京都大学 工学部 藤井研究室の学生たち

「社会からバカにされる業界に、普通の若者は行かない」 京大工学部の学生から視た”土木”のリアル

日本有数の土木の学び場 京大工学部・地球工学科

京都大学工学部の土木工学科は、1897年の京都帝国大学の創立と同時に設立された歴史を持つ。日本有数の土木の学び場として、多くの研究者、技術者などを輩出してきた。

現在は地球工学科として、土木、資源、環境、国際(土木工学教育を英語で行うコース)の4コースを擁し、土木コース・国際コースを合わせて各学年100名以上の学生が学んでいる。

土木・国際コースの学生の配属先の一つに、藤井聡教授の研究室(大学院都市社会工学専攻交通マネジメント工学講座交通行動システム分野)がある。

イマドキの土木学生たちは、なぜ土木を学んでいるのか。建設業界にどのようなイメージを抱いているのか。彼らは仕事のやりがいをどのように捉えているのか。

藤井研究室の川端祐一郎・助教にも加わってもらい、藤井研究室の学生9名(B4、M1、M2)に話を聞いてきた。


京大で土木を学ぶ理由

大石(施工の神様ライター)

それぞれ自己紹介を。

宮本くん(B4)

もともと工学部を受けようと思っていたんですけど、最初は、地球工学科は第二希望で、積極的に勉強したいとは思っていなかったんです(笑)。

藤井研究室一同

おいおい(笑)。

宮本くん(B4)

なので、もともと土木をやりたかったわけではないんです(笑)。トップバッターがこんな感じで、すみません(笑)。ただ、土木コースに入ってからは、土木は大事だし、面白いと思うようになっています。

宮本涼太くん(B4)

坂井くん(M1)

学部生の時は、東京理科大学の土木工学科にいました。藤井研究室出身の先生のもとで卒論を書いたのがきっかけで、修士から藤井研究室に来ました。大学で土木を選んだ理由は、父親がゼネコンに勤めていたからです。

藤井研究室一同

へえ〜。

坂井くん(M1)

子供の頃、父親に東海環状自動車道の橋脚を見せられ、「俺がやったんだ」と言われたことがありました。「ああ、いいな〜」と思ったことがあります。今振り返ると、このときの経験が大きく影響していますね。

坂井琳太郎くん(M1)

細谷くん(B4)

土木コースに入ったのは、具体的にやりたいことが決まっていない中で、「カタチに残るモノ、橋とか大きなモノを自分の手でつくりたい」と思ったからです。

藤井研究室一同

え、そんなこと言うてたっけ?(笑)。

細谷くん(B4)

はい(笑)。

細谷祥吾くん(B4)

梁くん(B4)

正直に言って、土木そのものに興味があったわけではありません。地球工学科には国際コースがあって、授業を全部英語でやるんです。高3のときに「英語で勉強したい」と思って、受験したんです。

梁澤亜くん(B4)

片岡くん(M2)

高2で京大のオープンキャンパスに行ったときに、藤井先生が講演しているのを聞いたんです。「日本には地震のリスクがこんなにあんのに、君たちはメッチャぼーっとしてます」みたいな内容だったんですが、そのとき、地球工学科の存在がすごく印象に残りました。2回生ぐらいのときに藤井先生の情熱的な授業を聞いて、藤井研究室を選びました。

片岡将くん(M2)

鈴木くん(M1)

学部時代は東京農工大学で機械システム工学を学んでいましたが、修士で藤井研究室に来ました。藤井研究室に来た理由は、片岡さんと似ているのですが、藤井先生が国会で口述している動画を見て、地震リスクに関する研究をしたいと考えたからです。南海トラフ地震や首都直下型地震などに対応するためには、藤井先生が提唱する国土強靭化はとても重要だと考えています。

鈴木舜也くん(M1)

田中くん(B4)

大学に入る前は「資源工学科が面白そうだ」と思っていたのですが、入ってからは「土木工学の方が面白い」と思うようになりました。例えば、日本を強くするとか、日本をつくっていくという土木の勉強は、非常にやりがいがあるなと感じたからです。藤井研究室に入ったのは、「藤井先生は非常に良い人だ」と思ったからです。

藤井研究室一同

良い人っておかしいやろ(笑)。

田中くん(B4)

いや、なんというか、スゴク意志のある先生だなと思って藤井研に入りました。

田中駿也くん(B4)

上田くん(M1)

もともと京都に住んでいて、大学が近かったということがあるんですが、高1のときに地球工学科のOBの人の講演を聞いて土木に興味を持ったのが、きっかけです。藤井研に入ったのは、入学してからいろいろ知ることによって、興味が湧いて、その流れで入ってしまったという感じですね。

上田大貴くん(M1)

遠山くん(M1)

土木に入った理由は2つあります。1つは、兄が建築系の勉強していたことです。兄から都市計画の話なんかを聞いていくうちに、土木に興味を持ちました。

2つ目が、東日本大震災が起こったとき、当時東京にいたのですが、結構揺れたんです。そのときの記憶が強烈だったので、「防災をやってみたい」という気持ちもありました。それで大学で土木を選びました。

遠山航輝くん(M1)

大石(施工の神様ライター)

川端先生はなぜ土木の研究室に?

川端祐一郎・助教

私はもともと、全く土木とは関係がありませんでした(笑)。筑波大学で行政学を専攻する学生だった頃に、当時東京で評論家の西部邁先生がやっていた塾に通っていて、同じ塾生として藤井先生と知り合いました。当時、藤井先生は東京工業大学の准教授で、塾の後はいつも、他の塾生数名と一緒に朝まで飲んでいました。

その後私は日本郵政公社に入り、民営化を経て日本郵便株式会社で働いていたのですが、藤井先生から「社会人ドクターで大学院に来たら?」と誘われまして、働きながら博士号を取り、その後たまたま藤井研の助教のポストが空いたので転職してきたという感じです。

博士課程では心理学寄りの研究をしていましたが、公共事業に対する住民の合意形成などに関係する研究なので、土木と全く関係がないというわけでもありません。

川端祐一郎・京都大学大学院工学研究科都市社会工学専攻助教

藤井聡先生は「最終形態の人」

大石(施工の神様ライター)

藤井聡先生の印象は?

宮本くん(B4)

「強い意志を持ってエネルギッシュな先生だな」という印象ですね。

坂井くん(M1)

初めて挨拶にいったときに、藤井先生から怒られたのが印象に残っています。エネルギーがスゴイというか、圧が強いというか、すべてに対してブワーッと力を注ぎ込むようなところがあって、こういう人は初めてでしたね。尊敬していますけど、コワイです。

大石(施工の神様ライター)

なんで怒られたの?

坂井くん(M1)

ドモッたとか、そういうことで。

川端祐一郎・助教

さすがにそんなことでは怒らへんやろ(笑)。

坂井くん(M1)

「なんで怒られたのかな」とその時はちょっと思ったんですが(笑)、今考えると他にも到らないところがあって、今はそれがつながっている感じですね。

大石(施工の神様ライター)

ほかのみんなは?

細谷くん(B4)

藤井先生のような考え方の人を初めて見たという印象がありますね。大阪都構想批判やMMTの話なんかは、藤井先生に会っていなかったら、僕は知らないまま過ごしていたと思います。藤井先生の話を聞くと、常に新しい発見があるんです。確かにコワイですけど。

梁くん(B4)

藤井研究室に入ってラッキーだったなという感じはあります。それまでの大学生活は結構ボーッと過ごしてきたんですが、研究室に入ってから、ピリッとするようになったんですよね。勉強もするし、本を読んで、ちゃんとものを考えるようになりました。良い経験をさせてもらっている感覚があります。

片岡くん(M2)

熱を持ってやっている先生という印象ですね。

鈴木くん(M1)

実際に会うまでは、「国のことを想っている人なんだなあ」という程度の印象でしたが、会ってみると、いろいろな教養を積み重ねた上で、プラグマティックなことをやっていることがわかりました。上手く言えませんが、「最終形態の人」だと思っています。

藤井研究室一同

何やそら(笑)。

田中くん(B4)

哲学や思想を大事にされる方で、理系の先生にはなかなかいないタイプなので、素晴らしいと思っています。

上田くん(M1)

藤井研究室に入ると、自分が感じる範囲で、色々なことが「正しい」のかどうかというのを常に考えさせられます。「これは正しい」ということをちゃんと説得できる人、納得させてもらえる先生に出会えたことは良かったなと思います。藤井先生の話を聞くと、知らなかったことについて「なるほどなあ」と思う機会が増えました。

遠山くん(M1)

話はカブりますが、メチャメチャ熱い先生で、教授なので当たり前ですがスゴく頭の切れる先生だという印象です。その一方で、飲みに行くと、ざっくばらんだったり、街中でおばちゃんと仲良く話し込んだりすることもあって、人間味溢れる方だったりもします。エリートなんだけど、エリートぶらない感じがスゴイなと思います。

大石(施工の神様ライター)

川端先生はどうですか?

川端祐一郎・助教

先ほども言ったように、藤井先生とは学生時代によく朝まで飲んでいたんですが、「神とは?」「価値とは?」みたいな話をよくしてましたね。土木工学というのは技術論の占める割合が大きいと思いますが、藤井先生の関心は、その技術をなんのために使うのか、どう使うのが正しいかにあるという感じでしょう。

今でも、倫理的な判断にこだわりを持って研究を進めていますが、それがこの研究室の最大の特色であるとともに、ある意味では、外部の方と対立を生むポイントでもあるかもしれません。藤井研究室は「政治的すぎる」とよく言われますからね(笑)。まぁ、そう言いたくなる気持ちは分かるのですが、それでも誰かが買って出るべき役柄だとも思うんですよね。

川端先生の話に耳を傾ける学生たち

川端祐一郎・助教

土木学会とかに参加して不思議だなと思うのは、「俺はこういう日本にしたほうが良いと思うけど、お前はどう思う?」みたいな議論が、意外と少ないということですね。社会全体がどういう方向に向かうべきか、というような、大きな目的意識に関する議論は少ない。

藤井先生の場合は、「それじゃアカンやろ」ということであえて政治色のある議論をするわけですが、それは学者のすることではないというお考えの先生も多いみたいなので、まぁ少数派です。

大石(施工の神様ライター)

藤井研究室の魅力は?

遠山くん(M1)

藤井研究室に入ると、今まで考えたこともなかったことをいろいろと考えるようになり、早く大人になれます(笑)。自分を試されているような感覚があって、社会に出る前にそういう体験ができるのが魅力です。

片岡くん(M2)

先日他大学の学生と絡んだときに、ある女の子から「藤井研の学生は精神的に成熟している」と言われました(笑)。それなりに洗練された女の子でした。藤井研に入ると、洗練された女の子からポジティブな評価が得られる人間になる可能性が高いと思っています。

川端祐一郎・助教

それはお世辞で言われただけやろ(笑)。

藤井研究室一同

(爆笑)。


ゼネコンは、同じ仕事の繰り返し

大石(施工の神様ライター)

就職とか、将来についてどう考えていますか?

宮本くん(B4)

将来どんな仕事をしたいかについては、今はあまりイメージできていません。ただ、土木に関係する仕事に就くんじゃないかなという気はしています。民間が良いかなと思っていますが、公務員試験も受けるかもしれません。

坂井くん(M1)

今就活中ですが、国土交通省か交通インフラ関係への就職を考えています。現状の交通インフラには、いろいろ問題があると感じているので、それを改善する仕事に携われれば良いなと思っています。

細谷くん(B4)

具体的にここで働きたいという考えはありませんが、「大きいものをつくりたい」ということでいくと、建設会社が良いかなと思っています。発注者側として関わることもできるので、公務員も面白いかなとも思います。今のところ考え中です。

梁くん(B4)

就活では、あるゼネコンのインターンに2週間ほど行ってみたのですが、正直「自分には合わないな」と思いました。勉強してきたこととのギャップがあったし、この仕事を40年間やり続けることを考えると、ワクワクしなかったからです。

ゼネコンの場合、たまたま僕が見た範囲がそうだっただけかも知れませんが、「受注したモノをつくる」の繰り返しのように思えて、同じ仕事をし続けるのは僕には向いていないと思ったんです。いろいろな分野に携われる仕事に就きたいと思っています。

片岡くん(M2)

僕はある鉄道会社に就職が決まっています。土木とは関係ない保線の部門ですが、3年間の土木を勉強してきた素養には、ずっと触れ続けていきたいという思いはあります。

鈴木くん(M1)

今のところは、社会基盤に関わる民間企業を主眼に置いています。鉄道会社、不動産会社、シンクタンクなどに関心があります。

田中くん(B4)

おそらく土木関係のところに就職すると思います。ただ、公務員になるつもりはありません。具体的には、これからゆっくり決めていこうと思っています。

上田くん(M1)

自分は、「これをやりたい」というこだわりはあまりなくて、やらされることを「工夫する」のが向いていると思っています。土木の仕事に就くとすれば、一から考えるより、どれを当てはめるかを考える仕事が向いているかなと思っています。

遠山くん(M1)

僕も「これをやりたい」という強いものはありません。藤井研究室で学んだことが活かせるという意味では、国土交通省が一番近いと思いますが、藤井研究室の勉強が活かせるのであれば、どこでも良いかなと思っています。逆に、たとえばですが、仮想通貨の会社とか、流行りのビジネスをやっているような会社にはあまり興味はありません。

土木の勉強って、穴掘ってんの?

大石(施工の神様ライター)

土木を学ぶことに対して周りの反応は?

坂井くん(M1)

同級生に土木工学を勉強していると言ったら、「え、穴掘ってんの?」と言われたことがあります。僕の周りでは、「土木=作業員」というイメージが強いと言うか、そもそも土木でなにをやっているのか知らない人間が多かったですね。都市計画は建築だと思っている人もいたりして、土木バッシング以前に、土木を知らない層が多いというのが、僕の印象ですね。

遠山くん(M1)

僕も同じ経験があります。土木を勉強していると言うと、「何をしているの?」と言われました。

坂井くん(M1)

建築との違いがわかっていない人が多くない?

遠山くん(M1)

「土を掘って、なんかつくっている」というイメージしかない感じ。

片岡くん(M2)

「土木を勉強している」と言っても、なんの反応もないことも少なくないよね(笑)。

藤井研究室一同

そうだね(笑)。

大石(施工の神様ライター)

「建築と土木どっちにしようか」と考えたことは?

上田くん(M1)

建築がダメだったので、土木に来たという友達はいましたね。周りにいなかった?

遠山くん(M1)

そういう人は多かったね。やっぱり「建築の方がオシャレ」なイメージ、「クリエイティブでエリート」みたいな感じがあるからね。土木は「汗臭くて、キタナイ」イメージだし。


社会からバカにされる業界に、普通の若者は行かない

大石(施工の神様ライター)

世間的には、未だ建設業界には悪いイメージがありますが、それはなぜだと思いますか?

宮本くん(B4)

談合のイメージだと思います。僕自身は談合は悪いことだとは思っていませんけど、世間的には悪いイメージになっていると思います。

坂井くん(M1)

僕の建設業界のイメージは、父親によるところが大きいのですが、かなり忙しそうにしているイメージがあります。

例えば、工期が迫ってくると、土曜日の夜11時になっても、現場にいるみたいな。高校生のころは、父親はほとんど家にいませんでしたし。「割に合わない」と思ったら、続けられない仕事だろうなと思ったことがあります。やはり、世間的には「建設業界は悪いことをしている業界」というイメージは残っていると思います。

社会から尊敬されない、バカにされるような業界には、普通の若者は行かないと思います。

細谷くん(B4)

新聞なんかで、「公共事業でムダな道路をつくっている」などという記事がちょくちょく出て、「すごくムダなことをしている業界」というイメージがあると思います。土木のことを知らない人にとっては、そのイメージしかないと思うんです。

いろいろな業界がある中で、わざわざそんなイメージのある建設業界が行きたい業界の真ん中に来ることはないと思うんです。あとは、「忙しくて大変だ」というイメージもあります。ゼネコンの方の話を聞いたことがあるのですが、「朝早く起きて、週6日働いている」と言っていました。

実際にそういう話を聞かされると、土木の勉強をしている僕でも、「難しいなあ」と思った覚えがあります。

梁くん(B4)

建設業界の仕事の内容を理解してもらうためのプロモーションが足りないと思います。普通の人は「穴掘っている」イメージという話がありましたが、ゼネコンではどういう仕事をしているかをちゃんと伝えて、ブランディングする必要があると思います。

やりがいを広めることも大事だと思います。インターンでは同じ作業を繰り返すだけで、社員の方々から仕事のやりがいについて一言も聞かせてもらえませんでした。だから僕にはムリだなと思ったんです。

ただ、激務だとしても給料は悪くないし、やりがいさえちゃんと感じられれば、人は来ると思います。建設業界に入れば、お金以外に何が得られるかをちゃんと伝えていくことが大事だと思います。

片岡くん(M2)

建設業界は「裏方の仕事」なので、世間的にスポットを浴びる機会が少ないので、なかなか人気が出ないところがあると思います。現場仕事でツライ、キタナイという負のイメージもあると思います。

抽象的ですけど、「裏方であることの美徳」みたいなものが世間的に認知されれば、イメージも変わるのかなとは思っています。

鈴木くん(M1)

「土建屋」などの言葉に代表されるように、建設業に対するネガティブなイメージは根深いものがあると感じています。そういうベースがあるところに、談合などの問題が繰り返しメディアで取り上げられることで、さらにイメージが悪化していると考えています。

抽象的な言い方になりますが、「デフレの脱却は建設業にとって特効薬になる」と感じています。

田中くん(B4)

建設業界には、やっぱり肉体労働、長時間労働というイメージがあるので、若い人が敬遠しているのだと思います。今の若い人は、「お金を稼ぐことよりも、長く働きたくない」という考えが強いと思うんです。

なので、若い人を呼び込むためには、もっと肉体労働と長時間労働を減らすアピールをしていく必要があると思います。

上田くん(M1)

世間的には、建設業界に対して良いイメージも悪いイメージもなく、関心がないんだと思っています。建設業界の人が悪い人ばかりだとは思っていないし、入ってみたら面白いかもしれないけど、わざわざ暑い中作業したいとは思わないということだと思います。

悪いイメージがどうこうというよりも、「良いイメージがない」「特に印象もない」のが問題じゃないかという気がしています。完成したダムや橋を見るのを楽しむ人は増えていますが、つくっているところが面白いという人はあまりいないと思います。

遠山くん(M1)

僕もあるゼネコンにインターンに行ったことがあるのですが、社員の人に「なんでこの仕事しているんですか」と聞いたら、「地図に残るんや。地図見たらオモロイぞ」と言われたんです。「メッチャ単純やけど、スゴイな」と思いました。

ただ、身近なところで土木のやりがいを感じる機会は、あまりないのかなという印象を持ちました。自分の生活の中に土木があるという感覚があまりないので、若者にとって遠い存在というか、やりがいを見出しづらい面があるとように思います。

京大の土木学生が考える「働く」ということ

大石(施工の神様ライター)

「働く」とはどういうことだと思いますか?

宮本くん(B4)

僕にとって働くとは、社会に価値を生み出すことだと考えています。「価値って何?」と聞かれると、答えづらいんですけど。

ただ、今の若者には、どんなにやりがいのある仕事でも、給料が増えないなら、自分の時間を大事にしようと思う人が多いんじゃないかなと思います。

坂井くん(M1)

僕の場合はコンスタントに土日が休みがある必要はないんですけど…。

川端祐一郎・助教

それ、かなりブラック体質やで(笑)。

坂井くん(M1)

盆暮れの休みがあればかまわないです。単身赴任も平気です。2ヶ月働き続けでも、それが終わったらまとめて休めるとかなら大丈夫です。

ただ、仕事にやりがいが感じられないで、「自分が生きているのは土日だけ」みたいなのは絶対イヤです。

細谷くん(B4)

僕は週2日ちゃんと休んで、家族とかと一緒の時間を大事にしたいです。転勤もイヤです。お金を稼ぐためだけに週5日仕事をするのは、長過ぎると感じます。

お金のためだけに自分の人生を仕事に捧げるのはイヤです。お金のためだけではなく、社会の役に立つとか、自分が誇りに思えるような仕事をしたいと考えています。

梁くん(B4)

僕は「ワークライフバランス」の考え方には賛同していません。「ワーク」は悪いもの、「ライフ」は良いものという位置づけになっていて、人生の重心が週2日の休みにしか入っていない感じがするからです。週5日は死んだように働いて、お金をもらう。週2日の休みは、なけなしのお金を使って楽しむみたいな。

40年働いたときに、自分の「ライフ」は10年もないわけじゃないですか。それってスゴくもったいないと思うんです。僕は、ワークもライフと同じように楽しみたいので。普通にのめり込んで、楽しいなと思える仕事をやるのがいちばん大事なんじゃないかと思っています。

基本的には「仕事=趣味」みたいな感じでやっていきたいです。ただ、家族ができれば、考え方は変わると思います。やっぱり家族サービスはしたいですし。

片岡くん(M2)

やりがいのある仕事は前提ですが、「身を粉にして働く」ぐらいがちょうど良いです。ライフの時間がたくさんあったところで、ライフを充実して過ごす器用さがあまりないので。身を粉にして働けるような仕事を軸にしたライフスタイルを築いていきたいと思っています。

川端祐一郎・助教

もっと分かりやすく、「今も研究室に泊まり込んでます」と言わないと(笑)。

片岡くん(M2)

僕は、深夜に研究すると、めっちゃテンション上がるんです(笑)。

鈴木くん(M1)

仕事には、やりがいと目的意識が大事だと思っています。それらには相関関係があると考えています。藤井先生の本に『プラグマティズムの作法」という本があるのですが、その中に近江商人の「三方良し」に関するエピソードが出ています。

浅草の和菓子屋が客に和菓子を提供する。客は美味しい和菓子を食べ、店は利益が上がる。それを見た通行人は和菓子屋に対して良いイメージを持つ。三方が良くなっていくという話です。今の小売業の効率主義と相反する話として紹介しています。

ワークライフバランスの考え方は、ワークとライフが対立するという考え方がベースにありますが、自分とワークもライフともに活かすのが、自分なりの「三方良し」の働く姿なのかなという気がします。

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田中くん(B4)

ワークライフバランスは大事だと思っています。世の中には、不幸にもやりがいを感じられない仕事に就いている人は多くいると思うので、仕事以外に人生の楽しみを見つけることは必要なことだからです。

私も多分、仕事に重点を置く生活ではなく、仕事以外の楽しみを見つけるほうが幸せです。長時間労働についても、私は体が弱いので、あまりムリがかからない程度でやっていきたいところです。

上田くん(M1)

好きなことをやると言っても、好きな状態はそんなには続かないと思っています。好きなことにこだわるのではなく、「まあまあ」みたいな感じのことをやっていったら良いんじゃないかなと思っています。どんなに忙しくても、ちゃんと仕事に緩急があれば、割と大丈夫だと考えています。

週休2日と言いますが、忙しいときは休みなしでも良いし、休めるときに休むのが一番良いんじゃないかという気がしています。僕は生まれてからずっと京都で、京都しか知らないので、転勤については抵抗はありません。混んでるイメージがあるので、東京には行きたくないぐらいで(笑)。

遠山くん(M1)

梁くんの好きなことをやりたいというのもわかるし、上田くんの好きなことは続かないという話も良くわかります。

僕の場合は、好きなことというより、意味のある仕事をしたいという思いがあります。言い換えれば、社会に貢献できる仕事です。同じところに住み続けたいので、転勤はイヤですね。東京から京都に来たのですが、慣れるのがシンドかったので。今は京都にずっといたいぐらいです。



土木業界は「巨大な夢を語る気風」を取り戻すべき

大石(施工の神様ライター)

川端先生、最後にコメントを。

川端祐一郎・助教

私は、20代のうちは徹夜で仕事を頑張っても良いと思うほうです。自分の限界に近いところで、長時間かけることでスキルや自信が身について、それがその後何年も役に立つということがあるので。

さきほど「ゼネコンは外から降ってくる仕事を受注してるだけではないか」というような話もありましたが、本来土木というのは、めちゃくちゃクリエイティブな仕事だと思うんです。近代国家はある面では土木屋によって作り上げられたようなものです。明治時代には商人も盛んに土木事業に投資していたわけですし。

「土木は裏方」みたいな話もありましたが、もともと土木事業によって「都市」の基礎を作り上げるというのは、「花形」と言って良い仕事だったはずです。

大石(施工の神様ライター)

はい。

川端祐一郎・助教

ところが今は、土木バッシングとか不景気とか色々な背景があって、政界も経済界も含めて「国土をデザインしていこう」というような意識は希薄化してしまっていますよね。だから、梁くんが「ゼネコンのインターンに行った結果、建設業は面白くないと思った」というのも、ある意味それが正しい見方なのかもしれません。「冒険」的なものを求める若者が、今ならITや金融の世界に行ってしまうというのも、わかる気がします。

しかし、今の時代でも、例えば、東京に集中した人口を分散し、バランスの取れた国土をつくるとか、確実に発生する大地震にどう備えるかなど、土木屋がやるべき面白い仕事は山のようにあるはずです。「国全体をデザインする」というような、「巨大な夢を語る気風」をもう一度取り戻すべきではないでしょうか。

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基本的には従順ですが、たまに噛みつきます。
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