「KENTEM Global Academy」内の動画コンテンツの一例(重機周辺の注意事項)

「KENTEM Global Academy」内の動画コンテンツの一例(重機周辺の注意事項)

ソフトウェアの雄 “KENTEM”が、なぜ外国人技術者を育てるのか? 老舗ITベンダーが「教育事業」に本気で挑む理由

日本の社会インフラを支える建設業界が、深刻な危機に瀕している。国内では、就業者の3人に1人以上が55歳以上という極端な高齢化が進行し、熟練技術者が次々と現場を去る一方、若者の入職は伸び悩んでいる。このままでは、日本の建設技術そのものの継承が危ぶまれる事態だ。

その解決策として期待されるのが外国人材の活用だが、ここにも大きな壁が立ちはだかる。現場で作業を担う「技能者」は増えても、工事全体を管理・指揮する「技術者」が増えていないのだ。今年、日建連が発表した『建設業の長期ビジョン2.0』においても、「外国人技術者の確保」の重要性が示されたが、そこには体系的な教育プログラムの欠如や文化や習慣の違いによるコミュニケーション不全といった、受け入れ企業側の根深い悩みが立ちはだかる。

この構造的な課題に、全く新しい角度から解決策を提示する企業がある。建設テック界のトップシェアベンダーである株式会社建設システム(KENTEM)だ。主力製品である施工管理ソフト「デキスパート」シリーズや、現場の必需品となった電子小黒板対応アプリ「SiteBox」などを通じて、建設業界のDXを牽引してきた彼らが、次なる一手として世に送り出すのは、ソフトウェアだけでなく「人」にもフォーカスした外国人技術者育成プログラム「KENTEM Global Academy」だ。

ソフトウェアの雄が、なぜ「人」を育てるのか。プロジェクトを率いた新規事業部 e-ラーニンググローバル推進課 課長の小林大介さんと、開発に携わった同課の岡嵜華妃さんに伺った。

開発の原点は「現場の悲鳴」

「これまで、当社ではさまざまなツールで効率化を推進してきましたが、いくらツールで効率化しても、この業界は『人』が主役です」。小林さんは、開発の原点をそう振り返る。

きっかけは、全国の顧客から寄せられるようになった声だった。「当社の製品のサポート部門や営業部を通して、『外国人材を見る機会が増えた』といった外国人材に関する問い合わせが日に日に多く寄せられるようになったんです」。

その声に突き動かされ、小林さんは北海道から九州まで、すでに外国人技術者を雇用するユーザー企業への徹底的なヒアリングを開始した。そこで目の当たりにしたのは、「教育は完全に手探り状態」という厳しい現実だった。熱心な企業では、独自に現場用語のリストを作成するなどの努力も見られたが、担当者一人の奮闘に依存しており、「正直、限界を感じる」という声も少なくなかった。

日本語の壁はもちろん、日本の現場特有の「常識」が伝わらないことへの不安。この根深い課題を、長年培ってきた建設業界のノウハウとITの力で体系的に解決できないか。

「それはビジネスチャンスであると同時に、業界に対する我々の責務だと感じたのです」

株式会社建設システム 新規事業部 e-ラーニンググローバル推進課 課長の小林大介さん

言葉の壁を超える「3D動画」

「KENTEM Global Academy」が目指すのは、単なる知識の詰め込みではない。言葉や文化の壁を越え、日本の建設現場で働く上で不可欠な「安全」と「常識」を、いかにして直感的に理解してもらうか。その一点に、開発チームの知恵とこだわりが凝縮されている。

コンテンツの中で最も大きな比重を占めるのが、9つの単元に及ぶ「安全教育」だ。小林さんは、その表現方法において「実写ではなく3D動画を用いること」に徹底的にこだわったと語る。

「言葉が完全には通じない状況で、最も重要なのは『見て危険を察知できる』ことだと考えました。たとえば、重機を運転している人の死角がどうなっているか。これを実写で撮影しようとすると、背景に様々な情報が映り込み、本当に伝えたいポイントがぼやけてしまう。3Dであれば、現場全体を俯瞰する視点から、『ここに立っている人は、運転席からはまったく見えていないんだよ』という事実を、誰の目にも明らかに示すことができます」


動画コンテンツの一例(重機周辺の注意事項)

用語学習も、基礎的な専門用語は網羅されているが、ただ言葉を暗記させるだけではない。とくに意識したのが、現場で命を守るための緊急用語だ。

「『危ない!』『近づくな!』『逃げろ!』こうした言葉は、建設用語集には載っていません。しかし、現場では咄嗟に、大声で発せられます。その短い言葉が、生死を分けることもあります」

動画はすべて日本語音声に、日本語と英語の字幕を併記。1本の動画は学習者の集中力が途切れないよう10分以内にまとめられている。さらに、視聴後には理解度を確実に定着させるため、300問以上にも及ぶ確認テストが用意されている。知識の定着を徹底的にサポートする設計だ。

専門用語の単語帳

さらに、コンテンツにはこれらの安全教育に加え、現場で即戦力として活躍してもらうための実務教育も充実させた。

外国人技術者が入社後に最初に任される仕事は、現場写真の撮影・管理であることが非常に多いという。そこで、KENTEMの主力製品である電子小黒板対応アプリ「SiteBox」の操作方法を、独立したコンテンツとして組み込んだ。これは業界トップシェアベンダーであるKENTEMだからこそ提供できる、即戦力化への最短ルートだ。

SiteBoxの操作マニュアル

開発に携わった岡嵜華妃さんは、その内容について「単なる操作マニュアルではない」と強調する。

「『なぜこのボタンを押すのか』『この操作がどの工程に繋がるのか』といった背景まで、日本人向け以上に細かく噛み砕いて解説することを意識しました」

ただ「できる」ようになるのではなく、「理解して」使えるようになること。それが、技術者としての成長の第一歩となるからだ。これにより、入社初日からスムーズに業務に入ることができ、本人と受け入れ企業の双方の負担を軽減する。

株式会社建設システム 新規事業部 e-ラーニンググローバル推進課 岡嵜華妃さん

採用から教育までを一気通貫のパッケージ化

しかし、どれほど優れた教育プログラムがあったとしても、そもそも外国人材を採用できなければ、宝の持ち腐れになってしまう。「外国人材を雇いたいが、採用までの手続きや仕組みが分からず、思うように雇えない」という声も多かった。

この「採用」という課題に関しても、KENTEM Global Academyは一挙に解決する。教育コンテンツを人材紹介・派遣そのものとパッケージ化し、「来日前の現地教育」を実現するというスキームを構築したのである(本スキームは特許出願中)。これこそが、KENTEM Global Academyの最大の特徴であり、事業の核心だ。

同スキームでは、外国人材採用の専門ノウハウを持つ3社と連携。各社ともミャンマーで日本語学校を運営しており、ミャンマーの優秀な大学を卒業した人材に対して日本語教育を行うほか、母集団形成や選考・採用など、来日までの業務を一貫して行う。これにより、企業の外国人材の採用ハードルを劇的に下げる。そして、来日まで4~6ヶ月ほど掛かる手続き期間のうちに、e-ラーニングを通した教育も並行して行っていくのだ。

通常、外国人材は来日直後、日本の生活への適応と並行して、ゼロから安全教育や専門用語を学ばなければならない。受け入れ企業側としても、採用と教育の両軸で体制を整えなければならない負担は非常に大きかった。だが、このスキームであれば、技術者はすでに「日本の現場の常識」と「KENTEMツールの使い方」の基礎をインプットした状態で日本にやって来る。

小林氏は、「教育」と「採用」を包括的に進めていくメリットをこう強調する。

「日本へ来る前に、e-ラーニングを通して建設現場で不可欠な基礎知識やSiteBoxなどのツールの使い方を学んでもらう。これにより、受け入れる企業様は、採用から入社後の教育コストまで大幅に削減できるのです」

「KENTEM Global Academy」は単にeラーニングシステムを提供するのではなく、人材の「入口」から「即戦力化」までのプロセス全体をデザインし直したのだ。

「KENTEM Global Academy」の詳細はこちら

建設業界のあらゆる課題解決の『ハブ』になりたい

前例のない事業だけに、その道のりは平坦ではなかった。もともと開発者だった小林さんの熱意ある提案に、代表は「面白いじゃないか」と背中を押したものの、「”外国人材の雇用+教育”というスキームがイメージしづらく、周りに理解してもらうのに時間がかかったという。

しかし、「街を歩けば外国の方がたくさん働いている。日本もいずれ多様な人々がともに働く国になる。そのとき、最も危険が伴う建設業界で、言葉が通じないせいで事故が起きるようなことがあってはならない」。その社会的意義を、粘り強く訴え続けた。

そんな情熱に惹かれるように、新たな仲間も加わった。「私は、この新規事業の立ち上げを知って入社したんです」と岡嵜さんは語る。「海外から日本に来て、言葉も文化もわからず不安を抱えている方々が、このサービスがあることで少しでも安心して働けるようになり、技術者として成長していける。そんな未来の実現に貢献できることに、大きなやりがいを感じています」

10月6日にリリースされ、すでに多くの企業から問い合わせが寄せられており、業界の関心の高さがうかがえる。

「将来的には、現在の土木初級編コンテンツに加え、CAD操作や測量、建築分野といった、より専門的な内容へも拡張していきたい」と小林氏は今後の展望を語る。

「私たちが最終的に目指すのは、全国に広がる当社の営業・サポート網を活かし、建設業界に関するあらゆる課題解決の『ハブ』となる存在です。ソフトウェアも、人材も、トータルで現場を支えられる。そんな唯一無二のパートナーになることが私たちの目標です」


「自分がやりたいと提案したことなので、きついと感じる暇もなかった」と小林氏は笑顔で語った。その言葉の裏には、前例のない事業を形にするまでの、計り知れない情熱と努力が滲んでいた。

KENTEMの新たな挑戦は、日本の建設業界が抱える構造的な課題を解決し、持続可能な未来を築くための、大きな一歩となるに違いない。

「KENTEM Global Academy」の詳細はこちら

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