どんな形からでも設計するのが設計屋
建築の設計というと、普段建設業に関わりのない人にとって見ると「芸術家」「独創的」「クリエイティブ」なイメージを持たれる事がよくあります。
それはテレビと言ったメディアに登場する「建築家」のイメージであったり、実際大きな施設が建設されるとき、非常に奇抜なものだったり、わかりにくいものが「著名な建築家」によって設計された、という事が多いからだと思います。
しかし、実際のところ私を含め、建築の設計に関わる多くの人は独創的な設計というのはほとんどする事はありません。決められた場所、予算、条件を元に建築の法規や基準に照らし合わせ、そして完成した建物を利用する人間が「安全に」「普通に」利用できる建物を設計しています。当然といえば当然ですが、それが人の生活、ひいては社会を支えており、そのことにとても誇りを持っています。
しかし、普通であり、問題が起きない(起きては当然いけませんが)ため、多くの人にその設計が目に留まることはありません。
私は、普段設計の仕事の傍らで「建築の世界、設計の世界の魅力を伝えたい」という思いがあり、YouTubeなどで建築のあらゆる事を楽しく学べる動画を作り、投稿しています。
しかし、普段関心がないため人に興味を持ってもらうトピックも見つからない、また建築学科の学生の頃から、いわゆる「建築が好き」な人の建築家の名建築を見て、建築を語るという事が好きはで無かったため、元々の「建築好き」を対象とした動画を作る事ができませんでした。
そんなある日、逆転の発想でこんな事を思いつきました。
いわゆる著名な建築家が独創的、奇抜なカタチ、建築、空間を生み出す
のであれば
自分のような市井の設計屋は「元々独創的なカタチ」から、普通でありきたりな建物を設計できる
という事を。そして、元々の既視感のあるカタチやイメージが先行した建物は、建築に関心がない人でも目を引く事ができないかと思いました。
こうして、私は既視感のあるイメージとして子供から大人まで長い間愛されている任天堂のゲームのキャラクター「星のカービィ」を使って、「至って普通の、つまらない」建物を設計し、それを動画にしてみようと考えました。その結果生まれたのが「カービィマンション」です。
カービィマンションの設計プロセス、動画の表現
今回この設計を挑戦するにあたり、以下の事を重視しました。
- 元のカタチ、フォルムを崩さない事
- 建築の法規は当然遵守、建築構造も無理なく計画する事で「お金と土地があれば実際に建てる事が可能なレベル」を設計する事
- 実際の設計の大変さ、面白さが伝わる事
上の2つは普段の設計の仕事で心がける事なので、特に問題は無いのですが、実際動画で楽しく見てもらう事を考え、手書きで基本設計レベルでプランを作成する事、実際の設計風景を撮影し、時間を計測してタイムアタックの様にして設計の過程を見せる事、そしてその中で設計のポイントや注意点を実況する形式で動画を展開しました。視聴する人は臨場感と実際に設計する風景を見る新鮮味を与えるため、この様な方法を取りました。
使いやすく、建築法規も遵守した設計
それでは、実際に動画の中で設計したマンションを少し紹介します。
まず、全体として、丸い形状がこの「カービィ」というキャラクターの要なので、その形状は崩さないようにしました。しかし、曲面が多い平面というのは、実際の生活においては不便です。
そこで曲面の部分はバルコニー、もしくは収納にする事で、極力使いやすい計画とし、なおかつ元のフォルムを崩さない設計としました。
次に大事なのは建築の法規です。建てる場所に関係する法令は決められませんが、建物内部に要求される建築法規はしっかり配慮して設計しました。例えばこの規模のマンションであれば法律で「2つ以上の直通階段」が必要になります。そこで、カービィの目の部分、ここはちょうど中心に2つあり、配置としてバランスが取れるいちにあるため階段を二つ設けました。
また、マンションの部屋から階段までの避難するための歩行距離も法律で定められており、そこもしっかり確認しました。動画内ではその様子を解説しており、動画を見ながら、建築の法規も学べる構成となっています。
カービィマンションがBIMモデルに
この動画は多くの方からも「面白かった」と評価をいただきました。
特に嬉しいのは、普段建築に関係ない人でも楽しんで見てくださった事、そして「設計のプロってすごい」と設計の仕事について見方が変わってくれた事です。これだけでも私はこの動画を作成した甲斐がありました。
そして、思わぬ嬉しい派生も舞い込んできました。同じく建築のBIM に関わっている方が動画をみてくださり、「これをBIMのモデルにしたい」というオファーがありました。私は二つ返事で承諾し、動画で作成した手書きプランのスキャンデータを送りました。
するとどうでしょう。もともとトレーシングペーパーで書いたカービィマンションのプランが、3Dモデルとなりました。実際3Dモデルにして塔状に立体化すると、なるほど、航空写真の様に上空から見ると元である「カービィ」と一目でわかる形状なのですが、地上から見上げるとそんな感じは無く、ちょっと変わったデザインのマンションの様なモデルとなりました。これは平面でした検討してない私としても思わぬ発見でした。
カービィの続き
基準階を重ねて基壇部分を置いたら一気にタワマンみたいになったw元データは以下の動画からです!
【ゆっくり解説】星のカービィでマンションを設計してみたから【建築設計RTA】 https://t.co/FGiFuY7o6Y @YouTube pic.twitter.com/uOYaiPFrZ2— Takeru_Y@HAB (@Takeru_y313) June 12, 2020
そして何より嬉しかったのが、動画を見て、興味が沸き、そして二次的に派生を想像するモチベー
ションを自分の作ったものが掻き立てていた事です。
ものづくりをしている人間としてこれ以上嬉しいことはありません。ここまできたら、お金と土
地があれば本当に建てる事ができます。
リクエスト受付中!
この企画は私自身もやってて楽しいので今後も継続していきたい、と思っていましたが、実はさっそく続編を作りました。
これは同じように動画を投稿している投稿者からのリクエストでした。その方はゲーム「ロックマンシリーズ」が好きで、その魅力やゲーム実況を投稿している方なのですが、その方からいただいたリクエストを続編として作っています。
もちろんロックマンシリーズに関係するキャラクターです(動画のサムネイルを見れば知ってる人は大体内容はわかってしまいますね)。
プロの建築士がロックマンX2のシグマの顔でマンションを設計してみた!(雑談)【ロクメガ】【おっちー一級建築士事務所】 / YouTube(ロクメガ ゆっくりチャンネル)
今後どこまで実現できるかはわかりませんがリクエストは受け付けており、実現可能なものから挑戦していきたいと思っています。そして、少しでも多くの人に動画を見てもらい、建築の設計の楽しさが伝わるきっかけになればと思います。
あと最後にしつこいですが、このマンションを建てたい、土地とお金をお持ちの方お待ちしております!!
【ゆっくり解説】【建築設計RTA】星のカービィでマンションを設計してみた / YouTube(おっちー一級建築士事務所)