日本と海外のクレーンオペレーターの実力差
私は現在、アフリカで施工管理を担当しているが、そこで使用している重機は、ほとんどが日本の中古品だ。車体に「〇〇建設」「〇〇組」と日本語で書かれたままの旧式の重機をよく使っている。
日本の重機オペは運転が優しいので、古くても傷みが少ないらしい。
たしかに海外のクレーンオペレーターを見ると、日本より操作がかなり粗雑である。
驚くほど優秀なクレーンオペレーター
私は海外の現場で日本製のクレーンを見るたび、あるいはクレーンオペレーターの大味な操縦を見るたび、ある職人さんを思い出さずにはいられない。
クレーンオペレーターKさんだ。
クレーンを巧みに操るKさんと、外国のクレーンオペレーターを比べると、申し訳ないが「月とスッポンだな!」と感じてしまう。
私がKさんと出会ったのは、日本のある工事現場だった。
Kさんの操縦するクレーンはいつも、先端フックや楊重する吊り荷が指示されたところに「ピタッ!ピタッ!」と止まる。
ブームが動くスピードも異様に速い。それでいて吊り荷がピタッと止まる。
今までこんなにも操縦が上手いクレーンオペレーターを見たことがなかった私は、Kさんの存在が気になりだした。
クレーンオペレーターの異様なこだわり
ある日、私は昼時を狙って、挨拶代わりの缶コーヒーを持って、Kさんのもとへ向かった。
Kさんは私の不躾な質問にも嫌な顔ひとつせず、クレーンオペレーターとしての持論や技術について余すことなく話してくれた。
「クレーンをゆっくり移動させるだけなら、誰でもできる。常にクレーンの回転速度とブームの長さを最適な状態にして、機械に一番負担の少ない状況で運転するのがプロだ」
「クレーンをピタッと止めるためには、慣性を殺す速度調節のタイミングが大切だ」
さらに、
「ちょっとした工夫で、機械の消耗や燃費が全然違ってくる。それに気付いてから、記録を取るのが日課になってね」
と、細かくクレーンの操作について記録された手帳を私に見せてくれた。
まだ若かった私は、こんなプロ意識を持ったクレーンオペレーターが存在することに度肝を抜かれた。
クレーンオペレーターへの合図の出し方
当時の私にとって一番ありがたかったのは、クレーンオペレーターに送るサインの出し方やコツをKさんが教えてくれたことだった。
「細かいサインは色々あるが、どんなに離れていても、必ず目を見て合図をするのが鉄則だ」
「大きくゆっくり自信を持ってサインを一発で伝えろ」
「気の合ったクレーンオペと、合図の出し手が揃えば、2人で何でもできる」
Kさんは熱く語った。
やがて私は「Kさんと組んで仕事がしてみたい」と思うようになった。
クレーンオペレーターの指示係に
玉掛の資格を持っていたし、生意気だった私は「クレーンオペさんの指示係をさせてもらいたい」と現場所長に直接頼みこんだ。
そして現場所長から楊重の一切を任されることになった。
すると「無線は使うな!合図だけでやってみろ!」とKさん。
必ず目を見て合図をする、大きくゆっくりサインを一発で伝える、というKさんのアドバイス通りに実践することで、最初はぎこちなかった不慣れな合図も、しっかり通じるようになった。
その後、別のオペさんと組むこともあったが、Kさんの技術との差は歴然で、全ての動きが一発で決まらず、イライラした。
優秀な職人と付き合おう
しかし、Kさんには秘密があった。
運転室のレバーやスイッチを改造していたのだ。
「内緒だぞ!」と言いながら、既成の部品を外し、自分の手や指先にピッタリ来るものを取り付けていることを教えてくれた。
私にはクレーンの運転は出来ないので、改造することで得られる微妙な差は分からないが、Kさんの技術を支える強烈なこだわりだった。今どきの会社なら、きっと大問題だろう。
・・・若い施工管理技士の方は、クレーンオペレーターに限らず、優秀な職人さんを見つけたら、勇気を出して声を掛けてみてほしい。
職人直伝のノウハウは、建設現場で働く技術者にとって、何にも代えがたい財産となるし、アクセントの効いた「思い出」にもなるはずだから。