深夜タクシー運転手「10時まで寝かせてくれ!」 建設現場の『朝8時開始』は賠償の対象になるか?

深夜タクシー運転手「10時まで寝かせてくれ!」 建設現場の『朝8時開始』は賠償の対象になるか?

深夜タクシー運転手の『安眠』vs 建設現場の『朝8時開始』

本件は、睡眠時間が午前2~3時から10時頃までの深夜タクシー運転手が午前8時に始まる工事の騒音について損害賠償を求めた珍しい裁判です。

果たして、その訴えは容認されるのでしょうか?概要は以下の通りです。

Xは、Y所有の賃貸アパートに居住し、深夜タクシー運転手として営業していました。日々の生活リズムは、午後7時から午前2時頃まで個人タクシーの営業をして、午前2~3時頃から午前10時頃まで睡眠をとるというものでした。

ところが、Xが居住するアパートに隣接する、同じくY所有の別のアパートが平成7年4月17日から解体され、その跡地に建設会社Y2によるマンション建設工事が開始されました。

工事現場とXの居室との距離は50センチメートル程度でした。さらに工事は朝8時から始まりました。その結果、Xは騒音のために睡眠不足になり、仕事ができない日が増えたことで、売上げが減少することになりました。

「工事開始が午前8時」は常軌を逸しているか?

Xは工事開始8日目の4月24日、内容証明郵便でY2に要望書を出しました。その内容は、

  1. 騒音防止対策をとること。
  2. 工事開始時間を午前10時からとすること。
  3. 代替住居を提供すること。
  4. 金銭による補償。

です。

これに対し、Y2は5月11日付けで次のように回答しました。

  1. 二重の防音シートを設置する。
  2. 工事時間は社会通念上午前8時に開始されるので変更には応じられない。
  3. 2階の201号室を代替住居として提供し、引越費用はY2において負担する。

この措置を実施するので金銭による補償は考えていない旨を回答し、防音シートを設置しました。

しかしXは、5月16日付けで再び内容証明郵便を送付し、「防音シートは1枚だけで効果がなく、工事開始時間が午前8時とは常軌を逸している」と指摘し、次の通り通告しました。

  1. 1日1万円の慰謝料を請求する。
  2. 1日1万円のタクシー営業補償を請求する。
  3. 要望が達成されない場合にはアパートの家賃を供託し、訴訟判決時に賃料債権と損害賠償債権とを相殺する。
  4. 要望が達成されない場合には工事差止めと慰謝料及び営業補償を求める民事訴訟を提起する。

その後、Y2はXに対し、代替アパートの提供を申し出ましたが、Xは営業車の駐車場から遠いとこれを拒絶しました。

そして、Xは10月20日、東京地方裁判所に本件工事の時間変更と慰謝料の支払いを求める仮処分を申請しました。手続の中で、「Y2はXに対し代替アパートを提供する」という和解が成立しました。

その後、XはY、Y2の提訴に踏み切りました。請求額の内訳は、慰謝料、営業補償を合わせて1日2万円、工事が開始された4月17日から代替アパートに入居した11月28日までの226日間の合計452万円。被害を立証するためのビデオカメラのフィルム代6万4,550円。弁護士費用80万円。総額で538万4,550円にのぼりました。

都条例ではタイプライターの音でも”騒音”に

対するY、Y2は、本件工事の騒音は受忍限度の範囲内であると主張しました。

まず、作業時間は午前8時から午後6時30分であるものの、音の出る工事は午前9時から午後5時までとしていること、その上で近隣に深夜就業者が居住していることは作業時間変更の理由にはならないと反論しました。

また、東京都公害防止条例は45ないし50デシベルの騒音を発生させることを禁止していますが、都条例に従えばタイプライターの音でさえ条例違反ということになり現実的ではないと訴えました。

【判決】個人の事情か、工事の正当性か

裁判所は、Xが深夜業に従事しており、本件工事により午前8時以降、相当程度の睡眠妨害を受けていたものと認めるのが相当であると判断しました。一方で、Xの睡眠が妨害されるのは、X自身が深夜業への従事を選択したためであり、被害の発生はX側の事情による部分があることは否定できないと指摘しました。

これらの諸点を総合すると、工事が開始された4月17日からXが代替アパート入居が可能となった6月12日までの56日間にわたり、工事が行われた日の2時間程度、睡眠妨害の被害を受けていたものというべきである、と認定されました。これに基づき、本件におけるXの慰謝料の額は30万円、弁護士費用の額は3万円、フィルム代は2万円とするのが相当であると評価されました。

以上のことから、Xの本訴請求は、Y2に対し慰謝料30万円及び弁護士費用等5万円の合計35万円の支払を求める限度で理由があると認められました。

判決

  • YらはXに対して計35万円支払うこと
  • Yらは訴訟費用の1/15を負担すること(平成9年11月18日 東京地裁)

結果としてXの勝訴となりました。しかし、請求金額は538万4,550円から35万円と約15分の1に減額され、訴訟費用も14/15がXの負担とされています。慰謝料が30万円と評価された事情としては、56日間、2時間程度の睡眠妨害を受けたことを認定して算出されたそうです。

この判決の控訴はなく、確定していますのでXはそれ以上追求しなかったと思われます。引っ越したことにより安眠を取り戻せて判決金額に納得できたことを祈るばかりです。

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