「CADオペ兼事務員」って何?未経験者を建設業界に誘う「転職サイトの甘い罠」
大手転職サイトを見ていると、建設業界のことを知らない素人向けに、誘惑的なキャッチコピーが踊っています。
- 街づくりの管理系事務、CADオペレーター兼事務員募集中!
- 未経験でも安心の充実研修1〜2ヶ月、その間の給料も保証!
- パソコン苦手でもOK!
- CADは技術職、身につけたら一生食べていけます!
- 女性活躍中!
景気の良い単語の羅列に、思わず転職サイトの応募ボタンをクリックしてしまう建築未経験者も多いようですが、ちょっと待って下さい!
「研修が1ヶ月以上あるし、事務職ならオフィスワークだろうし、ちょっと応募してみようかしら・・・」なんて、それは大きな見当違いです!
CADオペレーターの勤務地ってどんな場所?
まず、CADオペレーターが働く場所として、建築未経験者は、駅近のキレイなビルを想像しがちです。しかし、実際のCADオペレーターの勤務地は、雑居ビルを借り上げた事務所の時もあれば、プレハブの現場事務所の時だってあります。トイレが男女兼用の時だってあるし、冷蔵庫には冷えたビールが大量に常備されていて、急に酒盛りが始まる時もあります。
職人さんや施工管理者の方が聞けば「何当たり前のこと言ってるんだ?」と思うかもしれませんが、口当たりの良いことしか書かれていない大手転職サイトの情報を見ただけで、そこまで想像できるCADオペレーター兼事務職志望の未経験者は、ほとんどいないと思います。
CADオペレーターも「施工図作成補助」が必要
また、建築に全く関わったことがない未経験者にとっては、「建築=設計=デザイン」とここまでで連想が止まってしまう人も多いです。「施工」と聞いてもピンときません。世界的な建築家の名前は紹介されても、世界的な施工者の名前なんて紹介されませんし、当然かもしれません。建設会社の中でも、やっぱり設計部署は花形ですし・・・。
ですけど、設計を終えた時点で「はい、建物も完成!」ということはありえません。設計の後には必ず、土を掘って、杭を立てて、部材を運んでコンクリートを打って、内装仕上げて・・・という実際に建物を建てる工程があり、これを「施工」と呼びます。
そして、設計の業務は、建築業界全体の中でも、ほんの一部。設計よりも断然に仕事が多いのは、施工に関係する仕事です。転職サイトで派遣会社が募集しているCADオペレーター兼事務職も、そのほとんどが、現場事務所での勤務を必要とし、施工の知識が必要になってくるのです。つまり、CADオペレーターも将来的には「施工図の作成補助」くらいは出来るようなることが求められるというワケです。
CADオペレーターが施工図技術者を目指した理由
私は20代後半から派遣社員のCADオペレーターとして、大手住宅メーカーの設計部で働いてきました。3Dグラフィックソフトでパースやプレゼンを作り、手書きの図面をトレースし・・・多くの人が想像するような典型的なCADオペレーター業務をこなしてきました。大きな会社の設計部でしたので、忙しいけれど清潔快適なオフィスでやりがいを持って仕事をしていました。
しかし、30代になった頃から「あれ?なんかCADオペレーターの派遣の仕事がないぞ」という大きな焦りを感じるようになってきました。後々、転職した会社の研修で教えて頂いたことですが、建築の仕事は設計3割、施工7割という比率になっているそうです。
20年前ならトレーサーの仕事もあったでしょうが、今は設計者がCADで図面を書くのが当たり前。私もパースの作成はしていましたが、飛び抜けてセンスが良いわけでもないし、むしろ最近は新卒で建築の知識もあって「魅せるパース」を作れる若い子たちがどんどん入ってくるご時世です。たった3割の設計の仕事にしがみつこうとしても無理がありました。
設計図と施工図の違いって何?
「これからどうしよう・・・でも別の業種に転職しても働ける気もしないし・・・」頭を抱える私に、先輩CADオペレーターが言いました。
「施工図も描けるようになればいいじゃない?」
お恥ずかしながら、何年もCADオペレーターとして働いていたのに、私は「設計図」と「施工図」の違いさえ、よく分かっていませんでした。私にアドバイスをくれた先輩も、おそらく設計図と施工図の違いを理解していなかったと思います。
ちなみに、設計図と施工図をざっくり説明するとこんな感じです。
- 設計図:建築基準法を守るために作られる図面。大まかなデザインもここで決定される。現場から離れたキレイなオフィスで作業をすることが多い。
- 施工図:実際に建物を建てるための使用する図面。クレーンやトラックを何台、どこに配置するか考えたり、設計図通りに作業ができるか検討したりする。とにかく検討することが多く、枚数も設計図の数倍になる。現場から近い、もしくは現場の中にある事務所で図面を描く。
私は、設計図と施工図の違いも知らぬまま、そして、CADオペレーターと施工図技術者は、CADを使うことは同じですが、全く違う業務だということも知らないまま、「施工図とやらが描ければ、CADオペレーターを続けていくことができる」と考え、転職サイトの応募ボタンをクリックしたのでした。
CADオペレーターと施工図技術者の違いって何?
ちなみに、CADオペレーターと施工図技術者の違いは、こんな感じです。
- CADオペレーター:設計者の補助業務。図面の修正・トレースが主な業務。
- 施工図技術者:建物を作る工程を理解する必要がある。図面や設計基準書を読み取り検討しながら、図面を仕上げていく。自分が描いた図面がそのまま施工に反映されるため、失敗するとそのまま建築物に反映されてしまう。
CADオペレーターに比べて、施工図技術者のほうが、建築的な知識が必要になりますし、自分の描いた図面に対する責任も大きくなっていきます。熟練すればするほどメリットが大きいのも施工図技術者の仕事の特徴です。
また、熟練の施工図技術者は、長く働くことが出来ます。私の知っている施工図技術者の方は70歳になっても現役です。
施工図技術者は、事務所と現場が近ければ、自分の関わった建物が日に日に完成に近づいていく姿を見ることもできます。例えば、自分の考えたタイルの配置が実際に形になっているところを見れるなど、施工図技術者は、モノ作りが好きな人にとっては、やりがいの大きな仕事です。
施工図技術者を目指して、転職したものの・・・
さて、派遣会社での研修後、施工図技術者を目指して転職した私でしたが、勤務初日、挨拶もそこそこに上司にこんなことを言われて、私は氷つきました。
「平板載荷試験用の図面作れる?」
「支保工と臥梁図の修正お願い!」
平板載荷試験とはなんぞや?支保工って?臥梁とか聞いたことない!・・・曲がりなりにも派遣会社の3ヶ月研修で、施工と施工図について学んできましたが、まさかの10割理解不能とは!
しかしフリーズしている場合ではありません。現場事務所で沈黙することは、すなわち「それできます!」と言っているようなものです。私はとっさに叫び返しました。
「平板載荷試験が何かわかりません!支保工って仮設のことですか?臥梁って梁伏図の別名ですか?勉強不足ですみません、教えて下さい!」
面接で「施工図も分かります!」と大口を叩いて採用された私です。上司と正面に座っていた先輩技術者の唖然とした顔が今でも忘れられません。
素人同然で勘違いしたまま施工図の世界に飛び込んだ私ですが、今は苦しいながら、やりがいを持って仕事に取り組んでいます。
私と同じように勘違いと勢いで施工図作成に取り組んでいる方、飛び込みたいと思っている方、一緒に人手不足の建設業界を盛り上げていきましょう!
しかし、くれぐれも転職サイトの甘い言葉に惑わされることなく、施工図技術者(CADオペレーター)としてのキャリアパスについて、親身になって考えてくれる派遣会社に就職することをお忘れなく!