設計図作成時の配筋マニュアル
現場で造られる構造物は、マニュアルだけでは造ることができないものがほとんどです。全体はもちろん、部材一つ一つも同じです。
例えば、鉄筋を加工して組み立てる際、公的機関が定めている配筋マニュアルがありますが、それを踏襲するだけでは組み立てができないこともしばしば。
配筋マニュアルでは、鉄筋の長さが最大12mまでのものを使って良いことになっており、設計図作成のときはそれを踏まえて作成するのですが、現場によっては12mという長さの鉄筋が搬入できない、組み立てができない、という場合も多く、その都度、現場で設計変更をかけるなどの対応が必要となります。
鉄筋組立はマニュアル以外の要素も必要
以前、私が建設コンサルタント会社に勤務していた時のことです。公的機関のマニュアルに則り、構造物の配筋図を作成していました。
無事納品したあと、工事現場から「今の配筋図では組み立てができないので、このようにして再度配筋図を作成して欲しい」という問い合わせがありました。私は「マニュアル通りに作ったのに、組み立てができないというのはどういうことなのか?」と質問しました。
すると、その建設会社は「鉄筋の長さが長すぎて、現場で組み立てができない。実際に組み立てする箇所に搬入できない」とのことでした。
私はそのとき、はじめて「マニュアルに従うだけでは組み立てができず、意味のない配筋図になってしまう」ことを痛感しました。現場に納入できるサイズかどうか、組み立て場所に運搬できるのかどうか、人が持てるのかどうか、などをまったく考慮していなかったのです。
組み立て可能な鉄筋とは、現場の状況をイメージして作られている鉄筋です。一方、組み立てられない鉄筋とは、現場の状況よりもマニュアル至上主義のもとで加工された鉄筋です。マニュアルが悪いわけではないのですが、マニュアルに従いつつ現場の状況を踏まえているか?それが、組み立て可能かどうかを分けるのです。
開口部から鉄筋を搬入できない!
実際に現場で施工管理をした際に、その意味がよく分かりました。小田急線の線路の地下化工事に従事していた際、地上で開口部を設け、そこから鉄筋を地下に搬入するのですが、マニュアル通りに作られた配筋図のままでは、鉄筋が入らなかったのです。なので、現場で設計図を描き直し、現場で搬入できるように配筋図を修正して施工に望みました。
具体的には、鉄道を地下化するためのボックスカルバート構築工事の箇所でした。地上の作業ヤードに約8mほどの開口部を設け、そこからさまざまな材料を搬入しており、当然、鉄筋もその開口から搬入する手はずでした。しかし、設計図では鉄筋の長さ10mを超えるものが多数あり、そのままでは作業箇所に入れることができなかったのです。鉄筋をできるだけ斜めにしてクレーンで吊る、ということも一瞬考えたのですが、斜めにするため崩れ落ちるリスクが高まり、実行に移すことはありませんでした。
そこで、現場では鉄筋の長さを短くし、開口部から搬入できるように図面を変えて施工しました。発注者にも設計変更で対応し、検査対応しました。
マニュアルだけでなく、現場の状態をイメージする
マニュアルはあくまでマニュアルであり、現場の状況は逐一異なります。
他の現場でもそれを痛感しました。あれは、とある高速道路のトンネル工事現場でした。この現場では、トンネル掘削の準備工事として、様々な工事を行っていました。その一つが、ジャンクションのランプ橋脚受け替え工事です。
新たに橋脚を新設するため、私は橋脚の配筋図を描いていましたが、いくつか指摘を受けました。その際に、「この道路を使って搬入するので、大きなトレーラーを使えないから、鉄筋の長さを短くしてほしい」という要望があったのです。
実際にどうやって施工するのか、どうやって現場に搬入するのか、をよく考えたり確認し、その状況に合わせて鉄筋を考えないといけないことを痛感しました。その際、現場に搬入するまでどのルートを通ってやってくるのかを調べ、使用できる車両に応じるという柔軟性も必要だということがわかりました。現場での作業手順や効率はもちろんですが、工場から現場までどうやって材料を持ってくるかも、無視できないファクターなのです。
マニュアルは大事ですが、同時に現場の状況をよく踏まえて鉄筋を加工することで、より簡単に鉄筋組立ができるようになるという事例の紹介でした。現場をよくイメージすることが重要なのです。