西松建設、女性の土木総合職・第一号にインタビュー
国土交通省九州地方整備局発注の立野ダム(流水型ダム)工事現場。受注したのは西松・安藤ハザマ・青木あすなろJVだ。
熊本地震の影響で、約1年間工事がとまったが、当初の予定通り2022年度内の完成を目指し、現在急ピッチで工事が進められている。
現場が位置するのは阿蘇外輪山の麓だが、ここにもドボジョが2名もいる。そのうちの一人が、西松建設の迫綾子さんだ。
ダム現場はいろいろ厳しそうだが、どのような思いで日々仕事に向き合っているのか。
就活は西松建設のみ
――土木のきっかけは?
迫さん もともとは建築に興味があって、建物の間取りとかを見るのが好きだったのですが、道路や橋など身近にある土木構造物に興味が移って、「土木をやってみたいな」ということで、大学で土木学科を選びました。
――西松建設を選んだ理由は?
迫さん 公務員、コンサルはまったく考えていませんでした。ゼネコンやメーカーなど志望していたのですが、ゼネコンは現場での仕事環境に不安があったので、メーカーに行くつもりでした。
そんなとき、就職先について大学の先生に相談したところ、西松建設を紹介されました。それが入社のきっかけでした。ゼネコンは西松建設以外受けませんでした。
――ゼネコンに就職して友達とかの反応は?
迫さん 最近はゼネコンが出てくるTVドラマとかもあるので、土木のことを全然知らない友達でも「え〜あんなことやってるんだ。すごいね〜」という感じで、評判は良いです。
現場のトイレを開けたら、男性が入っていた
――西松建設に入社して何年目ですか?
迫さん 入社8年目です。西松建設の女性の土木総合職の第一号として入社しました。それまでは女性の建築総合職しかいませんでした。同期の女性は私ともう1名だけでした。
入社当時は、会社に女性の土木技術者がいなかったので、現場のトイレや更衣室などの設備が整っていなかったので、「現場ではなく、本社で勤務してくれ」ということで、最初の5年間は環状2号線の開削トンネルの現場に行ったことはありましたが、東京本社での内勤が中心でした。
――女性ということで、苦労はありました?
迫さん それなりにありましたね。いろいろなことが男性目線になっていたので。例えば、作業服が男性体型だったので、ウエストがブカブカで、自分の体型には合いませんでした。安全帯なども重かったので、大変でした。
ただ、会社からは「現場などでの要望があったら、ドンドン言って来て」と言ってくれたので、その後、急激に女性の受け入れ体制が整ってきています。最近は毎年4〜5名の女性の土木総合職が入社していて、1年目から当たり前のように現場に配属されています。
――トイレは大変だったでしょう?
迫さん 最初に行った現場のトイレでは、男女共用のトイレが2つ、小用が1つありました。あるとき、トイレの扉を開けると、カギをかけずに、男性が入っていたことがあって、スゴくびっくりしました。「きゃー」みたいな感じで(笑)。
それ以来、カギをかけていても自分で使うのがコワイので、その現場のトイレは使いませんでした。
――どうしたんですか?
迫さん 徒歩10分ぐらいのところに会社の事務所があったので、そこのトイレを使っていました。
「女性特別視はやめてください」と会社に直訴
――男の職場にいることの戸惑いは?
迫さん 最初はありましたね。普通にセクハラしてくる人もいました。「土木に来たなら、このくらい平気でしょ?」と言った人もいました。ただ、大半の人は、「建設現場に女性を増やさないといけない」ということで、協力的でした。
現場だと、どうしても言葉遣いが乱暴になることがあります。私が女性ということで、先輩などは気を遣ってくれて、乱暴な言い方があまりなかったのですが、その分指示を出してもらえなかったところがありました。「あ、それはコッチでやっとくから」みたいな感じで、同年代の男性職員との仕事の差を感じました。それは少しさびしかったです(笑)。
「ちょっとでも認めてもらいたい」ということで、体力的にはキツかったけど、意地になって男性と同じように仕事をしたこともありました。そんなときにも、先輩などから「体力的な部分は仕方ないので、ムリしなくて良いよ」と声をかけてもらったので、ずいぶん助かりました。
――最近は、会社としても「なにかあってはいけない」ということで、女性に対して過保護になっているようだけど。
迫さん 例えば、単身赴任する女性は、必ずオートロック付きマンションに住まわせなければいけないとか、「女性は別待遇」みたいな風潮はありますね。
「逆に男性からの反感を買うので、やめてください」、「女性だけでなく、男性も含めた環境改善を考えてください」と会社には言いました。その結果、女性を特別視する風潮はかなり改善されたと思います。
――特別扱いは嬉しくない? むしろやりずらい?
迫さん そうですね。女性だからではなく、個人の能力で判断してほしいですね。
土木は、現場で体験したものが役に立つ
――最初の現場がトンネルで、その次は?
迫さん 本社の技術研究所で内勤2年、現場1年、また入札対応などの内勤を2年やってから、長崎県発注の山岳トンネルの現場に来ました。立野ダムの現場に来て、1年半ぐらいです。
――ご出身は?
迫さん 熊本県です。大学も熊本です。実家は現場から近いです。
――実家から通えないこともない?
迫さん そうなんですけど、両親には両親の生活のリズムがあるので、会社が借りたアパートから通勤しています。
――初めてのダム工事現場はどうですか?
迫さん 施工規模の大きさにビックリしています。最初のトンネル工事は、延長140mぐらい、幅20mぐらいの規模でした。立野ダムは現場が広く各所に車で移動して施工管理する必要があるので驚いています。
――ダムでは何を担当?
迫さん 昨年は、ダム本体の監査廊につながるエレベータシャフトの施工を担当しました。今は左岸の工事用道路を担当しています。西松建設の社員は15名ぐらいいて、私のほかに女性の新入社員が一人います。
入社8年目だと、普通はいろいろな現場を経験しているのですが、私の場合は現場経験が少なかったこともあって、上司に教えてもらいながら、後輩と一緒に仕事を覚えている感じです。
――今の現場はどうですか?
迫さん 基本的には勉強になることばかりで、毎日楽しく働いています、内勤とは違う現場ならではの空気があって、良いですね。
――やりがいは?
迫さん 工種が豊富なので、非常に勉強になるところですね。正直、「土木技術者として出遅れたのではないか」という思いがあったので、色々なことを勉強できる現場はありがたいし、やりがいを感じます。
土木は経験工学と言われていて、「現場に出て、目で見て体験したものが役立つ」のであって、机上だけでは語れないと考えています。実際に、内勤しか経験していなかったときには、現場の経験がないとなかなか聞き入れてもらえないこともあったので。
そのとき、現場に出た同期は、疲労困憊しながらも、一生懸命仕事をしているのを見て、「うらやましいな」と思ったこともあります。
――でも日焼けとかは気にならない?
迫さん やっぱり、それなりには気になります(笑)。日焼け止めは塗りますし、ヘルメットのヒモも透明なものにしています。手の甲だけがドンドン焼けるのはイヤですが、しょうがないです。
成長して現場所長になりたい
――西松建設に女性の現場所長はいる?
迫さん いないですね。建築にもいないです。建築の副所長はいますけど。女性は30代以下がメインです。
――印象に残っている仕事は?
迫さん 一番最初の現場の明かり工事が一番印象に残っています。以前の開削トンネル工事では、木製の型枠を組んで、コンクリートを打ち込むやり方でした。型枠を外したときにきれいにコンクリートができ上がっているのを見たときに、スゴく感動したんです。「人の手で構造物をつくっていくんだ」という感じで、人の手で大きな構造物をつくり上げていくことに魅力を感じています。
当時の現場の先輩などとは、東京に行ったときには、今でも飲み会をやったりして、仲良くしています。いつかまた一緒に仕事をすることになったときに、自分が成長した姿を見せたいという思いがあります。その先は、現場所長になりたいですね。