森田泰智さん(独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構・九州新幹線整備局 長崎鉄道建設所長)

【鉄道建設のプロ集団】鉄道・運輸機構の現場所長が語る「土木屋として鉄道をやる魅力」

九州新幹線の現場責任者にインタビュー

独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構(本社:横浜市中区、以下、鉄道・運輸機構)という組織がある。北海道、北陸、九州といった整備新幹線をはじめ、つくばエクスプレスなどの都市鉄道の建設を手掛ける「鉄道建設のプロ集団」だ。

同機構の九州新幹線建設局(福岡市博多区)は現在、九州新幹線(西九州ルート)の建設を進めているが、長崎の現場責任者に取材する機会を得た。同局の長崎鉄道建設所の森田泰智所長だ。

鉄道・運輸機構でのキャリア、仕事のやりがいなどについて、話を聞いてきた。


鉄道・運輸機構に組織改正後、最初の新入社員

――なぜ鉄道・運輸機構に?

森田さん 大学で交通計画を専攻し、研究室では、機構の前身である日本鉄道建設公団が技術開発した交通計画支援システム(GRAPE)に関係する研究をしていました。具体的には、修士論文は都市鉄道の需要予測に関する研究でした。

どこにルートを引いて、事業費や需要がどれくらいかを予測するには、鉄道システムの計画~設計・施工に至る幅広い知識が必要だということで、鉄道・運輸機構に入社しました。2004年入社で、鉄道・運輸機構に組織改正した最初の新入社員でした。

新幹線開業に合わせ、駅周辺の再開発などが進むJR長崎駅周辺。

――最初の配属先はどちらでしたか?

森田さん 初めは東北新幹線建設局に配属となり、八戸〜新青森間の工事を担当しました。延長千m程度の、土被りがほとんどない箇所を機械掘削するトンネル現場でした。

最初の4ヶ月間は局勤務でしたが、自分で発注した工事を持って、八戸鉄道建設所に異動になりました。

外部から、思いつきで非現実的なことを言われる

――その後は?

森田さん 東京支社の調査第一課というところで、都市鉄道に関する調査などを担当した後、一般財団法人運輸政策研究機構(現在の一般財団法人運輸総合研究所)に出向していました。機構に戻って、大阪支社勤務になり、北陸新幹線の予算計画などをやりました。また、本社に戻って、騒音などの環境対策もやりましたね。

――充実した仕事のようですが。

森田さん 現場工事だと、目に見えてモノができていくのですが、調査検討の場合は、いろいろ振り回されることが多くて、なかなかモノゴトが前に進まないので、大変でした(笑)。

――研究と実務は違ったと?

森田さん 外部の人から、思いつきで「こういうルート引けるんじゃないか?」と非現実的なことを言われることもあって、採算性などに関する客観的なデータをもとに「難しいです」と説明したりしていました。


コンサルやゼネコンに負けない「T字型の人材づくり」

――九州に来たのは?

森田さん 2017年2月に本社から九州新幹線建設局に来ました。最初は九州新幹線建設局の工事課の課長補佐として配属されました。その後長崎建設所の副所長になって、現在所長をやっています。現場を担当するのは久しぶりです。

機構の人材育成の考え方としては、職員には、計画から設計・施工までの幅広い分野を一通り経験・理解させるというのがあると思います。「T字型の人材づくり」ですよね。Tの縦線がその人が得意とする分野で、横線がその他の分野ということです。

自分の軸となる分野については、コンサルやゼネコンに負けない知識と経験を持って、その他の分野の幅を広げるということです。そういう人材が増えれば、機構の組織も深く幅広い組織になります。

タワマン建設ラッシュで駅がパンク

――これまでで印象の残る仕事は?

森田さん 運輸政策研究機構に出向中、土木学会の元会長だった森地茂先生のもとで研究をしたことです。都市開発と駅の処理能力の整合性に関する研究でした。

東京では現在、大規模な都市開発が行われ、駅周辺にどんどん高いビルが建っています。その結果、局所的な地区で人が増えすぎて駅がパンクする事態が発生しています。

例えば、豊洲や大崎、勝どきのような中規模な駅です。人が増えると、道路の場合は「道を広げよう」という話になるのですが、鉄道の場合、それがなかなか実現しません。

駅が混雑すると、当然乗り降りに時間がかかります。高頻度で電車が走っているため、遅延の原因にもなります。首都圏などでは電車の相互乗り入れが行われているため、その遅延が広域化します。駅の混雑に端を発して、そういう負のスパイラルに陥っていきます。これを防ぐためにはどうしたら良いかということを研究していたわけです。

私が研究するまでは、駅の処理能力を厳密に把握できていなかったので、「ここまでは持つけど、ここからはオーバーフローする」という閾値的な基準を求めて、それを駅開発に活用するというような研究をしたわけです。研究成果は、世界交通学会で発表し、賞ももらいました。それが一番印象に残っていますね。

――首都圏の鉄道交通マヒは今でも続いていますね。

森田さん 都心部の交通シェアは鉄道が90%程度を占めています。都市開発を行う際、鉄道交通との整合性をちゃんと考えていないからです。


「土木屋」から「鉄道屋」になりたい

――鉄道・運輸機構の魅力、やりがいは?

森田さん 新幹線をはじめ、都市鉄道について、ルート、工事費などの調査に始まり、設計・施工に至るまで、一連の鉄道システムに携われる、鉄道の仕事に一気通貫で携われるのは、日本で唯一鉄道・運輸機構だけだと考えています。鉄道・運輸機構のやりがいはそこにあると考えています。

他組織にはそういう仕事はなく、鉄道の改良、メンテナンス業務が中心となります。「土木屋として、鉄道をやりたい」という方には、鉄道・運輸機構は腕を振るえる組織だと思います。

――今後やりたい仕事は?

森田さん 私は土木屋ですが、鉄道を開業するためには、軌道、建築、建築など土木以外の分野も当然知っておかなければなりません。鉄道システム全体を考えれば、土木はその一部なんです。「鉄道屋」にならないといけないと考えています。

鉄道システムの中の土木の仕事をちゃんとやるためにも、他の分野の仕事も一通り理解しておく必要があります。今現場にいて、それをまさに実感してるところであり、それがやりたい仕事です。

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