(株)髙野組が2017年に施工した大鞘川・水管橋

(株)髙野組が2017年に施工した大鞘川・水管橋

【良質なコンクリート構造物を造る男たち5】 「コンクリート構造物は子や孫も使う」インフラ整備の質を高める発注者、工事施工者、生コン生産者の3者融合

発注者・施工者・生コン生産者が、立場を度外視して良いモノを造る

2017年に熊本県で立ち上がった「県南コンクリート構造物品質確保推進協議会」では、QC(クオリティー・コントロール/品質改善)活動を合言葉に、高品質なコンクリート構造物の築造を推進している。

QC活動とは、「発注者」「工事施工者」「生コン生産者」の3者が有機的に連携し、「施工計画(PLAN)→実施工(DO)→評価(CHECK)→改善(ACTION)」というPDCAサイクルがしっかりと機能するシステムの確立を目指す取り組み。

このQC活動において、「生コン生産者」側の一人として大きな役割を担っているのが、八代地区生コンクリート協同組合理事長の髙野晋介だ。

八代地区生コンクリート協同組合の理事長を務める、(株)髙野組の髙野晋介専務

髙野は生コンクリート事業部と土木部を持つ株式会社髙野組(熊本県八代市)の専務も務める。生コン生産者、工事施工者という双方の視点を持つ髙野は、QC活動を支える貴重な人物として存在感を示してきた。

「生コン生産者からすれば、工事施工者はいわば”お客さん”。一つのコンクリート構造物を造る時、これまで『発注者』『工事施工者』『生コン生産者』の3者で品質について語り合う機会は一度もありませんでした。

コンクリート構造物は子や孫もいずれ生活インフラとして使うし、同じお金を使うわけでしょ。それなのに、悪いものを造ったら話になりません。

QC活動によって、発注者と工事施工者、生コン生産者の3者が、それぞれの立場を度外視して良いモノを造ろうという方向に進んでいくことは喜ばしいことです。

これこそ、良質なコンクリート構造物を造るためのあるべき姿でしょう」と語気を強める。


土木部と生コン事業部の二刀流でQC活動

髙野組は、2017年度に熊本県土木部が発注した八代市の八代鏡宇土線・道路橋と大鞘川・水管橋の現場で、QC活動に積極的に取り組んだ。

この現場に生コンを供給したのは、八代地区生コンクリート協同組合が指定した髙野組の生コン事業部だった。

工場長としてオペレーターに携わった宮嶋智恵美は、当時のことを次のように回想する。

(株)髙野組生コン事業部の宮嶋智恵美工場長

「ミキサー車6台程の台数による出荷でした。日頃から出荷数量の多い打設時は骨材によりスランプ値が変わり易く、JIS規格では1回以上/午前・午後の表面水測定となっていますが、生コンの状態により試験回数を増やし目標スランプを狙っています。

この現場でも同様の手法をとりました。現場が近かったので、ドラムカバーは使用しませんでしたが、現場と八代地区生コンクリート協同組合、工場で頻繁に連絡を取り合いながら、迅速な出荷を心掛けました」

過酷な夏場の生コン打設。作業員を休ませながらの施工に苦心

一方、現場では、生コン打設前に現場代理人や主任技術者だけでなく、左官工などの作業員も交えて会議に没頭していた。

夏場の熱い時期という過酷な現場での生コン打設だった。工事の総括にあたった土木部長の松﨑誠也は、当時の苦労をストレートに吐き出す。

(株)髙野組土木部の松﨑誠也部長

「作業員の熱中症対策に苦労しました。打設を始めたら90分から60分以内で終わらせなければならず、作業員を休ませながらの施工でした。

当時は、熊本地震の復興・復旧工事に作業員を取られていたので、作業員集めにも骨を折りました。

QC活動をきちんと行いたくても、技術者の高齢化、新規入職者の減少などにより高い施工技術でのコンクリート構造物の築造が困難になっているのが現状です。

高性能な生コン自体のコストを最初から見てくれれば、作業人員の削減につながると思います」

作業効率を高めるには、スランプ8cmから12cmへのシフトを

現場での作業効率を高めるためには、作業人員の確保だけでなく、生コンスランプもカギを握る。

これまで、コンクリート構造物はスランプを8cmとするのが一般的だった。ただ近年、国土交通省は生コンに流動性を持たせ、ワーカビリティー(※コンクリートの施工性の容易さを示す性質)の向上につながるスランプ12cmを標準とする動きにシフトしている。

その背景には、コンクリート構造物の強度をより向上させるため、鉄筋量増へと重点を転換させようとする意図がある。

熊本地震でより強固なコンクリート構造物を造ることが求められている中、鉄筋量を増加するのは必然の流れでもある。

しかし、QC活動を主導する熊本県土木部の標準スランプは8cm。作業性の良い12cmにシフトしていない。

八代地区生コンクリート協同組合の事務局長に就く松本公哉は、工事施工者から発注者へのアプローチがスランプシフトのカギを握っていると仄めかす。

八代地区生コンクリート協同組合の松本公哉事務局長

「部材が大型化しており、作業効率を高めていくためには、間違いなく生コンの流動性を上げなければなりません。

国土交通省やNEXCOのスランプは、基準が8cmから12cmへシフトしてきています。それに、作業員の不足、高齢化、打設効率の悪化等の観点から、工事施工者側から声が挙がれば、遠くない時期に県や市がスランプの基準を変えてくるでしょう」

QC活動がインフラ整備の在り方を変える

QC活動による発注者、工事施工者、生コン生産者の3者融合は、確実にこれまでのインフラ整備の在り方を変えようとしている。

工事施工者と生コン生産者の双方の立場に立つ髙野は、静かにつぶやく。「コンクリート構造物には、施工に携わるすべての人の想いがあります。その想いを伝え合うことを絶やしてはいけません」

髙野組はこの工事を終えた後、熊本県企業局発注の「荒瀬ダム撤去関連上流部護岸(斜路復旧)工事」で、2018年度熊本県優良工事等表彰を受賞。

コンクリート構造物への品質管理に対する意識の高さを見事に証明した。

(つづく)

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建設業専門紙に32年間勤務し、現場第一主義で取材・編集に従事。時代にマッチした特集記事を通して、現場の声を読者に届けることを使命感とし、業界に課題を投げかけながら進むべき道筋を示す。建産プレスくまもとを主宰。情報発信により地方の建設業が果たすべき役割について考える場を提供する。
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