「歓喜の渦」に包まれる地球相手の仕事、それが土木だ!

クラム掘削

地球を相手に「歓喜の渦」に包まれる最高の仕事、それが土木だ!!

初めて現場代理人になったレンガ造りの橋梁架替工事

大学の土木部で橋梁工学を専攻した私は、卒業後、橋梁を得意とする建設会社に入社した。

最初に赴任した現場は、圧気ケーソン現場。2番目に赴任したケーソン下部工の現場では、一人前の土木技術者として巣立つべく技術・技能を習得するため、ある程度の責任を与えられて昼夜作業に当たった。

そして、初めて現場代理人を命じられたのが20代後半。圧気ケーソンとは若干違うが、同類の構造物の中心を機械・クラムシェルで掘るオープンケーソンの現場だった。

新人の現場代理人を襲う不安・・・

場所は九州地域の一級河川。そこに架かる橋梁の架替工事の現場責任者を任された。今の若い人は驚くかもしれないが、まだレンガ造りの架かっていた時代で、その劣化の著しい橋を架けかえる工事だった。

橋長は約403m、橋脚は5基、そのうち3基のケーソン基礎について、基礎の安定する深さまで掘削・沈下作業を行うのだが、新人の現場代理人である私に、次の様な問題が立ちはだかり、大きな不安に襲われた。

■3基のケーソン基礎を沈下するのだが、雨の多い梅雨時期には「入場禁止」の河川工事だったので、入場期間が短く、本当に約束の年度末までに工事完了できるか!?

■レンガ造りの橋梁を架け替えても「美しい河川構造物」として、構造上の耐力が得られ、河川敷の美観を保たれるのか!?


土木は「地球相手」の仕事、24時間労働で乗り切る

さらに困ったことに、沈設工事の中盤で、沈下困難にぶち当たった。

オープンケーソン工法で橋脚の沈設工事を進めていたのだが、掘れども掘れども沈下状況が見られなかったのである。先端の刃口金物を据えてクラム掘削を行っても、沈下は難しかった。今の時代では考えられないが、沈下困難に遭遇した私は、発注者からの要求を完遂するために、休日返上、24時間労働で乗り切るしかなかった。そのためには、現場に寝泊まりするのは当たり前だった。

この困難に対応するため、クレーンオペ、合図マン2名にも現場事務所に来てもらい、夜12時から柱状図・沈下図を前にお互い熱い議論を交わした。

「一生懸命掘っても、外山を呼ぶだけだ!重機足元の桟橋が危ないぞ!」

「先端の刃先をほぐそう!」

「先端の刃先をほぐすのに、H鋼をぶら下げ突矢で!」

熱い議論の末、「3日昼夜、突矢で先端の刃先の土砂を慌てずほぐそう」という納得の結論にいたった。

突矢による先端土砂ほぐし

先端抵抗土砂の除去

そして私の知り得る技術で予備に設置していた「エアー周辺送気噴出配管」でのエアー送気によって躯体周辺摩擦の低減を指示。部下にエアーコック操作を任せた。

「さあ、エアーを送るぞ!」

みんなが時間を忘れ、祈る気持ちで作業に当たった。

エアー周辺送気噴出配管

……日が昇る朝方、私たちの願いが神様に届いたのか、今まで微動だにしなかった大きなコンクリート構造物が静かに沈下すべりを始めた。

「下がれ!下がれ!」と歓喜の合唱をする私とクレーンオペたち。

周辺摩擦低減の成果で土砂との縁が切れたのか、最初はゆっくり、そしてスピードを上げ1m沈下した。再度の挑戦でエアー送気を繰り返し、目的の最終2m強の沈下。

この瞬間こそ、その境遇にいたものしか解らない、土と水(地球)を相手にする「土木の歓喜の渦」を経験した瞬間だった。この時の私たちの歓喜は、オリンピックで金メダルを獲得した喜びにも劣らないと断言できる。

この「土木の歓喜の渦」を経験したら、土木の仕事は楽しくもうやめられない。自分の苦労に地球が呼応する仕事。やみつきだ。土木を目指す若い方々には、ぜひ味わってほしい。


一人前の土木技術者は、土と水を制す

「土木の木は、水だ。土と水を制すと土木技術者として一人前だ!」

「土木の面白さは、土と水との戦いの地下構造物にある!」

――この2つの言葉は、私が橋梁会社に入社した時、先輩から叩き込まれた言葉だ。

この現場は、はじめて先輩の格言の意味を身をもって知った瞬間でもあった。

そして、土木の仕事の醍醐味は、若い頃に徹夜で苦労して手掛けたこの橋梁基礎が、今も公共の方に利用されている、という喜びである。工事に参加した全員が、この現場を通るたびに、懐かしく土木屋の静かな誇りを感じているに違いない。

結果、発注者の国に高い評価を受けた。古臭い言葉かもしれないが、若い現場監督さんには、「土木の仕事は、意を尽くせば叶う!」「みんなが心を一つにすれば叶う!」ということを教訓にしていただければ幸いである。

土木の「歓喜の渦」を体感しろ!

ちなみに、この工事のもう一つの課題「美しい河川構造物として、河川敷の美観を保てるか!?」という点は、従来のレンガ造りの橋梁の意匠を踏まえ、通常のパネル型枠の代わりにGRC型枠(GRC; Glassfiber Reinforced Cement、ガラス繊維補強モルタル製品)を適用した。

レンガ模様の化粧型枠をコンクリート2次製品業者と繰り返し試作。基礎の沈設時期に平行して、制作方法、型枠割図、組立方法、剥離防止対策などをまとめ、結果的に完成の運びとなった。

レンガ模様の化粧型枠で橋脚完成

今の時代、土木工事に取り組む方々は、肩身の狭い想いを抱いているかもしれないが、ぜひ多くの物造り志願の若者に、「土木の歓喜の渦」を体感して欲しいものだ。この記事を通じて、一人でも多くの土木技術者が生まれることに期待したい。

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土木工学科で橋梁工学を専攻。23歳で大学卒業後、一部上場ゼネコンに入社し、主に高速・橋梁下部工を担当。その後、圧気ケーソン主流の施工部署にて作業所長を25年ほど経験し、管理部門で主にVELの指導役となる。定年退職後、圧気ケーソン工事の経験を生かし、技術支援役として活動中。
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