ゼネコン、エム・テックの破産劇
民事再生手続き中のエム・テック(向山照愛社長)は10月22日、再生手続き廃止決定を受け同日、保全命令が下りた。保全管理人には北秀昭弁護士(北秀昭法律事務所)が選任され、今後、破産手続きに移行する。
民事再生法申請時の負債総額は債権者887名に対して約254億5,000万円。一時期は、冨士工がスポンサーに名乗り出て、吸収合併構想もあったが、なぜ破産に至ったのか?
破産手続き移行をいち早く報じた東京商工リサーチ情報本部情報部の増田和史氏や、元エム・テック技術者など建設業界関係者の声をリポートする。
幻に終わった冨士工のエム・テック吸収合併
民事再生手続き中のエム・テックについて、新オーナーに冨士工が就き、将来的に吸収合併するのではないかと前回の記事で報じた。確かに吸収合併構想はあったものの、結局エム・テックの具体的な数字を見て断念したというのが内実だった。冨士工関係者は解説する。
「実は、10月4日での債権者説明会では、冨士工の楚山和夫社長も、“今回の説明会ではじめて聞く話もあり、少々怒っている”と発言するなど、この時点ですでにエム・テック支援には後ろ向きでした。その後エム・テックと冨士工の両社が支援の折衝を続けましたが、民事再生は困難であったのが実情だったのです。」
楚山社長は東京商工リサーチの増田氏にこう語ったという。
「冨士工はスポンサーになって最初から支援救済するという考えではなかった。創業者である松野浩史氏からお金を貸して欲しいと言うから貸して、その代わりエム・テック株を担保にしたにすぎない。逆にお金が返ってこないから、こちらは被害者です。」
それでも当初は、100人を超える技術者は魅力的に映り、エム・テックを再生した暁には吸収する構想もあった。断念したのはやはり、放漫経営だったからだろう。
今はエム・テック社員が全員解雇されたため、元エム・テック技術者となるが、その元エム・テック技術者は転職市場ではモテモテだという。
エム・テック破綻と現場監督の転職活動
建設業界紙記者は解説する。
「エム・テックは良くも悪くも建設技術者、施工管理技士を使い倒すイメージです。それに資格所有者も多く、即戦力です。あと、よく働きます。
今、約100人の技術者が野に放たれたのですから、各ゼネコンや転職エージェントも、再就職の誘いをするでしょう。
しかし、問題は総務や管理系です。こちらはゼネコンも余っているのです。なるべくなら、子会社に押し込んで転籍させたいところですが、バブル世代はそろそろ処理したいでしょうね。」
その元エム・テック技術者たちは今何を思うのだろうか。
「全般的に業務量が多い会社だった。マスコミにはいい顔をし、それなりのパンフレットを作成していましたが、施工管理といいつつ内実はなんでも屋。とにかく下請にはカネ払いが悪いので下請に謝ることも仕事だった。
残業も毎月100時間~150時間以上はあったが、残業代の支払いは一切なかったのは腹立たしい。下請は現場監督を責めるが、私たちも辛かった。私も悪いとは思っているが、会社として下請に払わないのだからどうしようもない。再就職の誘い? それはありますよ。」
若手の技術者は割とたくましい。
「入社してすぐ見切りをつけました。ただ、色々と全国に行けるし、資格取得や勉強の場と割り切って仕事をするのであれば悪くなかったです。いくつかのゼネコンの誘いもあります。こういう時のゼネコンの情報網は凄いですね。」
エム・テック破綻で困惑する被災3県と東京都
エム・テック破綻で頭を抱えているのが地方自治体だ。東北・熊本の復興工事や東京五輪関連の工事を抱えているにもかかわらず、エム・テックはすべての発注者に対して、契約解除通知を出した。
事実上、現時点で工事はほぼストップ。東北被災3県には、各県知事宛に届き、文書には「民事再生による再生を目指しましたが、スポンサー協力が得られず断念しました」と伝えた。
すべての受注残は300億円だが、東北復興等工事は分かっているだけでも契約総額は約185億円。残工事についての扱いで冨士工が引き受けるかについては、「うちは忙しいので難しい」との回答だった。
宮城県は、「エム・テックとの契約解除手続きを進めるとともに違約金などを請求する方針」だが、「今は話せることはほとんどない」という。岩手県は「まず工事がどこまで進んでいるか確認することが先決。いずれ再発注になるだろう」とした。いずれにしても工事未完があり、焦りは否定できない。
そして最も困惑しているのは東京都であろう。東京五輪関連施設工事も中断している。エム・テックは江東区のテニス競技の関連施設「有明テニスの森公園施設改修その他工事」を15億5000万円で受注していた。現場は再生手続き廃止と同時に東京地裁の保全命令の張り紙が掲示され、工事は中断した。しかも、エム・テックは発注者とともに下請にも契約解除通知を発出したため、工事は完全にエム・テックの手を離れた。
東京都は、「再発注を含め、あらゆる方法を検討中」と焦りを隠せない。工期は、2019年7月までだったが、別のゼネコンからは、「検討が長引けば、来年7月まで間に合わないかも知れない」とのコメントがあった。
一方、匿名を条件に埼玉県内の発注者からは、「倒産に至る経緯はどうあれ、長年、埼玉県で頑張ってきた地場のゼネコンが倒産するのは寂しい限り」とのコメントがあった。
エム・テック倒産とワンマン創業者の教訓
建設業界で深刻なのは、「いきなり受注残300億円の工事をやれと言われても、それを引き受けるところがあるのだろうか」という点だ。
「もちろん各社で手分けをする前提」だが、職人や資機材の確保など行うべき業務は多い。しかも受注残の工事は、多忙な首都圏と東北被災地に集中している実情があり、再発注しても簡単に工事を引き受けるゼネコンがあるのか不透明だ。
エム・テックの破産は建設業では今年最大規模となったが、いまだに収束のメドは立っていない。しかし、第2、第3のエム・テックが登場するかという懸念はかなり少ないというのが建設業界の大方の見立てだ。
建設業界からは、創業者の松野浩史氏を責める声が強く、会社を潰したのは、同氏のパーソナリティーに寄るところが大きいとの指摘もある。ワンマン創業者の誤った判断を軌道修正できなかった点がエム・テックの悲劇と言う声もあり、他のゼネコンや建設会社も大きな教訓とすべきだろう。