左から、若築建設株式会社の田北文彦・博多支店博多統括作業所所長、阿部翔拓(たかひろ)・博多IC橋梁作業所、中野雄造・同

左から、若築建設株式会社の田北文彦・博多支店博多統括作業所所長、阿部翔拓(たかひろ)・博多IC橋梁作業所、中野雄造・同

ベテラン所長に叱られて育つ「若築建設」の若手技術者たち

社歴28年、10年、1年の技術者が同じ現場で働く若築建設

海洋土木を得意とする中堅ゼネコンの若築建設株式会社(本社:東京都目黒区)は現在、福岡市内の都市高速橋梁下部工事を手がけている。

この工事では、社歴30年近いベテランの統括所長と入社10年目の中堅技術者、入社1年目の新人技術者が同じ現場で働いていた。

  • 田北文彦さん(入社28年目・入社博多支店博多統括作業所所長)
  • 中野雄造さん(入社10年目・博多IC橋梁作業所)
  • 阿部翔拓(たかひろ)さん(入社1年目・博多IC橋梁作業所)

技術者の育成は、一定規模以上の建設会社では研修とOJTのセットが一般的だが、やはり実際に現場で経験する以上に効果的な育成方法はない。

若築建設では、どのようなOJTを行なっているのか。イマドキの若モンと「飲みニケーション」は成立するのか。ベテラン・中堅・新人の3名に話を聞いてきた。(※役職・社歴は、取材当時のもの)


「海洋土木がやりたい」から若築建設へ

大石(施工の神様ライター)

中野さんは、若築建設に入社して何年目ですか。

中野さん

入社10年目です。東海大学海洋土木工学科で学びました。横浜出身で、もともと海が好きだったので、マリンスポーツなどをやっていました。「海の仕事がしたい」という思いがあり、海洋土木を選びました。

「叱ってもらうのは嬉しい。ただ、正直キツイ」と笑う中野さん

大石(施工の神様ライター)

阿部くんは?

阿部さん

入社1年目です。九州産業大学都市基盤デザイン工学科で土木を学びました。土木の現場自体に興味があったので、「現場施工の会社に就職したい」という思いがありました。

若築建設には建築部門もありますが、橋梁や河川、港湾工事などの人々の生活の基盤となる社会インフラの整備にとてもひかれたので、土木部門を選びました。

東京、九州で2カ月近く研修を受けた後、現場に入りました。最初は同じ国発注の別の橋梁下部工事の現場でした。

出身が福岡なので、九州勤務を希望したので、希望が通ったカタチです。実家は近いのですが、会社が用意したアパートに住んでいます。

「お酒は好き。用事がない限り断ることはない」と豪語する阿部くん

大石(施工の神様ライター)

お二人は今、どのような仕事をしている?

中野さん

写真、安全、品質、出来形の管理です。橋梁下部工の現場は2回目です。最初の現場は、福岡県発注の有明海に面した場所での工事だったのですが、鋼管矢板井筒基礎工法での施工で、今の現場とはやり方が違います。

阿部さん

ボクの仕事は、基本的には測量や写真管理、安全に関する書類づくりなどです。最初の現場には、1歳上の先輩がいたので、その人からいろいろと教わりながら、動いていました。

年が近い先輩がいたので、人間関係での特に苦労はありませんでした。毎日工程表を見ながら、仕事を覚えている段階です。

大石(施工の神様ライター)

中野さんの最初の現場は?

中野さん

福岡県春日市にある浄水場建設の現場でした。現場に入ったときは、床掘が終わった段階で、鉄筋、型枠、生コンの作業中、ひたすら写真を撮っていましたね。

あとは、安全と出来形のチェックをやっていました。私のふた回り上の先輩について、いろいろ教えてもらいました。

大石(施工の神様ライター)

海洋土木の現場経験は?

中野さん

三池港の浚渫工事と大分県、臼杵港のジャケット工事をやりましたが、結果的には陸上の仕事が多いですね(笑)。

大石(施工の神様ライター)

印象に残っている現場は?

中野さん

9年ほど前に、筑紫野市内の民間の造成工事の現場で、公園の工事を担当したのですが、これが一番印象に残っています。

完成後、自分が担当した公園を見に行ったのですが、子どもたちが楽しそうに遊んでいました。感激しましたね。

飲みニケーションに抵抗なし。飲み会は断らない

大石(施工の神様ライター)

阿部くんとコミュケーションする上で気をつけていることは?

中野さん

わかりやすく説明することですね。相手が理解したかどうかが重要なので、その辺を確認しながら、教えるよう心がけています。

それと、ちょっと時間が空いたときなどには、仕事以外の世間話をし合えるような環境をつくっていきたいと思っています。

大石(施工の神様ライター)

阿部くんは、分からないことはドンドン聞いている?

阿部さん

そうですね。現場では、基本的に中野さんと一緒に作業をしているので、そのつど質問する感じです。

大石(施工の神様ライター)

二人で飲みに行ったことは?

中野さん

二人ではまだないですが、前の現場の人間を含め、三人で飲みに行ったことはあります。

田北所長

前の工事が終わった時に、現場の打ち上げということで、三人で飲みに行ったようです。私たちなんかと行くより、若い連中だけの方が楽しいだろうということで。

大石(施工の神様ライター)

阿部くんは「飲みニケーション」には抵抗ない?

阿部さん

そうですね。お酒は好きなほうなので、とくに用事がなければ、飲みに誘われて断ることはありません。

大石(施工の神様ライター)

なかなか良いモノ持ってるじゃないですか(笑)。

田北所長

そうですよねえ(笑)。この間、何回か会社の飲み会があったのですが、実際に断られたことはあまりありません。今度またみんなで集まって、「飲もう」という話になっています。


技術者は、職人に怒られて成長する

大石(施工の神様ライター)

阿部くんは、現場では補助的な仕事がメインですか?

田北所長

いや、そうでもありませんよ。もちろん、こちらからの指示は必要ですが、現場の施工を行うために必要な施工図の作成や修正、発注者に提出する書類の整理などの作業は、阿部くんに任せています。

自分で修正しながら、「どうして修正しければならないのか」「どういう風に書類をまとめれば良いのか」ということを自分で考えてもらえればという思いがあります。

提出の期限は決めますけど、どうやるかは基本的には本人に任せています。モノができ上がったら、「ここはこうしたほうが良いよ」と指導する。今のところは、その繰り返しですね。

大石(施工の神様ライター)

中野さんにはもう任せている?

田北所長

中野くんにある程度任せないと、自分の仕事ができなくなるので、当然、現場では主導権を握ってやってもらっています。

例えば、協力業者さんなどからの問い合わせには、まずは中野くんに判断してもらい、対応してもらいます。その判断が正しかったかどうかは別の話になりますが、「自分で現場を回すこと」を覚えてほしいという思いがあります。

阿部くんには、中野くんの動きを見ながら、「何をしなければならないか」を勉強してもらう。そうなれば一番良いなと思っています。

工事は「段取り」です。何日までに測量していないと、工事に入れない。じゃあ、何日までに測量を終わらせていないといけない。

そういう段取りを自分の頭の中で組み立てながら、現場を回す必要があります。私は「職人さんにドンドン怒られろ」と思っています(笑)。

大石(施工の神様ライター)

こんなこと言ってますけど(笑)。

中野さん

それはもう大丈夫です。職人さんが怒るのは、それだけ自分に期待をしてくれているからなので。職人さんも、自分のところの利益を上げるために段取りをしているので、理不尽に怒っているわけではありませんから。

職人と技術者は「ケツを叩きあう」関係

大石(施工の神様ライター)

職人さんに言われて、ヘコむことは?

中野さん

それはないですね。むしろコッチが職人に対して、「もっと早く!」などとガーッと言うことが多いので。

田北所長

職人さんには「いつまでに作業が終わらないと困る」としっかり言う必要があります。お互いに「ケツを叩く」ような関係ですね。現場責任者である私が職人さんに直接言えば、話は簡単に済むのですが、それでは人が育ちませんからね。

職人に怒られながらでも、自分で考えてやるのが大事なんです。「怒られるのは悔しい」ということも経験してほしいという思いもあります(笑)。

大石(施工の神様ライター)

中野さんが苦労している姿を阿部くんが見て、考えるようにと?

田北所長

仕事の準備、段取りは中野くん一人ではできないので、中野くんと一緒にやりながら、学んでいってほしいという感じですね。


「スタンション」ってなんすか?

大石(施工の神様ライター)

阿部くん、現場は楽しい?

阿部さん

楽しいです。わからないことがあっても、とても親切にわかりやすく説明してくださる方ばかりなので、現場を楽しくないと感じたことは、一度もありません。

大石(施工の神様ライター)

勉強できている?

阿部さん

そうですね。入社した時と比べて、少しずつ慣れてきた実感はあります。今でも専門用語の意味がわからないことはありますが。

大石(施工の神様ライター)

例えば?

阿部さん

「スタンション」ですね。あるとき、田北所長から「スタンションを使って、親綱を設置しろ」と言われたのですが、最初は意味がわかりませんでした。中野さんに教えてもらって、理解できましたが。

大石(施工の神様ライター)

阿部くんは、同期入社の子と今も連絡取り合っている?

阿部さん

取り合っています。たまたまですが、ボクの現場の近くには、同じ若築建設の現場が多いので、同期の子が近くの現場に何人かいるんです。

大石(施工の神様ライター)

それは良い環境だね。同期の子同士で遊びに行ったりしてる?

阿部さん

ええ。お互い都合がよかったら、現場終わりに会うこともあります。仕事のこと以外にも、プライベートのことも話に出るので、同期同士の関係もすごくいいと感じます。

t田北所長

一緒に長崎に遊びに行ったりしているらしいです。これは本人から聞きました(笑)。

大石(施工の神様ライター)

仕事の悩み相談もする?

阿部さん

それもありますね。同期で集まると、まず近況報告から始まり、全員が同じような悩みを持っているので、共感できる部分が多いです。

それと同時に、同期には仕事で負けたくないという気持ちが出てくるので、同期の存在はとても大きいです。

のんびりした所長では、現場ものんびりしてしまう

大石(施工の神様ライター)

所長によって、現場のOJTのやり方などは変わるようですね?

田北所長

そうですね。現場の所長の考え方によって、教え方などは違います。「誰に教えてもらったの?」という話は、したりされたりします(笑)。

昔の新入社員は、忙しい現場の手伝いのような扱いで、途中の現場に入って途中で抜けることが多かったです。中野くんもそうでした(笑)。「ワルい、ちょっとアッチの現場に行ってくれ」と(笑)。

ただ、最近は、なるべく「一つの現場の最初から最後まで見る」ようになっています。私も「自分の仕事の結末を見る」ことは、非常に大事なことだと考えています。アチコチの現場をつまみ食いしても、やりがいや達成感につながらないので。

大石(施工の神様ライター)

現場がどうなるかは、所長次第みたいなところはありますか?

田北所長

そういうところはあります。私自身も経験がありますが、のんびりした所長の場合、現場ものんびりしてしまって、最後にシワ寄せが来る。

キッチリした所長は、現場もキッチリするので、検査前にバタバタすることはない。下につく人間は大変ですよね(笑)。



現場の危険には「これ、危なかろうもん!」と即激オコ

大石(施工の神様ライター)

中野さん、田北所長はどういう所長ですか。

中野さん

田北所長は「現場最優先」の所長なので、ものすごく頼り甲斐のある方です。そういう方なので、ついつい頼ってしまって、叱られることもあります(笑)。

田北所長

申し訳ない(苦笑)。

中野さん

いやいや(笑)、叱ってもらえるのが嬉しいです。何も言われなくなったら、どうしようもないので。ただ、あまりに言われると、正直「キツイ」と思うときはあります(笑)。

田北所長

中野くんには期待しているので、言いすぎてしまうところがあります。ついつい「なにしよん?」と言ってしまうんです(笑)。

大石(施工の神様ライター)

サジ加減が難しそうですね。

田北所長

「教えること」と「叱ること」のバランスが難しいですね。「叱る気持ち」がなくなると、「教える気持ち」もなくなるような気がするんです。「叱る必要がない」というのとは、また別の話です。

大石(施工の神様ライター)

例えば、どういうことで叱る?

田北所長

一番多いのは「安全」に関わることですね。「これで良い」と思ったらいけないところがあります。

とくに、人の命に直結する部分については、「これ、危なかろうもん!」と厳しく指摘しますね。「即激オコ」です(笑)。

自分で気づいて、「これで良い」「これで安全」と思わないでほしいという思いがありますからね。当然、阿部くんにも、見ながら学んでいってほしいです。

大石(施工の神様ライター)

中野さん、いかがですか?

中野さん

今まで昇降設備などは、足場鳶工にお願いして設置していました。自分で昇降設備の設置方法や位置を考えて組み立てることが少なかったので、昇降設備の不備などで叱られています。田北所長は鋭い指摘をしていただくので、いろいろと勉強になります。

平均的ではなく、なにかが突出した技術者になってほしい

大石(施工の神様ライター)

今後やりたい仕事、身に付けたいスキルなどは?

中野さん

やはり、マリコンをやりたいですね。海洋の大きな構造物をつくってみたいという気持ちがあります。橋梁に関する知識、ノウハウを身につけ、将来系には技術士の資格を取りたいです。

阿部さん

ボクも海上の仕事をしたいです。これからドンドン資格を取っていって、下請けさんなどからも頼られる土木技術者になって、1日でも早く現場を回していける人間になりたいです。

大石(施工の神様ライター)

田北所長、お二人に対する期待などを。

田北所長

まずは、自分がやっている仕事に誇りを持ってほしい。そして、自分の仕事、でき上がったモノについて、常に自信を持って紹介できるような技術者になってほしい。当然、安全第一でケガ人などを出さないでほしい。

あとは、他の技術者と同じような平均的な技術者ではなく、なにかが突出した技術者になってほしいですね。簡単なことではないですが、私の理想です。現場では苦労するのが当たり前なんで、なにか喜びを持って頑張ってください。

中野さん

頑張ります(笑)。

阿部さん

頑張ります(笑)。

大石(施工の神様ライター)

まあ、そうなるよね(笑)。私からも、お二人、頑張ってください。
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