創業63年を迎え、社員一同で記念写真

創業63年を迎え、社員一同で記念写真

埼玉県で一番「強くて良い会社」へ。“戦わずして勝つ”松永建設の成長戦略

深刻な労働力不足と高齢化、そして時間外労働の上限規制強化。建設業界が激動の経営環境下にありながら、埼玉県を中心に圧倒的な存在感を示し、独自の成長曲線を描き続けるゼネコンがある。1963年(昭和38年)の創業以来、「無借金黒字経営」という極めて強固な財務基盤を維持し続ける、株式会社松永建設(本社:埼玉県さいたま市、松永大祐社長)だ。

同社は、経営理念として「我々は強くて良い会社をつくる」を掲げ、「感動創造建設会社」を目指し事業展開している。単に図面通りの構造物を構築するだけでなく、お客様の想定を超える付加価値を提供し、お客様をはじめとする関係者に感動を届けることを事業の本質と位置づけている。

今回は、同社社長室の丸山亮氏と、現場を率いる建築本部の大里祐太氏に、無借金経営を土台とした人材定着の仕組みや、施工管理アプリによる現場DX、そして新たに始動したAIプロジェクトの取り組みについて話を聞いた。

無借金黒字経営の根底にある「感動創造」

――まず、松永建設の会社概要からお聞かせください。

丸山亮氏(以下、丸山氏) 当社は1963年の創業で、経営理念に「我々は強くて良い会社をつくる」を掲げています。名刺などには「感動創造建設会社」と記載しているのですが、これには、お客様に想定以上の成果を提供して感動を創造したという想いが込められています。

もともとは材木業からスタートした会社ですが、そこから道路や橋梁、下水道工事といった土木事業へ進出しました。さらに、経済環境の変化に合わせて建築事業へも本格参入し、現在では土地探しから、有効活用の提案、建物の設計・施工、さらには管理運営から維持・メンテナンスに至るまで、トータルに事業を展開している点が大きな特徴です。建築分野では、マンション、商業施設、工場、病院など幅広い用途の建物を手掛けています。

現在の売上高は約170億円、従業員数は約170名。最大の強みは、創業から現在に至るまで一貫して「無借金黒字経営」を継続している点です。この盤石な財務基盤があるからこそ、人材育成や新たな事業への投資を継続しながら、持続的な成長を実現しています。

松永建設社長室の丸山亮氏

「人間力」を磨く育成思想

――人手不足が課題となる昨今ですが、人材育成の基本的な考え方は。

丸山氏 経営思想の根底に「企業は人なり」という人材第一の考え方があります。建設業には製造業のような固定の工場がなく、現場ごとに異なる環境の中で、お客様や協力会社の皆様と力を合わせながらものづくりを進めていく仕事です。だからこそ、建設業は「人と人とのつながり」で成り立つ産業であり、一人ひとりの人間力や信頼関係が、良いものづくりにつながると考えています。

人材育成というと資格取得ばかりに着目されがちですが、私たちが最も大切にしているのは「人間力」です。人間力がなければ、本当に良いものづくりはできないと考えています。
潜在ニーズを汲み取り、想定以上の成果で「感動を創造する」ためにも、当社では年間を通して階層別の研修に非常に力を入れています。

――今期(2026年4月)から「メンター制度」を開始されました。現場での狙いは?

大里祐太氏(以下、大里氏) 新入社員一人ひとりに先輩社員がメンターとして1年間伴走する制度ですが、一番の狙いは若手社員のフォローです。現場所長としても日頃から相談しやすい環境作りを心がけています。所長が常にピリピリした雰囲気では、現場で気軽に相談できなくなってしまうからです。

松永建設建築本部建築部で現場を率いる大里祐太氏

ただ、直属の上司や先輩には話しにくい悩みも当然あると思います。そこで、実務指導ではなく「精神的な支えや心のケア」を担う役割として、メンターが伴走する仕組みを作りました。若手社員が私には本音を話せなくても、メンターを通じて悩みや状況を把握することで、より適切なフォローにつなげることができます。管理者の立場から見ても、非常に有効な制度だと実感しています。


資格取得の学費を会社が無利息でサポート

――精神面のフォロー体制はメンター制度で整えた一方で、若手にとって現実的な壁となる「資格取得」はどうサポートしているのでしょうか。

大里氏 とくに一級建築士は資格学校に通うと高額費用がかかり、独学での合格も非常に難しいのが現状です。資金面がネックとなって挑戦の機会を逃してしまうことがないよう、当社では資格学校の受講費用を会社が無利息で融資する制度を設けています。

――無利息とはいえ、若手にとって高額の返済は大きな負担になりませんか?

丸山氏 見事一発で合格した際には、融資額の30%を返済免除する制度を設けています。例えば100万円を借りた場合であれば、30万円が返済免除となり、残り70万円を月々1万円ずつ給与から返済してもらう形です。

ただ、一級建築士の場合は「資格手当が毎月5万円」付与されるため、返済を差し引いても毎月実質4万円のプラスになります。その他各資格に応じて手当を支給しています。

――残業が多くなり勉強時間が確保できなければ合格が難しい資格だと思いますが、その点の配慮は。

丸山氏 おっしゃる通りです。そのため、全社的な取り組みとして「残業を減らし、できるだけ早く帰宅できる環境づくり」を強く推進しています。以前は、本来資格取得に取り組むべき時期であっても、仕事に追われて十分な学習時間を確保できず、資格取得が進まない社員も一定数いました。

現在は現場のDX化や業務改善が進んだことで学習時間を確保しやすい環境が整ってきました。その結果、社員が資格取得に前向きに取り組めるようになり、資格取得が当たり前の文化として定着しつつあります。

現場DXで年間休日125日を死守

――休日確保と現場の稼働のバランスは、どのように解決しているのでしょうか

丸山氏 今まで6日間かけて行っていた業務を5日間に凝縮するわけですから、ツールを最大限活用して「生産性を劇的に向上させる」取り組みを進めなければ実現できません。会社としても、そのためのサポートを全力で推進することで、休日確保を実現しています。

松永建設が施工する現場

――生産性向上のために、どんなDXツールが効果を上げていますか?

大里氏 最も大きな効果を出しているのが、施工管理アプリの「スパイダープラス(SPIDER+)」です。以前は、写真整理や検査書類の作成に膨大な時間を費やしていました。たとえば、建物完成前の仕上げ検査では、紙の図面に記入した内容を事務所へ持ち帰り、パソコンで各協力業者向けの指摘一覧表を作成するだけで4〜5時間かかっていました。

導入後は現場でタブレットを使いながら検査を行い、指摘箇所をその場で撮影して図面と紐付けるだけでデータが自動的に整理されます。事務所に戻って出力するだけで書類が完成するため、今ではわずか10〜20分で完了するようになりました。

――日常の写真整理業務でも、生産性は向上されましたか?

大里氏 劇的に向上しました。以前は夕方に事務所へ戻り、デジカメのデータをパソコンへ取り込み、一枚一枚手作業で整理していましたが、今では現場でタブレットを使って撮影すると、その場で自動整理され、クラウドへ保存されます。以前は写真整理などの事務作業で遅い時間まで残業することも珍しくありませんでしたが、現在では業務効率が大幅に向上されています。

写真整理などに費やしていた時間が大幅に削減されたことで、その分を本来の施工管理や図面の検討といった技術者のコア業務に充てられるようになりました。時間的にも精神的にも余裕を持って、より良い建物作りを検討できるようになったため、結果として以前よりも品質の高い建物を提供できていると感じています。

施工管理アプリの「スパイダープラス(SPIDER+)」により生産性向上

――そこまで徹底されていると、現場の週休2日も確実に守れそうですね。

大里氏 現場でも、週休2日を確保するとともに、有給休暇の取得状況についても適切に管理しています。建築部では課長クラスであるグループリーダーが中心となり、メンバーの勤怠状況や有休休暇の取得状況を日々確認しています。

――とはいえ、実際の現場ではどうしても土曜日に稼働しなければならない場面もあるかと思いますが。

丸山氏 状況によってはもちろんあります。そのため当社では、土曜日に休日出勤をする場合は、事前に平日の振替休日をシステム上で設定しなければ、出勤申請自体が承認されない仕組みになっています。これにより、年間休日数125日をきっちり確保できるよう運用しています。

大里氏 現場内でもローテーションを組み、遅くとも1ヶ月以内には必ず振替休日を取得できるようにしています。短工期の案件などで一時的に業務が集中する場合は、プロジェクトが竣工した後にまとまった休暇を取得するケースもありますが、当社は「健康経営優良法人ブライト500」の認定も受けていますので、社員の健康を第一に考えて、できるだけ定期的に休暇を取得できる仕組みづくりに全社で取り組んでいます。


文系出身で副部長へ。可能性を広げる採用戦略

――さらに一歩抜け出すための次の一手はありますか?

丸山氏 次のフェーズとして見据えているのがAIの活用です。さまざまな職種でAIを活用し、生産性向上を目指す「AIプロジェクト」を立ち上げ、現在推進している段階です。まずは全社から選抜した約20名のリーダーメンバーを対象に集中的な教育を実施し、そこから各部員へ水平展開していく予定です。

2026年5月にキックオフを行い、今後半年から1年をかけて社内のAI活用を一気に推進していく計画です。

大里氏 もちろん、現場は日々さまざまな状況が発生しますし、多くの協力会社との信頼関係の上に成り立っている仕事ですので、すべてがAIに置き換わることはないと考えています。

しかし、AIを拒絶するのではなく、最新技術を一つの「武器」として積極的に活用し、人とAIが協働することで、技術者がより付加価値の高いコア業務に専念できる環境をつくっていきたいと考えています。

――こうした最先端ツールを取り入れる姿勢は、学生へのアピールにも繋がっていますか?

丸山氏 大きな効果が出ています。夏のインターンシップなどで学生を現場に受け入れていますが、建設業界に対して「アナログで大変そう」というイメージを持って来られる方はまだまだ多くいます。

しかし、社員がiPadを活用してスマートに写真管理や図面確認を行っている姿を見ると、「建設業のイメージがガラリと変わった」と驚かれることが多いです。こうしたDXの取り組みを実際に見てもらうことで、入社後のギャップが少なくなり、早期離職の防止にもつながっていると感じています。

――御社の採用選考では、「オープンポジション枠」や文系採用なども行っています。

丸山氏 当社では、あえて職種を限定しない「オープンポジション枠」を設けています。これは、応募時点で将来やりたいことが明確に決まっていない学生のための採用枠です。理系の学生であっても、施工管理や設計、営業職など、どの職種が自分に合っているのか悩んでいるケースは少なくありません。

そのような場合は、いったん職種を決めずに採用し、入社後の研修や実務を経験してもらいながら、本当にやりたい仕事を一緒に見つけ、キャリアを築いていきます。学生一人ひとりの可能性を、最初から狭めないための取組みです。

また、文系出身の方も大歓迎です。専門的な図面の読み方や建築の知識は、入社後の充実した研修プログラムと日々の現場実践(OJT)を通じて、いくらでも身に付けることができます。

何より大事なのは、何度も申し上げている「人間力」と、ものづくりに対する強い「意欲」です。

――文系出身でも、努力次第でハンデなく活躍できる環境があるのですね。

丸山氏 その通りです。実は大里も建設とは無関係の文系学部出身ですが、努力を重ねて施工管理としての経験を積み、現在は大型現場の現場所長を務めています。

さらに、2026年5月の機構改革では、40歳という若さで建築部の「副部長」に昇格しました。学部や学科に関係なく、本人の意欲や努力次第で活躍の場を広げられることを、自ら体現している一例だと思います。

埼玉県で一番「強くて良い会社」へ

――大里副部長から見て、現場所長としての建設業の「やりがい」とは何でしょうか。

大里氏 自分が計画し、考えたものが目の前で具体的な形になることが一番のやりがいです。工事の終盤に足場が解体され、建物に明かりがパッと灯る瞬間は、建物に「命が宿る」ような感覚があり、とても感動します。

また、お引き渡しの際にお客様から直接「ありがとう」と感謝の言葉をいただけたときは、それまでの苦労が一気に報われたような気持ちになります。現場所長として、これ以上ない喜びを感じる瞬間ですね。

――最後に今後の方向性を聞かせてください。

丸山氏 個人のお客様にとって、家を建てることは一生に一度の大きな買い物ですし、法人のお客様にとっても、工場や病院の新設は巨額の投資を伴う一世一代のプロジェクトです。当社はお客様の一生涯のパートナーとして、その大きな決断に寄り添いながら責任とやりがいを持って仕事に取り組んでいます。

お引き渡しの際に「松永建設に頼んで本当によかった」と言っていただけるような、期待を超える価値を提供すること。その「感動創造」の積み重ねこそが、無借金黒字経営に繋がっていると感じています。

大里とはちょうど同い年なのですが、これから会社の未来を担う若いメンバーや新入社員たちと肩を組み、切磋琢磨しながら、名実ともに「埼玉県で一番強くて良い会社」にしていきたいですね。

この記事のコメントを見る

この記事をSNSでシェア

こちらも合わせてどうぞ!

関連記事はありません

建設専門紙の記者などを経てフリーライターに。建設関連の事件・ビジネス・法規、国交省の動向などに精通。 長年、紙媒体で活躍してきたが、『施工の神様』の建設技術者を応援するという姿勢に魅せられてWeb媒体に進出開始。