工期中に施工者が倒産した現場を引き継ぐリスク。指名競争入札の意外な問題点

施工者が倒産した現場を引き継いだ実例

施工管理の現場は、個人の住宅からマンション、大規模な複合ビル、被災地復興事業、公共施設など実にさまざまである。

どの現場でも受注から引き渡しまで順調に進めばいいが、不景気のあおりを受けやすい建築業界では、施工途中で建設業者が倒産したり、施主ともめたりなど、想定外のことが起こりやすい。

建築施工管理技士である私は実際、施工者が倒産した現場を引き継いだ経験がある。その凄惨な現場を事例として、施工者が倒産した現場を引き継いだときのリスクと注意点についてお伝えしたいと思う。

もし今後、施工者が倒産した現場案件に遭遇した場合にご参考いただきたい。


工期途中で倒産したゼネコンE社

事件が発生したのは、某自治体が発注した「駅一体型子育て高齢者施設整備事業」。その事業概略は下記の通りだった。

  • S造地上4階建ての施設建築物を、地下鉄駅の地上部に整備する。
  • デイケアサービス施設、介護老人保健施設および保育園を地上部建物内に整備する。
  • 社会福祉法人が施設の運営を行う。
  • 事業規模は、およそ15億円。

当事業は、建築工事、電気設備工事、衛生設備工事が、それぞれの工事ごとに発注され、指名競争入札によって、担当業者を選定した。説明は不要かと思うが、指名競争入札は、発注者にとって最も有益な価格を入札した施工業者が落札業者となる。いわゆる「お役所」の工事発注ではよくみられる方式だ。

さて、指名競争入札の手順に則って、見事に建築工事の落札業者となったのは、地場ゼネコンE社だった。しかし、このゼネコンE社は残念なことに工期途中で倒産してしまった。

ゼネコンE社の調査をきちんと行っておくべきだったと言えばそれまでだが、工事発注した自治体としては、そもそもE社が倒産することなど想定外だった。きっと工期通りに竣工を迎えると考えていたはずだ。

【負の連鎖1】指名競争入札の落とし穴

当事業は総額15億円規模の大規模施設整備事業であったため、計画段階で議会承認も得ており、予算措置を行った上に成り立っていた。である以上、自治体は一刻も早くゼネコンE社の代わりとなる次の業者を探さなければならない。

しかし、負の連鎖は重なるもので、新たな指名競争入札を実施しても、指名された候補事業者が落札予定価格に対して低入札となったり、辞退したり。

結果として、2度の入札不調を経て、3度目にようやく私のいるゼネコンB社が新たな落札者に決定することになる。自治体がB社に泣きついた、というのが実情だ。E社の倒産の事実が発覚してから、この落札者決定に至るまでに、すでに半年の月日が経過していた。


【負の連鎖2】発注自治体のズサンな管理体制

落札業者が決まったからには、発注自治体は1日も早い工事の再開を望むわけだが、ゼネコンB社はすぐに工事を再開することができなかった。自治体の管理体制もまた杜撰を極め、施工図の承認データが保存されてなかったためだ。

ゼネコンB社はやむを得ず、自治体を通じてゼネコンE社の元・現場代理人と連絡をとり、施工図等の引き継ぎを行うことになった。そして、このやりとりのせいで、落札から着工までにさらに約1ヶ月半を費やした。

ただここでラッキーだったのは、倒産したE社は比較的規模が大きいゼネコンであったため、民事再生手続き中で会社自体はまだ“存在”していた、という点である。

もし倒産した建設業者が、もっと小規模の建設会社で、夜逃げされたり、会社自体が“もぬけの殻”状態だったりしたら、現場代理人と連絡を取ることができず、引き継ぎ時点の状況をもとにイチから設計し直すという、相当悲惨な状況になっていたはずだ。

……だが、この程度の無駄な時間を浪費するだけならまだ幸せだった。この工事案件の引き継ぎ期間中、現場ではさらなる事件が起こっていたのである。

【負の連鎖3】指名停止を恐れた電気設備業者と衛生設備業者

自治体というのは、年度をまたぐ事業であっても、単年度会計が原則になっている。そして、予算計上された施設整備費に対する予算執行率が悪いと、債務者である落札事業者に指名停止等のペナルティが発生する恐れが生じるのだ。

そのため、このペナルティを回避したい電気設備工事を落札した業者と、衛生設備工事を落札していた業者が、建築工事を待たずに配線、配管および器具の設置を先行してしまったのである(E社は着工に至るための準備期間中であったので、着工許可を得ていなかったが、ほかの工事業者はすでに許可を得ていた)。

その結果、ゼネコンB社は目を疑うような凄惨な光景に直面することになった。それぞれ下地がない上に、仕上げのレベルも出されていない状況で、スラブ上では衛生配管が張り巡らされ、天井ではゼネコンE社が打設していた天井インサートを完全に無視した形で空調配管が通り、さらに器具も本設されていたのだ。壁はLGS下地もないところに、立ち上がりの配管など、とてもじゃないが建築が入れるような状況ではない惨状が広がっていた。


ツケを払うのは結局、現場の施工管理技士と作業員

消極的にでも一度受注したからには、施工するしかないのがゼネコンの使命だ。悲壮感に浸ってばかりもいられないゼネコンB社は、下地工事を後施工で行い、それすら適わない箇所については、一旦撤去してやり直すなど、まさに3歩進んで2歩下がる作業を繰り返した。

さらに、この建設現場は冒頭に述べたように、地下鉄駅の直上であり、開削部分もあったことから、外部の工事については、鉄道事業者と日々綿密な連携をとることが必須だった。当然、作業を行う場所によっては時間的制約を受けるところもあった。

しかし、たまたま駅周辺には一般住宅が少なかったため、ゼネコンB社も協力業者も交代制のシフトを組み立て、日昼夜問わずに突貫工事を敢行。なんとか工期に合わせて竣工させることに成功した。

要するに、倒産したゼネコン、情報管理が杜撰な自治体、指名停止を恐れた電気設備業者と衛生設備業者……、さまざまなツケが雪だるま式に膨れ上がった結果、一人の無名の建築施工管理技士である私の身に「過労」として、ふりかかってきたわけである。

指名競争入札の問題点

私はこの騒動の根本的な問題は、指名競争入札の仕組みと、自治体側の情報管理体制にあったと考える。

指名競争入札は自治体に登録されている建設業者が対象となる。登録されている建設業者は、すなわち“施工可能”と判断されるため、会社自体の経営状態にまで自治体のチェックが入らないことが通常だ。指名された建設業者は、入札か辞退かのどちらかを行うが、辞退すると半年の入札禁止などペナルティがあるため基本的には入札する。こうした指名競争入札の仕組みでは、工期中のゼネコン倒産を見抜けないのも仕方ない。


この現場で私が得た教訓といえば、いかに一貫した情報管理が必要で、責任をもって施工することが重要かということだ。

仮に本件のような突発的な事情によって、現場の引き継ぎをしなければならなくなったとしても、情報管理体制が確立されていれば、こんな愚かな事件は避けられたはずだ。裏を返せば杜撰な管理をしていれば、そのツケが必ずどこかで現れるということになる。

施工管理を長年していると、通常であれば受けない工事でも、受けざるを得ない状況もある。もし将来、本件のように、やむをえず現場を引き継がなければならない事態に遭遇した場合は、まず必要書類が揃っているか確認し、工事が分割されている場合は、自社が入る前に勝手に工事ができないような対策を取るべきだ。その他にも工事状況に応じて工期延長を打診するなど、考えられるあらゆる手立てを打っておくことをオススメする。

本件のように滑稽で凄惨な事例が実際にあったということを頭の片隅に置いた上で検討するだけでも、余計な失敗を重ねずに済むかもしれない。ぜひ参考にしていただきたい。

いや、このような恐ろしい現場に出くわさないことを祈るばかりである。

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ゼネコンに6年勤務した後、公務員(技術職)に転職した建築施工管理技士。ゼネコンから役所に転職する技術者が増え、「役所のつまみ食い」が何かと問題視されている昨今ですが、私の場合は施工管理技士の人手不足が騒がれる前に転職したので事情が多少異なるかと(笑)
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