シェアハウスとリノベーションによる不動産の新しい価値
三菱地所レジデンスがシェアハウス開発事業に本格参入した。 大手デベロッパーがシェアハウスに参入することは極めてまれだ。
シェアハウスの第一号物件として、東京都杉並区大宮の企業所有単身寮をリノベーションし、グループ初のシェアハウス「ザ・パークレックス 永福町」をオープン。シェアハウス事業は、三菱地所レジデンスが「Reビル事業」(後述)を推進するなかで、「古い社宅を有効活用したい」という企業のニーズに対する解決策としてスタートした。
「ザ・パークレックス 永福町」は、株式会社モダンアパートメントがリノベーションを手掛け、三菱地所レジデンスが一括賃借した上で、オークハウスに運営を委託する。
今回、三菱地所レジデンス、オークハウス(運営者)、モダンアパートメント(施工者)の3社の担当者に、「シェアハウスとリノベーションによる不動産の新しい価値」について聞いてきた。
三菱地所レジデンス・鶴見弘一氏に聞いた「シェアハウス開発事業の行方」
「ザ・パークレックス 永福町」の外観
「ザ・パークレックス 永福町」は、20代後半から40代をターゲットにした「ものつくり」がテーマのコンセプト型シェアハウス。
入居者同士がお互いに切磋琢磨できる仕掛けとして、1階には木工・彫金・陶芸、2階には裁縫などさまざまな創作活動ができるアトリエを設け、必要機材も用意している。
シェアハウス開発事業の動向を説明する、三菱地所レジデンスの鶴見弘一部長
三菱地所レジデンスが「Reビル事業」を開始したのは2014年。同事業では、築年数が経過した中小ビルなどを再生した上で賃貸する事業として「ザ・パークレックス」ブランドを展開している。これまでにオフィス9件、住宅2件のリノベーションを完了。あるビルでは、リノベーション前後で1.5倍の賃料を実現している。
「今後はビルに限らず、住宅にも注目していきたい。もともと独身寮の施設を有効利用しようということで、シェアハウス開発事業に参入した。今回はオークハウス社と協業しており、先に募集をかけた『ザ・パークレックス 永福町』の1階はすでに満室になっている」(鶴見部長)
シェアハウス開発事業の第2弾として、東京都豊島区駒込でも工事中。5月末に完了し、6月の初旬から運用予定。ほかにも契約締結前ではあるが、数物件で商談中だという。
Reビル事業の取り進め方法は2つある。1つ目は、オーナーから建物を借りて、リノベーションして賃貸する。2つ目は、ビルを取得して、空いている部屋をリノベーションして賃貸する。
「貸床面積を増やす方向に注力し、2020年度までに2万5,000坪を目指しています。今回のシェアハウス開発事業は伸ばしていきたい分野。社宅や社員寮を再利用したいというオーナーもいるので、今後も増えていくと確信しています」(鶴見部長)
オークハウス・山中武志会長に聞いた「健全なシェアハウス事業とは」
シェアハウス事業の健全化を訴えるオークハウスの山中武志会長
三菱地所レジデンスとタッグを組んだオークハウスは、約20年前からシェアハウス事業を開始し、現在シェアハウスの管理物件は256件、6,452室と、シェアハウス・ゲストハウスの最大手だ。東京・神奈川エリアを中心に、社員寮や一戸建て、マンションなどを多数借り上げ、ここ5年間で管理戸数は2倍と急増している。
シェアハウスと言えば、女性向けシェアハウス「かぼちゃの馬車」の破たんにより、トラブルが多い投資案件とイメージが付いた。しかしオークハウスの山中会長は、「話題のシェアハウス破綻劇については、3年前から警笛を鳴らしていた。われわれオークハウスが、日本でのシェアハウス事業の礎を築いたと自負しているので、この業界を正しい道に導くのが責務と考えている。シェアハウスを『ソーシャルレジデンス』とするのが私の役目だ。」と語る。
聞き慣れない「ソーシャルレジデンス」という言葉だが、シェアハウスをコミュニティ重視のソーシャルな場として、オークハウスが定義したものだ。「ザ・パークレックス 永福町」もコミュニティを重視している。
オークハウスの運営するシェアハウスの入居者は20代~30代が中心。男女比率はほぼ均等で、短期出張の会社員、英会話教師、専門学校生、就職のための上京者、日本語学習や留学生など日本人、外国人を問わずさまざまな利用者がいる。
モダンアパートメント吉田賀織氏に聞いた「リノベーションによる不動産の新たな価値」
モダンアパートメントの吉田賀織さん
三菱地所レジデンスの「Reビル事業」を施工の面で支えているのが、賃貸マンションやアパートのリノベーションを得意とするモダンアパートメントだ。鶴見部長からも「モダンアパートメントは、よきパートナー会社」と高い評価を得ている。
そして「ザ・パークレックス」ブランドをはじめ、ビルや社宅などのリノベーションについて、施工面の総合プロデュースを担当しているのが吉田賀織さんだ。
吉田さんは、もともと飲食店専門の設計事務所でデザイナーとして働いていたが、自分がもっと社会貢献できる業界はリノベーションであると考え、モダンアパートメントに転職した。
モダンアパートメントは、今期で12期目。渡邊勇三代表取締役がゼネコン勤務時代に、新築マンション営業を担当していた当時、賃貸マンションの空室率が増加していることに危機感を抱き、設立したリノベーション会社だ。 今あるストックをいかに有効活用するかに焦点を置いたビジネスを展開している。
「モダンアパートメントはオーナー目線が第一。リノベーションを実施する際は、10人いれば10人が気に入る部屋ではなく、10人いれば3人が強烈なファンになってくれる部屋で愛着をもってくれるようなリノベーションを心がける。無難な部屋よりもインパクトに残る部屋を目指しています。 」(吉田さん)
三菱地所レジデンスがReビル事業を開始した時から、吉田さんは「ザ・パークレックス」シリーズに携わっている。
リノベーション完成後3ヶ月以内の成約率97.8%という驚異
今や中古収益物件の空室対策として、リノベーションは必須。古くなった部屋は、入居率が低くなっていることがオーナーの大きな悩みだ。モダンアパートメントの強みは、リノベーション完成後3か月以内の成約率が、97.8%という驚異的な数字をたたき出していることだ。この秘訣は 、一体どこにあるのだろうか?
「ローコストで企画力のあるデザイン性の高いリノベーションを施すことで業界トップクラスの入居率を実現しています」(吉田さん)
吉田さんは、ただおしゃれにリノベーションするのではなく、入居率を高める視点を重視して、トータルの改善方法をオーナーに提示するスタンスだ。
オーナーからは、設計・施工前の上流のコンサルの業務から、「どうすれば入居率が高まるか」という相談が多く寄せられ、根本の問題を解決する案を提示し、これに応えてきた。
シェアハウスの一室
モダンアパートメントの渡邊代表取締役は、「収益不動産のバリューアップに特化した、企画プロデュース会社」として、同社を創業した。空室率を解消するためには、施工だけでは困難。マンションやアパートの空室率が高い要因は、賃料設定、立地などさまざまな周辺状況によるが、モダンアパートメントは総合的に改善提案を行う。
とはいえ、物件のハード面は変えられない。たとえば、駅徒歩何分とか、エレベータが設置されていない部分についてはそのままだ。しかし、部屋のソフト面や機能面をより充実させ、間取りを変化させることにより、入居率をアップすることは十分可能だという。
「今、古い物件を取り扱うことが多いですが、現在のニーズに合致していない事例が多い。たとえば、家族構成にあわない間取りは空室率が高い要因になるので、間取りを大幅に改定することが大事です。 」(吉田さん)
吉田さんはモダンアパートメントに入社当初、営業を担当。その後、現場・施工管理を含め、ワンストップサービスに対応するため、現職は総合プロデューサーという立場に。
「私は強いチームの結成を心がけています。とりわけ施工でのチーム体制を意識して日々の仕事をしています。『ザ・パークレックス』ブランドを手がける前後でも、施工メンバーに変化はあまりありません。通常の改修工事ではなく、入居率を高めるリノベーションを施工するためには、強いチームが必要です。」(吉田さん)
では、強いチームとは何なのか?
「この4年間で物件をこなし、ノウハウや使用する材料など、職人たちの知識や現場対応力が高くなっていると実感しています。ものづくりをする職人がいてこそ、私たちの仕事が成り立っていることを痛感しています。職人のおかげで素晴らしい空間ができていることを念頭におきつつ、現場管理をするうえで職人が気持ちよく仕事をする環境を整えることが第一だと考えています。事業を展開されるお客様と、職人の管理や調整が私の仕事です。 」(吉田さん)
施工チームを強化していく上で、最も重要なのは職人とのコミュニケーション。 三菱地所レジデンスが展開するシェアハウス開発事業では、デベロッパー、オペレーター会社、そして建設会社、職人などが一つのチームとして、今後も快適な住空間を追求していく。