株式会社長谷工コーポレーションはこのほど、RC造と最上階の一部を木造としたハイブリッド構造地上7階建ての賃貸マンション「ブランシエスタ浦安」(千葉県・浦安市、総戸数208戸)を竣工、報道関係者に公開した。また、環境配慮型コンクリート「H-BAコンクリート」を採用するとともに、外壁は木材チップを約50%練り込んだサイディング仕上げとした。長谷工が住居部分に木造を導入した事例は今回が初で、次回は東京・目黒区の物件でさらに拡大する試みを展開する。
これまで長谷工グループでは、2014年よりマンションの木造化・木質化を進めており、マンションの共用部や共用棟で、すでにいくつかの施工実績がある。2020年に長谷工グループ入りした株式会社細田工務店の知見を活かしながらマンション住居部分の木造化にも範囲を広げ、今回、「ブランシエスタ浦安」で実現した。
「ブランシエスタ浦安」での木造住戸は全14戸。木を利用することで、①CO2を貯蔵することができ、大気中のCO2濃度の上昇を抑制できる、②RCと比較して製造時のCO2排出量を削減できる、③軽量で加工しやすい、④ぬくもりややすらぎを感じられるなど居住性・快適性が向上する、などのメリットがある。
今回、長谷工コーポレーション 設計部門 エンジニアリング事業部の執行役員 副事業部長の小島 俊司氏、建設部門 第一施工統括部上席所長の石川 裕視氏、細田工務店 工事2部上席所長の森田 浩史氏に話を聞いた。
長谷工物件初 専用部で木造導入
――最上階の部分で木造とのハイブリッド化が難しかった点はどこにありますか?
小島 俊司氏(以下、小島氏) 今年の4月に建築基準法が改正され階数に応じて要求される耐火性能が緩和されましたが、建物の最上層から数えて4層以内は改正前から1時間耐火の適用範囲になります。そのため、さまざまな技術が必要でした。
森田 浩史氏(以下、森田氏) 施工的にはRC造と木造とのつなぎ目が難しかったですね。具体的には、予めRC造の床及び壁に施したアンカーボルトで木材と緊結しました。長谷工コーポレーションが構造計算して、どれほどの力が必要かを決めた後、ボルトの径、位置決め、配置計画を出してもらい、最終的に両社でベストな構造を決めました。

最上階7階のハイブリッド構造の部屋
――外壁も木をあつらえたイメージですね。
小島氏 ええ。外壁も木造を意識して、約50%木材チップが使用されているサイディングとしています。7階の高さですと、木造で耐風圧の基準を取得できるものは少ないのですが、この工法は基準を満たしています。
意義の大きい細田工務店のグループ入り
――こうしてみると、本当に”木”を意識された賃貸マンションですね。
小島氏 脱炭素の流れは世界的で、長谷工としても木造を取れ入れようとしている中で、細田工務店がグループ入りした意義は大きく、それもあってこのマンションの最上階に木造を導入できたと考えています。
――細田工務店の技術を導入した点はどこにありますか。
小島氏 長谷工でも、木造の設計はできるのですが、実施工の経験はありませんでした。細田工務店が培ってきた技術や、木と木の接合についても森田さんから話を聞き、木造についての知見をアップデートすることができました。
――現在、長谷工と細田工務店は共同でWGを立ち上げられていますが、このマンションもテーマになりましたでしょうか。
小島氏 はい。長谷工では「木造推進委員会」を立ち上げて、設計や施工にかかわるWGを設置しています。このマンションもテーマになり、細田工務店もメンバーに加わり、技術的な課題も解決していきました。
目黒の現場ではより高いレベルの木造化に挑む
――長谷工のマンションの専用部に木造を導入した例は、「ブランシエスタ浦安」が第1号なのでしょうか。
小島氏 第1号です。次の展開については、国土交通省の「優良木造プロジェクト 2022採択プロジェクト(第Ⅲ期)」で、長谷工の「目黒区中央町一丁目計画 新築工事」が選ばれています。地上7階建ての共同住宅です。浦安は1層でしたが目黒では積層で木材を活用していきます。今回で得た知見を、次の目黒の現場で活かしていくつもりです。
木造は上下階の遮音性など、クリアしていかなければならない課題が多々あります。昨年、長谷工グループの研究・技術開発拠点である長谷工テクニカルセンター(東京都・多摩市)内の技術研究所に「音響実験棟」が完成しました。木造建築の課題である遮音性能に対して効率的な実証を行うとともに、あらゆる構造種別の建物の遮音性能検証や研究技術開発のさらなる強化を目的としています。こうした研究を積み重ねて、より高いレベルでの木造化に挑んでいきます。

最上階の廊下
――他社では、下をRC造、上層部には木造を導入された事例がありますが。
小島氏 他社では積層化も実現していますが、長谷工でもこれから展開するところです。RC造で区画をされていれば、その中を木造で建築することができるような建築基準法の改正も予定されているため、その点も視野に入れながら木造化・木質化を推進していきます。
木質マンションの工業化を視野

空から見た「ブランシエスタ浦安」
――最近、木造ではCLT材の導入も各所で図られていますが。
小島氏 今後、集合住宅でCLT材の採用を検討しています。先ほど紹介した「音響実験棟」でも、ブレースの代わりにCLT材を導入しています。構造用の補助部材として活用し、あらわしに使用しています。
――コスト削減のための具体的な取組みの内容は。
小島氏 現場ではプレカット材を導入してはいますが、すべて現地で組み立てているため、今後はある程度ユニット化・工業化をし、クレーンで搬入して組み立てる作業とするのが望ましいと考えています。通常のRC造のPCaは重いため、1台に載せられる量は限られますが、木造のユニットであればある程度は運べる利点もあり脱炭素にもつながります。コストが高いとマンションの木造化は普及していきませんから、コスト削減には引き続き取り組んでいく考えです。
――現在、長谷工での木を専門とした部署はあるのでしょうか。
小島氏 施工については、2022年4月に多様化する木造建築物のニーズに対応するため、「木造施工計画部」を新設し、設計については商品企画室が設計者のサポートをしています。プランニングはどの担当者であってもできますので、設計部門で木造専門部署の設置は現在のところ考えておりません。
技術部との連携で高精度の管理が実現

フィットネススタジオ
――今回、細田工務店側としては、この現場をどのように感じていますか?
森田氏 当社は戸建て住宅建築がメインであり、ゼネコンの長谷工と一緒に同じマンション棟で仕事をするケースは今回が初めてでしたが、ゼネコンの協力会社で職長をつとめられている方々はいずれも統率が取れていて、非常に驚きました。戸建て現場にはない組織スタイルから学ぶことはたくさんありました。また、20m以上の高所作業ですから、墜落・転落災害防止への配慮も勉強になりました。
――所長として苦労された点を教えてください。
石川 裕視氏 この工事のメインは、最上層部分のRC造と木造のハイブリッド構造にあります。つなぎ目の精度管理も難しく、アンカーボルトの本数も多く、床だけで約450本、壁で約250本あり、5mm以内に精度とレベルを保たなければなりませんでした。
もう竣工していますから、アンカーボルトは隠れて見えませんが、この点が一番苦労しました。私としては自身の最適解を提案しましたが、別の回答もあるかもしれません。現場はもちろん、内勤の技術部の社員にも協力してもらいましたので、滞りなく竣工できたことはよかったですね。

最上階から見る旧江戸川の風景はとても美しい
物件概要
名称 :ブランシエスタ浦安
所在地:千葉県浦安市当代島一丁目30番4
交通 :東京メトロ東西線「浦安」駅より徒歩7分
構造・規模:RC造 一部木造 地上7階建
戸数 :208戸
間取り・専有面積:1K/21.45㎡~22.16㎡、1DK/29.09㎡、2LDK/47.51㎡~59.83㎡
竣工 :2023年2月15日
事業主:株式会社長谷工コーポレーション、株式会社長谷工アネシス
設計・施工:株式会社長谷工コーポレーション
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