株式会社永賢組(本社:愛知県春日井市、永草孝憲社長、前期グループ売上103億、今期売上180億予測 来期グループ300億目標)は、米国シアトルのマイクロソフト本社を訪問。AI Agent GTM部門の上原正太郎氏と意見を交わし、最先端のAI技術やグローバルなDX事例を視察した。
この米国での実体験で得た知見を糧に、同社は現場起点の建設DXをさらに加速させる。イノベーション推進と人材育成の新たな展開に取り組み、コーポレート機能(総務・経営管理・広報・採用など)のAI化による業務効率化を進めている。
また、後継者不在の企業をM&Aで支援し、人・モノ・情報を一元管理することで、グループ全体が効率的に連携し、共に成長できる体制を目指す。永草社長は将来的に米国へ拠点を設け、AI人材の採用やスタートアップ創出を視野に、日米の事業を融合させた新業態の構想を描いている。
一方、同社の九州拠点である「九州永賢組」は、地域の建築一式工事を担いつつ、新規開拓や組織づくりに果敢に挑戦中だ。2期目に入った今期は約60億円の受注高を確保し、将来的には売上高100億円を目指す急成長を見せている。
今回、AI・DXに挑む永賢組の永草孝憲社長と、九州永賢組所長の藤崎文紀氏に話を聞いた。
AIで挑む建設DXと事業承継
――まず、アメリカでのAI・DX体験の経緯から教えてください。
永草孝憲社長(以下、永草社長) もともと当社の伊藤信博顧問(前日本マイクロソフト株式会社業務執行役員)が社内で月2回ほど建設DX勉強会を開催しており、以前からDXの機運は高まっていました。伊藤顧問の培った生成AIの知見を活かし、建設業でどう効果的に導入するかを検討しています。具体的には、優秀な現場監督の動きをデータ化してAIに学習させ、将来的には無人でも現場が回るような仕組みづくりを進めています。今回、伊藤顧問のご縁でマイクロソフト本社に伺い、あわせてシアトルとサンフランシスコのスタートアップ企業も訪問してきました。
株式会社永賢組の永草孝憲社長
――マイクロソフト本社ではどのような活動を?
永草社長 当社のプレゼンテーションを行うとともに、現場監督や交通誘導員のAI化について意見交換を実施しました。現場監督の高齢化が進む中、生産性向上は待ったなしの課題です。すべては難しくても、書類作成など全体の30~40%をAI化し、現場監督が本来の現場業務に集中できる環境を整えたいと考えています。
また、現在の建設業界における大きな課題は「経営者の後継者不在」です。売上高10億円未満の企業の中には、黒字でも廃業を余儀なくされるケースがあります。とくに地方の小規模事業者では、社長が現場監督から営業、管理部長まですべてを兼務する多忙なプレイング・マネージャーであることも多く、その苦労を親族に承継させるのを躊躇するのも無理はありません。
そこで、社長の作業負担を軽減するために「本社機能のAI化」を考えています。社長が現場に専念したいのであれば、営業や総務などのバックオフィス機能は永賢組本社が代行・サポートする。これにより社長に余裕が生まれ、会社の存続が可能になります。マイクロソフト社には、こうした機能提供の実現可能性についても相談しました。個々の会社は大変でも、グループ全体で人材や機能をシェアすれば、建設業は存続できると確信しています。
米MS本社でのプレゼンテーション
――その「本社機能のAI化」について、具体的なイメージを教えてください。
永草社長 建設業は属人的な業務が多く、当社でも「Aさんに聞かなければ分からない」という状況もあります。その人が不在だと業務が滞るリスクがあるため、Aさんの知識や声を再現するAIによるAさん(2号・3号)」のような仕組みを検討しています。いわば「永賢組版ChatGPT」の開発ですね。創業者時代から現在までの全データを学習させ、過去の知見をいつでも引き出せるよう、現在データの蓄積を進めている最中です。
――そうしたデジタル基盤を活用し、M&Aやグループ経営はどう進化するのでしょうか。
永草社長 M&Aを通じて全国にグループ企業を増やしていくつもりですが、その際各社の状況を直感的に把握し、迅速な意思決定を支援する仕組みを作ろうとしています。飛行機のコックピットのように、経営に必要な情報を一元的に可視化するイメージです。「青信号」であれば各社の判断で進め、「黄色」や「赤信号」が出れば本部がサポートに入る。これにより、精度とスピードを両立した経営判断が可能になります。
――M&Aの対象となる企業のイメージはありますか?
永草社長 大きく2つのパターンがあります。一つは、九州永賢組の藤崎所長のような優秀な人材がいる場合ですが、こうした人材にはなかなか巡り合えません。もう一つは、歴史ある地域ゼネコンです。橋梁、道路、下水道などの社会インフラは老朽化が進んでおり、維持修繕の需要は高まっています。やる気があっても経営に苦戦している企業があれば、我々の力で救済し、事業を継続させたい。
――経営のAI化に加え、もう一つの柱である「現場監督のAI化」はいかがですか?
永草社長 建設業法上の配置義務というハードルはありますが、まずは優秀な現場監督のノウハウを持つ「分身」をつくる構想に着手しています。施工管理の品質は個人の力量に左右されがちですが、AIによる標準化を進めることで、すべての現場で均質な管理体制を実現したいと考えています。
――「オンライン現場監督」の実現に向けた、現在の進捗状況は?
永草社長 足掛かりとして、技術者・技能者の顔認証とデータを紐づけるシステムを開発し、名古屋駅前の現場で試行しています。一度顔認証を行えば、履歴、資格情報や最新の健康診断の結果、入場当日の体調などが登録され、当社のどの現場に行っても書類なしで入退場や管理ができる状態を目指しています。まずはデータ収集が第一歩ですが、書類作成業務の削減効果を検証していく予定です。
AIによる現場での顔認証システムを開始
――米国のスタートアップ企業を見学されて、どう感じられましたか?
永草社長 圧倒的なスピード感に刺激を受けました。向こうでの「1ヶ月前の出来事」が、日本では「3年前の話」に感じるほどの進度差があり、これを肌で感じられた意義は大きかったですね。 GoogleやAmazonも最初は小さなデスクから始まり、世界を目指すマインドセットがあったからこそ今日の成功があります。私自身も挑戦する姿を社員や業界に見せていくために、今後は1年の半分を米国で過ごし、リレーション構築やエンジニアのスカウトを行うことも選択肢の一つとして考えています。
2期目で受注60億円。「九州永賢組」の躍進と戦略
――そうした社長の「挑戦する姿勢」や「スピード感」は、国内の事業展開にも表れているように思いますが、「九州永賢組」設立の経緯を教えてください。
永草社長 実は九州進出を決めていたわけではなく、藤崎という人材が入社したからこそ、彼に託すかたちで設立しました。
――藤崎所長の永賢組とのご縁は?
藤崎文紀氏(以下、藤崎所長) もともとは店舗設計や内装工事の会社を経営していました。永草社長とは仕事の取引先として出会ったのですが、社長の人柄や永賢組の魅力に惹かれて、私のほうから「一緒に事業をしたい」とお願いしたのがきっかけです。
ちなみに、永賢組の「福岡支店」ではなく「九州永賢組」としたのは、福岡だけでなく九州全体を主戦場にしたいという思いからです。「札仙広福」の中でも福岡市は頭一つ抜けて案件も豊富です。戦略次第でスピード感を持って成長できる市場だと思います。
九州永賢組の藤崎所長
――現在の事業規模はどのくらいですか?
藤崎所長 九州永賢組は今期で2期目に入りました。1期目は電気設備の下請事業が中心でしたが、収益性や将来性を鑑み、2期目(2025年7月~)からは建築主体のゼネコンへ転換しました。営業先もデベロッパーや個人投資家に絞り、この半年間で約60億円の受注高を獲得しています。受注先行型で人材採用を行うことで、無駄なコストを抑えつつ案件を確保できました。
現在はホテル、マンション、商業施設、老人ホームなどを手掛けており、2026年6月末までの着工予定は8現場です。規模は1億7,000万円から17億5,000万円まで様々です。来期は完工高60億~70億円、営業利益2億円を目標に動いています。
九州の老人ホーム新築工事現場
――すでに中堅地場ゼネコン規模の経営ですね。
藤崎所長 福岡県内の地場ゼネコンとしても中堅クラスの規模感にはなりました。九州永賢組としては将来を見据え、5期目に向けて売上高100億円を目指しています。これが実現すれば地場ゼネコントップ10入りも見えてきますので、まずはそこを最初の目標としてスピード感を持って動いています。
――立ち上げてわずか2期でこれだけの受注を実現できた秘訣は?
藤崎所長 私の営業スタイルが独特かは分かりませんが、新規顧客に飛び込み、地道な人脈形成に注力してきた結果だと感じています。
――急激な受注拡大による人材不足の懸念はありませんか?
藤崎所長 現在の受注分に関しては適切に採用が進んでおり、問題ありません。今後さらに売上が伸びるに伴い人材は必要になりますが、これまでの実績と採用戦略から、十分に対応できる自信はあります。
――社会貢献活動にも注力されていますよね。
藤崎所長 本社同様、事業成長と社会貢献の両軸で展開しています。「100万人のクラシックライブ」を月に一度開催し、音楽を通じた地域交流に取り組んでいるほか、3月からは「九州硬式少年野球 フレッシュリーグ」の大会を主催します。福岡市はソフトバンクホークスの本拠地ですから野球は非常に盛んです。各企業が野球大会に携わりますが、建設会社がリーグ大会を主催するのは50回の歴史で初めての試みです。
西日本新聞社をはじめ多くの企業の協力を得ており、こうした地域貢献がコミュニティの形成や新たな人脈、ひいては新規案件の開拓にも繋がると実感しています。
『クリスマスゲートパークin福岡大名ガーデンシティ』に協賛
――九州永賢組の今後の展開について教えてください。
藤崎所長 売上高50億円を安定的なラインとし、これを3期継続できれば、永賢グループの一員として「九州永賢組」を法人化したいと考えています。
事業内容としては、現在は賃貸マンションやホテルの案件も多いのですが、来期からは工場修繕に特化したチームも設立し、修繕・改修工事にも注力して、事業ポートフォリオのバランスを整えていきたいと考えています。
――藤崎所長は、永草社長のスピード感をどう受け止めていますか?
藤崎所長 永賢組はそのブランドに高い誇りを持つスペシャリスト集団です。NETFLIXの企業文化を描いた書籍『NO RULES(ノー・ルールズ) 世界一「自由」な会社、NETFLIX』にも通じますが、自由と責任の中で生まれる化学反応のシナジー効果が、成長スピードに繋がっていると肌で感じています。その文化を重視しながら、社長のビジョンについていきます。
永草社長 優秀な人材であれば、細かいルールは不要です。道徳観を持って自走できる「能力密度の高い人材」が集まり、各部門で化学反応を起こして発展していくのが理想です。永賢ブランドというプラットフォームを活用し、新会社や新事業が次々と立ち上がる環境を作ることが、私の役割だと考えています。
永賢グループが描く、「自立型プラットフォーム」構想
――グループ会社の大脇建設株式会社も社長が交代されましたね。
永草社長 2025年11月1日付で大脇ちさと氏が社長に就任し、新体制が発足しました。同社は1913年創業の老舗ゼネコンで、岐阜県白川町に根差した土木・建築工事を行っています。
大脇社長には「白川町だけに留まらず、周辺地域へも商圏を広げて発展してほしい」と伝えています。これからは30億~40億円規模の地域ゼネコンとして成長し、「白川町にこんな立派な会社があるんだ」と、その存在感を示していってほしいですね。
白川町は自然豊かで素晴らしい環境です。大脇社長はここを「人生の集大成を迎えるのにふさわしい場所」とも話していて、空き家活用などの事業も検討されています。トップの熱量で会社は大きく変わりますから、今後の手腕に期待しています。
――最後に、永賢グループ全体の今後の方針をお願いします。
永草社長 九州永賢組の藤崎所長のようなリーダーと出会えることが理想ですが、日本全体で若い経営者が台頭し、挑戦する人々が集う大きな企業体を形成していきたいと考えています。大きなグループとして存在感を持ちつつも、各社が自立・自走して成長していく。そんな高い志と目標を持った「建設業のプラットフォーム」としての構想を実現していきたいですね。

