手塚 洋平さん(京王電鉄株式会社 鉄道事業本部 工務部 連続立体交差工事事務所区長)

「鉄道にはまちを変える力がある」京王電鉄の技術者が語る”鉄道土木の矜持”

京王電鉄の技術者に聞く、鉄道土木の魅力とは?

京王電鉄株式会社(本社:東京都多摩市)は、新宿〜八王子を結ぶ京王線などを運行する鉄道会社だ。

同社での新線の建設はなくなって久しいが、その一方で、踏切渋滞解消を目的とした連続立体交差事業(地下化、高架化)に取り組んでいる。

鉄道土木の技術者にとって、連続立体交差事業のやりがいとはどのようなものなのだろうか。京王電鉄の土木系技術社員である手塚洋平さんに話を聞いてきた。

鉄道は生活に欠かせない都市インフラ

――なぜ土木の世界に?

手塚さん 将来インフラ関係の仕事に就きたいと考えて、大学で土木を学びました。大学では、洪水など水災害に関する研究をしていました。

――京王電鉄を選んだ理由は?

手塚さん インフラ関係の仕事の中でも、人々の日常生活に密接に関与している鉄道事業に携わることで、自らの手で地域社会をより良いものにすることができると考え、鉄道会社を志望しました。

京王電鉄も都民の生活に欠かせない都市インフラであり、特に沿線がコンパクトで地域と密接に関わることができると考えました。

――鉄道土木のなにをやりたいというのはありましたか?

手塚さん 私が入社したのは2008年ですが、当時から新線の建設はほとんどなくなっていました。ただ、連続立体交差事業などの規模の大きな改築工事は続いていたので、入社直後は、そういう仕事ができれば良いなと思っていました。

――入社後はどのような仕事を?

手塚さん 最初に配属されたのは、京王線・相模原線調布駅付近の連続立体交差事業の工事事務所でした。この事業は、京王線の柴崎駅〜西調布駅間、相模原線の調布駅〜京王多摩川駅間の合計約3.7kmを地下化する工事で、6年ほど担当しました。ちょうど工事が最盛期のころにタイミング良く担当できたので、良かったです。

地下化された京王線調布駅付近の線路(京王電鉄HPより)

――いきなりやりたい仕事ができたんですね。

手塚さん そうですね(笑)。その後本社で新宿駅の駅改良計画に携わり、2015年から笹塚駅〜仙川駅間(約7.2km)の連続立体交差事業の担当になりました。2018年には工事に着手し、身の引き締まる思いです。


駅が変われば、まちが変わる

――鉄道土木のやりがいは?

手塚さん 自分が担当した工事に対して、お客様からダイレクトに反応が返ってくるところですね。調布駅の地下化のときは、事業完了後に「地下化して駅が使いやすくなったし、まちが元気になった」などのお声をいただきました。

駅は基本的にそれぞれのまちの中心にあるので、連続立体交差事業などでその駅が変わると、駅周辺もガラッと変わるんです。駅の工事をきっかけに再開発が始まり、面的に広がっていくこともあります。鉄道土木のやりがいは、「まちをつくれる」ことだと考えています。「鉄道にはまちを変える大きな力がある」ことを強く実感しています。

調布駅で言えば、鉄道の地下化により快適な歩行者空間が確保されるとともに、商業施設「トリエ京王調布」がオープンし、駅前が活性化するなど、調布の街が大きく変貌したのを目の当たりにしました。このようにまちを一新させるような大規模事業に携わることができることに、非常にやりがいを感じています。

調布駅地下化によって生まれた旧駅施設スペースに建設されたショッピングセンター「トリエ京王調布」(写真提供:京王電鉄株式会社)

現在は区長という立場で事業に携わり、自らの考えに基づいて事業を推進していくことができる環境にあることから、さらに大きな魅力を感じるとともに責任も感じています。また、高架橋を構築するためには、多数の列車が走る線路の近くで安全性を確保しながら工事を進めなければならず、非常に難易度の高い工事となります。

そのため、設計段階からこれまでの経験を注ぎ込み、施工時の計画を入念にイメージすることで、施工実現性を担保した設計となるよう検討を重ねました。今から完成する日を楽しみに、日々の業務を一歩一歩着実に進めています。


鉄道というまちのシンボルをつくり変える喜び

――仕事で大変なことは?

手塚さん 電車の運行の関係で、夜間に作業を行うことがありますが、鉄道土木の技術者として騒音や振動を極力抑制した工事となるよう工夫しなければならないところです。

最初に現場に入ったころは、具体的にどうすれば良いかわからないこともありました。そのときどきは大変な思いをしましたが、結果的にはそういう一つひとつの積み重ねが仕事のやりがいにつながっているような気がします。

――今回の連続立体交差事業も大きなプロジェクトですね。

手塚さん 現在携わっている連続立体交差事業においても、まちを活性化する一翼を担う事業であることをしっかりと認識し、多くの人々の期待が寄せられていることを受け止めながら取り組んでいます。

土木技術者として、鉄道というまちの大きなシンボルをより良いものにつくり変え、まちの魅力向上に貢献することは、大きな責任を感じるとともになににも代えられない喜びです。

だからこそ、自らが中心となって事業を推進していくという強い気持ちを持ち、周囲を巻き込んで大きな活力を持ったチームを育て上げることが重要です。それができるよう、自らもまだまだ成長していきたいと考えています。

――京王電鉄の魅力は?

手塚さん 連続立体交差事業の目的でもある踏切問題の解決など、安全・安心の追求を最大のサービスと捉えて、愚直に、まじめに取り組んでいますし、今後もターミナル駅の改良など大きなプロジェクトが控えており、沿線価値を最大限に高められるよう努力しています。

このように、土木技術者が活躍するフィールドが多くあるところに、会社の魅力を感じています。

――土木を学ぶ学生たちにメッセージを。

手塚さん 毎日の通学に利用する鉄道、日常生活に必要な電気・ガス・水道、災害から私たちを守ってくれる堤防など、私たちの暮らしを支えているのは紛れもなく土木の力です。このようなインフラの構築を通して、社会をより便利で安全・安心なものに変えていく、その一翼を担う使命感とやりがいが土木の仕事の魅力だと感じています。

また、土木が対象としているフィールドは大規模であり、プロジェクトの推進には多くの困難が伴いますが、関係する多くの人々が経験や知識を集結し、切磋琢磨することで、少人数では到底できないような大きな成果を得ることができます。

私もこれまでの業務で身をもって感じてきましたが、チーム一丸となってプロジェクトを成し遂げた時の達成感も、土木に携わることで得られるものだと思います。

土木を学ぶ学生の方々も、このように大きな魅力を持った土木の世界で、自分の力を発揮してもらえると嬉しいです。

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基本的には従順ですが、たまに噛みつきます。
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