土木学会・日本建築学会の記者会見のもよう(右から2番目が池内会長、3番目が小野田会長)

土木学会・日本建築学会の記者会見のもよう(右から2番目が池内会長、3番目が小野田会長)

「土木と建築の境目はなくなる」土木学会と日本建築学会が脱炭素実現へシンポ開催

土木学会(池内幸司会長)と日本建築学会(小野田泰明会長)は12月3日、都内で第4回合同シンポジウム「土木・建築の連携-脱炭素社会の実現に向けて」を開催した。

同シンポジウムでは、「アンケート」「社会価値」「構造設計基本」「災害連携」「脱炭素」「DX」という6つのワーキンググループ(WG)からの活動報告が行われた。続いて、池内会長から会長特別プロジェクト「カーボンニュートラルでレジリエントな社会づくりプロジェクト」、小野田会長から「脱炭素に関する日本建築学会の取り組みについて」と題し、脱炭素に関する両学会の連携の方向性と期待についての報告があった。これらの報告を踏まえ、土木・建築分野での脱炭素社会実現に向けた、さらなる連携活動について議論が交わされた。

両学会は、2021年11月に協力に関する覚書(MOU)に署名・交換を行っている。その後、合同タスクフォース(TF)のもと共通テーマのWGを立ち上げ、連携活動を継続してきた。シンポジウム終了後の記者会見で両学会長がそれぞれの想いを語り、小野田会長は「建築と土木は独自の文化を持ちながら社会の中では共通する部分も多い。ここ数年で少子高齢化が現実のものとなる中で激甚災害も増えている。我々が知恵を出して、将来に向けて社会に価値を提示する責務を果たしていかなければならない。ここ数年間、共通言語のすり合わせをし、いよいよ本格的に社会を力強くけん引していく段階にきた」と語った。

池内会長は、「少子高齢化、人口減少、気候変動対策、災害への対応、カーボンニュートラル、DXなどの共通した課題が我々に差し迫っている。これは土木と建築が一緒になっていかないと解けない課題だが、土木と建築の境目はどんどんなくなってきている。両学会がシームレスに連携し社会課題を解決し、災害に強く持続可能で豊かな社会の実現のためにつとめていきたい」と述べた。

※土木・建築タスクフォースの取組み:土木学会日本建築学会

土木・建築系ともに7割が「ストレスを感じている」

シンポジウムでは冒頭、楠浩一氏(土木・建築TF委員長、東京大学教授)は、「社会から見ると両学会が担う社会的使命や共通する事項は多岐にわたる。そこで連携を深化させ、あらゆる局面で手を取り合い、活動していくべきとの覚書が交わされ、両学会がともに活動を続けてきた。今回は両学会がブリッジして共通のテーマでのシンポジウムの開催に至った。各WG活動のもと、両学会の連携を図り、活動を展開し、さらなる両学会の連携の深化を図っていきたい」と挨拶した。

挨拶する楠浩一氏(土木・建築TF委員長、東京大学教授)

続いて、各WG活動の報告が行われた。まずアンケートWGでは、中村光氏(アンケートWG委員、名古屋大学教授)が報告に立った。アンケート回答者の総数は3,992名(うち女性532名)で、今回は「働き方や社会からの評価に関する意識」の分析結果が紹介された。

「仕事や研究を遂行するにあたって、安全性、経済性の確保、法令遵守、期限順守など高い倫理観が求められることにより、現在の状況にストレスを感じています?」との問いに対しては、全体で「強いストレスを感じる」が18%、「ややストレスを感じる」が52%という結果となった。土木系・建築系での感じ方の割合はほぼ同じであり、約7割がストレスを感じている現状が明らかになった。

「どうしたらストレスが軽減できると思いますか?」との問いには、50代までの現役世代は、「仕事量を減らす」「適切な工期設定」「業務量を適正にする」「労働環境を改善する」といった回答が、10~20代では「労働時間の制限、長時間労働の是正」、「休日、休暇日数を増やす」の回答が目立った。建設業、コンサル、建築設計事務所においては、「適切な工期設定」を求める声が高かった。

「建設業全体に対して、担い手、働き手の待遇は適正だと思いますか?」との問いでは、全体回答で「適正ではない」が59%に達し、「適正である」はわずか10%に留まった。「待遇は、どのような改善がなされるべきだと思いますか?」との問いでは、多くの世代にわたり約7割が「給与水準の向上」と回答したが、年齢が上がるにつれて、労働環境の安全性や快適性の向上を求める割合も高くなった。

現在、アンケートWGでは土木・建築以外からの意見収集や、海外の技術者からの意見調査、各WGのトピックスに関する意見調査の実施を検討している。

次に社会価値WGでは、勝見武氏(主査、京都大学教授)が報告した。両学会の連携に関して議論を深める材料として、ベン図を作成し今回公表した。

勝見主査は、「連携の可能性について、このベン図をもとに検討を行っているところだ」と説明した。


⼟⽊・建築構造物の構造設計の「共通原則」作成へ

構造設計基本WGについては、横田弘氏(主査、北海道大学名誉教授)が報告した。同WGは、構造物の形態、形式、材料などによらない共通的な構造設計の規範の作成を目的に活動しており、現在、「(仮称)⼟⽊・建築構造物の構造設計の共通原則」の作成を目指している。

まず、土木学会は従来から各委員会で標準示方書を作成してきたが、同示方書の共通化を図る目的で、示方書連絡会議を設置し、その成果として、2024年3月に「2023年制定 ⼟⽊構造物共通示方書」を発刊した。このほか、将来的な構造設計の予想も加味して、共通原則の原案を作成。この原案をベースに日本建築学会が検討し,原案の修正などを提案する。その後、同WGで議論を深めた後に成案とする方針だ。

「将来的には,JISなどの国家規格としての位置づけを目指していきたい。引き続き議論を継続し、⼟⽊と建築の共通点と異なる点を双方が十分理解して共通化の可能性を探り、具体的な文案作成を本格的に進める」(横田主査)

構造設計基本WGの横田弘主査(北海道大学名誉教授)

災害連携WGについては、小野祐輔氏(主査、鳥取大学教授)が報告を行った。同WGの活動として、第1期では「土砂・水害も含む建物被災調査のマニュアル」を作成し、日本建築学会のHP上に公開した。2023年度から活動は第2期に入り、日本から海外、海外から日本への調査対応・調整、国際貢献の推進、複合災害への対応、能登半島地震被災地での支援などを展開中だ。

活動のポイントは、連携の具体的内容や連携を実現する仕組みの検討、災害発生直後の調査での連携、復旧・復興支援の連携、突発的な自然災害発生への備え、そして複合災害への対応にある。課題として、両学会以外の学会との連携の必要性も示唆された。また、最近のトピックスとして、日本建築学会の構造・環境工学・建築計画委員会、マルチハザードに対応可能な耐複合災害建築小委員会が主催し、土木・建築TFが後援するシンポジウム「2024年能登半島地震・豪雨による複合災害と対策への教訓」が開催予定であることも紹介された。

シンポジウムのもよう

脱炭素WGの活動については、松本亨氏(主査、北九州市立大学教授)が紹介した。 両学会に共通する課題として、「材料の脱炭素化」、また「ホールライフカーボン(WLC)マネジメント」におけるライフサイクル評価手法や原単位の整備の必要性が指摘された。削減努力を適切に評価(EPD)するための基準値の明確化や共通化、需要サイドの取組みや実効性を担保する仕組みについても言及があった。さらに、環境・経済・社会評価の統合化の必要性のほか、「オペレーショナルカーボンの削減」においては、「負荷削減×効率向上×エネルギーの脱炭素化」の3点が必要であり、具体的に何ができるかについての議論が及んだ。

脱炭素WGの松本亨主査(北九州市立大学教授)

「連携効果が期待される分野」としては、街区・都市レベルのエリアマネジメントが挙げられた。具体的には、インフラと建築物の連携、民生部門(住宅、事業所)と交通の連携のほか、民生熱需要の脱炭素化が提起された。また、建設業界とそれ以外のセクターカップリング(部門間連携)による脱炭素対策のスタンスも肝要であるとの指摘もあった。

空港・鉄道で進むBIM/CIM連携

続いてDXWGでは、蒔苗耕司氏(主査、宮城大学教授)が説明した。DXWGは土木・建築連携のための共通情報基盤の形成を目指している。DXの土木・建築の連携項目では、①建設生産・維持管理プロセスのDXの活用・連携、②DXによるインフラ・建築のスマート化、③ICT/DX人材育成での連携の3点が示された。

これまでに報告書『建設DXによる真の生産性向上の実現』を取りまとめており、とくに土木・建築が重なる施設を対象にBIM/CIM連携を中心に議論しているが、2024年度は鉄道施設、2025年度は空港を対象とした。また、生成AIの活用に関する議論も開始している。

このほか建設DXの実現に向けて、両学会を中心に産官学が連携して取り組むべき課題として、①生産性の高い働き方の実現に向けたワークフローの再構築、②BIM/CIM適用の拡大に向けた標準化とデジタライゼーション、③都市全体のデジタルデータ化とBIM/CIMデータの活用。④建設分野におけるICT/DX教育の充実化と人材育成の4つの視点をまとめられた。

DX-WGの目指すこと

2025年度の活動では、日本建築学会・土木学会は11月21日、東京港区の建築会館ホールにてBIM×CIMシンポジウム「建築と土木がオーバーラップする空港施設を例として」を開催した。シンポジウムでは、建築・土木両分野に跨る施設を扱う「空港」に着目し、行政・空港会社・設計会社・建設会社を交えた講演・事例紹介を通じて、BIM/CIM技術の動向や課題を共有した上で、課題解決の方向性について議論した。今後の活動方針として、2026年度は土木情報学シンポジウムを予定している。


建築と土木の「大同団結」で国難に挑む

休憩を挟み、池内会長から会長特別プロジェクト「カーボンニュートラルでレジリエントな社会づくりプロジェクト」の説明があった。要旨は以下の通り。

「この10年間では雨の降り方のステージが変わってきた。カーボンニュートラルについて約1年前から各事業主体にヒアリングを実施してきたが、個別の取組みは熱心であっても、横のつながりがなく、全体を俯瞰する形になっていないのが現状だ。カーボンニュートラルの取組みの中でも、災害時のレジリエンス強化について発信していきたい。そして次に、現場で課題となっている足かせを解いていきたい」

土木学会の池内幸司会長

また、官民連携で総合的で分野横断的にカーボンニュートラルの実現を目指す「矢作川・豊川CN(カーボンニュートラル)プロジェクト」を紹介し、「市町村単位で解けなかった課題がお互いに連携することで解けていくようになるため、流域単位で考えてはどうか」と提示した。

矢作川・豊川CNプロジェクトのパンフレット

池内会長はさらに、「次世代の人材はカーボンニュートラルの取組みに熱心だ。土木の魅力を発信する上でも、カーボンニュートラルを世に出していくことが重要だ」と強調した。

続いて小野田会長が「脱炭素に関する日本建築学会の取り組みについて」をテーマに語った。 同学会では2021年1月に「気候非常事態宣言」を発出し、組織を挙げてこの問題に取り組んでいる。論点として、①地球環境全体、②脱炭素の取り組み、③気候災害、の3点が示された。地球環境全体について建築面でどのように考えるかは重要な項目であり、これまでアクションプログラムを検討してきた。

日本建築学会の小野田泰明会長

日本建築学会では、「脱炭素都市・建築推進特別調査委員会」(大岡龍三委員長、東京大学教授)を設置し活動しているが、同委員会は2026年3月で発展的解消し、元日本建築学会長の田辺新一早稲田大学教授を委員長とする新たな特別調査委員会を立ち上げると表明した。 小野田会長は、シンポジウム後の記者会見にて、この特別委員会について触れ、「社会ニーズが最もあるところに人的資源を投入していく。脱炭素は非常に広範な分野であるため、田辺委員長の下でシームレスに物事を共有し、課題を解決していきたい」と語った。

また、建築五会(日本建築士会連合会、日本建築士事務所協会連合会、日本建築家協会、日本建設業連合会、日本建築学会)は、脱炭素建築モデルづくりのタスクフォースを組織し、モデルを作成中だ。災害の激甚化については建築分野でも真剣に受け止める必要があると強調し、精査な整備を展開している。このほか、都市計画・土木・地盤工学・火山噴火などの研究者と連携したマルチハザードに対応可能な耐複合災害建築に関する調査研究活動を推進するため、「マルチハザードに対応可能な耐複合災害建築小委員会」(久田嘉章主査、工学院大学教授)により整備を進める。

小野田会長は最後に「建築系も土木を学ばなければならないが、一方で土木系の方にも建築を学んでほしいと願っている。公共工事と公共発注が中心の土木分野と、民業が中心となる建築では温度差はあるが、人口減少が続いていく中で、戦略的に土木と建築が手を携えて脱炭素の実現に向けた活動を行うことは重要だと認識している」とまとめた。

シンポジウムの最後では、日本建築学会の「脱炭素都市・建築推進特別調査委員会」活動報告について大岡委員長が報告した。活動内容は、建築学や関連分野総体の学術的知見を根拠とした政策決定への助言、社会や産業に対する行動規範の根拠となる知見の提供など、社会と積極的に関わる調査研究活動の推進を図ることを目的としている。

現在の活動としては、建設から廃棄までのホールカーボンでのLCA評価手法についての提案、LCA評価の事例集の作成、市民を含めた脱炭素に関するステークホルダー巻き込みのための方法論の整理、脱炭素都市・建築推進のための政策課題、総合研究協議会の開催などを実施している。なお、2025年度日本建築学会大会(九州)では「脱炭素を実現するための日本建築学会の課題」をテーマとした総合研究協議会を開催している。

2025年度日本建築学会大会(九州)での「脱炭素を実現するための日本建築学会の課題」をテーマとした総合研究協議会

最後に、両学会長がシンポジウムの感想を語った。 池内会長は、「各WGの話を聞いていて、両学会で共通することは多いと改めて感じた。各々文化が異なる点はあるが、大同団結して、連携すべきところはより強く連携していきたい。BIM/CIMについては、建築と土木に分けること自体がナンセンスだ。TFの先生方は大変かと思うが、引き続き活動をお願いしたい」と述べた。

小野田会長は、「多岐にわたる項目でともに活動するためには、やるべきことが数多くあり、各WGを所掌される先生方が高い理念を持って活動されている。 最近、建設系7学会(空気調和・衛生工学会、地盤工学会、土木学会、日本造園学会、日本都市計画学会、日本コンクリート学会、日本建築学会)で議論したことがある。人口が本格的に減少していく中で国土を維持する役割として、インフラに携わる専門家は重要だ。これからどのようにして国土を支えていくのか。この点こそが、社会から各学会に対して期待されていることなのだと思う」と述べた。

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