歩く建設作業員

「前をよく見て歩こう!」 新規入場者教育のテキストがまるで小学生向けな件

声に出すのも恥ずかしい新規入場者教育のテキスト

私は今、中国地方の発電所建設工事現場で安全担当として仕事をしている。本職は建築なのでやや畑違いだが、何かしら得るモノもあるだろうと思いながら仕事を始めてから1か月が過ぎた。

私がこの現場に来るキッカケになったのは、配下の作業員の急激な増加だ。それはそのまま増加傾向が続いていて、毎日のように新規入場者がいる。

安全担当なので作業員の新規入場者教育も担当しているが、使用しているテキストの中には作業員を小学生のごとく扱う文章が堂々と明記している箇所がいくつもある。

「こんな恥ずかしいことは言えないよ!」と本来ならすっ飛ばして省略したいところだが、「しっかり新規入場者に伝えること!」と但し書きまで付いてるので、不本意だがそのまま伝えている。

的外れだなと思われることをいくつか列挙しよう。

  • ポケットに手を入れたまま歩いてはいけません!
  • 前をよく見て歩こう!

これを大の大人に向かって言うのは、いささか情けない。しまいには、「右手を出したら、左足を出そう!」などと書きそうな勢いだ。

  • 挨拶は、指を揃えて手の平は下向き。手首は曲げず、上腕はほぼ水平に!

挨拶の仕方のところには、なぜか敬礼の形が示されている。「作業時は、この形で挨拶しよう!」と書いてある。これを見たとき、「ここは軍隊か!」と思った。そんな挨拶をしている人は見たことがないのだが。

  • 空きカンやゴミはポイ捨てしないこと!

・・・ここまで書かなければダメなのだろうか? これを見て、情けない!と誰も思わないのだろうか?


現場の作業員は、プロとして扱うべき

他にも、どうも変だな?と思われる規則が載っていた。

このテキストには、『落下防止ヒモが必要な工具』という項目がある。これは十分納得できる内容だ。工場やプラントなどは全ての階が上下作業の連続になっているため、”工具は絶対落とすな!”が鉄則なのは私も全く同感だ。

が、私が首を傾げたのは、その下に載っている『落下防止ヒモが”必要ない”工具』のリストだ。そこには、ごく普通に現場で作業中に使用する工具が列挙されている。

モンキーレンチ(250mm以下)、スパナ、メガネレンチ、コンベックス、ドライバー、ニッパー、プライヤー、ペンチ、カッターナイフ、電工ナイフ・・・などなど。

落下防止ヒモが”必要ない”根拠はなんなんだ? 落下防止ヒモを付けなくて良いか、付けたほうが良いか、あるいは工具収納箱を用意するかは、作業員がどの程度その工具を頻繁に使うかどうか、つまり全ては現場に応じて作業員が判断すべきことだ。

落とす危険があると思えば落下防止のヒモを付けるなり、工具箱などに入れるなり、作業員自身が考えて工夫すればいい。それを”付けなくていい”とはおかしくないか?

しかも、一律にこんなことを決めながら、このルール通りにヒモを付けず下に落としたら、結局責められるのは作業員だ。その時は「臨機応変に考えろ!」などと平然と言うのだろう。ズルいよ!

こんな決まりは、作業員をバカにしている。プロフェッショナルとして扱っていない証拠だ。現場監督は、作業員をプロとして認め、自分で考えて実践することを評価しなくてはいけない。この現場のルールがどうであろうと、作業員が独自に安全を考え、規定以上の安全対策を行ったら、それはそれで評価すべきだと思う。

もし、作業員が工夫した安全対策に対して、誰かが「その安全対策はオーバースペックだろ! そこまでやらなくてもいい!」と言ったなら、「それは全て安全担当のNさん(私のこと)から、必要だと思われる安全対策はドンドン進めてくれ、と言われたのでやりました!」と答えればいいと、新規の人間には伝えている。

このテキストを作った人はよく考えてほしいし、何より実践に即したテキストを作ってほしい。「プロの職人を育てよう!」くらいの気持ちを込めて。読んだ作業員たちが「プロなら、これが最低限のレベルなんだ」と思うような、この現場が終わっても印象に残るような、そんな新規入場者教育テキストを作ってもらいたい。

ピックアップコメント

プロとして扱うとか無理な話。小学校すらまともにでれなかったような連中なのだから、その知能レベルに合わせるのは当然。

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アジア、アフリカなど海外の建築現場で長年、施工管理に従事している。世界中で対日感情が良好なのは、先人たちの積み重ねである。日本人として恥ずかしくない技術者でいたい。
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