ミスしたら死ぬ仕事。建設機械を運転するのは、崩壊寸前の急傾斜地

命を落としかねない急傾斜地での工事

建設現場に危険はつきものだが、その中でも特に危険な現場が「急傾斜地崩壊対策工事」だ。

急傾斜地崩壊対策工事とは、傾斜度が30°以上である急傾斜地の崩壊を防止するための工事。最近は、地震や豪雨といった災害の影響で増えている。

この急傾斜地崩壊対策工事が、ベテラン技術者でも頭を悩ませるほど施工が難しい。

その理由は「機械の進入路がない」「ダンプが入らない」などさまざまだが、最も大きな要因はトラフィカビリティの確保が非常に難しいことだ。

トラフィカビリティとは、主にコーン貫入試験から求められるコーン指数を表すもので、建設機械が走行できる基準値を示している。

災害などで大規模にずれた山などでは、元々トラフィカビリティがないような場所がほとんどなので、建機の走行が極めて困難だ。

トラフィカビリティが確保できない急傾斜地で、どうやって建機を走らせて施工しているのか?

命を懸けて街の安全を守るオペたちのワザをお伝えしたい。


鋼管と足場板でバックホウの進路を作る

急傾斜地でのバックホウの操作は、一瞬たりとも気が抜けない。操作を誤れば即転落し、死亡事故に繋がりかねない。

バックホウの走行中に路肩が崩れ、進路がなくなることも少なくない。

そんなときは、鋼管を進行方向に打ち込み、そこに足場板を添わせて土留めをすることで、無理やり機械の進路を作る

口で言ってしまえば簡単だが、実際にその光景を見ると、恐怖のあまり言葉を失ってしまうだろう。

安全対策に厳しい元請会社は「すぐに止めてくれ!」と言うかもしれない。

安全第一なら、この方法は推奨されるものではない。しかし、急傾斜地崩壊対策工事の現場ではこうでもしないとすぐに工事が止まってしまう。

鋼管と足場板を使って進路を作ることは、急傾斜工事のオペは当たり前に行っている。

とはいっても、しょせんは土留めでつくった進路。1oo%安全とは言えず、危険なことには変わりない。

土留め後のソイル施工でトラフィカビリティを高める

上で説明した鋼管と足場板で土留めした進路に、「ソイル」と呼ばれる施工(セメントが混ざった材料を撹拌して締め固めること)を行い、一日待ってトラフィカビリティを高める方法も時として使われる。

これは、盛土材料を固めることが目的で、進路が非常に崩れやすく危険な場合に用いられる。

ソイルは非常に優秀で、法面が崩壊してしまい、断面がないところに使われることも多い。しかも、えぐれた場所でもきれいに補修することが出来る。

私の知る優秀なオペは、ソイル工法でほとんどの現場を叩いている。

ただ、ソイル工法は費用が割高なので元請や市役所が良い顔をしないし、費用を安く済ませたい工事には不向きかもしれない(機械が止まって工程が遅れる事を考えれば、安いと思うのだが)。


道を斜めに造り、バックホウの傾きを利用して進む

バックホウが進む道をあえて斜めに造る方法もある。

トラフィカビリティの低い法肩側は、重機の荷重で崩れてしまう可能性が高い。そのため、崩れそうな法尻側を高くなるように道を作り、法肩側にバックホウを傾けながら走行していく

こうすることで、法尻側にはバックホウの荷重があまり掛からないので、普通に走行すると崩れてしまうトラフィカビリティの低い道でも進んでいくことが出来る。

しかし、この方法は非常に難易度が高い。

道を斜めに施工することはもちろん、バックホウがひっくり返らない絶妙な勾配を作りださなければならないからだ。勾配がキツすぎると、機械はもちろんひっくり返ってしまう。

なにより、崩れそうな道を進んでいく度胸も必要だ。

私の知る限り、この方法で走行できるオペは一人しか見たことがない。

ただ、これが出来るオペは災害の復興現場にとって重宝されることは間違いない。

トラフィカビリティを確保できない現場での施工は、常に死と隣り合わせの世界だ。

しかし、誰かが行わなければ、工事を進まず、災害復興も進まない。

こういった素晴らしい職人のワザに、一般の方々にも、もっと注目していただきたいものだ。

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