全国の国道を整備し、地域をつなぐ動脈として機能させる――。国土交通省の国道・技術課は、老朽化対策、災害復興、脱炭素化といった複雑な課題に、先端技術と自治体支援で立ち向かっている。
限られた予算と人材の中で、ドローンやAIを活用した効率化、建設業界との連携、そして現場のニーズに応えるカタログづくりを通じて、インフラの未来をどう築くのか。課長の西川昌宏さんへの取材を通じて、地域の経済を支え、災害に強い国土を形成する国道整備の最前線の動向を探った。
国道整備のミッション 地域の課題を技術でつなぐ
日本に張り巡らされた国道は、物流や経済を支える生命線だ。しかし、地域ごとに異なる気候、地形、人口規模が、整備や管理に複雑な課題を突きつける。山間部では豪雨による土砂崩れが頻発し、都市部では交通量の増加による舗装の劣化が問題となる。さらに、地方の小さな自治体では、専門技術者の不足がメンテナンスの遅れを招いている。
国土交通省の国道・技術課は、こうした多様なニーズを技術基準の策定や支援制度を通じてまとめ上げる役割を担う。特に力を入れるのは、老朽化した橋梁やトンネルのメンテナンスだ。高度経済成長期に建設されたインフラが一斉に耐用年数を迎える中、限られた予算でどう長寿命化を図るか。課のミッションは、単なる道路管理を超え、地域の安全と経済を支える基盤を未来につなぐことにある。
たとえば、人口1万人程度の小さな市町村では、橋梁点検を担う技術者が1~2人しかいない場合も珍しくない。こうした自治体に対し、国道・技術課は「メンテナンス補助制度」を通じて資金や技術サポートを提供する。ある中部地方の市町村では、補助金を活用して導入した高精度の点検機器により、作業時間が従来の半分に短縮。現場の担当者から「これで点検が追いつく。助かった」と感謝の声が寄せられた。このような成功事例は、国の支援が地域のインフラ維持にどれほど大きな役割を果たすかを物語る。
技術革新の最前線 ドローンとAIで効率化を加速
国道・技術課の仕事の柱の一つは、メンテナンスの効率化だ。近年、急速に進む技術革新がその鍵を握る。ドローンを使った橋梁点検は、足場を組む必要がないため、コストと時間を大幅に削減。AIによるひび割れ自動検知システムは、人の目では見落としがちな微細な劣化を高精度で発見する。こうした技術の導入は、技術者不足に悩む地方自治体にとって救世主となりつつある。
ある西日本の県では、点検ロボットを導入したことで、トンネル点検の作業負担が軽減された。従来は作業員が長時間かけて目視で確認していたが、ロボットはカメラとセンサーでデータを収集し、異常をリアルタイムで報告。点検の精度が向上しただけでなく、作業員の安全確保にもつながった。現場の技術者は「これ、めっちゃいい。作業が楽になった」と笑顔で語る。このような声は、技術導入の成功を象徴する。
脱炭素化も、同課が注力するテーマだ。道路舗装に使うアスファルトは、製造過程で大量のCO2を排出する。こうした課題に対し、再生アスファルトや低炭素素材の活用が広がっている。国道・技術課は、研究機関や民間企業が開発した環境配慮型の技術を「カタログ集」としてまとめ、現場が選びやすい環境を整備。ある東北地方の国道工事では、CO2排出量を20%削減した舗装材を採用。施工後の評価では、従来素材と同等の耐久性を確保しつつ、環境負荷を軽減できたという。
このカタログづくりは、単なる技術のリストアップではない。現場のニーズを丁寧に聞き取り、「こんな技術が欲しい」という声を反映する。たとえば、豪雪地帯では凍結防止剤による舗装の劣化が課題だが、カタログには耐塩害性の高い素材が優先的に掲載される。こうしたきめ細かな対応が、技術の実用化を加速させるカギだ。
災害復興と国土強靭化 道路が命をつなぐ
日本は災害大国だ。地震、台風、豪雨――毎年のようにどこかでインフラが試される。2024年の能登半島地震では、道路の寸断により物資が届かず、避難所での生活がさらに厳しいものとなった。国道・技術課は、県と連携し、発災から数日で仮設道路を整備。地元住民からは「これで食料が届く。ありがとう」との声が寄せられた。道路は、単なる移動手段ではなく、命をつなぐインフラなのだ。
災害復興は、国道・技術課のもう一つの柱である「国土強靭化」の核心だ。近年は、事前防災の重要性も高まっている。たとえば、地震による橋梁の崩落リスクを軽減するため、耐震補強工事が全国で進行中。ある関東地方の国道では、老朽化した橋梁にカーボンファイバー補強を施し、耐震性能を向上。工事完了後、自治体からは「これで安心して使える」との評価を得た。
国土強靭化の取り組みは、災害時だけでなく平時の経済にも影響を与える。物流の効率化や地域間のアクセス向上は、企業の立地や観光振興につながる。福岡県と山口県の間では、北九州市と下関市を結ぶ道路網の強化が計画中だ。このプロジェクトは、物流のボトルネック解消による経済効果が期待され、すでに都市計画の手続きが進められている。道路が地域の未来を切り開く――この信念が、事業の推進力となっている。
建設業界との連携 2024年問題を乗り越える
国道整備の現場を支えるのは、建設業界の技術者や作業員だ。ゼネコン、建設コンサルタント、地元の建設会社――多様なプレイヤーが関わり、複雑な工事を実現する。しかし、業界は「2024年問題」と呼ばれる働き方改革による労働時間制限に直面。工期がタイトになり、人手不足も深刻化している。ある現場の施工責任者は「若い技術者が入ってこない。経験豊富な職人も高齢化している」と嘆く。
国道・技術課は、こうした課題に対応するため、業界との連携を強化。効率的な施工法の提案や、新技術の導入を促進する。たとえば、プレキャスト工法(工場で製造したコンクリート部材を現場で組み立てる手法)は、工期短縮に効果的だ。ある中部の国道工事では、プレキャスト工法の採用により、従来の3分の2の期間で橋梁を完成。施工会社は「工期が短くなり、コストも抑えられた」と評価する。このような成功事例を全国に広げるのが、課の役割だ。
業界の声を政策に反映する取り組みも進む。建設資材の価格高騰が工事予算を圧迫する中、課は自治体と連携し、優先順位を明確化。ある工事では、資材価格の上昇で予算超過が懸念されたが、県と協議し、工事を段階的に進めることで対応した。こうした柔軟な調整が、現場の信頼を築く。
予算と人材の壁 持続可能なインフラへの挑戦
技術導入や災害復興には、大きな課題が伴う。最大のハードルは、予算と人材の不足だ。インフラ整備には巨額の資金が必要だが、国の財政は厳しく、優先順位の設定が欠かせない。国道・技術課は、どの道路にどれだけの投資が必要かを精査し、説得力のある説明で予算を確保する。ある課の担当者は「資材高騰で予算が足りなくなるたび、頭を抱える。でも、現場のニーズを無視できない」と語る。
人材不足も深刻だ。特に地方自治体では、技術者の高齢化が進み、若手の採用が追いつかない。国道・技術課は、研修プログラムや技術マニュアルの提供でサポート。ある九州の市町村では、課が主催した橋梁点検の研修を受けた若手職員が、新技術を活用して効率的な点検を実施。「初めてでも分かりやすかった」との声が上がった。
技術導入にも課題がある。新しい機器やシステムは、使いこなせなければ宝の持ち腐れだ。ある自治体では、導入した点検ドローンが操作の難しさから放置されたケースがあった。こうした失敗を防ぐため、課は研修やマニュアル整備に力を入れる。現場の声を反映したサポートが、技術の実用化を支える。
地域の未来を切り開く 道路の先に広がる可能性
西川 昌宏氏
「道路はただのインフラじゃない。地域の未来を切り開くもの」。この信念が、国道・技術課の原動力だ。先にも触れた下関北九州道路プロジェクトは、その象徴だ。地域が活性化し、人が集まり、物が動く――道路がもたらす可能性は無限だ。
災害時のエピソードも、道路の価値を浮き彫りにする。能登半島地震の復興では、急ぎ道路啓開した道路や応急復旧した道路が地元住民の命をつないだ。ある高齢の住民は、物資を運ぶトラックを見て「これで食料が届く」と涙ながらに感謝したという。こうした瞬間が、インフラ整備の意義を再確認させる。
技術と人間の力で築くインフラの新時代
国道・技術課の挑戦は、技術と人間の力を結集したものだ。ドローンやAIといった先端技術は、効率化と環境負荷の軽減を実現。建設業界や自治体との連携は、現場の課題を解決する。カタログ作りや研修といった地味な取り組みが、技術の実用化を支える。そして、災害復興や地域活性化を通じて、道路が人々の生活に直接貢献する。
成果は、現場の声に表れる。ある技術者は、導入したセンサー技術で橋梁の点検が効率化したことを喜び、「これで安心して仕事ができる」と語る。別の現場では、新工法で工期を短縮した施工会社が「次もこの方法でやりたい」と意気込む。こうした小さな成功の積み重ねが、インフラの新時代を築く。
この仕事の魅力は、地域を支えているという実感
国道整備の現場は、厳しい環境も少なくない。しかし、技術の進化と効率化の取り組みにより、働きやすい環境が広がりつつある。「この仕事の魅力は、地域を支えているという実感。道路がつながれば、物流が動き、企業が集まり、地域が元気になる。それを自分の手で作れるのは、大きなやりがいだ」。
課題を一つ一つ解決し、地域の未来を切り開く――国道・技術課の挑戦は、技術革新と地域への思いが交錯する物語だ。インフラの未来を支えるこの取り組みは、日本全体の持続可能な発展につながるだろう。