創業者がインフラ補修大手を経て、同業の一次専業者(下請け)として設立した横浜システック。施工管理を主力に、施工も一部担う。コンクリート構造物補修の確かな品質に定評があり、創業から約20年、さまざまな発注者(元請け業者)から優良表彰を受けてきた。その実績に強い関心を寄せた横山産業が昨年にM&Aを実施。横山は生コンが主業。インフラの老朽化問題への対応が社会的要請に進展する一方で、担い手の人手不足が課題に浮上している昨今、このボトルネック解消に寄与しようと、インフラ補修部門増強の柱としてM&Aを進捗中だ。
その初弾が横浜システック。資本を入れるだけでなく、重松伸也インフラ再生事業部長が株主側の役員として会長職で1月に着任し、社員を増やし人材育成に注力する体制に。知見が豊富な現場監督やスタッフと協力してOJTを進めるほか、4月から社内に技術者育成スクールを常設。リスキリングを強力に推進し、全社的に土木の基礎からおさらい、知見の共有も促進するほか、資格取得の後押しもする。
ノルマとは正反対。品質や技術に対し”ピュアで、真摯”
――横山産業さんでは、インフラ補修部門を増強しようとM&Aを積極化しています。
重松会長 横山産業は主に生コン製造と不動産開発の会社です。「国土の均衡ある発展」で旺盛な建設需要に対して、長らく生コンを供給してきました。近年、インフラの老朽化問題への対応が社会的要請に進展する一方で、担い手の人手不足が課題に浮上してきて、このボトルネック解消に寄与しようと、インフラ補修部門を増強することにしました。
その柱として、M&Aを進めています。補修を確実に進めていくには、やはり一次専業者の集まりをつくっていくことがいいのではないかと。1社だけだとやれることは限られます、経営的にも、社員に対しても。幅広い補修に対応できる専業グループとして集まれば、人・モノ・カネ・情報の経営資源を効率的に投入できるようになりますから経営も安定しますし、社員はムリ・ムダ・ムラを省けますから、仕事の波が平準化されてきます。働く人の待遇や労働環境を良くできますよね。
――なるほど。集まって、助け合うと、いい結果につながると。
重松会長 もちろん規模だけではないですよ。我々一次下請けの専業は、高品質と工期をミッションに元請けとつながるわけですから、高い専門性で応えるために、社員の教育・育成をグループ全社・全員で取り組んでいきます。インフラの安全安心をまもる補修の仕事は、社会的な責任も重いし、専門的な知識や技能も求められます。巷間、キーワードにもなっているリスキリングを強力に推進していきます。
逆に待っていられないところまで来ていますからね、業界では現場監督が不足する状況が続いていますから。これまで人余りの時代が長く続きましたが、180度発想を転換して、人はもう来ない環境に変わったんだという前提で、採用できた人は他業種から来た人も含め早く確実に育てる、そして資格さえ取れればいいということでなく、継続的に教育していく。
こうしたことを考えながら、インフラ補修部門の一次専業グループをつくっていくM&Aの初弾が横浜システックさんです。
――横浜システックさんに着任されて2カ月経ちました。
重松会長 M&Aを進めるなかで、横浜システックは出来形と品質の素晴らしさが際立っていたので、その背景というか源泉というか、横山産業としてもインフラ補修事業を増強するには、そこを守り育てることがキーになると考えていました。
来てみると、何か特別な締め付けとかノルマとかとは正反対で、品質とか技術に対してひとりひとりがとてもピュア、真摯で、会社がそういうことをきちんと見ているし、品質や工期においての長年の実績のなかで発注者である元請けもきちんと見てくれている。品質に対して技術で応えていこうと、現場監督を中心に社内横断で知恵を出し合い、また現場でもちょっとした工夫で改善を重ねる、この創業からの文化が定着しているんです。
私自身もこの年齢になるまで、設計や施工で多くの現場を経験してきて、人は大切にして当然という考えが常からありまして、この横浜システックの文化にはとても共感しています。この文化を守り育てていくことが、インフラ補修事業の増強という側面から見ても、社業を通じて社会に貢献していくという側面から見ても、当然社員の幸せという面から見ても、柱になると確信しています。
高品質・高出来形の源泉は「創業からの”現場営業”」
――横浜システックさんの強みは「高品質・高出来形」とお聞きしました。どんな会社さんなんですか?
北原部長 補修専業のキャリアを強みにしている一次下請け会社で、業務は施工管理と一部の施工です。1級、2級問わず土木施工管理技士の資格保有者が10~12人くらい、施工班が10人くらいです。鉄道関連の資格を持っていることもあり、長らく鉄道関係の仕事が多かったのですが、近年は道路関係の仕事も増えてきて、そこにコロナなどの影響もあり、ここ4~5年くらいは道路関係の方が多くなってきています。
また今般、横山産業さんが資本と人材育成の仕組みを入れているので、資格取得途上者の4~5人は取得も早まるでしょうし、今までは社員1人1現場というのが確定していたんですけれど、そこに若い子を付けて現場を教えながらできますから、それがまた品質につながっていくと期待しています。
うちの会社は「現場営業」といって、会社の実力や実態は全て現場が物語る、現場の品質や対応力の確実さが評価されて次の仕事につながる、という考えをもって現場の品質に取り組んでいます。
――なるほど、品質に注力されている、その結果出来形もついてくるということですね。開発工法とかでの差別化はありますか?
五十嵐次長 工法開発はしていないのですけれど、日本ペイントさんで開発された剥落防止工法のQR工法の工法協会の理事をうちの顧問(前会長)が務めています。
――では、QR工法はよく使われているということですね。
五十嵐次長 QR工法は連続繊維が入ってないけれども、剥落対策になる工法です。塗布量で厚みをある程度付けることによって、剥落防止能力を発揮する工法です。塗布量によって強度が変わってきてしまうので、技術力のある人が施工するとか、うちみたいな会社が施工管理で付いて、作業員さんと情報共有してやっていかないと、安定した強度が出せなくなってしまうことがあるんです。
技術力のある会社には強みになる工法なんですが、逆に、人手不足とか熟練者不足とか建設業全体がそういう状況になってくると、普通の施工力でできる手法で発注する方が安全だからシートに決めて出してくる、というようなある意味逆説的な現象が起こっていて、最近は昔ほど施工してはいないですけれどもね。
――「現場営業」はどうすれば実践、達成できるのでしょう? 実際にどのように品質に取り組んでいますか。
五十嵐次長 基本的にまず、最近は国交省さん関連とかNEXCOさん関連の仕事が多いですので、そもそも発注者元請さんから、この書式を使って毎日毎日全部チェックして記入してね、という品質管理を求められていますので、自然にレベルの高い品質管理になる仕組みになっているんですね。
――なるほど。では、その仕組みを確実に実施していくためには何か?
北原部長 週に1回、週間工程会議といって、みんなで会議をします。現場ごとでなく、全員でやりますから、その現場に実際には関わらない人の知恵もみんなそこで出し合って話ができるんですね。
会議が終わった後でも、詳しい人に個人的に追加で聞くとか普通にしています。例えば、モルタルの吹き付けの現場を今度やるけれども、現場の特徴はこうなので、先んじて必要なものとか、気をつけることはありますかとか。全体の会議と個別に聞くのと合わせ技ですね。みんな得意な分野がありますから、この技術ならこの人が得意だし詳しいとか、こういう現場ならこの人が得意だし詳しいというのがあるんですね。加えて直近でやった人にも聞いておきます、QRだったら最近やったのは誰だったっけ、と周囲に聞いて、その人に留意点などを確認しておきます。
五十嵐次長 他にも工事引き継ぎというのがありまして、営業して仕事をとった人がいろんな資料を持ってきて、工事担当者と打ち合わせをして、こういうところを先に確認しておいた方がいいよとか、いろいろアドバイスをもらったり、経緯や留意点を説明してもらったりします。
重松会長 メーカーさんにも聞いていますよね。一次下請けでそこまでメーカーさんと直接やりとりできる関係は珍しい。
北原部長 うちの場合は昔からの慣習なんです。元請けさんによっては、人工(にんく)だけで発注しますよね、材料を元請けさんが買って、これでやってね、と。でも、うちの場合は補修専業で、材料や施工方法と現場条件での向き不向きなどの知見が蓄積しているというところもあって、みんな材工にして出してくれているので、メーカーさんと普通に直接やり取りする環境があるんですよね。
重松会長 北原部長と五十嵐次長は2人とも他所から移ってきた人たちなんですよ。そういう人は横浜システックには結構いるんですよね。業界の慣例というか、大手とかの会社さんでは経験を積んでくると管理側になるので現場から遠くなっていくんです。
でも、「ずっと、大学、高専から土木です」という土木屋のなかには、まだまだ現役で現場をやりたいという人も結構いるんです。そういう人たちは転職するんです。知識も経験も現場に持ってきてくれて、そもそも現場の醍醐味、品質とか技術とかへの探求心から現場に留まることに魅力を感じている人たちなので、周囲とも切磋琢磨してくれますから、とても良い影響を現場にも会社にも周囲に振り撒いてくれるんですね。
「現場のスマホべとべと問題」カイゼンマインドがDX推進の二の足に
――実際に何か現場の工夫の事例とかはありますか? 例えば、近年推進が求められているDX関連の活用などは。
北原部長 アナログ的には結構アイデア商品みたいなものを作って使っています。安く、早く、確実にできる方法をみんなに聞いて、実際にやってみてよかったらまたみんなに共有しています。
例えば、アンカーの削孔位置数千か所を1本1本全部管理してくださいとなると、一つ一つ測らなくても、これを当てれば一目でOKかダメか確認できるという器具を、現場で厚紙で自分たちで手作りして、1人が測って1人が記録してどんどん仕事を進めるようなことを最近やってみました。こうしてちょっと道具を変えれば早くなりますし、1穴1秒かかっていたら、どこかを変えたら1穴0.5秒ですむようになる。何千か所ですから時短効果はすごくなりますよね。厚紙ですから、破損したり、あるいは何か付着したりして精度に不安が出たら、予備でつくっていた別の厚紙に取り替えればいいだけですから、安いですよね。
五十嵐次長 梱包とかの厚紙は結構使えます。
北原部長 なぜ厚紙でつくるかといると、現場では樹脂、塗料を使っているので、べちゃべちゃついてしまって、例えばR定規みたいな器具がダメになっちゃいましたっていうことがすぐに起こるので、だったら現場にある厚紙みたいな手近なもので手作りして、汚れたり破損したりしたら使い捨てで、と現場で運用しています。結構古典的なものを作ります、ダメになるたびに買い替えていたら、コストが膨らみますから。
――DX関係は?
北原部長 一番弱い…。
五十嵐次長 オンラインの立会もありますけれど、実際の施工のなかでのDXっていうと…。現場でレーザーを使ったことがありまして、何十メートルも測るときに、レーザーでとりあえず概算を測ろうと思ったら、橋脚がちょっとカーブしているとかあると、光は構造物に沿って自分で曲がるとか配慮してくれませんから、もう使えない…、とガックリすることがありました。意外かもしれませんけれど、土木ってミリ単位の世界なので、数ミリとか違いが出てきちゃうと厳しいんです。
新しい技術は便利なんですが、使える条件に現場を合わせなければ使えないことも多いので、現場条件によらず一通りはできるこれまでの技術とか、さっきの厚紙器具のように、それを現場でアナログな工夫をした技術の方が結局は効率良かった、ということが起こるんですよ。
北原部長 ロボットを使うウォータージェットとか耳にすると、いいな~とか思うんですけれど、やっぱり使うとなると広くてフラットで他のものも置いていないようなカタログみたいなきれいな足場の現場じゃないと、ロボティクス的なものも使えないですしね。いい条件のところじゃないと、そのまま使えないことが多いので、結局はアナログに戻るんですよね。
五十嵐次長 でも、あれは良かったですよ。前の現場で、元請けさんが電子黒板を使用したDXに対応して欲しいという話になりまして、使ってみると非常に便利で効率いいなと思ったので、会社の会議でそれを上の方には話したんですけれど、どうなるのかな、と。
重松会長 電子黒板のほうが簡単ですよ。
五十嵐次長 そうなんですよ。スマホにアプリを入れて、字が汚くなってしまっても、電子黒板だったら、綺麗に見やすくて、黒板も自由に動かせますし、所定の位置に入るんです。なんだったら10万円くらいするんですが、ソフトがあれば、パソコンの中で自動的に割り振って、写真整理もしてくれてとか、いろいろ人件費削減につながるなと思うんですけれど。
重松会長 それ、まだ進んでいないの?
五十嵐次長 そうなんですよね。一応提案はしているんですけれど。
北原部長 汚れますからね。スマホを現場内で触らなきゃいけませんよとなると、樹脂やモルタルでスマホがベトベトになって、その後ガチガチに硬化しますから、ダメにしちゃうんじゃないかっていう心配があるんですよ。実際問題、手袋を外して使えばいいだけの話なんですけれども、その手間を考えると…。
確かに、自動で割り振って、写真整理もしてくれるので、今はやりのDXでバックオフィスの効率化をして生産性を上げて人件費も抑制できるとかと一緒ですし、リアルタイムでデータもたまりますからジャスト・イン・タイムで材料とか人を適量で手配できて無駄な経費も省かれる、いいことがあることは分かるんです。
ですが、手袋を外す・はめる、スマホを出す・しまう、アプリを起動するの手間で、例えば20秒かかるとすると、一現場何百回・何千回これが累積して、結局手書きのほうが早くて、浮いた時間で別の仕事ができるので経費的にも合理的とかね。小さい画面に指で入力するってなると、人によっては黒板の何倍も時間がかかることも考えられますでしょ。この現場のカイゼンの部分でもね、躊躇させるんですよ。
――そうなんですね。物理的にべとべと問題が解決すれば、現場VS事務所でどっちの部分最適を重視する論争も解消するように思いますが、どこかメーカーさんとかアイデア商品はありますか?
北原部長 そこまでは考えられていないですね。本当にごくごく一部の世界のニッチな需要ですので。
五十嵐次長 スマホカバーで水中オッケーなものとか、キッチンアイテムですがジップロックとか、そういうものを工夫して使っている人たちは、現場にはいっぱいいるでしょうけれどね。
働き方改革で、週休2日の定着進む。平準化などの配慮が奏功
――”スマホべとべと”を起点に、バックオフィス改革、トヨタ生産方式まで深掘りの議論の末にキッチンアイテムでの工夫にたどり着くとは、現場の奥深さを勉強させてもらいました。大きく話は戻って働き方改革ですが、週休2日はどんな感じですか?大変ですか?
北原部長 公共工事はだいたい土日休み、祝日も休みというかたちにほとんどなってきてます。
重松会長 その分、お金もみてくれていますし、工期も柔軟にして、工事量が平準化できるような仕組みを取り入れてくれているので、働きやすくなっているんですよ。工期も、3月までにできないと繰り越して6月まででいいよとかですね。発注も、4月スタートだったら、1~3月で入札行為をして、それが第1四半期、第2四半期ぐらいに工事が始まって、と通年で工事量が平準化されるよう、仕組みで配慮しているんです。
五十嵐次長 最近繁忙期とかあまり関係なくなってきましたね。仕事の波が平準化されて、土日祝日と休みは増えて、一年中コンスタントに忙しい感じですね。
重松会長 会社的にもありがたいことですよね、コンスタントにある程度忙しいということは。波が高いとそこに人が合わせられないので、大変なんですよ、繁閑があると実際問題ね。製造業とかね、工場設備を持っている装置産業ですと、波があると対応しきれないから、コンスタントに8割9割の稼働をキープできるのが経営的には良いとかいうじゃないですか、現場も同じですよね。
ただ、現場は工場みたいに工業化が進んではいないので、品質を確実なものにするには、天候とか気温とか湿度とか様々な影響を受けながら工事が進みますから、現場監督とかマネジメント側はね、スケジューリングとかが大変ですけれども、働き方改革は進めていかないといけませんからね。