊藤信博氏を顧問として招きました。伊藤氏は、日本マイクロソフト時代に生成AIの利活用を支援していた経験もあるため、AIに関する勉強会を月に3~4回開催しています。

具体的な取組みとしては、当社で活躍している現場監督の動向をデータ化し、AIに学習させ、そこに現場監督の知見も採り入れ、無人で現場を回せる「オンライン現場監督」を進めています。現行法令ではできませんが、将来を見据えた上での取組みです。これからは一つの現場を一人の監督で管理することは難しくなります。時にはオンラインで若手の現場監督に指示を出し、最終的にはAIが原価管理、工程管理、現場監督に指示を出すまでに至れるような形を想定しています。

この「オンライン現場監督」の実現の足掛かりとして、技術者・技能者の顔認証をデータに紐づける「AIによる現場での顔認証」のシステム開発にも着手しました。当社のどこの現場に行っても技術者や技能者が一度登録すれば、書類を必要としない入退場の実現を目指しています。

社内でAIの勉強会

また、社内で情報共有するために、「社内報アプリ」を導入したほか、全社では生成AIの「Microsoft Copilot(マイクロソフト コパイロット)」を活用しています。どこか営業先を見つけるにしても、Microsoft Copilotを使用すれば案を出してくれるので、業務の簡素化につとめています。このほか9月にはマイクロソフト本社にうかがい、自動運転を学ぶ試みも行う予定です。

エリア拡大は人材ありき

――スタートアップ企業との連携も模索されているようですね。

永草社長 ソフトバンク株式会社の子会社であるSTATION Ai株式会社(愛知県名古屋市)が運営するオープンイノベーション拠点「STATION Ai」に、2025年2月からパートナー企業として参画しました。ここは、ソフトバンクが2018年に愛知県の「Aichi-Startup戦略」における「愛知県スタートアップ支援拠点整備等事業」の整備運営事業者の選定を受け、スタートアップを創出・育成する施設として2024年10月に名古屋市鶴舞公園内に開業した日本最大規模のオープンイノベーション拠点です。

「STATION Ai」には、スタートアップをはじめとする新規事業創出に取り組む人々のためのオフィス、フィットネスジム、テックラボに加え、一般の方も利用可能なカフェ・レストラン、ホテル、イベントスペースなどが併設されていて、スタートアップ企業の創出育成やオープンイノベーションの促進を目的に様々な支援サービスを提供しています。ここでは700社を超える国内外のスタートアップ企業、パートナー企業、VCなどの支援機関や大学がSTATION Aiに参画し新規事業創出に取り組んでいます。

オープンイノベーション拠点「STATION Ai」

STATION Aiに参画したのは、建設業でも一歩先を進めるサービスを提供したい想いがあります。愛知県はものづくりを中心に、展開されている企業が多く、新たな技術を提供されているスタートアップ企業が非常に多い。製造業と建設業は、「ものをつくる」「建物を建てる」と近しい関係にあり、例えば経年劣化の映像のAI、埼玉県八潮市の道路陥没事故など、今後、構造物の経年劣化は大きな社会問題になります。もしAIや映像の解析で解決するのであれば、建設業にとっても大きな前進です。今、申し上げた内容の技術を保有するスタートアップ企業からのご提案を受けている所であり、具体的な協業について考えていくつもりです。

――八潮市の道路陥没事故の話が出ましたが、土木の取組みについては。

永草社長 これからは土木もメンテナンス業務や補修点検業務が増えて来ると予測できます。そこで、2024年3月には、トンネル、河川、橋梁、土木造成、下水道管理没、治山工事などの土木事業を行っている「株式会社山建重機」を事業継承し、グループ化しました。ほかにも、地域の土木系企業の事業承継の提案を受けており、面談をさせていただいている最中です。

「株式会社山建重機」がグループ入りしたときの様子

――仕事の場所は東海地方ですか?

永草社長 地域にはこだわっていません。主な工事現場は東海三県(愛知県、岐阜県、三重県)ですが、このほど福岡支店を開設し、横浜市でも大手ゼネコンの営業スタッフをスカウトしました。本社に出社してもらう必要はなく、家庭の事情などに合わせて働きやすい環境で仕事を受注してくださいとお願いしています。

――これから注力される地域はありますか。

永草社長 まず創業の地である愛知県のほか、岐阜県多治見市に本社を置く山建重機をグループ化したほか、岐阜県でM&Aを2~3社検討中で、隣接する静岡県、三重県でもM&Aを実施して、エリアを広げていく方針です。エリアの拡大は人材ありきです。福岡支店開設にあたっては、当地でリーダーシップを張れる人材を獲得できたため、福岡支店の開設に至ったのと同様に、いい人材が獲得できれば、その地域の支店開設も検討しています。土木・建築業は、出会いがあればなんでもできます。

積極的にM&A。家事代行会社もグループ化

――新たにM&Aをされる企業は土木修繕系が中心になりますか?

永草社長 そうですね。加えて、建築系であればBtoB企業。とはいえ工種を厳密に絞らずに、後継者不在の企業を事業承継することです。そしてその企業を存続させて、リブランディングし、永続的に経営企業を築くことが目的になっていきます。これからM&Aの事業の数は増やし、200社あたりを考えています。1社あたりの規模は10億円以内かもしれませんが、魅力的なであれば10億円以上の企業のM&Aを検討する可能性はあります。

今、地方では後継者不足で悩まれているいい会社は多く存在します。当初はシナジー効果が生まれないかもしれませんが、線と線を結ぶことになります。最終的には、これを面へと広げることが肝要です。

――M&Aの理由はやはり後継者不足なのでしょうか。

永草社長 その理由が一番大きいです。10億円未満の規模の企業で後継者不足が発生するかといえば、営業、現場、管理、経理、採用すべてを社長が行っている企業が多く、権限移譲ができていないからです。ただ、そんな仕事のやり方をしていれば、50~60代になると疲弊します。それに忙しさのあまり後継者を育成する準備ができません。当社グループ入りする際は前経営者に残っていただくケースもあり、最も得意な部門、たとえば営業や現場などに特化して業務を行っていただくこともあります。

――地域建設業におけるコングロマリット企業を目指しているように感じます。他の業態をM&Aされたケースもありますか?

永草社長 家事代行、法人向けのビルメンテナンスなどを行っている「株式会社デイジー」を事業継承し、グループ化しました。事業としては建設業を展開していますが、それは手段であり、目的は地域社会を豊かにしていくことにあります。建設業が軸である一方、家事代行、美容なども展開していきたいです。

家事代行、法人向けのビルメンテナンスなどを行っている「株式会社デイジー」を事業継承

「一隅を照らす」存在でありたい

――最後に今後の方針を。

永草社長 私としては、社員が会社を利用して自己実現をするプラットフォームでありたいと思っています。働き方、生き方の選択肢を広げてあげたい。たとえば、「建設業界で社長になりたい」という目標を持って入社したのであれば、それを私は応援したいですし、女性スタッフが資格を取りたいと思えば、そのための環境を整備したい。それが一人ひとりのやりがいにつながっていきます。やりがいが高まるとお客様から評価され、それが給料アップに結び付きます。

目指すのは、時間に縛られず自由に働ける企業です。何時間働いたから、これだけもらえるという企業ではなく、目標を設定し、その目標を達成すれば、しかるべき対価が得られるという本当の意味での成果主義です。当社は会社全体、部門ごとでも決算を実施しますが、一人ひとりが社長にように働き、好きなことを仕事にして稼いでもらい、心も満たされ、お金持ちになってほしいと願っています。永賢組グループに入社すれば自分の夢が実現できるという会社でありたいです。

また、私は建設業へのこだわりはあるのですが、会社の形はどんどん変化させていきたいとも考えています。現在は、売上高100億円規模の地方ゼネコンですが、これを1,000億円へと成長させていくには、社員一人ひとりが経営者マインドを持つことが必要です。

そして、日本を良くするための「一隅を照らす」存在でありたい。仲間たちともに灯を燈していき、日本を復活させたいと思っています。

会社概要

会社名:株式会社 永賢組(ナガケングミ)
本社所在地:〒486-0829 愛知県春日井市堀ノ内町4丁目1-20
TEL:0568-81-6179 FAX:0568-84-4281
代表:代表取締役 永草 孝憲
公式HP: https://www.nagaken.com/

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建設専門紙の記者などを経てフリーライターに。建設関連の事件・ビジネス・法規、国交省の動向などに精通。 長年、紙媒体で活躍してきたが、『施工の神様』の建設技術者を応援するという姿勢に魅せられてWeb媒体に進出開始。
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