零細事業者の親方から見た「ブルーカラーの税率」と「建築職人不足」

零細事業者の親方から見た「ブルーカラーの税率」と「建築職人不足」問題

全国出張が宿命の建築職人

零細事業者の親方目線から、建築の職人不足の問題について書きたいと思います。

まず、私たちのような曳家職人や宮大工など、建築業の中でもさらにニッチな職人の場合、会社から半径2時間以内の距離の現場ばかりでは受注高が足りません。そのため県外出張せざるを得ないのが実情です。このハードルが、職人離れに一役買っています。

例えば、私の故郷、高知県の肉体労働者のほとんどは、県外に出ることを極端に嫌います。

「休日に子どもとサッカー出来なくなる」

「長期間、友だちや彼女に逢えなくなるのが辛い」

——確かに、子どもとサッカーをする時間は、素晴らしい思い出となるかも知れません。しかし、県外に出ないと家族に貧しく惨めな思いをさせることになります。そんなことでは、週3回は代行ドライバーとして出向き、客がつかないまま帰る日もある、暗澹たる日々を送らなくてはなりません。

親から特別に財産を引き継いでいる人を除き、何かを得るためには何かに耐えなくてはなりません。しかし、なかなか全国行脚する生活を受け入れられる方は少ないのが現実です。

そして、仮に全国出張を受け入れられたとしても、建築職人として生きていくためには、さらなるハードルが立ち塞がります。


建築職人の全国出張と共同生活

建築職人の担い手不足に拍車をかけるのが、宿泊という問題です。

具体的には、弊社の場合、滞在1ヶ月を越える現場では、マンスリーマンションでの共同生活となります。自炊出来るので食費は切り詰められますし、お日さまで乾かした洗濯物を着ることも出来ますが、職人同士の同居生活に参ってくる人が出てきます。

世間一般の方々は、大手企業のサラリーマンや公務員などといったスーツ族の方々が、ルートインクラスの個室ホテルに泊まることは認めますが、建築職人に対しては厳しい条件が当然だと思っています。

建築現場とは別に、こうしたキツい環境面に馴染めず辞めてゆく職人の卵が少なくありません。

雇用される側の権利と小さな親方の苦悩

そして次に、雇用の条件面です。私のような小さな親方が新規雇用をしようとすると、社会保険や退職金などの保証面について必ず言及されます。

正直、上記のような環境の中、勤め始めて1ヶ月未満で辞める人も少なくないため、社会保険などは大変な手間と出費のリスクとなります。

勤務する側の権利ばかり優先されていて、雇用する側としては「事務経費やある程度のロスに耐えられないなら新人を雇うな」と言われているように思います。

こう考えると、小さな親方は縁故や知人の紹介、強い気持ちで曳家職人になりたい!というような、大変狭い範囲で新規雇用が出来なければ高齢化が進むのみです。

手をこまねいていると、技術伝承も途絶えてしまいます。


ブルーカラーの税率を下げるカナダ方式

しかし、解決策はあると考えています。

カナダのようにブルーカラーに対する税率を下げることです。さらに技術面、倫理面など、社会への貢献度に併せて、優遇条件をランクアップすれば、より良い職人が増えてゆくと思います。

親方業は楽ではありません。現場仕事以外にも色々とクールな判断をしなくてはならない時があります。

以前、旅先で作業員の一人がインフルエンザにかかったことがありました。彼はそれでも病院に行かず、部屋にこもっていました。共同生活で職人全員にインフルエンザが伝染してしまうと、仕事に支障が出てきます。

親方は日頃から体調管理に気をつけて健常に働いてくれている方たちの健康と賃金を守らなくてはなりません。全員に良い顔を見せていては、この「旅」は守れません。時には病にかかった人間に部屋から出て行くよう命じなければならないこともあるのです。

建築職人のスーパースター

私は零細事業者の親方として、建築職人の担い手不足の問題は、雇用される若者側だけに目を向けた対策では解決できないのではないかと思っています。

職人不足を補うために海外の労働力をあてにしたり、技術力のいらないフランチャイズに転換しようとしたりする経営者も少なくありません。世間は高級鮨店の板前さんの技術は高く評価するのに、建築職人に対しての評価は昭和初期と変わらない部分が多いと思います。

だから、誰かスターが出なくてなりません。中国カンフーがグローバルスタンダードになったのは、ブルース・リーというスーパースターが飛び出したからだと思います。

自分は曳家界のブルース・リーを目指して頑張ります!

※編集部注:テレビ、新聞、雑誌で活躍する曳家職人、岡本親方がついに単行本を出しました。ぜひ、ご一読ください。

ピックアップコメント

ありがとうございます。実は、こうした問題の改善を目指して、衆議院会館まで行ったこともあります(馬鹿)その時にお逢いした官僚の方は「一職人の方とお会いしたのは初めてです。勉強させてください」と言ってくださってたんですが・・メールもフェードアウトしました。なので世論を盛り上げてゆくしかないかな~~。と「スーパースター」になる必要を考えるようなりました。雑誌とかテレビはある程度、登場させていただいたんで・・次はコメンテーターとして職人の立場を語るみたいなこともしてゆければな~などとぼんやり考えています。思うだけでは駄目ですよね。行動しなくては!!

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曳家岡本の二代目。日本屈指の曳家職人。テレビ出演は「真相報道バンキシャ」「心ゆさぶれ先輩rock you」「ウェークアップぷらす」など多数。漫画化もされており、雑誌「週刊漫画Times」で連載中の「解体屋ゲン」にもセミレギュラーで実名登場。
自分では「日本一小心者な曳家」だと思っているが、ある建築家からは「蚤の心臓」と呼ばれている。しかし、自分が凄いのではなく、かつて昭和南海大地震や伊勢湾台風から復興するための技術として栄えた高知県(土佐派の曳家)の技術が自分の身体に残っているだけである。
東日本大震災の直後に千葉県浦安市対策本部の招聘されて上京。近年は全国の社寺・古民家修復を中心に手掛けている。
曳家岡本HP ⇒ http://hikiyaokamoto.com
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