発注者側の技術者が足りていない
先日の台風19号による被害は、広範囲かつ大規模なものとなっている。全容の把握に時間がかかり、何をどこから直していけばいいのか、頭を抱えている方も多いのではないか。
役所側(発注者側)の技術者の方々は、被害状況の調査に追われていると思われる。災害査定もこれから本格化してくるだろう。
もちろん、建設コンサルタントやゼネコン、あるいは各種業界団体に支援を要請して、彼らの協力を仰ぎながら調査を進めているはずだ。だが、肝心の発注者側の技術者数が足りていないのではないだろうか。
東日本大震災や熊本地震などで、発注者側の技術者不足は顕著である。熊本地震では国や自治体に民間の技術者や他県の技術職員が多数応援に入っており、なんとか業務を回していると聞く。なかには、それでも人手が足りず、思うように復旧が進まないところもあるようだ。
これは東北や熊本だけではなく、各機関で同じような状況になっているのではないか。
実際、発注者支援業務(工事監督支援、積算支援、事業監理など)に予算がついている傾向がここ最近顕著である。入札情報がわかるサイトを見ると、それがよくわかる。災害復旧はもちろんのこと、通常の事業執行においても支援業務がたくさんあるのが実情である。
ということは、普段から発注側の技術者が不足しているということを物語っている。そこに今回のような大規模災害が発生してしまうと、手が回らなくなってしまうことが想像できる。
発注者には、ゆとりがない
私自身、ずっと受注者側のみで仕事をしてきて、「そんなの無理でしょ」と思われる場面に幾度となく出くわした。場合によっては発注者と口論になったこともあるし、とても険悪な状況になったことがあった。そういう体験をした方々は少なくないはずである。
「なんでそんなこと言ってくるんだ」
「好き勝手ばっかり言いやがって」
「できもしねーことを、よくもそんな簡単に要望してくるもんだな」
などなど、こんなことを日常的に思っていた。
しかし、一度発注者支援業務を経験してわかったのは、「発注者側の技術者がとても追い詰められた状態に置かれている」ことだ。彼らには”ゆとり”がないのだ。
常に時間に追われ、本省・本庁からは常に多数の指示・業務遂行命令が飛んでくる。夕方に指示や依頼が来て、翌朝一番までに資料を作って提出、なんて日常茶飯事である。これが民間であれば、「働き方改革」を背景に断ることができるが、役所にはそれができない(36協定の対象外のため)。ゆとりがない状態なので、それを受注者にぶつけてしまうのである。
所長クラスなど管理職の経験がある方にはお分かりいただけるかもしれない。上から様々な依頼や命令があってゆとりがないと、ついつい部下にきつく接してしまったりいろいろしんどい依頼をすることもあったのではないか。
発注者側の担当者は、常にその状態に置かれていてゆとりがない。
発注者の心情を理解できれば、技術者として成長できる
それを少しだけでもいいから理解して仕事をするように心がけると、「これやっておいた方がいいな」とか「いずれこんな問題が起きるかもしれないから、今のうちに手立てを検討しておこう」といった具合に先々に目線を向けやすくなる。
なにより、発注者は追い詰められている。国であれば国交省や農水省などの本省から各出先機関、都道府県であれば本庁から各出先機関へ対するプレッシャーは相当のものだ。税金を活用して事業をするのだから、当然ともいえるプレッシャーである。そんな環境で自分の目だけで仕事をしようとすると、立ちどころにお説教となる。
発注者の心情を少しでもいいから理解するように努めることで、彼らが何をしようとしているか、どんな目的があるのかを読み解くことができるようになる。それは同時に、技術者個人としてマネジメントスキルの向上にもつながっていると思っている。