住宅建築は製造業になる?
木造在来工法をベースにした「大型パネル」の加工・製造を受託するウッドステーション株式会社は、「工務店の製造業化」の支援を目指している。
この大型パネルは、柱や梁、サッシ、断熱材などを一体化した在来木造軸組工法用の木造パネルで、工場で生産したパネルを現場でクレーンを用いて施工することで高性能な新築住宅の躯体をわずか1日で完了できる。
開発の背景には、深刻な大工の高齢化と減少がある。総務省の国勢調査では、2000年に約64万人いた大工人口は2010年には約39万人にまで減少、2020年には約21万人にまで落ち込むと推定。一方、同年には約30万人程度の大工が必要といわれており、このままでは約9万人程度の大工が不足することになる。その一方で、住宅に要求される品質レベルは一層高まっており、住宅建築の工業化は大きなテーマだ。
工業化に伴い、上棟での大工の仕事が減ってしまうという意見もあるが、開発者であるウッドステーション株式会社の塩地博文代表取締役社長は「大工は内部造作の技能を磨き、多能工化すべき」と提起する。住宅建築業界に革命を起こそうとしている大型パネルの開発経緯や施工性、今後の工務店業界の未来について、塩地社長に話を聞いた。
重量化が進む建材、増大する大工の負担
ウッドステーション株式会社 代表取締役社長 塩地博文氏
――大型パネルの開発の経緯は?
塩地 私は今から約20年前、三菱商事建材株式会社に在籍していたのですが、そのとき天然壁材「MOISS(モイス)」を開発しました。当時は家の高気密化に伴い、シックハウスという課題が浮上していたころです。
合板や石膏ボードを使うと、のりを多用します。そののりが揮発すると、家全体がシックハウスになってしまう。そこで、シックハウス対策への内部の壁材としてモイスを世に出しました。
市場からは、耐震や防火、遮音などを一気に解決するとして開発を継続してほしいという要請もあり、早稲田大学と基礎・用途研究を共同で行い、モイスを耐震構造壁として進化させることになるのですが、建材を成長・進化させると、重量化することに気が付いたんです。
開発当初、モイスは十数kgでしたが、気が付くと、厚みも大きさも増して30kgを超えていたんです。すると、モイスを現場に届けても、荷扱いする大工さんから「重い」という意見が出てくる。
ほかの建材も調べてみると同様に重量化しており、特にサッシが顕著だった。建材の重量化は、大工さんにとって大きな負担になっていたんです。
さらに、モイスの開発当時と現在を比べると、明らかに大工が高齢化しているだけでなく、大工の生産性も落ちています。
大工の1日の仕事のうち、住宅の加工・組立等の生産行為は約20%で、荷受け・荷下ろし、搬入された資材の開梱、現場の片づけ、清掃、採寸など非生産行為は約80%を占めます。特に、注目すべき点は、「採寸」で最も多くの時間を費やしていることが分かりました。現場で採寸が必要な理由は、図面と現場に誤差があり、図面のデータがそのまま使用できないからで、結果的に現場合わせが常態化し、生産性が落ちているのです。
この20年間で、建材の重量化、製品化が進展しましたが、一方、大工さんの生産性が下落してしている。これでは大工はしかるべき待遇を得られません。
――ほかの先進国では、どのように重量化に対応しているんでしょう?
塩地 建材の重量化に対して海外はどのようなケアがあるのか、2×4工法等の事例をもとに調べて見ると、ヨーロッパでは Cross Laminated Timber(CLT、クロス・ラミネイティド・ティンバー)という工法が開発され、厚型パネルによる施工に移行していることが分かりました。
最終的に、「建材が大型化すると、人力ではなく重機を使って施工するほかない」という考えにたどり着きました。重機を使って施工するのであれば、建材を複合化したほうが効率はいいわけですから、パネルの工業化がベストであるという結論に至り、大型パネルの開発に着手しました。
開発開始時はまだ三菱商事建材に在籍していたのですが、”三菱工法”と色がつくと普及に課題がある。そこで、大型パネルを生産できるミサワホーム株式会社を母体とするテクノエフアンドシー株式会社、パナソニックアーキスケルトンデザイン株式会社、YKK AP株式会社にお声がけし、三菱商事建材を含む4社の出資を受けて、2018年4月にウッドステーション株式会社を設立しました。
工務店の合理化と大工の技能は常にせめぎあう関係
――大型パネルによる施工メリットは?
塩地 通常、上棟の際は柱を一本ずつ立てながら、梁を合わせて組んでいきますが、出来上がった上棟は吹きさらしの中で棟が上がっています。われわれの大型パネルによる上棟は、組むと家がもう出来上がっている。大型パネルを重機で吊り、所定の場所に収めれば、完了です。断熱材やサッシも入っている状態で、暑さ寒さもしのげます。
また、大工さんは毎朝、道具箱を一杯つめたワゴン車で現場に行きますよね。ただ、昔は敷地が広く、駐車場もあって、そこに道具を置けましたが、今は狭小住宅が多く無理です。
そこでコンプレッサーを現場に仮置きしますが、これは非常に重い。朝はまず自分の道具の荷下ろしから始まるので、現場が始まる前から難易度の高い仕事に取り組むことになるわけです。
この上棟は玄関ドアを閉めるまでが作業で、道具箱を置いて帰ることもできる。そうすると毎朝の道具の荷下ろしから大工さんは解放され、負担になっている部分をケアしています。工期が短縮されることから近隣住民とのトラブルも大幅に減少します。
大型パネルを用いた施工の様子
――上棟での時間も短縮され、非生産行為も減少していく中で、大工の価値はどこに求めるべきだと思いますか。
塩地 工務店の合理化と大工の技能は常にせめぎあう関係にありますが、内装まで工業化すれば、それこそ大工の職域を侵すことになる。そのため、内部造作については大工のセンスに任せています。
大工の仕事は今後、建具や床の構成といった内部造作に集約されると思います。業務範囲を拡大し、多能工化が求められるのではないでしょうか。
IoTにより工場生産
――大型パネルはどのように製造している?
塩地 ユーザーからデザイン、造形等をヒアリングし、受託加工しています。IoT技術を活用することで、設計図書通りの寸法で作成でき、採寸も高精度になります。また、建築図面を読み込み処理することで、組立・運搬まえ無駄を生まないサプライチェーンの最適化が実現できています。
工場生産の様子
――設立から約2年ですが手ごたえのほどは。
塩地 今、売り上げも階段状に増加し、お客様も工務店のほか、ハウスメーカー、一人親方、設計事務所、ビルダーなど多岐にわたります。中には、アポなしで通りすがりの大工さんが図面を持って本社に来て、発注したいと要請されることもあります。
販売でのこだわりは、値引きなしの「ワンプライス」。多く発注するから価格を値引くという対応をしておりません。誰にとっても平等なプラットフォームを意識しています。
そのため、FC(フランチャイズ)化する気も毛頭ありません。全員に開かれた製品でなければなりませんから。今後はまず、大型パネル生産の強化、生産エリアや能力の拡大につとめ、さらに輸送コスト削減のために拠点を増やす考えです。
2019年にはプレカット事業者を正会員とする「大型パネル生産パートナー会」を立ち上げ、現在、約100社近くが参画しているとともに、2019年に大型パネルがグッドデザイン賞を受賞したことを契機に、ユーザーを中心とした「みんなの会」もスタートしました。入会金・会費無料、法人・個人の区別なく、大型パネルに興味を抱く建築事業者の誰もが入会できるような組織で、工務店だけではなく、著名な建築家、学生など、約250名が入会しています。
大型パネルで、大工仕事はホワイトになる
――今後の大型パネルの方向性は。
塩地 ニーズは止まることがないと思っています。今までの住宅ビジネスは、新築40万戸のうちトップシェアは1万戸という次元でしたが、大型パネルはそれを超えていくでしょう。
大工の高齢化と減少は止まらない上に、要求される住宅品質レベルはますます高まっているため、規模としては10万~20万というユーザーが大型パネルを支持してくれると確信しています。
――工務店業界は今後、どうなっていくでしょうか?
塩地 工務店業界はFCに帰属する傾向が強まり、”どう販売するか”にシフトしていますが、ここにやや危機感を抱いています。まず、原点は”どうつくるか”にあるべきです。つくる点については、ただ大工がいればいいという時代は終焉を迎えています。大工を大切にしながらも工業化を受け入れて、”工務店とは製造業”と定義すべきです。
それを忘れて、工務店はサービス業という側面が入りすぎた中で、大工が一斉に離反しました。離反した理由は、相応しい待遇を用意しなかった点にありますが、もし工務店が自身を製造業と定義すれば、生産の担い手を大事にしていたでしょう。しかし、現実は生産の担い手を低待遇にしてしまったため、大工は失望とともに離職してしまったのです。
大工の労働環境を向上させ、ホワイト企業化すれば、人材も確保できます。大型パネルを導入し、生産性を向上することで劇的な工期短縮も実現可能です。
建設業の現場生産はすでに、「建設業だから仕方ない」という言い訳が通用しない時代が到来しています。だからこそ建設業は製造業化を目指し、品質とトレサビリティを求め、そして働く人々のホワイト化を急ぐべきです。
大工不足を招いたのは主にゼネコン又はそれらを見習い建て売り業者はたまた新生工務店等の請け負い単価の値下げが何よりの原因です。大工やその他の業種の職人と称する皆様口を揃えてリスクの割に単価が安過ぎてやる気にならん!長年職人をしてきた皆様は今更やめられないから出来るところまでやってるだけ、若い衆の育成など理不尽すぎて職人になれとは言えない!私も大工ですが子供達には今は昔と違い職人は一番カス扱いされている職業だから他の仕事を進めます。そもそも職人の醍醐味といえばやっぱり稼ぎがいい所でした。今は何処よりも稼ぎがリスクの割に悪い最低の職業となりました。職人を活気づけて増やしたいのなら20年前の単価に戻すべきです。今でも客単価は前より高いはずなので一番儲かっているのは大元だけだと思います。改善するべき所は沢山あります頭でっかちばかり集まって訳のわからん必要のない仕事ばかり増やして職人いじめをやめない限り職人のなり手は今後増えません。もっと職人と言う職業のいい所を理解して実行すればまた若い人達が集まってくることでしょう。それから、現場監督達のマナーは最低です。言葉遣いも知らないし職人を小馬鹿にしている輩が多いですね!マナー向上も必要だと思います。職人の方がマナーがいい様にも思います。長いコメントですがこれはほんの一部の内容です。とにかく単価向上が鍵です。