BXカネシン株式会社 業務統括部の石原敦宏さん、広報・井上理絵さん、営業・坂上祐太さん(左から)

デジタルピッキングで、建築金物を「ほしいとき、ほしいだけ」施工現場へ。 金物メーカーがつくった最新鋭のデリバリーシステムとは?

建築金物を現場に直送するデリバリーシステム

BXカネシン株式会社は、1965年設立した木造建築用の建築金物メーカーだ。2016年に文化シヤッターグループへ加わった。

制震機能付き筋かい金物で建材設備大賞特別賞、高強度でスリムな耐力壁をつくる柱脚金物で「グッドデザイン賞」と「建材設備大賞特別賞」をそれぞれ獲得している同社は、業界内外から注目される存在だ。

また、建築現場の作業工程に合せて、最新鋭のデジタルピッキングで、最短翌日で全国の施工現場へ建築金物を直送する自社デリバリーシステム「ARROWS(アローズ)」を構築したことでも知られている。

建築現場の作業効率を格段に向上させた、ARROWSが出来るまでの背景と今を取材した。

手書き伝票と人力ピッキングの限界

BXカネシン株式会社 業務統括部 物流管理課 課長 石原敦宏さん

──金物メーカーが、独自のデリバリーシステムをつくった理由は?

石原敦宏 私たちは自社工場を持たない「ファブレスメーカー」です。製造をパートナー企業へ委託して、会社が持つパワーは技術開発やサービス分野へ注いでいますし、優れた他社製品も取引先へ提供しています。

このビジネスモデルで取扱い製品が膨大になっていく過程で、オリジナルのシステムが必要になりました。伝票を手書きする、人力でピッキングするの従来スタイルでは、さらなるビジネス拡大が望めなかったからです。

そこで社内の各部署から主要メンバーを招集し、2007年にシステムづくりのプロジェクトを立ち上げました。

完成後にARROWS(アローズ)と呼ばれるようになったデリバリーシステムですが、プロジェクトスタート時の仮称は販売支援システムでした。目指したのものは、単に物流の仕組みをつくるのではなく、事業スキームの構築です。プロジェクト開始から約1年半を経て、受注~納品の情報管理を一本化する仕組みが完成しました。

〈スピーディで一気通貫のサポート〉という意味をARROWSの名にこめたんです。

トレーサービリティーも確実にできる業界先駆けと言えるシステムでしたが、そこからシステム安定稼働まで幾つかのハードルがありました。


目の前にモノがあるのに出荷できない!

──どんな障害とぶつかったのでしょうか?

石原 まずタイミングが悪かった。2009年にシステムが完成しましたが、リーマンショックの影響で大きな物流倉庫を確保するといった投資が難しくなりました。

やむなく東京都葛飾区の本社内に設けた小さなスペースでテスト稼働を開始しました。場所と人員が限られるなか、1日あたり数十件といった受注・出荷業務を積み重ねていました。

一方、社会の動向を見ながら、私たちの条件である〈コストが安く〉〈本社から15km圏内〉〈充分な在庫スペースがある〉にマッチする物件探しも進めていきました。

そして2010年2月、千葉県柏市に関東デリバリーセンターを開設しました。社内に時期尚早の声もある中での決断でした。

関東デリバリーセンター(千葉県柏市)の内観

不景気で1年後ろ倒しになったものの「さぁここから本稼働」というところで、また躓きがあったんです。

関東デリバリーセンターでは今、約50名のスタッフが正確な業務を行っています。しかし、稼働開始時のメンバーは全員素人。本社から異動した社員は、金物知識があっても、新しい物流システムへの理解が足りませんでした。

しかも、新規雇用のパートや派遣スタッフは、双方の知識と経験を持っていません。基本と言える商品番号の登録ミスで、目の前にモノがあるのに注文を打てない!出荷できない!という状況に陥ってしまいました。

スタートからの1週間は大混乱でしたね。機能は既にここへ集約していたので、当社の配送業務は滞ってしまいました。

――どのように改善したのでしょうか?

石原 この状況から一刻も早く脱却すべく、当時の役員や社員、派遣スタッフなどが総出で配送業務を行いました。すると、オペレーションは翌週から少しずつスムーズになっていきましたね。

また、作業効率を良くするためセンター内のレイアウトも変更し、およそ1カ月後にセンターは正常かつスピーディに動くようになりました。

デリバリーセンターのスタートにも躓きがありましたが、この期間に全フローを徹底的に見直したことで、以降は責任者が細かく指示しなくても、正確に作業できる環境ができあがったんです。

すると、お客様と当社営業から『注文した商品と数量が正しく入っている』という反響がたくさん還ってくるようになりました。

そんなこと当たり前だろうと思う方もいるでしょう。しかし、ARROWS以前は完全にアナログ作業。たとえば当社金物には付属のビスが付きますが、このセッティングも人の手で行っていました。そのため、本製品とビスの数が合わないということが日常的に起こっていたんです。

ハンディターミナルとPCで受注や履歴の情報共有が瞬時にできるARROWS。人的ミスが無くなった

ARROWSでは新しいビスのピッキング方法を導入し、本製品と付属品の定量に食い違いが起きない、人間がミスをしないデジタルの作業環境をつくりました。


必要なモノを必要なだけ届けるからコストダウンに繋がる

──ARROWSは、建設現場にとってどんなメリットがある?

石原 データの一元管理によって『正しい商品・数量がスピーディに届く』ことですね。また、そのことがサービスの拡充にも繋がっています。

一例をあげれば、少量・個別注文へのフレキシブル対応が可能になりました。それまでメーカーからケース単位で商品を購入していた卸問屋は、少量でも正確に納めるARROWSを評価していただいています。

また、『〇〇様邸分』といった個別配送に対応できる点を、ハウスメーカーや工務店に支持いただいています。必要なときにモノを受け取れるので、施工会社は余分な在庫を置かずに済みますし、ハウスメーカーは1棟ごとの積算や発注が省けますから。

坂上祐太 私が担当しているハウスメーカーは、取引以前は金物も木材工場から現場へ送っていました。在庫管理・ピッキングは人の手で行われていたので、間違いも多かったそうです。

2018年度のグッドデザイン賞に輝いたベースセッターについても説明してくれた営業・坂上さん

それに、現場から『モノが届いていない』と言われても未出荷なのか、それとも途中でなくなったのかを確認する術がなかったとのことでしたが、ARROWSによってそういうトラブルは無くなったと言ってくださいました。

また、ARROWSの履歴データをもとに必要な金物や釘の数量を精査し、木造住宅一棟に使用する釘の数を見直したところ、大きなコストダウンに繋がったということも聞いています。

現場の作業工程別に金具を梱包

――発送時の工夫は?

石原 ARROWSは立ち上げ当初から作業工程別梱包を行っています。各商品を〈基礎〉〈土台〉〈上棟〉〈構造〉〈造作〉〈その他〉に分類して梱包し、荷札ラベルに分かりやすく印字して現場へ届けてきました。これは業界初の試みでした。

まさに『必要なときに必要なものだけ』のサービスです。この方法が現場の作業効率も高めたと思います。

現在はさらにサービスを進化させています。一部取引先へのサービスですが、カラーラベル表示を導入しました。より識別しやすいように邸別記号や外枠カラー表示という手法も採用し、仕分け作業がよりに正確かつ効率的に行えるようになっています。

商品画像も付けているので、経験の浅い職人さんや外国人作業者の方も商品を探やすくなったと思います。今後は当サービスの範囲も要望に応じて拡大していく予定です。

――これからはどのように展開していく?

石原 デリバリーセンターは東北・関東・北陸・中部・関西・九州の6拠点展開になりました。事業規模はARROWS導入前が約50億円でしたが、現在は年商100億円規模に達しようとしています。ARROWS無くしてこの成長は望めなかったと思います。

現在は競合他社の多くがARROWSと同様のシステムを導入しています。ですが、私たちは当分野のパイオニアとして、今後もいち早く利便性の高い仕組みとサービスを開発していきます。

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広告プロダクションに15年勤務。自動車メーカー・スポーツ用品メーカーなどの商品広告に携わった後、フリーランスのライターに。有名ポータルサイトの特集や経営者インタビュー記事を数多く執筆している。
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