株式会社長谷工コーポレーション(熊野聡社長)は、1階~3階をRC造、4階~7階を木造とRC造のハイブリッド構造とした賃貸マンション「ブランシエスタ目黒中央町」(東京都目黒区)を竣工し、記者内覧会を開催した。
木造箇所については、同社グループの株式会社細田工務店(野村孝一郎社長)が設計施工を担当、上階4層の専有部を木造・RC造のハイブリッド構造としたプロジェクトは長谷工コーポレーションでは初。上層階を構成する柱や梁(はり)などの主要構造部に木を使う工法により、環境面を配慮。自社物件による工事や賃貸の実績を重ね、他の不動産会社にも提案する方針だ。
二酸化炭素(CO2)排出が少ない木を積極的に取り入れ、製造時のCO2排出量を抑えたコンクリートを採用したことにより、同規模の物件に比べて約570tのCO2を削減し、環境に配慮した。
長谷工コーポレーションエンジニア事業部副事業部長の小島俊司氏は、「最終的には分譲マンションを木造で展開したい想いがあり、『ブランシエスタ目黒中央町』の工事の経験を活かしたい。前回施工を行った最上階ハイブリッド木造マンション『ブランシエスタ浦安』と比較し、さまざまな技術開発が必要となった。今後、設計と施工部隊で分析を行い、コストを意識した施工しやすい工法を確立していきたい。現段階では、コストに一番の課題があると認識しているものの、木造建築の推進ではかなりの技術開発に手ごたえを感じた」と語った。
今回、「ブランシエスタ目黒中央町」の記者内覧会に参加し、マンションにおける木造の可能性を追った。
※ブランシエスタ・・・都市を暮らしの舞台とし、住まう方がよりアクティブにより自分らしい暮らしを描くことをコンセプトとした、長谷工コーポレーションの賃貸マンションブランド。
木造・木質化などでCO2を約570t削減
左から、長谷工コーポレーション設計部門エンジニアリング事業部副事業部長の小島俊司氏、同事業部担当部長の高瀬有二氏、細田工務店特殊木造建築部上席所長の森田浩史氏、長谷工コーポレーション建設部門第三施工統括部所長の西樂和也氏、都市開発部門不動産投資事業部事業開発部部長の小島智枝子氏
長谷工コーポレーションは、賃貸マンションの木造化に本格的に挑んでいる。2014年から木造・木質化を進め2018年に竣工した、自社事業の「ブランシエラコート王子」の共用棟で初めて木造を採用。2020年には細田工務店がグループ入りし、同社が得意とする在来軸組工法を軸とし、本格的に木造・木質化への取組みをスタートした。2023年2月には、最上層一層を木造とした都市型賃貸マンション「ブランシエスタ浦安」を竣工。今回は、上階4層の専有部を木造・RC造のハイブリッド構造とした「ブランシエスタ目黒中央町」を竣工した。
設計部門エンジニアリング事業部担当部長の高瀬有二氏は構造について詳細に説明した。全101戸の住戸のうち、3分の1を超える36戸が木造住戸。7階建てで下層3層がRC造で上層4層が木造とRC造のハイブリッド構造。RC造の部分は避難経路や安全性を含めて、中廊下部分をRC造とした。柱、梁や床は木造の構造体だが、この工法は細田工務店が在来軸組工法を得意としており、汎用性がある工法のため採用した。CO2の木造による貯蔵量は約600tとなる。また、全体をRC造とした場合と比較して、約570tのCO2の排出量の削減に成功した。この数値には、従来のコンクリートと比較して約20%のCO2排出量を削減する長谷工コーポレーション独自開発の環境配慮型コンクリート「H-BAコンクリート」を採用したことによる削減量も含んでいる。「環境に配慮したマンションの建設を推進して社会に貢献していきたい」(高瀬氏)
環境配慮型コンクリート「H-BAコンクリート」
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木造部分の設計施工はグループ会社の細田工務店が担当。同社特殊木造建築上席所長の森田浩史氏が解説した。木造部分や耐火の被覆工事、4階から上部の外装工事を施工した。計画段階から、長谷工コーポレーション、細田工務店、金物メーカー、木造プレカット会社が連携し、RC造部分と木と緊結する金物を「ブランシエスタ目黒中央町」のために特注した。「金物と金物が隣接する部分もあるため、ボルトの高さ関係については各図面を照合しながら、開発を推進した経緯がある。最終的には特注の金物をつくり本番の施工でも通用出来た」(森田氏)
ちなみに、前回の「ブランシエスタ浦安」の工事との違いについては、「今回は、規模が大きいため、タワークレーンを2機使用し、楊重した。建て方の施工計画の段階から、完全に違った。柱と梁のみの構造体としたため、トラックの配送計画をはじめいろいろな点で、まったくレベルが異なった。また、戸建てとは異なるサッシを使用するため、建て入れでの精度が求められた」とのことだ。
床はプレカット工場で制作し、現場でパネルを据えて組み立てた。「パネル化により、一つ一つのパーツをつなげ合わせ、工期の短縮に効果があった」(森田氏)
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施工で苦労した点については、「コンクリートで3階まで建設し、その上を木造で施工した。金物を仕込むのに、かなりの精度が要求された。また、RCと木の取り合い部分の細かいおさまりの点では、実施工ベースでの打ち合わせが必要となり、苦労した点だった」と、長谷工コーポレーション建設部門第三施工統括部所長の西樂和也氏が語った。
「ブランシエスタ目黒中央町」の施工のもよう
木造でも高い遮音の二重床を導入
国土交通省は、「ブランシエスタ目黒中央町」を中高層・大規模木造建築物整備の促進を目的として、2022年度「第3期 優良木造建築物等整備推進事業」に採択した。専有部は、在来木軸工法による木造高遮音二重床システムを採用。システムは、音の振動による伝搬を減らすように「構造床」と「二重床」の重量バランスを最適化し、「吊天井」と「構造床」を絶縁して設置し、一般的にRC造に比べ遮音性能が劣るといわれている木造の遮音性能を高め、RC造と同等の性能を実現。また、建築基準法の告示に明記している防火材料である、強化石膏ボード2枚張りの耐火被覆による1時間耐火構造とし、建築基準法上の耐火性能も確保した。
「木造高遮音二重床」システム
また、木造中高層集合住宅では、火災時の安全性を最優先にしながら施工にも配慮した設備貫通工法が求められる。そこで1時間耐火構造の木造中空床を貫通する「耐火木造建築物向け排水集合管」や耐火外壁を貫通する「断熱スリーブを使用した省施工耐火外壁開口工法」を開発し、「ブランシエスタ目黒中央町」に導入。1時間耐火構造の木造中空床を貫通させる場合、従来は「メンブレン耐火被覆」(※)を採用していたが、施工に手間が掛かるため、「メンブレン耐火被覆」を不要とした新工法だ。
※メンブレン耐火被覆・・・非加熱側への遮炎性に加えて、床壁内部への火熱の進入により耐火構造としての性能が損なわれないよう、配管貫通部の周囲を強化石膏ボードなどで要求耐火時間に適合する厚さや枚数の防火被覆を連続的に施す方法。
さらに、長谷工版BIMシステムを木造で対応できるように拡張、基本設計・実施設計で活用した。仮設計画、楊重計画、施工工程を検討する段階では、仮設部材を加えた設計施工BIMモデルを作成し、効果的なシミュレーションを実施した。今後は、木造部分のBIMモデルを木材プレカット工場に渡すフローを構築し、データ連携による生産性向上を図っていく。
「ブランシエスタ目黒中央町」は、東急東横線の学芸大学駅から徒歩11分の好立地。広さ約30m2で1LDKの住戸の場合、賃料は管理費込みで約17万円、約134m2でメゾネット(6~7階)の吹き抜けやルーフバルコニーを備えた3LDKの住戸では、81万8000円(月額)だ。
マンションでは珍しいメゾネットタイプも
「とくにメゾネットはマンションでは珍しく、人気やお問い合わせが多い。バルコニーもゆったりし、ここから外を見る価値は大きい。約134m2のメゾネットでは、ご自身で事業を展開されている個人事業主の方や大手企業の社員がお問い合わせされることが多い。実はここまでの広さをつくるには事業体としても踏み込んだ判断が必要なため、振り切った住戸といえる。とくに、ブランシエスタシリーズは、マーケットの供給の上のさらに上を狙い続けていて、それでも入居者からは高いご評価をいただいている。共用部の充実も図っており、他にはないプロジェクトといえる」(長谷工コーポレーション都市開発部門不動産投資事業部事業開発部部長の小島智枝子氏)
共用部での充実もブランシエスタシリーズの人気の理由
木造賃貸マンションの施工は他社も手掛けているが100戸を超える大型物件での適用は珍しく、RCと木の特性を活かし、プランの自由度、施工性、更新性を向上し、施工コストの削減にも挑戦した。
【プロジェクト概要】
名称:ブランシエスタ目黒中央町
所在地:東京都目黒区中央町一丁目591-14(地番)
交通:東急東横線 学芸大学駅 徒歩11分
敷地面積:2,670.12m2(807.71坪)
延床面積:7,219.80m2(2,183.98坪)
構造・規模:RC造一部木造(ハイブリット構造)
階数・戸数:地上7階建101戸
竣工時期:2025年3月
事業主:株式会社長谷工コーポレーション、株式会社長谷工アネシス
設計・施工:株式会社長谷工コーポレーション
ホームページURL:https://www.haseko.co.jp/bransiesta/meguro-chuocho/