建設会社の視察が相次ぐ「i-Constructionのメッカ」
徳島県牟岐町にある株式会社大竹組(戎谷一平代表取締役)は、いちはやく測量業務にICT機器を導入した先駆的な建設会社だ。
測量データをもとに3次元データを作成するなど、積極的なICT活用によって業務の効率化、人員不足の解消を実現。最近では国土交通省が進める「i-Construction」のモデルケースとして、県内外から建設会社などの視察が相次ぐ「i-Constructionのメッカ」となっている。
今回、大竹組が実際に導入しているICT機器について話し合ってもらうため、「ICT普及」のキーマンである4人のメンバーに集まっていただいた。
- 山西公彦さん(株式会社大竹組 常務取締役)
- 鈴木敏之さん(株式会社トプコンソキアポジショニングジャパン 取締役・営業本部長)
- 土屋義彦さん(株式会社建設システム 常務取締役・建設ICT研究部長)
- 生田洋巳さん(株式会社金剛 システム販売課測量機S&Sリーダー)
ICT導入により、土木の仕事はどう変わるのだろうか?
トプコン「杭ナビ(LN-100)」は、得体の知れない機器だった
施工の神様
山西さん(大竹組)
2015年12月、トータルステーションの更新の時期が近づいていた頃、金剛の生田さんが営業に来られました。
そのときたまたま、トプコンさんのカタログの片隅に小さく載っていた「杭ナビ」の画像が目に入りました。
施工の神様
山西さん(大竹組)
のぞくところのない自動追尾とはどういうものなのかに興味が湧きました。
施工の神様
山西さん(大竹組)
その後、建設システムさんのYouTube動画を見たのですが、「3次元データを使えば、こういうことができるんだ」と感銘を受けましたね。
ただ、「杭ナビ」は、杭打ちだけに使うのはもったいないんですよ。
施工の神様
山西さん(大竹組)
「杭ナビ」だけでも3次元測量はできるのですが、「快測ナビ」があれば、水準測量もできるし、路線測量、構造物測量なども、全部一人でできるようになるからです。
施工の神様
…「杭ナビ」の販売を担当している金剛の生田さんは、「杭ナビ」の第一印象はどうでしたか?
株式会社金剛システム販売課測量機S&Sリーダー 生田洋巳さん
生田さん(金剛)
施工の神様
生田さん(金剛)
「杭ナビ」は逆に角度距離が測れないんです。
施工の神様
生田さん(金剛)
それだけ画期的だったということです。今でも似たような機能を持つ機器は、見たことないですから。
山西さん(大竹組)
建設システムが衝撃を受けた「杭ナビ(LN-100)」
施工の神様
株式会社トプコンソキアポジショニングジャパン取締役・営業本部長 鈴木敏之さん
鈴木さん(トプコン)
施工の神様
鈴木さん(トプコン)
施工の神様
鈴木さん(トプコン)
でも、実際に完成機ができあがったときに、トプコンの営業サイドとしては、「どうしよう?売れるんかな?」という状態でした(笑)
施工の神様
鈴木さん(トプコン)
すると測量機を販売する側の人間からも「普通の測量機は営業できないが、これならできる」という声が上がってきました(笑)
施工の神様
鈴木さん(トプコン)
施工の神様
株式会社建設システム常務取締役・建設ICT研究部長 土屋義彦さん
土屋さん(建設システム)
施工の神様
土屋さん(建設システム)
われわれが開発した「快測ナビ」には、「どこでもナビ」という機能(※横断データをリアルタイムに1mmピッチで計算)があるんですが、当時はこういったソフトウエアをつくりたいと思っていても、従来の自動追尾トータルステーションでは、スピードが追いつかないんです。
なので、ちょうど、もっと高い性能のトータルステーションが欲しいと考えていたときに、「杭ナビ」が出たんです。
「快測ナビ」のどこでもナビ機能
土屋さん(建設システム)
建設システムの「快測ナビ」は、トプコンさんの「杭ナビ」がキッカケで、開発されたようなものです。
施工の神様
土屋さん(建設システム)
従来の概念をひっくり返すような機器なので、測量を知る人には抵抗があるほどです。
i-Con現場見学会は「杭ナビ+快測ナビ」の売り込み?
施工の神様
山西さん(大竹組)
大竹組ではi-Constructionの現場見学会をすでに何回か開催しましたが、ほぼ「杭ナビ」と「快測ナビ」の売り込みになるんですよ。
施工の神様
山西さん(大竹組)
トプコンさんの「杭ナビ」と建設システムさんの「快測ナビ」が合わさって、工事現場の生産性の向上が図れるんです。
土屋さん(建設システム)
どんなに良いソフトを作っても、それを実現可能な革新的なハードがなければダメなんです。
山西さん(大竹組)
ハッキリ言って「杭ナビ」のコストパフォーマンスは最高です。
施工の神様
鈴木さん(トプコン)
「回転レーザー機器」に似たような考えで作られたシステムです。「ほぼ平らなところで使うだろう」という前提で開発されました。
山西さん(大竹組)
次のシステムは、もう少し高低差がとれると、ありがたいですね(笑)
鈴木さん(トプコン)
ただ、建設システムさんの「快測ナビ」が出てから、ガラッと変わりましたね。建設会社の導入が増えました。
「レンズがないから測量機じゃない」という固定概念(笑)
施工の神様
鈴木さん(トプコン)
測量機は国土地理院が何級の測量機かを認定するのですが、「杭ナビ」はそういう認定を取っていません。というのは、そもそも「レンズがない」からです(笑)
山西さん(大竹組)
「杭ナビ」も普通の測量機もやることは同じです。同じ答えが出るのですが、レンズがないから、測量機ではないという判断なんです。
土屋さん(建設システム)
鈴木さん(トプコン)
土屋さん(建設システム)
鈴木さん(トプコン)
山西さん(大竹組)
逆に、ソフトウエアのアップデートも必要ありません。必要ないものが入っていないので、コストも安いです。
現場経験がなくても「3次元で理解できる」衝撃
土屋さん(建設システム)
「どう売ったら良いのですか」と言われるので(笑)。だったら、「お客様に理解してもらおう」ということで、動画を作ったわけです。動画を見れば、お客様が気づくだろうと。実際、山西常務に気づいていただいたわけです(笑)
山西さん(大竹組)
施工の神様
土屋さん(建設システム)
施工の神様
山西さん(大竹組)
しかし、この「杭ナビ」があれば、3次元化された現場の状況が手に取るようにわかるんです。たとえ、現場経験がない人間でも、誰でも。
施工の神様
山西さん(大竹組)
ましてや、何百万円の投資を伴うものだと、「うまくいかなかったらどうしよう?」という不安も生まれますし…。それらをどうやって払拭するかは、簡単なことではありませんよ。
「杭ナビ+快測ナビ」が、土木技術者1人1台の時代に?
施工の神様
生田さん(金剛)
「杭ナビ」の価値について、逆に、山西常務にいろいろと教えていただきました。
施工の神様
生田さん(金剛)
現在は、数十台単位で販売しています。1社1台ではなく、1台入ると、もう1台という形で、増設されています。
施工の神様
土屋さん(建設システム)
それが「杭ナビ」が出てから、「現場に毎日持っていくモノ」になってしまったんです。当然、1台では足りなくなります。中には、6台持っている建設会社もあります。
山西さん(大竹組)
土屋さん(建設システム)
山西さん(大竹組)
大竹組でも同時期に更新したトータルステーションは2人1組で操作する従来のものでしたが、今になってみれば、この2台を購入したことを後悔しています。いっそのこと「杭ナビ」をもう2台購入しておけば良かったな、と(笑)
生田さん(金剛)
3次元設計データを活用して使用されているのは、ほぼ大竹組さんだけです。
土屋さん(建設システム)
「杭ナビ+快測ナビ」の売上目標は30万ライセンス
施工の神様
鈴木さん(トプコン)
ただ、ここ3年ぐらいで急速に増えています。「杭ナビ」は、「手離れの良い機器」なんです。納入してから、使い方について、あれこれ聞かれることがほとんどないからです。
山西さん(大竹組)
鈴木さん(トプコン)
建設業向けの測量機が、ほとんど「杭ナビ」に置き換わる状況ですね。レンタルとか。
施工の神様
土屋さん(建設システム)
それだけにとどまりません。「杭ナビ+快測ナビ」は、作業員の方でも使えるんです。ウチでは作業員の方も視野に入れ、約30万ライセンスをターゲットに設定しています(笑)
生田さん(金剛)
この端末を現場に持ち込めば、ズバリはまって、ガラリと変わると思います。ビジネスチャンスはまだまだ広がると思います。
施工の神様
鈴木さん(トプコン)
土屋さん(建設システム)
ワンマンですぐに使えるので毎日持って行っているそうです。
山西さん(大竹組)
鈴木さん(トプコン)
施工の神様
土屋さん(建設システム)
実際に、われわれがお客様に提案しても、その辺はなかなか受け入れられません。新しい商品について、われわれが説明しても「だから何?」という感じの反応が多いです。
ただ、「杭ナビ」に関しては、「あ、そんなやり方があるんだ」と逆にお客様のほうが考えを変えてくれるケースが多いです。それだけ画期的ということです。
山西さん(大竹組)
私としては歯がゆくて仕方ないです(笑)
施工の神様
山西さん(大竹組)
今までの技術を否定することになりますから…。
土屋さん(建設システム)
どうしても、機器に使われちゃうんですよ。ICT機器にも、そういう意味でのスキルが必要なんです。
施工の神様
生田さん(金剛)
現状では、金剛の新人営業マンは、測量機のことをあまり知りません。彼らにデモ機を持たせて、営業を回らせる必要があります。
山西さん(大竹組)
北海道ではよく売れているそうですが、生田さんのような知識を持った営業マンがいっぱいいるからだそうです。ICT機器が売れるかどうかは、商社の営業マンがどれだけの知識を持って、紹介するかに大きく左右されるところがあると考えています。
売る方が疑心暗鬼では、買う方も買えませんから。
施工の神様
山西さん(大竹組)
しかし、従来のように1から教育する時間がない。だったら、ICT機器を使えば、その辺を補える。結果的にですが、われわれはそういう考えに方向転換しました。
土木技術者は、常に手探りで勉強する立場に
施工の神様
土屋さん(建設システム)
「午後6時に夕食をとれる」ということは、その分、余分な仕事をICTで減らすということです。
施工の神様
土屋さん(建設システム)
建設システムの社長(※栗田富夫氏)は「新3K+1K」ということを良く言っています。「新3K」は「給料、休日、希望」。「1K」とは「カッコいいドボク」です。われわれは、ドボクを「カッコいい」仕事にしなければならないと考えています。
若い人が憧れるカッコいい現場を作りたいんです。「カッコいいドボク」の大きな要素がICT(ハード+アプリ)です。
山西さん(大竹組)
それを理解できない技術者がいるとすれば、「遅くまで仕事をするのが技術者だ」と美化しているからでしょう。
土屋さん(建設システム)
大事なのは、「そういう仕事ぶりを若い技術者が見たら、どう思いますか?」という視点なんです。
施工の神様
山西さん(大竹組)
少なくとも、われわれは、常に手探りで勉強する立場を離れることはできないんです。従来の技術にこだわって、新しいものを取り入れないことに、なんの意味があるのだろうという気がします。
土屋さん(建設システム)
鈴木さん(トプコン)
土屋さん(建設システム)
山西さん(大竹組)
便利なモノを使いこなして利益を出せば、ICT土工は普及する
施工の神様
山西さん(大竹組)
色々なソフトの良いところをかいつまみながら、データを作っているわけです。そういった意味で、3次元設計データのより効率的な作成こそがICT普及に直結します。
私が一番頑張っていただきたいのは、ソフトウエアベンダーさんですね。われわれ建設業者は、どんなソフトが開発されるのか、常にモニターしているんです。
「便利なモノを使いこなし、確実に利益を出す」。ICT普及のカギは、ココですよね。ココを目指して頑張っていただくことを期待しています。
土屋さん(建設システム)
そのためには、従来の方法を180度変えるような商品開発が必要になります。もちろんお客様の期待の声は調査しますが、その上の期待を超えるモノを作らなければいけません。既存のモノを多少変える程度では、何も変わらないので、到底午後6時に帰ることはできません。
施工の神様
土屋さん(建設システム)
ただ、期待を超えるソフト開発は机上のみではできません。私たちは想定することできますが、本当の答えは現場にしかありません。そのためには何度でも現場に足を運びます。
鈴木さん(トプコン)
ただ、操作を簡単にするのは、トプコンだけではできません。多くのみなさんと組みながらやっていかないと、これ以上の普及は難しいと思っています。現場の方々からいろいろとお話を聞きながら、今後とも取り組んでいきたいと考えています。
施工の神様
鈴木さん(トプコン)
とは言え、日本だけを見て、モノづくりはできません。会社として、i-Constructionだからと言って、日本でしか通用しないモノは作れないわけです。アメリカ、ヨーロッパ、アジアでのものづくりもあるからです。そのギャップをどう埋めるかとなると、やはりソフトウエアの方で補っていくしかありません。
今年4月から、i-Constructionの「TS等光波方式を用いた出来形要領(土工編)」では、「杭ナビ」のような望遠鏡がないものも利用可能になっています。望遠鏡が搭載されていないTS等光波方式でも、精度確認試験を行うことで、出来形管理に使うことができるのが特長です。こちらの普及にも力を入れていきたいところです。