土木・建築両分野で始まる「高流動コンクリート化」
建設業界では、様々な新技術が次々と開発されたり、新しい機械が導入されたり、絶えず進化を遂げています。最近では、建設技術者や職人の深刻な人手不足を背景に、政府、国土交通省も、省力化・効率化に向けて様々な取り組みを行っています。例えば、ドローンを使った測量や管理、コンピューター制御された重機やアシストロボットなど、施工の分野での新しい取り組みは、テレビなどのメディアで紹介されることも多くなりました。
一方、建設業界全体の進化のスピードに比べて、コンクリート業界はそれほど進化していません。「トンネル工事ではこの50年で生産性が10倍になったのに対し、コンクリート工は過去30年間、生産性がほとんど上がっていない」と言われるほどです。
建設現場で使用される部材の中でも、割合も多く、重要なポジションを担っているコンクリート。土木の分野での効率化を目的に、標準スランプをこれまでの8cmから12cmにする、という取り組みは以前の記事で紹介しましたが、実は建築の分野でも、省力化・効率化を目的とした新たな取り組みが始まっています。それが、高強度領域以外での高流動化です。
高流動コンクリートのフロー管理を低強度へ広げJIS化
今までのJIS規格では、スランプフロー値での品質管理を行う高流動コンクリートは、高強度(呼び強度50以上)の領域のみに限定されていました。また、高流動コンは製造面や管理面での扱いが難しく、広く一般的なものとして標準化するのが難しかったという一面もあります。
しかしながら、「今後10年で建設技能者が、高齢化に伴い約128万人も減少する」と言われるほどの技能者の減少や、鉄筋量の増加などを背景に、低強度(呼び強度27〜45)領域でのフロー管理をJIS化する動きが強まっています。
高流動コンクリートの注意点とは?
これまでの高流動コンクリートで考えると、粉体量を多くするため粘性が強いという特徴が挙げられます。新しくJIS化される高流動コンクリートは、増粘剤含有高性能AE減水剤を使用しての製造が見込まれていますが、高い粘性を持つということは、ポンプ圧送時の圧力が損失されることを考慮しなくていけません。
また、分離抵抗性が高くなることでブリージング量が少なくなることも考えられます。ブリージングが少ないと、コンクリート打設後の表面が乾燥しやすくなり、ひび割れが発生しやすくなります。そのため、散水や養生剤の使用などの初期養生に配慮が必要となってきます。
さらに、流動性が高くなるということは、型枠にかかる側圧も強くなることも注意が必要な部分です。
高流動コンクリートの新たな試験方法「Jリングフロー試験」
高流動コンクリートの性能評価試験として、第一に挙げられるのがスランプフロー試験ですが、他にも間隙通過性試験、漏斗流下試験など様々な試験があります。しかし、今回のJIS化に向けて、より簡易な試験方法が採用されます。それがJリングフロー試験です。
Jリングフロー試験は通常のフロー板に、鉄筋に見立てたJリングを設置することで、流動性と同時に間隙通過性も評価する試験方法です。この試験方法により、効率良く高流動コンクリートの性能を評価することができるようになります。
実際、私自身も高流動コンクリートの出荷に関わりましたが、出荷の際の試験がフロー試験に加え2つも3つもあり、人員も必要でかつ時間もかかるなど、非常に大変な思いをしたものです。
今こそ、生コン業界が変わる時!
高流動コンクリートは、これまでの普通の生コンよりも製造側や施工側での注意点が多く存在しますが、今後の人口減少や職人不足のことを考えると、積極的に採用・推進されるものと考えられます。新しい技術の導入が苦手な生コン業界ゆえ、今回改正される高流動コンのJIS化を進める工場と、そうでない工場の二極化が進む気がします。
コンクリートを製造する側の考えとして「需要があるかどうかも分からないのに、わざわざJISを取得するのか」という意見もあるかもしれません。しかし時代の流れには逆らうことはできず、需要は確実に増えていくと考えられます。
逆に、施工者側に対して積極的に高流動コンクリートを提案できるような工場こそが生き残っていくと思います。今こそ、施工者側も工場側に要望を出すなどして、建設業界が解決すべき問題に対して関係者が一丸となって対峙しなければならないのではないでしょうか。