※写真は記事と関係ありません。

鉄骨造メンテナンスのために、新築工事から配慮すべきポイント

鉄骨造のメンテナンスは大変!鉄筋コンクリート造より奥深い

鉄筋コンクリート造よりも、鉄骨造の方が奥深い——そう感じたことはありませんか?

私はゼネコン入社後、長い間、鉄筋コンクリート造の建物で施工管理を担当し、鉄骨造の建物を経験したのは、だいぶ年数が経ってからでした。

鉄骨造の工事では、新築工事よりも先に改修工事を経験したのですが、その時に感じたのは「鉄骨造って事前に検討しておかないと、メンテナンスでめちゃくちゃ苦労するぞ!」ということでした。

鉄筋コンクリート造よりも鉄骨造のほうが実は奥が深いのでは?そんな体験談をお伝えします。

鉄骨造の水漏れ経路の特定

まず私が経験した鉄骨造の改修工事は、水漏れ補修工事でした。事前に渡された資料には、水漏れのあとがいくつもまとめられていました。

天井のシミ、壁のシミ、水の入ったバケツなどの「出口」の症状がまとめられていたのですが、私の最初の仕事は「入口」を探すこと。つまり、雨水の浸入経路の特定から始まりました。

しかし、鉄骨造の建物では、鉄筋コンクリート造ほど雨水の侵入経路の特定が簡単ではありません

なぜなら、鉄筋コンクリート造は躯体がコンクリートで水密性があり、仕上げの製品もコンクリートに直接取り付ける構造が多いため、水の浸入している「入口」は「出口」の付近にあることが多いからです。

一方、鉄骨造の場合は、躯体と仕上げがクリアランスを取りながら設置されていることが多いので、「出口」が分かっていても、雨水の「入口」である可能性の幅が非常に広く、時には2フロアも上の箇所が「入口」となっていたこともあります。

そこで、私は「出口」から水の伝った痕跡をたどって「入口」へたどり着こうと努力するのですが、「天井の吊りボルト」や「壁の下地」などが天井裏には多く、途中で見失ってしまい非常に苦労しました。

さらに、「ここだ!」とたどり着いた「入口」の場所についても、実際に雨が降るか、散水試験を行うまでは確定しないので、確定までに時間が非常にかかりました。


困った時のシーリング頼み!でも、それで良いのか?

防水という観点においては「シーリング」は非常に便利で有効な手段であると私は考えています。

そのため、現場で中途半端な隙間があれば、とりあえず「シーリングで潰そう」という指示を出すことも非常に多いです。建築関係者の中には「困った時のシーリング頼み」に共感される方も多いと想像します。

しかし、シーリングはいつか切れます。というか、5~7年、さらに使用する場所によっては1~3年で切れてしまう場所もあります。

であれば、「シーリングが切れた場合は、また打てば良い」と考える方もいるかも知れませんが、施設の担当者が限られた予算の中でシーリングをタイムリーに打ち続けることは出来ないと考えるほうが普通でしょう。

なので、私自身シーリングを施工する前に、もっともっと考えるべきことがあると感じているのですが、「シーリング頼み」になっている状況の場合、すでに「最後の手段」になっていることも多く、なかなか問題解決につながりません。

ただ、シーリングが切れることで、漏水につながることを経験した私は、次第に「シーリングは切れるもの」という感覚を少しずつ覚えていきました。私の学んだ具体的な内容もお伝えしていきます。

鉄骨造では建物が動いている?

鉄筋コンクリート造の建物が成立する要件の一つとして、熱膨張係数がほぼ同じという理由があります。

つまり、温度による膨張や収縮率が同じなので、鉄筋とコンクリートが分離せずに一体になっているということです。

そして、コンクリートに直接吹付やタイルの仕上げを施すことが多いため、比較的挙動の少ない建物構造となります。

では、鉄骨造はどうでしょう?

鉄骨造では、主要の構造体は鉄ですが、仕上げについては鉄筋コンクリート造に比べて比較的さまざまな仕上げの種類があり、当然ながら熱膨張係数もさまざまであるはずです。

すると、シーリングも通常より破断しやすくなるでしょう。そこで大切になってくるのが「シーリングが破断した後の処理」です。

しかし、私は自分で鉄骨造の改修工事を経験するまでは、頭の中でこの重要性が分かっていても、心のどこかで「金も手間も掛かるし面倒くさいな」と感じていた部分があったと思います。

だけど、様々な漏水と付き合っていくうちに、

  • シーリング破談後の二次排水経路の確保
  • 一次シール、二次シール処理
  • 金物の加工時における納まりの確認

が、とても大切だと身をもって経験しました。


鉄骨造のコンクリートの天端の向きと漏水

とはいえ、鉄骨造といえども、コンクリートの部分もあります。例えば、床やALCなどの乾式壁の立ち上がり部分もそうです。

コンクリートは密実に打設されていれば耐水性に優れているため、外部や水回りに「漏水防止」の目的で乾式壁を使用する場合の立ち上がりに使用されているのを私自身もよく目にします。

ここで、私が経験した「言われてみれば正論だけど、施工性の観点からいうと見落としがち」な事例を1つご紹介します。

先程の改修工事の中に、ALCの板間のシーリングの破談による室内の漏水というものがありました。内部は機械室などであったため、内部仕上げがALC素地でした。そこで、散水試験を行うことで比較的容易に漏水箇所の特定はできたのです。

しかし、散水試験を行った時に、外部から浸入してきた水がALCの足元とコンクリートの立ち上がり壁の天端の間から室内に漏れ出していたのです。

原因はコンクリートの立ち上がり壁の天端の勾配が、若干ですが内向きになっていたことでした。全体的にはフラットだったのでALCの足元の金物の取り付け時の施工性を考慮したのかもしれません。

もしも、コンクリートの天端の勾配が外向きであれば、そして外部に水抜穴があれば、極端な話をすると、半永久的にメンテナンスフリーの状態になっていたかも知れませんから…。

鉄骨造の新築工事から品質に配慮すべき

つまり、ちょっとした配慮の差が数年後に大きな差となって自分を含め周囲の人間に降りかかってくる、ということです。

そして、この鉄骨造の改修工事で同時に感じたことは「建物の引渡し後に不具合が発生していても、費用面などからすぐに対応できないことが多々ある」ということでした。

私自身、この工事を経験したことで、新築工事の時点から「品質に関する配慮すべき点」について改めて考えさせられました。

みなさんにも参考になる部分があれば幸いです。

ピックアップコメント

とても勉強になりました。良記事です。

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大学工学部を卒業後、大手ゼネコンに入社。駅前再開発工事や大型商業施設、教育施設、マンションなどの現場監督を担当している30代の1級建築施工管理技士。新人時代の失敗で数千万円の損失を出した経験から、日々の激務に追われながらも、新人教育に熱意を燃やしている。現場でのケンカの回数は30回ほど。
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