ICTで土木はどう変わるのか?視察が相次ぐ「i-Constructionのメッカ」で語りつくす!

ICTで土木はどう変わるのか?視察が相次ぐ「i-Constructionのメッカ」で語りつくす!

建設会社の視察が相次ぐ「i-Constructionのメッカ」

徳島県牟岐町にある株式会社大竹組(戎谷一平代表取締役)は、いちはやく測量業務にICT機器を導入した先駆的な建設会社だ。

測量データをもとに3次元データを作成するなど、積極的なICT活用によって業務の効率化、人員不足の解消を実現。最近では国土交通省が進める「i-Construction」のモデルケースとして、県内外から建設会社などの視察が相次ぐ「i-Constructionのメッカ」となっている。

今回、大竹組が実際に導入しているICT機器について話し合ってもらうため、「ICT普及」のキーマンである4人のメンバーに集まっていただいた。

  • 山西公彦さん(株式会社大竹組 常務取締役)
  • 鈴木敏之さん(株式会社トプコンソキアポジショニングジャパン 取締役・営業本部長)
  • 土屋義彦さん(株式会社建設システム 常務取締役・建設ICT研究部長)
  • 生田洋巳さん(株式会社金剛 システム販売課測量機S&Sリーダー)

ICT導入により、土木の仕事はどう変わるのだろうか?

トプコン「杭ナビ(LN-100)」は、得体の知れない機器だった

施工の神様

まずは大竹組の山西常務、トプコンの「杭ナビ(LN-100)」導入の経緯を教えてください。

山西さん(大竹組)

2015年12月、トータルステーションの更新の時期が近づいていた頃、金剛の生田さんが営業に来られました。

そのときたまたま、トプコンさんのカタログの片隅に小さく載っていた「杭ナビ」の画像が目に入りました。


トプコンの「杭ナビ(LN-100)」

 

施工の神様

「杭ナビ」の第一印象は?

山西さん(大竹組)

「これなんな!?」が第一印象でした。

のぞくところのない自動追尾とはどういうものなのかに興味が湧きました。

施工の神様

導入に悩みませんでしたか?

山西さん(大竹組)

デモでターゲットを追う「杭ナビ」の動作を見て、「これはいけるな」とすぐに導入を決めました。

その後、建設システムさんのYouTube動画を見たのですが、「3次元データを使えば、こういうことができるんだ」と感銘を受けましたね。

ただ、「杭ナビ」は、杭打ちだけに使うのはもったいないんですよ。

施工の神様

…というと?

山西さん(大竹組)

トプコンさんの「杭ナビ」は、建設システムの「快測ナビ」とセットになることで、非常に活きてきます。

「杭ナビ」だけでも3次元測量はできるのですが、「快測ナビ」があれば、水準測量もできるし、路線測量、構造物測量なども、全部一人でできるようになるからです。

施工の神様

その話はあとでじっくり聞かせてもらいます!

…「杭ナビ」の販売を担当している金剛の生田さんは、「杭ナビ」の第一印象はどうでしたか?

株式会社金剛システム販売課測量機S&Sリーダー 生田洋巳さん

生田さん(金剛)

金剛は、トプコンさんのビジネスパートナー店でしたが、「杭ナビ」は当時まだ出たばかりで、私自身、得体の知れない機器という印象がありました(笑)

施工の神様

どのへんが、ナゾでしたか?

生田さん(金剛)

「測量=角度距離」というイメージがありました。

「杭ナビ」は逆に角度距離が測れないんです。

施工の神様

営業としての正直な第一印象は?

生田さん(金剛)

正直、使いモノになるの?というイメージでした(笑)

それだけ画期的だったということです。今でも似たような機能を持つ機器は、見たことないですから。

山西さん(大竹組)

確かに、のぞくところがないですからね。「測る」という行為は、「のぞく」ということだったので、従来の測量に慣れている人には違和感がありましたね。

建設システムが衝撃を受けた「杭ナビ(LN-100)」

施工の神様

「杭ナビ」を制作したトプコンさんは、販売を開始した時から「これはイケる!」という感じだったんですか?

株式会社トプコンソキアポジショニングジャパン取締役・営業本部長 鈴木敏之さん

鈴木さん(トプコン)

まったく逆でした。社内的には「こういうものを作ってみたんだが、どうだろう?」という扱いでしたね。

施工の神様

発売後の売れ行きは?

鈴木さん(トプコン)

販売開始してから、1年ぐらいはあまり売れませんでした(笑)

施工の神様

「杭ナビ」の開発経緯は?

鈴木さん(トプコン)

「杭ナビ」の開発コンセプトは、測量に伴う作業をなるべく減らす、測量機を使ったことがない人でも測量ができる機器ということで最初はスタートしました。

でも、実際に完成機ができあがったときに、トプコンの営業サイドとしては、「どうしよう?売れるんかな?」という状態でした(笑)

施工の神様

売れなそう、と?(笑)

鈴木さん(トプコン)

それがですね、徐々にお客様から「測量機が使えない人間でも、これなら使える」という反応が出てきたんです。

すると測量機を販売する側の人間からも「普通の測量機は営業できないが、これならできる」という声が上がってきました(笑)

施工の神様

売れはじめたキッカケとかあったんですか?

鈴木さん(トプコン)

建設システムさんの「快測ナビ」とか、ソフトウェアが充実してくると、そこから一気に販売が伸びましたね。

施工の神様

「快測ナビ」の話が出ましたが、建設システムの土屋さんは、「杭ナビ」の発売をどう思いましたか?

株式会社建設システム常務取締役・建設ICT研究部長 土屋義彦さん

土屋さん(建設システム)

われわれソフト開発メーカーからすると、トプコンさんの「杭ナビ」を知った瞬間、「ついに出た!」という感じでした。衝撃的でしたね。

施工の神様

どのへんが衝撃的でしたか?

土屋さん(建設システム)

スピードです。「杭ナビ」は従来の自動追尾のトータルステーションと比べて4倍のスピードで測距・測角データを返してくれるんです。

われわれが開発した「快測ナビ」には、「どこでもナビ」という機能(※横断データをリアルタイムに1mmピッチで計算)があるんですが、当時はこういったソフトウエアをつくりたいと思っていても、従来の自動追尾トータルステーションでは、スピードが追いつかないんです。

なので、ちょうど、もっと高い性能のトータルステーションが欲しいと考えていたときに、「杭ナビ」が出たんです。



「快測ナビ」のどこでもナビ機能

土屋さん(建設システム)

「杭ナビ」が出たとき、「来た!これは絶対使える!ウチが考えるシステムを実現できる」と確信しました。

建設システムの「快測ナビ」は、トプコンさんの「杭ナビ」がキッカケで、開発されたようなものです。

施工の神様

「これはイケる!」という確信があった?

土屋さん(建設システム)

ありましたね。画期的だと思いました。

従来の概念をひっくり返すような機器なので、測量を知る人には抵抗があるほどです。


i-Con現場見学会は「杭ナビ+快測ナビ」の売り込み?

施工の神様

大竹組は、最新技術をいち早く導入したわけですね?

山西さん(大竹組)

私は、変わったものを見ると、興味が湧くタチなので、ちょうど良かったんです(笑)。

大竹組ではi-Constructionの現場見学会をすでに何回か開催しましたが、ほぼ「杭ナビ」と「快測ナビ」の売り込みになるんですよ。

施工の神様

…売り込み?

山西さん(大竹組)

はい。「杭ナビ」と「快測ナビ」を使えば、どれだけ現場が変わるかという…。

トプコンさんの「杭ナビ」と建設システムさんの「快測ナビ」が合わさって、工事現場の生産性の向上が図れるんです。

土屋さん(建設システム)

そうなんです。「杭ナビ」と「快測ナビ」は組み合わせがいい。

どんなに良いソフトを作っても、それを実現可能な革新的なハードがなければダメなんです。

山西さん(大竹組)

最近、大竹組で購入したトプコンさんの自動追尾トータルステーションの最上位機種で、500万円もする世界最速マシンでも「快測ナビ」は動くんですが、ウチの若い社員は「遅い!」といって使いません。

ハッキリ言って「杭ナビ」のコストパフォーマンスは最高です。

施工の神様

「杭ナビ」の開発目的は最初、何だったんですか?

鈴木さん(トプコン)

私は営業なので、開発には関わっていないのですが、もともとは建築向けに開発したシステムでした。

「回転レーザー機器」に似たような考えで作られたシステムです。「ほぼ平らなところで使うだろう」という前提で開発されました。

山西さん(大竹組)

確かに、高低差の測角が足りないですね。

次のシステムは、もう少し高低差がとれると、ありがたいですね(笑)

鈴木さん(トプコン)

実は、最初の頃に一番導入が多かったのは、ソーラーパネルを設置する会社さんでした。測量を外注せずに、自分で測量できるということで。

ただ、建設システムさんの「快測ナビ」が出てから、ガラッと変わりましたね。建設会社の導入が増えました。

「レンズがないから測量機じゃない」という固定概念(笑)

施工の神様

i-Construcitonとは関係なく、建設会社への導入が進んでいったと?

鈴木さん(トプコン)

ええ。そもそも「杭ナビ」は、国の認定を取っている機器ではないんです。

測量機は国土地理院が何級の測量機かを認定するのですが、「杭ナビ」はそういう認定を取っていません。というのは、そもそも「レンズがない」からです(笑)

山西さん(大竹組)

固定概念に凝り固まっているんですよ(笑)

「杭ナビ」も普通の測量機もやることは同じです。同じ答えが出るのですが、レンズがないから、測量機ではないという判断なんです。

土屋さん(建設システム)

しかし「測量機ではなく計測器だ」という意味合いでは、使う人のハードルが一気に下がりましたよね。

鈴木さん(トプコン)

そうです。「杭ナビ」は、測量機ではなく、計測器なんです。パネルもありませんし…。

土屋さん(建設システム)

「杭ナビ」は完璧にソフトウエアに依存した機器なんですよね。「杭ナビ」だけでは、何もできない。

鈴木さん(トプコン)

そうです。だから、「杭ナビ」のインターフェースに関する情報は、最初からオープンでした。

山西さん(大竹組)

OSを持っていないので、基本的には空っぽの状態です。

逆に、ソフトウエアのアップデートも必要ありません。必要ないものが入っていないので、コストも安いです。

現場経験がなくても「3次元で理解できる」衝撃

土屋さん(建設システム)

われわれは「快測ナビ」を開発した際、「これはイケる!」という確信はありましたが、販売する人に理解してもらえるかについては、やはり不安がありました。

「どう売ったら良いのですか」と言われるので(笑)。だったら、「お客様に理解してもらおう」ということで、動画を作ったわけです。動画を見れば、お客様が気づくだろうと。実際、山西常務に気づいていただいたわけです(笑)

山西さん(大竹組)

食らいついてしまいました(笑)

施工の神様

動画をアップしたのはいつ?

土屋さん(建設システム)

2015年12月です。アップしてすぐ、山西常務にご覧いただいたわけです(笑)。ソフトウエアの発売はその年の9月です。

施工の神様

実際、大竹組が「杭ナビ」と「快測ナビ」を導入した成果は?

山西さん(大竹組)

土木現場の3次元化、可視化は非常に大きな課題でした。土木技術者は、自分の頭の中で現場を3次元化できないとダメだとされていました。

しかし、この「杭ナビ」があれば、3次元化された現場の状況が手に取るようにわかるんです。たとえ、現場経験がない人間でも、誰でも。

施工の神様

それでもICTを導入しない会社があるのは何故でしょう?

山西さん(大竹組)

一般に、キャリアを積んだ経営者、技術者にとって、新しいことに取り組むことは大変なことなんです。なかなか一歩が踏み出せないんです。

ましてや、何百万円の投資を伴うものだと、「うまくいかなかったらどうしよう?」という不安も生まれますし…。それらをどうやって払拭するかは、簡単なことではありませんよ。


「杭ナビ+快測ナビ」が、土木技術者1人1台の時代に?

施工の神様

大竹組さんの導入で徳島県内の導入実績が生まれました。その後、セールスは?

生田さん(金剛)

私自身の変化が大きかったです。「ああ、使えるんだ」ということがわかったからです(笑)

「杭ナビ」の価値について、逆に、山西常務にいろいろと教えていただきました。

施工の神様

大竹組の貢献度は高いですね(笑)

生田さん(金剛)

ええ、実績が生まれると、営業トークも増えますし、「これは良いものだ」と自信を持って話ができるようになりました。

現在は、数十台単位で販売しています。1社1台ではなく、1台入ると、もう1台という形で、増設されています。

施工の神様

1社1台じゃない?

土屋さん(建設システム)

建設会社には、「測量機は1台あれば済む」という考えがあり、1台の測量機をいろいろな現場で回して使うケースがほとんどでした。

それが「杭ナビ」が出てから、「現場に毎日持っていくモノ」になってしまったんです。当然、1台では足りなくなります。中には、6台持っている建設会社もあります。

山西さん(大竹組)

技術者1人に1台になっているわけです。

土屋さん(建設システム)

そうです。ウチの狙いも1人1台なんですよ。

山西さん(大竹組)

「杭ナビ+快測ナビ」は、今までの作業を一気に変えた施工ツールです。これを一度使ったらもう従来の方法には戻れなくなるんです(笑)

大竹組でも同時期に更新したトータルステーションは2人1組で操作する従来のものでしたが、今になってみれば、この2台を購入したことを後悔しています。いっそのこと「杭ナビ」をもう2台購入しておけば良かったな、と(笑)

生田さん(金剛)

今、徳島県内で「快測ナビ」と「杭ナビ」をセットで使っている建設会社さんは、「杭ナビ」導入企業の半分ぐらいですね。

3次元設計データを活用して使用されているのは、ほぼ大竹組さんだけです。

土屋さん(建設システム)

「快測ナビ」の販売ライセンス数は、販売後わずか2年半で1500を超えましたが、3次元データを含めてこんなに使いこなしている大竹組さんは全国のトップ3に入ります。

「杭ナビ+快測ナビ」の売上目標は30万ライセンス

施工の神様

「杭ナビ」の販売状況は?

鈴木さん(トプコン)

具体的な数字は出せませんが、国内で販売しているすべてのトータルステーションの年間販売数のうち、「杭ナビ」は2割程度です。

ただ、ここ3年ぐらいで急速に増えています。「杭ナビ」は、「手離れの良い機器」なんです。納入してから、使い方について、あれこれ聞かれることがほとんどないからです。

山西さん(大竹組)

電源スイッチをポンで設置できますからね。

鈴木さん(トプコン)

今後、販売比率が半分ぐらいになれば、次の開発にもつながってくると思っています。

建設業向けの測量機が、ほとんど「杭ナビ」に置き換わる状況ですね。レンタルとか。

施工の神様

販売目標は?

土屋さん(建設システム)

建設システムには、約3万5000社のユーザーさんがいらっしゃいます。技術者数は、1社平均5人として、約17万5000人と見ています。したがって、17万5000ライセンス売れると考えています(笑)。

それだけにとどまりません。「杭ナビ+快測ナビ」は、作業員の方でも使えるんです。ウチでは作業員の方も視野に入れ、約30万ライセンスをターゲットに設定しています(笑)

生田さん(金剛)

例えば、建築の床掘りでは、いまだに糸を張って作業しています。建築の分野は、いまだそんなレベルなんです。

この端末を現場に持ち込めば、ズバリはまって、ガラリと変わると思います。ビジネスチャンスはまだまだ広がると思います。

施工の神様

普通の測量機は減りますか?

鈴木さん(トプコン)

「杭ナビ」の導入が増えたからといって、普通の測量機が減ることはないと思います。

土屋さん(建設システム)

本当に使いこなしているお客様に聞くと、工事基準点設置等の測量として通常のトータルステーションが1割、後の9割は施工管理用として「杭ナビ」を使用しています。

ワンマンですぐに使えるので毎日持って行っているそうです。

山西さん(大竹組)

数百万円の機器だと、現場で丸1日立てておけません。使ったら、「早くしまえ」ということになります(笑)

鈴木さん(トプコン)

確かに、「杭ナビ」のコストパフォーマンスは最高だと思います。

施工の神様

それだけコストパフォーマンスが良いなら、もっと早く普及しそうなものですが?

土屋さん(建設システム)

180度考え方が変わる新しいモノに対しては、誰でも疑心暗鬼になるんです。多くの技術者は、今までやってきた自分のやり方が「一番正しい」と思っていますから。

実際に、われわれがお客様に提案しても、その辺はなかなか受け入れられません。新しい商品について、われわれが説明しても「だから何?」という感じの反応が多いです。

ただ、「杭ナビ」に関しては、「あ、そんなやり方があるんだ」と逆にお客様のほうが考えを変えてくれるケースが多いです。それだけ画期的ということです。

山西さん(大竹組)

3次元データまで含めてやっていない会社が多いということは、「180度完全に考え方を変えることができていない」ということでしょう。

私としては歯がゆくて仕方ないです(笑)

施工の神様

新しいモノに対するアレルギーは根深いものがあるんですね。

山西さん(大竹組)

ある建設会社の方から、「杭ナビを使えば、誰でも測量できる、という言葉は使っちゃダメですよ」と指摘されました(笑)

今までの技術を否定することになりますから…。

土屋さん(建設システム)

「杭ナビ」に限らず、新しい機器は「使いこなす」ことが大事です。

どうしても、機器に使われちゃうんですよ。ICT機器にも、そういう意味でのスキルが必要なんです。

施工の神様

土木の現場にICTを普及するには、金剛さんの営業力も必要ですね?

生田さん(金剛)

建設会社では「人が足りない」というお話をよく聞きますが、測量機器販売も同じで、人が不足しています。測量機は新人の営業マンがパッと行って、すぐに売れるものではありません。商品知識はもちろん、現場のこともよく知っていないといけないからです。

現状では、金剛の新人営業マンは、測量機のことをあまり知りません。彼らにデモ機を持たせて、営業を回らせる必要があります。

山西さん(大竹組)

買う立場からすると、営業の人が来て、ICT機器に関する知識が一つでも欠けると、すぐに「この人は当てにならん」となりますからね(笑)

北海道ではよく売れているそうですが、生田さんのような知識を持った営業マンがいっぱいいるからだそうです。ICT機器が売れるかどうかは、商社の営業マンがどれだけの知識を持って、紹介するかに大きく左右されるところがあると考えています。

売る方が疑心暗鬼では、買う方も買えませんから。

施工の神様

「杭ナビ」と「快測ナビ」を導入したことで、作業効率以外のメリットもあったのでしょうか?

山西さん(大竹組)

大竹組みたいな地方の小さな建設会社には、高専などの専門課程で土木を学んだ学生は最近特に入社してくれません。だから、その辺にいる普通の素人の方を技術者に変えていかなければなりません。

しかし、従来のように1から教育する時間がない。だったら、ICT機器を使えば、その辺を補える。結果的にですが、われわれはそういう考えに方向転換しました。


土木技術者は、常に手探りで勉強する立場に

施工の神様

建設システムさんでは、ICT機器の導入によって、建設業界の人手不足、技術不足を補うという開発目的を持っているのですか?

土屋さん(建設システム)

建設業界の方々が「午後6時に家族と夕食をとれる」ことを目指しています。これはわれわれ建設システムの使命なんです。

「午後6時に夕食をとれる」ということは、その分、余分な仕事をICTで減らすということです。

施工の神様

可能そうですか?(笑)

土屋さん(建設システム)

例えば、技術者の方々は、翌日以降のために、いろいろと計算をしなければなりません。ただ、計算は技術者の仕事ではありません。ソフトウエアの仕事です。「計算しないとバカになる」と言われますが、そうではありません。ICT化とは、半自動とか、全自動によって、自分で計算しなくて済むことです。そういう風にして仕事を減らしていくわけです。

建設システムの社長(※栗田富夫氏)は「新3K+1K」ということを良く言っています。「新3K」は「給料、休日、希望」。「1K」とは「カッコいいドボク」です。われわれは、ドボクを「カッコいい」仕事にしなければならないと考えています。

若い人が憧れるカッコいい現場を作りたいんです。「カッコいいドボク」の大きな要素がICT(ハード+アプリ)です。

山西さん(大竹組)

素晴らしいコンセプトですよね。

それを理解できない技術者がいるとすれば、「遅くまで仕事をするのが技術者だ」と美化しているからでしょう。

土屋さん(建設システム)

今の時代、そういうのはありえないですよ。そんなことを続けていると、自分がやると手を上げてくれる人がいなくなります。

大事なのは、「そういう仕事ぶりを若い技術者が見たら、どう思いますか?」という視点なんです。

施工の神様

自分の抱える仕事がやりやすくなるのに、素直に受け入れない技術者がいるのは、単純に不思議ですね。

山西さん(大竹組)

やはり固定概念にとらわれているんだと思います。従来の技術に凝り固まるより、効率的にモノを作る方法を考えることが大事でしょう。モノを作るなら、早く作る方が良く、利益にもつながりますし。ICTを使えばそれができるわけです。普通の経営者であれば、そのための手段は選ばないと思います。たとえ邪道だと言われても。

少なくとも、われわれは、常に手探りで勉強する立場を離れることはできないんです。従来の技術にこだわって、新しいものを取り入れないことに、なんの意味があるのだろうという気がします。

土屋さん(建設システム)

「杭ナビ」は、今後さらにいろいろな使い方がされると思っています。現場からドンドン、アイデアが出てくると思います。

鈴木さん(トプコン)

そうですね。現場の方に教えてもらうような使い方が出てくるでしょう。

土屋さん(建設システム)

だから、どんな使い方があるのか、現場の方々にドンドン聞いていきたいです。

山西さん(大竹組)

こういう使い方をしたいので、「ここを変えて欲しい」という話も出てくるでしょうね。

便利なモノを使いこなして利益を出せば、ICT土工は普及する

施工の神様

今後、ICT普及の課題は?

山西さん(大竹組)

今のところ、ICT用の3次元設計データの作成を1つのソフトでなんでもできるというものはないんです。

色々なソフトの良いところをかいつまみながら、データを作っているわけです。そういった意味で、3次元設計データのより効率的な作成こそがICT普及に直結します。

私が一番頑張っていただきたいのは、ソフトウエアベンダーさんですね。われわれ建設業者は、どんなソフトが開発されるのか、常にモニターしているんです。

「便利なモノを使いこなし、確実に利益を出す」。ICT普及のカギは、ココですよね。ココを目指して頑張っていただくことを期待しています。

土屋さん(建設システム)

建設システムは、単なる「顧客満足」を目指しているわけではなく、その上の「顧客感動」を目指しています。顧客感動とは、例えば、お客様の「ええっ!マジ!すごい」という言葉です。

そのためには、従来の方法を180度変えるような商品開発が必要になります。もちろんお客様の期待の声は調査しますが、その上の期待を超えるモノを作らなければいけません。既存のモノを多少変える程度では、何も変わらないので、到底午後6時に帰ることはできません。

施工の神様

ソフト開発に際し、土木的な知識などについて、どのようにフィードバックしているのですか?

土屋さん(建設システム)

建設システムには、1級土木施工管理技士が10名います。土木教育室には30年のベテランの技術者もいます。それらの知識ノウハウをベースに、お客様にヒアリングした上で開発しています。

ただ、期待を超えるソフト開発は机上のみではできません。私たちは想定することできますが、本当の答えは現場にしかありません。そのためには何度でも現場に足を運びます。

鈴木さん(トプコン)

昔と明らかに違うのは、トプコン1社ですべてを提供することはできなくなっていることです。いろいろな会社さんと組んで、初めて、良いものを開発することができるようになっています。ICTをもっと普及させるためには、機器の操作をもっと簡単にしないといけません。

ただ、操作を簡単にするのは、トプコンだけではできません。多くのみなさんと組みながらやっていかないと、これ以上の普及は難しいと思っています。現場の方々からいろいろとお話を聞きながら、今後とも取り組んでいきたいと考えています。

施工の神様

現場からのフィードバックも、ICT普及に不可欠ですね?

鈴木さん(トプコン)

トプコンのようなハードメーカーは、モノを作って、出して、ハイ終わりというところがあります。それではダメだと思っています。

とは言え、日本だけを見て、モノづくりはできません。会社として、i-Constructionだからと言って、日本でしか通用しないモノは作れないわけです。アメリカ、ヨーロッパ、アジアでのものづくりもあるからです。そのギャップをどう埋めるかとなると、やはりソフトウエアの方で補っていくしかありません。

今年4月から、i-Constructionの「TS等光波方式を用いた出来形要領(土工編)」では、「杭ナビ」のような望遠鏡がないものも利用可能になっています。望遠鏡が搭載されていないTS等光波方式でも、精度確認試験を行うことで、出来形管理に使うことができるのが特長です。こちらの普及にも力を入れていきたいところです。

この記事のコメントを見る

この記事をSNSでシェア

こちらも合わせてどうぞ!
非公開: 素人でも測量設計できる!大竹組が明かす「ICTの威力」とは?
非公開: 「中島みゆきが大好き」「ネクタイが大嫌い」土木作業員あるある10連発
BIMを活用したいけれど、どうすればいい? アウトソーシングや人材派遣で解決しよう
デキる「けんせつ小町」は女子力も高い?イイ女性現場監督の必須条件!
【クイズ】マニアックな土木偉人14名。あなたは何人知ってる?
「私は初めての女性部下」女性現場監督(24歳)が告白する“面倒な先輩監督”の攻略方法
基本的には従順ですが、たまに噛みつきます。
モバイルバージョンを終了