土木一筋40年のベテラン 大﨑真補(おおさき・しんすけ)さん

土木一筋40年のベテラン 大﨑真補(おおさき・しんすけ)さん

現場監督の魅力は「ものづくり」に尽きる!土木一筋40年のベテランが語る

現場監督の魅力は「ものづくり」に尽きる

大﨑真補さんは、ミタニ建設工業株式会社(本社:高知市)に入社以来、公共土木を中心に現場一筋40年のキャリアを持つベテラン現場監督だ。

いかにも現場監督らしい、人を包み込むオーラを漂わせる人だという印象を持った。

「これは良い話が聞けそうだ」という予感を抱きつつ、土木の魅力、現場監督のやりがい、苦労話などについて、話を聞いてきた。

大﨑さんが仕切る橋梁下部工の現場


発注者との協議に追われ、「現場事務職員」のような日々

――今の現場は順調ですか?

大﨑 今やっている橋脚下部工の現場は、当初の工期は今年1月から8月末でしたが、着手したのは3月でした。工事の中止もあったので、完成時期は大幅にのびています。

工期が延びた原因は、用地などの補償問題が済んでいなかったことが主な原因です。発注段階でしっかりした設計ができていれば、このようなことにはならないのでしょうが、とにかく修正協議が多いですね。

それと、周辺への配慮として、稲作期間中は農業用水路の水を切ることができず、用水に影響する工事などは収穫を終えるのを待ってからとなり、着手できたのは、当初契約工期後の9月からでした。

――大変ですね。

大﨑 発注者との修正協議は、「いつものこと」のようになっています。発注者とは、工事が始まる前に、図面や用地・支障物件などに関する協議を行い、問題点の洗い出しなど事前に一通りのことを取り決めておくのですが、この現場は広範囲で、工区内を横断する道路・水路が10箇所あるので、そういった取り決めの協議数は完成までには50項目を軽く超えそうです。

計画段階当初にもう少し時間を掛けて事前協議を進め、計画確定後工事発注すれば、現場サイドとしては、もっと「ものづくり」に集中できるのですが。

現状では、契約図書にはない、または現地との不一致などによる不具合が発生した場合、現場踏査・測量し、仕様書に基づき比較検討計画書(案)を作成したものを協議書として上げます。発注者は、その内容が良ければ、それを指示書として、契約図書とする流れです。

そういう仕事がとにかく多いので、「ものづくり」より「かみづくり」に終始追われ、現場監督と言うより「現場事務職員」という感じです(泣)

――実際のところ、「働き方改革」は掛け声だけですね。

大﨑 現場がわからないと、書類もつくれません。それがボクらの仕事なのは理解していますが、若い子を育てる時間が取れないという悩みがあります。発注者との協議が苦痛で、会社を辞める子もいました。

ボクは「ものづくり」が好きなので、その辺は苦になりませんが、苦に感じる子はいます。これまでにも工事が終わるたび、「工事発注以前に処理できる協議関係は、事前に済まして欲しい」などの改善要求しているのですが、一向に改善されません(怒)

――実に無責任な話ですね。

大﨑 例えば、新たな河川追加工事の依頼があるとします。受注者としては、工事計画を立て、発注者に「こういう流れで施工します」という提案を上げると、発注担当者から「地元自治体と河川管理事務所と協議をする必要があるので、協議書を作成してもらいたい」と依頼されるわけです。

協議自体は、発注者が申請者となるので、本来は発注者がつくるべき書類と思ってはいても、昔からの「受け負け」の風潮もあり、忖度していますね。コンサルティング費用をいただけるのならば、張り切ってやりますけど(笑)、霞ヶ関から「働き方改革」を謳う前に、ぜひ現場にお越しいただき、リアルな現場監督の声を聞いて欲しいと思います。


酒とタバコをやらないと、土木の仕事はできん

――土木の仕事は長いんですか?

大﨑 ボクがミタニ建設工業に入ったのは、高知農業高校土木科卒業後、単純に実家から近かったから。入社してから、もう40年になります。国などの公共工事の現場がほとんどでした。

最初の仕事は、愛媛県の久万町の下請けの現場で、1年半ほど飯場暮らしをしました。測量ばっかりしていました。先輩に「酒とタバコをやらないと、土木の仕事はできん」と言われたことが印象に残っています(笑)。

――現場監督は?

大﨑 初めて現場代理人を任されたのは22才のときで、国道の歩道設置工事の現場でした。ボクと同期入社の2人に任された現場で、教えてもらえる熟練者もおらず、発注者に怒られながら、はいずりまわって、自力でなんとか完成検査を迎えました。

経験不足により、工期・書類ともに、追われまくり、何日もの徹夜で朝を迎え、もうろうとした状態で、完成検査を受け、「合格と認めます」と言われた瞬間は、ホッとして、何とも言えない気持ちで爆睡した思い出があります(笑)。何日も何日も険しい山道を上り、やっとの思いで上り詰めた山頂で絶景を眺めながら、バンザイするような達成感があったことを覚えています。

――結構なムチャ振りをされたわけですね(笑)。

大﨑 仕事でどんなにツライことがあっても、この達成感を味わいたいがために、仕事を続けてきたという実感があります。モノが完成すると、シンドかったことは忘れますから(笑)。ツライ現場ほど、達成感が大きいモノがあります。

ボクは、自分がこれまでにやった現場をグーグルアースに記録しているんです。今回で86現場目になります。工種別でいくと、橋梁の下部工事が多いです。

自分がやった現場には愛着があるので、今どうなっているか見に行くことがあります。子供を連れて見に行ったとき、「ココ、お父さんがつくったがで」と教えたのですが、「ふ〜ん」と言うだけで、あまりピンとこなかったようでしたけどね(笑)。

現場代理人or監理技術者として、大﨑さんが遺した現場

――仕事を辞めようと思ったことは?

大﨑 25才ごろ、仕事を辞めようと思ったことがあります。高知県発注の圃場整備工事の現場だったのですが、現場の雰囲気が悪かったからです。この現場では、私の同期を含め4〜5名が辞めるひどい現場で、この現場を担当した社員で、辞めなかったのは私だけです(笑)。

とにかく忙しく、過酷な現場でした。不思議なもので、誰かが「もうイヤじゃ。辞めたい」と言うと、周りの人間もそれに染まっていくんですよね。ボクも、ちょっと辞めることを考えました。

大﨑さんの入社当時の絵日記


学力は中学レベルで十分。やる気の出る職場づくりが大事

――人を育てる上で苦労していることは?

大﨑 昔であれば、ドンドン追い込むやり方で、人を育てていましたが、最近はそうはいきません。今の若者は「イヤ」「できん」「辞める」などと、平気で言いますから。

あるとき、若い子に「みんなにジュース買うてこいや」と千円渡そうとすると、「イヤです」と言われたことがあります(笑)。ボクが若いころは「ノー」とは言えませんでしたが。ボク自身は、若い子にワーワー言うことはありませんが、ちょっとでもヤル気が出るように、若い子に責任を持たせる環境づくりを心がけています。例えば、「これ、今日やっちょかんと明日、職人が困るがやない?」といった感じで、声かけするようにしています。

土木の現場では、学力は中学生レベルで十分です。必要なのは応用力、機転がきくかどうかです。それとコミュニケーション能力。例えば、おんちゃんとバカ話ができる能力です。

――良い現場監督の条件は?

大﨑 職人たちが気持良く「自らやる気を起こさせる」環境をつくることが、良い現場監督の条件だと考えています。以前大手のゼネコンへ出向してたときの監督にこんな人がいました。下請けに対して、ふだんから偉そうに「あれせえ、これせえ」言う一方、ゴミ一つ拾わない監督で、もちろん現場職人を見下したような方でした。そういう監督の現場は雰囲気が悪いです。職人さんなどのヤル気も落ちますよ。

ボク自身、現場のみんなが手待ちにならず、スムーズに仕事ができる工程環境と「ちょっとでも良いものをつくろう」という気持ちになるような「やる気の生まれる職場環境・人間関係づくり」を常に心がけています。

ボクの現場では、夏場には常にカキ氷を用意しています。10年以上続けています。とくに、足場屋さんとか基礎屋さんとか、短期間現場に来る職人達には、大好評です。「大崎の現場はカキ氷が食えるぞ」と(笑)。

現場事務所に設置されたカキ氷コーナー

あと、マッサージチェアなども喜ばれています。現場の仕事は、時間にばかり追われるイメージですが、意外と自由も効くんですよ。「今日はこれでヤメろう」と言って、「花見に行くぞ♪今晩はお客ぜよ♪」って感じで(笑)。

土木は、最終的にモノが完成してなんぼの世界

――現場監督の魅力は?

大﨑 現場監督の魅力は「ものづくり」ができること。これに尽きますね。他の業界ではあまり味わえませんよね。建設業は多種多様な業種が力を合わせ、何もない地に「もの」をつくりあげる仕事です。その「もの」をつくりあげるには、一人がジタバタしたところで何も始まりません。

現場監督がやるべきことは、工事完成に向けて各業者間の施工調整を図り、仕事をしやすい環境づくり、各職人さんが元気に楽しく、やる気をもって仕事を進めるためのレールを敷き続けること。工事始まった当時には不愛想だった男たちが、工事完成時にはともに喜びを分かち合える瞬間を毎回つくることです。

10月15日で58才を迎えました。定年間近となり、現場監督を離れることとなったとしても、終身「ものづくり」からは離れる事はできないことでしょう。

――今後の末長いご活躍を期待しています。

大崎さんは過去に、自身が手がけた現場の進捗などをブログで公開していた。今は休止しているようだが、再開が待たれるところだ。

「平成23-24年度 鎌田改良工事日記」http://kamatakairyou.seesaa.net/
「天神改良工事日記」http://tenjinkairyou.seesaa.net/
「衣笠高架橋下部第1工事日記」https://ameblo.jp/kinugasakokakyou/
「初瀬トンネル工事日記」http://hatusetonneru.seesaa.net/
「鎌田高架橋下部工事日記」http://kensetugenba.seesaa.net/

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