「失敗は成功のもと」の言葉を信じ、重ねに重ねた失敗の数々
私がキズ補修のお仕事をしていて感じたことは、毎回新鮮な気づきや発見があると同時に、失敗を繰り返しながらも、だんだん成功の数を増やしていく探究心、及び追求心が自分の成長につながっているということです。
私は、自分には何もない空っぽな人間だということがコンプレックスなので、そういった意味でも技術の向上は自尊心を保つことに繋がっていました。
「失敗は成功のもと」という言葉を心において、恐れずに数々の失敗を量産してきました。キズ補修は基本的にはリカバリーできるのものなので、失敗しても引きずらないようにしていました。もちろん、反省はして次にしっかり活かします。
これまでに私がやってきた失敗の、ほんの一例をご紹介します。
- 色味が何度やっても気に入らなくて、ひとつのキズに何時間もかけてしまった
- 最初のキズよりも大きくしてしまった
- 仕上げのスプレーで全てを台無しにしてしまった
- 道具を落として床をへこませた
- ドライヤーに髪を巻き込んで助けてもらった
- カッターで手指を切った
- コテで火傷した
- 脚立や階段から落ちた
- 収納の枕棚に乗って降りられなくなった
キズ補修職人として大事なのは、失敗をしたとしても、どんなものでも直せるんだという心意気です。自分を安心させてあげて、心に余裕を持つことで、意外と簡単に直すことができたりします。
また、自分の手には負えないなと思ったら速攻で見切ることも大事です。まず自分にできるものから終わらせ、最後にもういちど挑戦する。時間を置くことで、前に気づかなかったことに気づき、それをきっかけにうまくいくときがあったりします。
そして、最後どうしてもだめそうなら助けを呼びます。
「ここまではやったけど、ここから先がうまくいかなかった」と、まず自分にはやれるだけのことはやったとアピールします。そして絶対に技術を盗んでやるんだ、という心構えでお手本を見せてもらいます。
アドバイスは人によって違いますが、最終的に綺麗になっていればいいので、最初は真似をして、だんだん自分のやりやすいように改良し、最終的には自分の技術にしていきました。
このように、当時は数々の失敗を重ね、技術を盗み、スキル向上に勤しむ日々を過ごしていました。できる限り失敗は引きずらないように心掛けている私でしたが、未だに消化しきれていない失敗談が、この頃誕生します。
戻れるものなら戻りたい。忘れられない失敗
基本的に私たちは施主様が入居される前に現場に入るので、施主様とお会いすることは稀なことですが、アフターというものがあります。
アフターは、入居後に施主様が気になったキズを補修することです。私たちが見逃してしまったキズや、入居後に付いてしまったキズを補修します。なので、数は少なめです。
以前アフターでお伺いした現場は、ダークグレーを基調とした大きなお家で、大きなワンちゃんもいました。とても人懐っこく、自分から挨拶に来てくれて、作業中も何度も覗きにきては、都度奥様に連れ戻されていました。ご家族も明るく、笑顔溢れる家庭といった印象のお家でした。
たしかキズは数か所ほどで、私の担当は階段の踏み板のカドの毛羽立ちが気になるのでどうにかしてほしい、というものでした。
そこで私はなにを思ったのか、毛羽立ちだけを取り除いて、周りの階段と同じように少し色を乗せれば良いだけなのに、カドを削って丸くしてしまったのです(毛羽立っていた一段だけカドが少し丸みを帯びている状態)。
「あ、丸くなってる、、」仕上がりを見た奥様がおっしゃいました。
「あ、やらかしたな。。」と、奥様の微妙な顔つきでやっと気がつきました。
その後やり直しの要求もなく(言いづらいですよね)、コミュ障が災いし自分からも言いだせず、後ろ髪を引かれる思いでそのお家を去りました。
今でも思い出すと胸が締め付けられます。言い出せなかったこと、なにより、自信を持ってお見せしたこと。恥ずかしくて自分に腹が立ってしょうがないです。やり直せるなら過去に戻ってやり直したい、、。このことは私の中で忘れられない出来事となりました。
親方から見て不自然ではなかったようですが、ふとした瞬間に思い出しては、申し訳ない気持ちと、今後は二度と同じ失敗をしないという確固たる決意をして、自分を鼓舞していました。