定年後も居残る「アナログ現場代理人」は迷惑?施工管理デジタル化の功罪

アナログ現場代理人の苦悩

現代におけるほとんどの仕事は、パソコンやデジタル機器がなくてはこなせないものになりました。

現場代理人や施工管理技士の仕事も例外ではなく、工程表をはじめとする書類の作成、施工図の作成、施主とのメールのやりとりなど、パソコンを使う作業を挙げればきりがありません。現場写真を撮影するのはもちろんデジタルカメラで、関係機関との連絡ではスマートフォンやiPADが手放せません。

私は最近、そんなデジタル化した施工管理の仕事を、無理してこなしている現場代理人の苦悩を目撃しました。

デジタルが苦手な現場代理人と、その周囲の人々の苦悩についてお伝えします。

老眼でデジタル画面が見えない定年後の現場代理人

現場代理人のSさんは、今年65才。定年を迎えたものの、独り身のため家にいてもつまらない、ということで引き続き現場代理人として勤務しています。

そんなSさんは、今年に入ってから一気に老眼が進んだそうで、デジタル画面がよく見えない、という困った事態に陥りました。パソコン、携帯電話、デジタルカメラ等の仕事で必要な機器の操作がスムーズにできなくなってしまったのです。

顔から画面を近くしたり、遠くしたり、眼鏡をかけたり、ずらしたりしながら懸命に仕事を続けていますが、眉間にシワをよせ、目をいっぱいに細める姿は何とも辛そうです。その苦労からか、最近肩こりもひどいというSさん。

Sさんに対する周囲の視線も徐々にキツくなっていきましたが、それでも仕事を続けるのは、やはり家にいてもつまらないから、だそうです。

余計な経費がかかる定年後の現場代理人

デジタル画面が見えなくなった結果、現場代理人のSさんは、届いたメール、撮影した全ての工事写真、図面、書類をいちいち「印刷」してチェックするようになりました。

お陰で現場代理人Sさんの机の上と、その周辺は紙だらけ。ゴミ箱も目を通しただけの紙がたくさん捨てられている状況です。会社としては印刷代も気になるところ。見かねた社長が、現場代理人Sさんに注意する場面もありました。

「だって仕方ないじゃないですか。俺、画面見えないんですから」

うーん、確かにそうだ。

社長は、この言葉を受けて一人の若手社員を、Sさんのサポート係に任命し、Sさんの部下にしました。

若手社員の活躍で、ひとまず印刷の量は減りました。しかし、印刷の経費は減っても、人件費のほうはどうなのかは疑問です。

でも、施工管理技士は求人を出しても滅多に応募はないので、現場代理人Sさんの存在は非常に大きいわけです。


キーボードを破壊する定年後の現場代理人

デジタル画面が見えなくなる以前から、現場代理人のSさんは、キーボードのタッチが力強く、よくキーボードを壊していました。

Sさん曰く、パソコンに向かい合うと、つい力が入ってしまうそうです。

パソコンは精密機械なので、そっと触れるようにしましょうと注意を受けてから大分改善されたのですが、それでもエンターキーを押すときは「ッターン!」という力強い音が事務所に響き渡っています。

作業量を2倍にしてしまう定年後の現場代理人

現場代理人のSさんがよく言う台詞に、「俺はもうおじいちゃんだから」「パソコンの類は嫌いだね」というものがあります。

最近のSさんが作成したデータは、正直使えたものではありません。

  • 誤字脱字が多い
  • 共通書類のエクセルデータは計算式が壊れている
  • あらゆる図式が自己流で作られているので他の人が編集できない
  • 図面のレイヤーが分けられていない

などなど。

これらの問題を抱えたまま出回ったデータが、施主からのクレームに繋がったこともあったので、今ではSさんサポート係の社員がチェックをして、訂正を行うことが必須となりました。

訂正と言っても、多くのデータが最初から作り直すほど時間を要するもので、この現場代理人Sさんとサポート係の2人の作業率はとても悪くなっています。

Sさんはいつもサポート係の社員に対して、「ありがとうな。俺、パソコンできないからさ」とお礼を言っていますが、果たしてそれでいいのでしょうか?

現場代理人の威厳を喪失しても、建築が楽しい!

現場代理人のSさんがバリバリに現場をこなしていた若かりし頃、施工図面はもちろん、全ての書類が手描きで作成されていました。現場代理人Sさんが40代になると、デジタル化の波は少しずつ押し寄せ、50代の頃には、ほとんどが今の世の中のようになったそうです。

子どもの頃からパソコンやデジタル機器に触れて育った我々世代から見ると、現場代理人Sさんは仕事のやり方が変わってしまったことを時代のせいにして、デジタルを毛嫌いするだけでなく、頑なに抵抗を続けているよう見えてしまいます。

最近のSさんは、これらの操作がまるで出来なくなったことから、持ち前の明るさと豪快さを失い、すっかり萎縮したおじいちゃんになってしまいました。現場代理人としての威厳もありません。

「俺なんて」が口癖です。

現場代理人Sさんの引き際も悪いのかもしれませんが、Sさんの自信と良いところを喪失させてしまった会社にも少し疑問を感じてしまいます。

それでもSさんは仕事を続けています。理由はやっぱり家にいてもつまらないから。こんなに仕事がやりにくくなっても、建築の楽しさには代えられないようです!

萎縮して、少し拗ねている現場代理人のSさんには見苦しい部分もありますが、少しでも自信を取り戻して明るく活躍してもらいたいとも思っています。

私もSさんには入社以来たくさんのことを教えてもらったので、今度は我々若手が返す番なのかもしれません。サポート社員を3人くらいに増やして、周りが支えてあげられる環境を整えることを今度提案してみようと思っています。

でも、それで本当に良いのでしょうか?

この記事のコメントを見る

この記事をSNSでシェア

こちらも合わせてどうぞ!
「魔女の宅急便」を見て土木の世界に? これが私のドボク道! 高知県土木部・木下美喜さんに聞く
「建築が遅れると設備が泣く」の本当の意味とは?…空調設備施工管理はつらいよ
BIMを活用したいけれど、どうすればいい? アウトソーシングや人材派遣で解決しよう
「昔からこの方法でやってきた」専門工事職の既成概念を打ち破る、マンション施工の改善案
2級建築士(女性)。某建設会社の設計部で、主に戸建て住宅の新築やリフォームの設計・積算を担当。今は子育てに追われ、在宅勤務中。再び前線に復帰することを夢見ながら、建築業界に必死でしがみつく日々。
モバイルバージョンを終了