「工事情報共有システム」を導入すると「書類の差し替え」が困難に?

なかなか浸透しない「工事情報共有システム」

工事を落札した建設会社が「元請」として工事を管理していく上で絶対に避けて通れないのが、膨大な書類の作成です。工事金額が小さいからと言って、工事金額が大きい工事よりも書類の量が少なくなるわけでもなく、ほとんど同じぐらいの量の書類を作成しなければなりません。

工事の元請企業は作成した書類を役所に提出し、役所の担当者や検査官の確認が入ります。この確認の際に不備が見つかると、役所の担当者から連絡が入るので、わざわざ役所まで赴いて書類の訂正箇所を確認。それを持ち帰って再度提出といった流れが、これまで一般的でした。しかし、この業務フローでは、他の現場で働いていると、すぐに役所へ足を運ぶことが出来ないなどといった、タイムロスが生まれるという問題がありました。

この問題を改善するシステムとして、数年前に工事情報共有システムが誕生しました。まだ一般的には浸透していませんが(私の地域だけ?)、国土交通省や東京都の工事などで徐々に導入が進んでいるようです。嘘か真か3年後を目安に、工事情報共有システムの完全導入が完了すると言われています。

「工事情報共有システム」とは?

そもそも工事情報共有システムって何?と疑問に思う建設技術者、施工管理技士も、まだまだいると思います。私自身、この存在をつい最近知りました。

工事情報共有システムとは、簡単に言えば、書類の作成から管理まで、全てをWeb上で管理することによって、これまで書類の提出や確認のために役所に足を運んでいた時間を省こうという、今までありそうでなかったシステムです。

この工事情報共有システムを使いこなせば、他の現場で仕事や作業をしていても、ネット上で修正を行えば良いので、パソコンさえ持ち歩いていれば、修正から確認作業までをその場で行えるというわけです。

国土交通省大臣官房技術調査課の 「土木工事の情報共有システム活用ガイドライン」はこう説明しています。

情報共有システムは、その活用により期待される受発注者の業務の効率化として、「工事帳票の処理の迅速化」「工事帳票の整理作業の軽減」「検査準備作業の軽減」「情報共有の迅速化」及び「日程調整の効率化」があり、これにより受発注者間のコミュニケーションが円滑化することはもちろん、建設生産システムの生産性向上を図ることができます。さらに、関係機関・地元協議資料、安全管理資料などを隣接工事及び後工事の関係者を含めて共有することにより、工事単位だけでなく事業全体を円滑化することができます。

・・・で、実際の使用感はどうなのか?

土木工事の情報共有システムを使った感想

私はつい先日、この工事情報共有システムの存在を知って、さっそく使い始めたのですが、正直最初の初期登録が複雑だなと感じました。ネット上で工事の情報や書類も全て管理するため、その工事に関わる会社の情報も工事関係者の間で共有することになります。

その際、会社の情報を最初の段階で登録するのですが、会社の情報をこと細かく入力することに、私はかなりてこずりました。「正直、そこまで把握してないよ!」というのが本音でした。

また、工事情報共有システムについて、市役所の人間に質問してみても「使い方がよく分からない」という役人がほとんど。工事情報共有システムの存在感のなさと、まだ導入が進んでいない大きな要因は、役所でも使い方を完璧に熟知している人が少ない、ということにもあるのかもしれません。

土木工事の情報共有システムのメリット、デメリットは?

土木工事の情報共有システムを使う大きなメリットは、やはり、どこにいても書類の訂正から確認までを短時間で行うことが出来る点です。書類の手直しにかかる時間が圧倒的に短くなります。

また、図面などの書類の共有も可能なため、設計に変更があった場合などに変更後の図面をWeb上にアップしてもらうことで、迅速かつ具体的に変更点を確認できるということもメリットです。ただ、システムが複雑なので、多くの施工管理技士が扱えるようになるまでには、まだまだ時間がかかりそうです。

工事情報共有システムでは「書類の差し替え」が難しくなる?

そして、施工管理者の立場から一番気になるのが、今まで後から差し替えができた「書類の差し替え」が難しくなる点です。例えば、撤去作業を行うに当たって、撤去物の運搬経路図を作成し、運搬中の追跡写真を撮影して提出する書類があるのですが、移動距離が近いので別の運搬経路を経由して追跡写真を撮影したときに、従来ならば運搬経路図を訂正して差し替えることが可能でした。

しかし、この情報共有システムが導入し、ネット上で1回共有されてしまうと、検査官の方も目を通すことになります。ですから、書類の差し替えを行う際に、今までしなくてよかった確認をしなければならない可能性が出てきます。情報を工事関係者が一目瞭然で分かるようになるので、工事のつじつまが少しでも合わなければ、検査官によっては突き詰められることがないとは言えないでしょう。この点は、実際の現場を畝井する施工管理者としては頭を悩ませるかもしれません。

施工管理技士は「工事情報共有システム」に興味を持とう!

土木工事の情報共有システムについては、メリットもデメリットもありそうですが、それでも私自身、メリットのほうが圧倒的に大きいと感じています。

工事情報共有システムを使いこなせるというだけで、工事の加点項目に反映してもらえることもあるので、それだけ役所も導入に力を入れているのでしょう。

まだ工事情報共有システムが導入されているところは少ないですが、確実にこのシステムが一般化する時代が、もうそこまで来ています。導入されて焦ることのないよう、今のうちから施工管理技士の皆さんは工事情報共有システムに興味を持ち、理解していく必要があるのではないでしょうか。

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大学卒業後に一度、建築商材会社に就職するも、その後、現場に立ちたいという想いから、建設会社に転職。 これまでに道路舗装や下水道、解体などの工事に携わってきたが、今は急傾斜地区崩壊対策事業の測量や施工を主に担当している。
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